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2025年07月21日15:09

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ル=グウィン『火明かり』

・『火明かり』 ゲド戦記 別冊
アーシュラ・K・ル=グウィン著、井上里ほか訳
岩波少年文庫

本の帯に「『影との戦い』から50年 作家最晩年に書かれた感動のエピソード、ついに邦訳」、「ファンタジーの金字塔〈ゲド戦記〉完結!!」とあるように、ル=グウィンの没後に発表された遺稿「火明かり」と未邦訳だった短編「オドレンの娘」のほか、エッセイや講演をまとめた別冊。ゲド戦記ファンなら、買うしかない。

「オドレンの娘」は、オー島を舞台にしたある種の復讐譚。巻頭にある作者の序文に、〈ゲド戦記〉の最後の話として書いたとあり、この時点では「火明かり」は予定されていなかったことが伺えます。ストーリーは比較的単純ともいえるのですが、周辺から次第に核心へと移っていく描写に迫力があります。

解説には、この物語に登場するまじない師が第1作『影との戦い』に出てくるヒスイではないかという考察がありました。「オドレンの娘」のまじない師は、島の領主が海賊討伐目的の船を建造するために招いた魔法使いで、アッシュと呼ばれています。アッシュはやがて領主の奥方に取り入ることになるのですが、彼の外見は背の高い若者で、タールのように黒く艶のある長髪が特徴。一方のヒスイは、ロークの学院で主人公のゲド(ハイタカ)が最初に出会う院生の先輩。二人はお互いに敵対意識を持ち、このことがやがてゲドが影を呼び出す原因になります。ヒスイは背が高く優雅を気取ったような身のこなしが特徴で、背が高い点ではアッシュと共通しますが、髪の色や身のこなしについては一致とはいえず、これだけでは証拠としては弱い。しかし、ヒスイとオー島の関係を示すエピソードがあります。学院の冬至のお祝いに招かれた客の中に、オー島の領主とその妃がいました。ヒスイはその妃に声をかけて目くらましの術を見せ、感嘆した妃はヒスイを島に招きたいと言います。ヒスイはその場では誘いを断りながらも「いつの日か、ここにおられる先生方ほどに腕をみがき、お褒めのお言葉に真実かなうようになりましたら」と将来の可能性を匂わせています。うーむ、アッシュ=ヒスイ説は有力そう。

「火明かり」は、テナーと暮らす家でゲドのこれまでの旅が走馬灯のように脳裏を流れていきます。「はてみ丸」に乗った彼は、やがて竜に会い……。帯裏にも掲載されている「うれしやな、いざ、放たれて!」というのはいささか芝居がかっていてゲドの言葉としては不自然では?と思ったところ、本文をよく読んだらこれはゲドが発したのではなく、自然に響いてきた歌そのものとなっています。慌てん坊のみっち(爆)。『アースシーの風』では、この言葉はレバンネン王が昔聞いたという民謡あるいは子守歌の結びの部分でした。アースシー・シリーズでは、本文と歌が響き合っています。

この作品はル=グウィンの遺稿として2018年の夏に発表されています。ル=グウィンが亡くなったのはこの年の1月。『影との戦い』の時点ではこれが50年以上に及ぶライフワークになるとは本人も思っていなかったようですが、おそらく死を意識した作者が最後に書きたかったのは、やはりゲドだったんでしょう。

エッセイや講演については、例えば「アメリカ人はなぜ竜がこわいか」では、イギリスやドイツで伝統のあるファンタジーがアメリカではなぜ軽視されるのか、その理由として、ピューリタニズムとの相性の悪さを指摘しているのが興味深い。〈ゲド戦記〉との関わりでは、みっちがウィキペディアで本シリーズ4作目までを記事にしたときに出典とされていたものがあらためて確認できました。英語版を翻訳していてこれでいいんだろうかと思いながら作業したのが、それほど外していなかったようで一安心です。邦訳が出たいまだったら、もうちょっとうまく書けたかも、なことはないかf^^;。
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