わたしがいつも飲んでいる水道水は木曽川から取水している。
自分の身体は木曽川の水でできているようなものだ。
この川は、いったいどういうふうに流れているのだろう。
ちょっと調べてみると。
木曽川は全長が229kmある。
長野県の山奥から伊勢湾まで流れる。
日本で7番目に長い川だ。
また流域が変化に富んでいる。
広大な河口から、奇岩の連なる渓谷、源流は2500mの高山だ。
自分の目で確かめてみたくなった。
木曽川を完全遡行してみよう。
ということで今年の目標は伊勢湾河口から源流の鉢盛山山頂までを歩くことだ。
さっそく1月26日(土)〜27日(日)で第一回目の遡行をしてきた。
以下はその記録。
1月26日(土)
午前8時、名古屋駅発、長島温泉行きの名鉄バスに乗る。
8時45分、ナガシマスパーランドに着いた。
木曽川の河口はレジャーランドなのだ。
バスに乗っていた他の人たちは遊園地やアウトレットモールやアンパンマンミュージアムに吸い込まれていく。
わたしたちだけが海辺の堤防へ出た。
伊勢湾がきれいに見える。
でも風が強い。
寒い。
少し歩くと伊勢湾台風の慰霊碑を発見した。
三重県長島町は400人の死者を出して、町が全て浸水したそうだ。
まさかナガシマのアンパンマンミュージアムと背中合わせにこんなものが建っているとは。
15分ほど歩くと木曽川の河口だ。
さすがに大河だ。
川幅は1kmを超えている。
対岸が霞んでよく見えないほど。
海辺は護岸工事中で降りられなかった。
代わりに0.0kmの標識を出発点とする。
広いコンクリートの岸壁を歩いて行く。
すぐに伊勢湾岸自動車道のアーチ橋をくぐる。
2キロほど歩いて国道23号線の木曽川大橋をくぐる。
どちらも全長が1000m以上の大きな橋だ。
木曽川大橋の上流すぐのところに「七里の渡跡」の石碑があった。
江戸時代はここまで海だったのか。
それにしても風が強い。
それにあちこちで護岸工事をしているので、堤防を登ったり降りたりして疲れてくる。
国道1号線の尾張大橋に着いた。
橋のたもとにモスバーガーがあったので休憩することにした。
すでに時間は11時を過ぎている。
ちょっと急がなければ。
この先は護岸工事もなく、川べりを歩くことができた。
川の水を少し飲んでみたけど塩辛い。
海の水が逆流してきているのだろう。
近鉄名古屋線、JR関西線、名阪自動車道をくぐる。
それにしても木曽川は、交通の要所なんだなあ。
この先も、東海道新幹線、名神高速道路をくぐることになるはず。
この辺りはシジミ漁が盛んだ。
無許可で船を浮かべてシジミを取る人がたくさんいるようだ。
国土交通省が警告していた。
長島町の北端あたりに来た。
「輪中の郷」という施設があった。
輪中というのは、堤防で囲まれた人工島のような場所。
長島町は木曽川都長良川に囲まれた、ゼロメートル地帯の街だ。
300円払って資料館を見学する。
輪中の過酷な暮らしを展示していた。
とくに伊勢湾台風の展示はすごかった。
当時の航空写真を見ると、町の建物がすべて水に流されている。
木曽川というのは、とんでもなく凶暴な一面もあるのだ。
また少し歩くと県境になった。
ここで三重県は終わり。
しばらくは愛知県愛西市を歩くことになる。
船頭平閘門というのがある。
木曽川と長良川を船で航行できるように繋いだ水路だ。
それぞれの水位が違うから二重の水門になっている。
いちおう重要文化財なので、ありがたく拝観する。
立田大橋を超えると堤防道路は車両通行禁止になる。
自動車が走ってこないからのんびりと歩ける。
輪中が終わり、立田大橋をくぐり、木曽長良川・背割堤という道に入った。
江戸時代まで木曽川と長良川は、もっと上流の岐阜県羽島市で合流していた。
これでは水害がひどすぎるというので、流れをそれぞれに分けて伊勢湾まで流すことにした。
宝暦治水といって、18世紀の半ばに薩摩藩の人たちが堤防を作った。
明治になってからデ・レーケという人の指導で、より強固な堤防ができた。
木曽川沿岸には薩摩藩士やデ・レーケを顕彰する記念碑などがたくさん建てられている。
とくに薩摩藩士などは「薩摩義士」と呼ばれ、神社に神様として祀られている。
この地方はよほど水害に苦労したのだなあ。
薩摩藩とデ・レーケが作った堤防道路は10キロ以上ある。
右手の木曽川と、左手の長良川は狭いところで50メートルぐらいしか離れていない。
まるで長い橋を渡っているようなものだ。
のろのろと歩いて行く。
ゼロメートル地帯の平野部を伊吹おろしが吹き荒れる。
めちゃくちゃ寒い。
そのうちに雪が降ってきた。
風が強いから地吹雪だ。
東海大橋を越えた。
雪は強くなり、積雪してきた。
雨具を持って来なかったことを後悔する。
それでもなんとか堤防歩きが終わる。
岐阜羽島の南端だ。
木曽三川分流記念碑が建っていた。
右岸、進行方向左手には町並みが見えてくる。
生活感のある風景に、ほっとする。
さらに2キロ歩いて馬飼大橋に着いた。
ここは木曽川大堰といって、三重県や愛知県の用水取水口でもある。
馬飼大橋から羽島市の方に降りて行くと、すぐに本日の宿だ。
「かんぽの宿岐阜羽島」だ。
すでに積雪は5センチ以上。
服は雪まみれ。
入り口で雪を払ってチェックインする。
すぐに大浴場へ直行して身体を温める。
この日の歩行距離は30km。
河口から26kmまで遡行する。
ちょっと長くなってきたので・つづく
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