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2014年10月19日10:01

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野うさぎと花―2話―

野うさぎが目指したのは
紅葉がきれいな場所でも金木犀が香る場所でもありません。

それらを通り越し
小さな小さな足は山の奥深くにある洞窟をただひたすらに目指していました。


久しぶりに歩く山の中なのに
記憶は薄れるどころか
どんどん鮮やかに蘇っていくようでした。


あの頃は毎日のように山に通っていた。
大切な友達に
大切な花を渡したかったから。


あの頃もまた、たった一つの探し物のために山を歩き続け
そうして今も、あの頃なくした大切なものを探しに来ている。


目を閉じなくても夢のように浮かぶのは
大切な友の雪のようにきれいな白い体と
大きな体に似合わない優しい笑顔
そして、村のみんなに追われて逃げていく最期―。

胸がズキズキと痛みます。
紅葉の赤が、友の血のように見えてしまいます。


そうして歩いている内に、赤い木の実がなる木に辿り着きました。
ここから洞窟までは近いはずだ。

「白鬼くん…」


小さな声で、呼ぶというより呟きました。


声は返ってきません。



右を見ても左を見ても
あのきれいな雪のように白い体は見つかりません。


野うさぎは赤い木の実を枝ごともぎると、それを口にくわえて再び歩き出しました。
赤い木の実は仲直りのお土産のつもりでした。

何年経っても覚えている。
この赤い木の実を探しに来た君と、僕はここで初めて会った。



そうしてほどなく歩くと、見慣れた洞窟の入り口に辿り着きました。

ここだ。ここにいるはずだ…。


野うさぎは赤い木の実の枝を足元に置き、深呼吸を三回しました。
すー、はー、すー、はー、すー、はー。

胸のドキドキが止まらないまま息だけを整え、洞窟の奥に向かって大きな声で呼びかけました。


「白鬼くん!!」
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