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2013年06月13日00:59

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夢がありそうでない現代人の破滅の物語(舞台「不道徳教室」を観て)

 主人公の山城(大森南朋)は高校で現代国語を教える教師。
教頭(岩松了)をはじめとする先生達からの人望が厚く、
生徒からも人気がある。近々結婚を控えており、傍から見れば
何の不平不満もない生活を送っているように見える。
 そんな彼には、手に負えない生徒が一人いた。
あかね(二階堂ふみ)だ。普段の彼女は、奔放で
ワガママな久子(趣里)と、世話好きな弥生
(大西礼芳)とつるみ、たわいない話で盛り上がる
普通の女子高生。
 問題になったのは生徒達に「将来の夢」という作文を
書かせた時の事。卒業を間近に控え大方の生徒が
提出したのに対し、彼女は提出しなかった。書けないのだと
言う。「私には夢がない。夢を持たない事はいけない
事なの?」「将来じゃなく過去の夢を書いちゃいけないの?」
とあかねは山城に詰め寄る。
 先生達や生徒からの人望や人気、結婚に夢を
見出せない彼の心をあかねは冷たく見透かしているようだった。
そんな彼女に無意識に引き付けられ、山城は密かにあかねに
付きまとうようになる。彼の行動は段々と
エスカレートし、リカコ(黒川芽衣)という
マッサージ師の知るところとなり、周囲に思いもよらぬ
波紋を投げかける。

 この舞台は、山城の破滅の過程を描く物語である。彼の
破滅の原因となったあかねは、久子達と一緒に
いる時の少女っぽさから、大人が持つクールさ、
大人をも凌駕する「夢がない」と言い切る迫力まで、
様々な魅力を持っている。こんな女性が近くにいれば、
歳が離れていても、男性なら誰だって意識せざるを得ない。
あかねの魅力は毒牙のようだ。
 その毒牙の威力は凄まじい。家族のため不平不満を
抑えて仕事にまい進してきた男や、周囲との調和を図る為
自分を偽ってずっと良い人間を演じてきた男等に、
今まで蓄えてきたものを「もうどうでもいい」と全て
投げ出させ、彼女のみを見つめさせようとする毒牙。
「夢」や「仕事」「信頼」「家族」等、そういったものの
大切さは分かっているが、心のどこかで、それらに希望が
持てず心のより所に出来ないという本音を、突発的に
喚起させる毒牙。山城は毒牙の餌食となった。
 山城と同じような立場に立たされた時、あかねの
毒牙から逃れられる自信のある男性の観客はいないだろう。
 大森南朋が今の日本の芸能界を代表する名俳優の一人
だからこそ、あかね毒牙の恐ろしさを女性の
観客も実感できるのではなかろうか。
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