朝の4時半。
まだ夜の名残が残る薄暗さの中で、仕事へ向かう支度をする。
玄関に立つころ、家の中は静まり返っている。
妻は眠っていて、「いってらっしゃい」を聞くこともできない。
そっと扉を閉めて、一日が始まる。
今の職場に移る前の30年間、
職場で誰かに「いってらっしゃい」と送り出されたり、
「おかえりなさい」と迎えられたりすることは一度もなかった。
そういう文化のない環境で働いてきたから、
それが当たり前だと思っていた。
けれど今の職場では、事務所を出るとき、
同僚の女性がふと「いってらっしゃい」と声をかけてくれた。
帰ってきたときには「おかえりなさい」。
その二言が、思った以上に心に響いた。
たったそれだけのことなのに、
胸の奥がふっと温かくなる。
誰かに送り出され、迎えられるというのは、
こんなにも力になるものなのかと気づかされる。
家では朝、言葉を交わせないぶん、
帰ったときくらいは丁寧に「ただいま」を伝えたい。
言葉は短くていい。
ただ、心を込めて返せる自分でいたい。
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