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2019年06月30日09:02

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映画「凪待ち」

自暴自棄になり暴力団とけんかになって事務所に連れていかれた郁夫。
同居していた女の父親、肺がんを患う老漁師が引き取りにくる。
組長は「命を救われた昔」があるから何も言わずに返すのだが、
「なしてそげな男を助けるんだ?」と背中に問う。
老漁師が言う。
「こいつは俺のせがれだ」。

「こいづはおぃのしぇがれだぉん」
と聞こえた。

震災から7年、郁夫が競輪の借金で印刷所をやめたのをきっかけに
亜弓は娘の美波もつれて、三人で故郷の石巻に帰る決意をする。
震災後にDV夫と離婚して川崎に来たこと、
小学生だった美波が「ほうしゃのう」といじめられて不登校になったこと、
カリブ海の島の写真展で出会った郁夫と同居して5年になること、は
最初は語られない。
印刷工の資格と腕があるのにギャンブル依存の郁夫は
社会的弱者として同じ立場の美波に優しい。

雄勝の、海を見下ろす高台にある亜弓の実家で
津波で老妻を失った勝美はひとりで漁師をしている。
進行した肺がんであることはわかっているが、娘にいくら言われても
「俺は死ぬまで漁にでる」と治療を拒否する。

郁夫は、この勝美にも優しい。
「やりたいことをやらせてあげたらいいじゃないか」と言う。
勝美は「他人」である郁夫に口もきかないのだが。

美波と亜弓はささいなきっかけから言い争いをし、美波は遅くまで帰宅しない。
心配した亜弓は郁夫といっしょに夜の街を探し回るが、郁夫が
「もう少し自由にさせてやれよ」と言ったのに「自分の子じゃないから」と亜弓が返し、
怒った郁夫は人気のない街はずれで亜弓を車から降ろしてしまう。
郁夫は自分の勘でボーリング場にいた美波を探し当てるが、
「お母さん心配してるから電話しろ」と電話させたとき、
電話に警官が出る。

亜弓は工事現場で殺されていた。

この映画の直接のテーマは震災ではない。
だが、もし震災がなければ郁夫と亜弓は出会うことがなかったし、
美波がいじめに遭ってひきこもることもないから石巻には帰らなかったかもしれず、
震災で荒れた人の心の隙間にギャンブルがこれほど入りこむこともなく、
震災復興の工事現場がなければ亜弓も殺されなかったかもしれない。
震災は単なる自然現象だが、あまりにも大きな天変地異は
人と社会と自然と、いろいろなものをかき回して底に沈んだものを浮き上がらせる。
震災さえなければこうでなかった、という言い方は間違いではない。

でもそれは「悪いこと」ばかりではないと思う。
家族を失い家を失い仕事を失えば、悪いことばかり、としか思えないが、
この映画のように震災があったからこそつながれた縁もあれば、
得られた絆もある。
がんばりきれずあきらめた人もいれば、がんばりが実を結びつつある人もいる。

映画中に勝美が言う
「津波のせいで海がダメになったんじゃない、津波のおかげで新しい海になったんだ」
というセリフは、実際に気仙沼の漁師さんが言った言葉だそうだ。
津波で海底が入れ替えられ、栄養豊富な魚が育つ海になった、と。

その昔、ナイル川が氾濫すると周囲の集落は壊滅したくさんの死人が出た。
でも氾濫のあとは上流から流れてきた肥沃な土が残り、
作物が豊かに実って生活がうるおされた。飢え死にする人間も減った。
神のなさることに無駄はない。奪いたまい、与えたまう。

今、人間による治水が完了して氾濫がなくなったナイル川周囲には、砂漠が広がる。
この土地で建設中の海沿いの高い堤防は、何をもたらすだろうか?
別の話になるが。

と言っても、組長の配慮で郁夫が暴力団に奪われた金がそっくり返され、
勝美が売った船が買い戻せた、というのは都合がよすぎるかもしれない。
ただ、船は買い戻せても勝美はやはりがん末期であり、
郁夫は戸籍上は他人で船舶免許も漁業協同組合の免許もなく、
美波はいずれDVの元の父親のところへ行くかもしれない。
それでも亜弓が生前書いて父親に預けておいた婚姻届けを書き上げて、
三人で海に流すシーンには、「これからきっといいことがあるよ」と声をかけずにいられない。

このラストシーンから、海に沈む婚姻届けを追ってカメラは海底に入る。
自転車、ロッカー、ピアノ、さまざまな生活雑貨が沈んでいる。
震災は、津波は過去のものでなく、ここにちゃんとその存在を示す。
そしてここからわたしたちを見守ってくれている。
生き残り、生きていかねばならないわたしたちを、見守り励ましているのだ。

映画館を出たあと、涙が止まらなくなり、
廊下の片隅にしゃがんで声を上げて泣いた。
他の観客さんたち、ごめんなさい。黙ってそばを通ってくれてありがとう。
「大丈夫ですか」と声をかけてくれた人、本当にありがとう。

がんばって生きていこうと思った。

■香取慎吾が見せたダークな表情「“もうダメだ、俺”ってなるとき、あるよな」
(週刊女性PRIME - 06月28日 11:00)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=235&from=diary&id=5683070
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