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2025年04月09日19:02

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シューマンのヴァイオリンソナタ聴き比べ ファウストvsイブラギモヴァ

シューマンの晩年、デュッセルドルフ時代の作品は、交響曲第3番やチェロ協奏曲といった一部を除くとあまり認知されておらず、再評価が待たれています。ヴァイオリンのための作品も同様で、録音はそもそも多くありません。とくにソナタ第3番となるとレアといっていいでしょう。この曲はもともとヨアヒムのためにシューマンがブラームスとディートリッヒと3人で共作したFAEソナタが元になっており、このときシューマンが担当した間奏曲とフィナーレに、第1楽章とスケルツォを新たに書き加えてソナタにしたという経緯があります。出版は1956年だそうですから、それまでは演奏すらできなかったことになります。

手持ちのCDはファウスト盤でした。これに対して新しくリリースされたのがイブラギモヴァ盤。録音には24年の隔たりがありますが、この二人を比較できるのは楽しみ。まずは、収録のタイミング表示から。

・イザベル・ファウスト(Vn)、ジルケ・アヴェンハウス(pf) 1999年録音 cpo 999 597-2(Fと略す)
・アリーナ・イブラギモヴァ(Vn)、セドリック・ティベルギアン(pf) 2023年録音 hyperion CDA68354(Iと略す)

第1番
F : I 7'40 II 3'38 III 4'44 Total 16'02
I : I 8'18 II 3'51 III 5'08 Total 17'17

第2番
F : I 12'28 II 4'02 III 6,03 VI 8'04 Total 30'37
I : I 14'16 II 4'21 III 6'13 VI 9'19 Total 34'09

第3番
F : I 6'58 II 3'39 III 2'26 VI 6'38 Total 19'41
I : I 7'11 II 3'18 III 3'15 Vi 6'35 Total 20'20

1番と2番ではファウストが全曲全楽章で速く、3番は二人のタイミングがあまり違いません。なお、3番の中間楽章の配置が両者では異なっており、ファウスト盤ではスケルツォ→間奏曲、イブラギモヴァ盤では間奏曲→スケルツォの順となっています。とはいえ、イブラギモヴァ盤では間奏曲とスケルツォが3秒差しかないので比較に影響はありませんf^^;。

実際に聴いても、ファウストの1番と2番は疾走感が印象的で、なにかに追われているような焦燥感や切迫感も伴っています。テンポが速いといってもフレーズのキレの良さはこの人ならではで、破綻はありません。テンポについては、シューマンの音楽が同じリズムパターンや音型を繰り返して堂々巡りのような印象を与えることを避けようとしたのかも。その狙いであれば成功していて、これまでこの2曲を聴いてもよくわからん、と思っていた人がいるとすれば、そんなモヤモヤを吹き飛ばすような爽快さがあります。快演といっていい。3番についてはあらためて後ほど。

一方のイブラギモヴァは、ゆっくりというと弊害がありますが、適度なテンポです。ファウストが直球勝負とすればイブラギモヴァは曲線美。ファウストの切れ味とは違う、フワッとしたフェザータッチが魅力です。走り抜けてはこぼれ落ちてしまうようなニュアンスを拾って聴かせてくれます。停滞したとしても、それが素敵でしょうというような。シューマンの演奏では、とくにこうした共感と愛情が物を言うと思います。加えて、ティベルギアンのピアノとの息がぴったり。ファウスト盤のアヴェンハウスも悪くないですが、ティベルギアンを聴くと、つくづくイブラギモヴァはいいパートナーに恵まれたと感じざるを得ない。素晴らしい。

さて第3番ですが、この曲をファウスト盤で覚えたみっちは、いかにシューマン好きであってもこの作品は擁護できないと思っていました。間奏曲は例外としても、あとはほぼ錯乱というか分裂というか、精神障害の影響でまとまりのない楽想がいたずらに書きつけられていると感じられて聴いていて苦しかった。ところが、イブラギモヴァ盤を聴いて、必ずしもそうではなかったことがいくらかわかってきました。これには時間差の問題があって、昔よりもシューマンの最晩年の作品をいくつか聴いて経験値が増えていたことが大きいと思います。前田昭雄が『シューマニアーナ』で「ファウスト」(ゲーテのファウストねf^^;)序曲について語っていた「荘厳様式」が、このソナタにも現れている。例えば主題から次の主題に移るとき、通常は転調したり経過部として気分を整えて準備したりしますが、シューマンはそれらを切り詰めてぎゅっと圧縮しています。シューマンはピアノソナタや交響曲など、かねてからソナタ形式の拡大や解体のような工夫をこらしていますが、その最後の段階にきていたのでしょう。だから唐突に聞こえたりする。

それはそれとして、第2番の冒頭とこれほど似た要素を使うのはなぜ? もしかするとヴァイオリン協奏曲の音楽が「天使の主題」に使われているのと同じ現象? などの疑問もあって、すべてが解決したわけではありませんが、少なくとも以前のような拒否反応はなくなりました。あらためてファウスト盤を聴くと、カオスな印象はやはり感じなくなっています。というわけで、これは演奏の違いではなく自分の受容の変化といっていいのですが、録音の違いもあってファウスト盤は少々キツめなのは確かです。対するイブラギモヴァ盤はお気に入りレーベルのハイペリオンだから、やっぱりこっち聴いてしまうなf^^;。なお、イブラギモヴァ盤の間奏曲3分超えは相当遅いテンポです。これで保つのがむしろすごい。
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