「有りがたうさん」1936・松竹キネマ・白黒35mm。監脚:清水宏。原:川端康成『有難う』。撮:青木勇。音:堀内敬三。出:上原謙、桑野通子、築地まゆみ、二葉かほる、石山竜嗣、久原良子、河村黎吉、忍節子、山田長正、河原侃二、爆弾小僧、浪花友子、高松栄子、谷麗光、小倉繁、水戸光子、末松孝行、葉山正雄。
原作は三島由紀夫も手放しでベタ褒めしているだけに、映画版も清水監督の演出輝きまくり。上原謙メーターは100。前年デビューし本作が初主演にして上原謙出演作の最高傑作(個人の感想です)。清水作品初トーキーでもあり、まだ録音技術が手探りだった事と、劇場(或いは野外などの特設会場)側の音声再生や
音響条件が良いとは限らない事に鑑み、俳優は台詞がハッキリ聞き取れるよう演技より抑揚の無い滑舌と語尾を伸ばす発声法を優先していて、今の人の目には(というか耳には)奇異であり大根演技と受取られるでしょう。特に自称専門家は現代技術を尺度にして上から目線で得意気に『評論』しますからね。
しかしその特殊性が幸い?して、上原謙の後々の世までも野暮ったい芸風がむしろ本作では素晴らしく味わい深く、意図的演出&演技ではないかと感じるから不思議ですね。スポンサーは暁(タバコ)のようで、プロダクトプレースメントと思われる演出画面が何度も登場します。
ロードムービーの一種である路線乗合自動車を扱うバス映画の本作は、群像劇の面白さは勿論、漁村や農村の風景、建物、風物、人物など見処満点。レコード盤を『蓄音器の種板』と呼んでるのも興味深いです。学校帰りの児童達が後部荷台に飛び乗ってるのも見処です。大八車とリヤカーの中間の様な荷車にも興味深々。
ソフトが発売されてるのでロケ地特定サイトもいくつか存在し、私のような劇場で観た記憶だけから情報を整理する人間にとって新たな知見も得られて助かります。特にリンク先は21回にも及び考察しており凄いです。
https://mwattblog.blogspot.com/2017/01/1936.html
一方で肝心のバスについて考察する人は居ないようで、誰も気にならないのでしょうか?。宣伝スチールは静岡ナンバーの『日本フォードAA』国鉄バス(日産架装ボディー)。実際に撮影に使われた車両は『いすゞウーズレーCP』に見え、工部省(国鉄)マークが見えないので、同地域を走る東海自動車(現東海バス)
か昭和自動車(廃業)からレンタルしたか、松竹の大道具兼用ロケバスだと思われます。すれ違うバスはシボレーのようで、台詞で「シボレーのせこはん(中古車)」とあるのはこのタイプだと思われます。兎と亀状態の高級乗用車は1934年型『ベントレー3 1/2Lツアラーコンバーチブル』の可能性大。清水監督作には
度々ダービーベントレーが登場(しかも同一タイプでは無い)することから余程サイレントスポーツカーが好きなのだと思われます。本作を観に行く前に「黒の牛」「祖谷物語」の蔦哲一朗監督と話して、すんなり通じたのがまた面白い。
https://mixi.social/@nte3120ncc1701/posts/103fd5b9-c162-485d-a891-d7a16dfed9e9
「明日は日本晴れ」1948・えくらん社・白黒35mm。監:清水宏。脚:関澤新一。撮:杉山公平。音:伊藤宣二。出:水島道太郎、三谷幸子、國友和歌子、日守新一(「按摩と女」と同じ按摩師福市役)、御庄正一、荒木忍、明美京子、坂田源次郎、間山政次郎、上田熊男、石原ミドリ、上田秀男。
東宝配給えくらん社制作の作品ながら松竹の倉庫で発見されたもの。16mmで編集は加えられておらずオリジナル全長版で、4年前にNFAJが35�个防�元。凄く面白いし完成度も高いと私は思うのですが、公開当時は評論家から酷評だったそうです。これって逆説的に今時流行りの映画が如何に薄っぺらなのかの証明ですね。
復元版上映当時、NFAJ(国立映画アーカイブ)の研究員の前説が面白過ぎて、研究員自身も全然話し足りない様子でした。幸い記者発表時時点での解説動画は公開されてます。
https://www.youtube.com/watch?v=XBHuaHxNddU
バス映画の清水監督だけに今回のヒネリはロードムービーでは無い点。さらに社会的弱者に対し『可哀想』という見下した視線ではなく健常者と同じ可笑しさで対等に扱っているのが清水監督らしさだと感じます。そして当時の評論家が問題としたのはおそらく登場人物達の戦争に対する思いが知的文化人や政治屋が決めた
『定められた正しい姿勢』ではなく庶民の本音だった点にあったのではないでしょうか。それらがどうゆう事なのかはネタバレなので書きません。キャラクターでは按摩師福市が主役を喰ってしまう存在感で素晴らしく、清水監督として戦前作品の総括を感じます。一方、戦後の代表は戦傷片足の担ぎ屋に思え、
役者は「蜂の巣〜」シリーズで『図星の政』を演じた元ボクサー御庄正一ですが同一人物設定ではありません。ネット上では『御庄正一は片足の俳優として活躍』と書かれてますが、蜂の巣シリーズは素人が演じてるのが特徴で、また御庄正一出演作は本作含め3本しか知らないのですが、他の『活躍』作品が知りたいです。
ロケは京都近郊としか情報がありませんが、景観も植生も合致するのは『鞍馬街道(現国道477号と府道38号の重複部)』で、台詞にある「別所」も街道の途上に存在。例のヘアピンは別所の南の『花脊峠』に風景も勾配の感じもソックリな地点がありロケ地の可能性が極めて高いと思います。
ただし別所から街に行く方向ではなく絵面的に逆方向で撮られた事が分かります。なお鞍馬街道の路線は設立直後の『京都バス』ですが車種も車体の社章も合致せず、架空の可能性もあり登場社章を描いてみました。三台出てくるバスとトラックなど出演車両は全て岐阜ナンバー(戦前から1951年まで使われた旧タイプで
GHQ指定ナンバーとも違う)なのが謎です。バスは戦前の『日産フォードBB』1936年式最終生産型と推定、グリルに日産バスマーク(トラックエンブレム)があります。窓枠は高客室タイプで、燃料キャップの蓋はボディー左右共にあり、一見バックミラー状に見える部品はアナログ方向指示器(進行方向に腕木が飛び出す)。
すれ違うバスと代替バスは同一車両の使い回しと思われ『トヨタLA34型』。BB、LA34共にコンパクトで非常に洗練された設計の木炭ガス発生器付きで『愛国式』もしくは『理研式』、或いは『陸式日燃型薪ガス発生装置』と推定。トラックは『いすゞTB60型』だと思います。写真は上映終了で返還されるフィルム缶。
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