2021年5月18日、国際エネルギー機関(IEA)が発表したロードマップは衝撃的でした。2050年までのカーボンニュートラルを念頭に、世界で初めてエネルギー変革を包括的に研究した行程表 「Net Zero by 2050」では、エネルギー業界を始め、あらゆる産業界の形を根本的に変えかねないポイントが列挙されていました。
・新規の化石燃料供給プロジェクトへの投資を即時取りやめる
・CO2削減対策のない石炭関連プラントへの投資決定を行わない
・2030年までに世界の自動車販売の60%を電気自動車にする
・2035年までにガソリン駆動の乗用車の新規販売を停止する
・2040年までに世界の電力部門におけるCO2排出のネットゼロを達成する
・2050年までに発電の約90%を再生可能資源由来にする
・2050年には太陽光と風力を発電の70%にする
・総エネルギー供給で現状5分の4を占める化石燃料を2050年に5分の1に縮小する
上記は、主なポイントを列挙しただけですが、これだけで一般庶民の生活にも大きな影響が及ぶのを避けられないことが分かるでしょう。さらに、もし宣言各国がカーボンニュートラルを実現したとしても、2050年にはCO2が220億トン分排出され、2100年には世界の平均気温が50%の確率で21℃上昇するといいます。
IEAは「これ以上取り組みが遅れれば、2050年までのネットゼロ達成は困難になる」と指摘しています。この報告が衝撃的だったのは、もちろんその内容のインパクトもありますが、もう一つは発表主体がIEAだったことです。
というのも、IEAとは、1973年のオイルショックをきっかけに、OPEC(石油輸出国機構)に対抗するため、当時のヘンリー・キッシンジャー米国務長官の呼びかけで日本を含むOECD諸国(経済協力開発機構)によって創設されたものです。
つまり、エネルギーといっても、かなり石油に軸足を置いた存在だったのです。その石油界の権威ともいえるIEAが、新規の化石燃料プロジェクトへの投資の即時停止を求めたのだから、世界中に衝撃が走るのも無理はない(逆に、ネットゼロが不可能に近いことを伝えたかったとする説もあるほど)。
ここにも2020年までのカーボンニュートラル・ラッシュの影響が見て取れますが、とはいえ、そもそもこの5年で、世界の石油をめぐる議論はすでにかつてとは大きく変わっていたのも事実です。
「10年以上前に『石油の終わり』、つまり石油供給のピーク (Peak Oil)がまもなく来ると予測する声がありました。つまり、世界で原油不足がやってくると。しかし、今や議論は真逆になり、石油需要のピーク (Peak Oil Demand)が論点になっているのです。つまり、いつ石油の消費がピークを打ち、落ち始めていくのか、である」
ダニエル・ヤーギンは 『The New Map』 (未邦訳)の中で、こう指摘しています。実は1859年に石油が世界で初めて採掘されるようになって以来、今にいたるまで、その需要は常に増加を続けています。
日本と欧州ではすでにピークを過ぎていますが、世界の総人口は、途上国を中心に増え続けているわけで、石油の需要も中国・インドの二大大国が牽引する形で今も伸びているのです。しかし、新型コロナウイルスの到来がすべてを変えました。
人々は移動を控え、世界を飛び回ることもなくなった。これに伴い、石油の需要は、歴史上前例のないレベルで落ち込んだのです。経済が戻りましたが、石油の需要は元には戻ってこないかもしれない。こんなシ ナリオを予測し始める声は大きくなっているのです。
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