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2026年06月05日22:23

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アルト・ラプソディの聴き比べ

ブラームスの「アルト・ラプソディ」作品53は1869年に作曲されています。作曲者が36歳のときで、『ドイツ・レクイエム』をはじめ合唱曲や歌曲を量産していた時期の作品。この曲についてよく言及されるのは、シューマンの三女ユーリエに対する失恋との関係です。しかし、西原稔『ドイツ・レクイエムへの道』によると、アルト・ラプソディはブラームスの中で「別格」の作品だったらしい。歌詞に使われたゲーテの詩は「天上の世界と地上の人間の対比」や「魂の救済」においてドイツ・レクイエムとテーマが重なり、ブラームスは夜もこの曲のスコアを枕元において寝るほど気に入っていたそうです。「たんに失恋の内容として解するのはきわめて皮相的」だと。正直すまんかった(爆)。

遅まきながらしっかり聴いてみようと、手元の音源を探したところ、以下の5種が出てきました。この曲を目的にしてなくても、カップリングで付いてきてるf^^;。ほかにもまだあるかもしれないけど、比較には十分かと。タイム表示の短い順に並べます。

・ボールト/ロンドン・フィル(1970)、ジャネット・ベイカー(MS)、ジョン・アルディス合唱団 11:47

・クレンペラー/フィルハーモニア管(1962)、クリスタ・ルートヴィヒ(MS)、フィルハーモニア合唱団 12:28

・フォンク/オランダ放送響(2003)、イヴォンヌ・ネフ(MS)、オランダ放送合唱団 12:39

・ヴィト/ワルシャワ・フィル(2010)、エヴァ・ヴォラク(CA)、ワルシャワ・フィルハーモニー合唱団 14:51

・クーベリック/バイエルン放送響(1962 Live)、グレース・ホフマン(MS)、バイエルン放送合唱団 15:16

そんなに長い曲でもないのに、演奏によって3分半もの開きがあります。最速で優勝はボールトv(^^)。クレンペラーが案外速い。曲によってはトンデモ鈍足もある、一筋縄ではいかない人です。3位は中庸を行くフォンクの面目躍如。ヴィトは遅めでだいたいこの辺にきます。最遅のクーベリックは、スタジオ録音と比べてライブの振幅がより大きくなる傾向にありますね。

ボールト盤は、ワーナーの「バッハからワーグナーまで」と題されたボールト11枚ボックスのおしまい11枚目にセレナード2曲とカップリングで収録されています。ボールトのブラームス交響曲全集はみっちのお気に入りのひとつで、膨らみや間といった、フレーズに当然のように加えられがちな「虚飾」を削ぎ落とした端的で格調の高い造形が魅力。アルト・ラプソディも交響曲と同様の演奏です。オケは弦主体で管は控えめ。第1部のゴツゴツ感から第2部でヘミオラを伴いながらもワルツ風へと向かう流れの変化がとてもきれい。オケのみの間奏部分や最後の和音の伸ばしなど、温かい音色も素晴らしい。声楽についてはあまり多くを語れませんが、ソロのベイカーは美声で立派な歌唱。ただしアルトとしては高い方なのか最低音あたりちょっと苦しそうです。第3部の男声合唱はソロを邪魔しないよう背景に徹して包み込んでいる感じ。

クレンペラー盤は、ワーナーのブラームス交響曲全集+ドイツ・レクイエムボックスから、大学祝典序曲、悲劇的序曲、交響曲第4番とのカップリング。テンポ設定やザッハリッヒ?な解釈という点ではボールトと近いですが、こちらはオケやコーラスの鳴らし方の圧が強い。ゴシック的なコントラストとでもいいましょうか。管楽器はかなり前に出てきて、よくいえば豪快ですがその分繊細さに欠ける憾みも。一方、ルートヴィヒのソロは大変素晴らしく、これぞ理想的な歌唱というべきかも。男声合唱はボールト盤とは対照的にテノールとバスが分離しながらそれぞれが主張し、録音がやや粗いせいもあってか、全体で盛り上がるところなどではうるさく感じます。

フォンク盤は、ペンタトンのSACDハイブリッドで、大学祝典序曲、ハイドン変奏曲とのカップリング。2004年に亡くなった指揮者最後のセッション録音であり、個人的に思い入れがあります。フォンクの特徴は繊細で柔らかなバランスにあり、オケは弦が主体ですが、要所で管の和音やフレーズを心のひだのように浮き立たせるニュアンスがたまりません。第2部の美しさはとくに印象的で、別れを惜しむような流れと血の通ったピアニッシモ。きっとオケももう、これが最後かもしれないとわかってて、フォンクのために全集中しているんですよ。セントルイス響とのラストライヴでのマーラーの4番もそうだったなあ。ネフの独唱も渾身の出来。低いところも出ているし、高域では可憐さも持ち合わせていて感動的。男声合唱は温かい、ボールトに近い表現です。

ヴィト盤はナクソスのブラームス合唱曲集に収録。テンポはぐっと遅い。このため、各部の対比という点ではあまり変わり映えしませんが、響きのスケールと緻密なアンサンブルの両立で聴かせます。冒頭から分離の良いクリアな響きで、その後もファゴットが明瞭に聴こえるなど、オケの解像度が一段上がった感じがします。ヴィトは合唱ものが得意で、マーラーの交響曲でもとくに声楽入りに強みがありました。その美点をここでも十分に発揮しており、色彩感では随一かと。独唱のヴォラクは、広い音域を艷やかに歌いこなしています。ただしコントラルトの声質はほかの盤のメゾとは異なるところがあり、ヴォラクは比較的クセのないタイプとはいえ、この点で好みが分かれるかも。録音は優れた演奏をよく捉えています。昔のナクソスは残響過多の不自然な音質でしたが、近年は(価格とともにf^^;)向上しました。

クーベリック盤はオルフェオのライヴで、アラウ独奏によるピアノ協奏曲第1番とのカップリング。この組み合わせは珍しい。テンポは第1部と第2部がじっくりで、このスケール感はまるでワーグナーの楽劇(爆)。ここまで来るとこれはこれで面白い。音楽があまり流れないため、不協和音や半音階など曲の現代性がクローズアップされて聴こえてきます。このテンポでもオケはしっかりついているし、独唱のホフマンは大きな抑揚で聴かせ、ルートヴィヒに引けを取りません。男声合唱もいいバランス。ライヴのため客席ノイズがありますが、音質自体は聴きやすく、同時期のクレンペラーのスタジオ録音とそれほど変わらない印象です。
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