ときにはひねくれた技術の話。
アンプの動作クラスにはA、AB、B、C、Dなどがある。ようするに能動素子をどう使うかという話でA級は能動素子にずっと電流を流し続け、その一部を出力に使うもの。AB級はプッシュプル使い、無信号時は少し電流を流しておいて必要に応じて電流を増やし、増分を出力に使うもの。B級は無信号時にはほとんど電流を流さず、必要なだけ電流を流してできるだけ多くを出力に使おうとするもの。C級は無信号時絶対に電流が流れないようにしておいて、信号によって能動素子をONにしてさらに効率をよくしたもの、ただしオーディオ回路では使えない。D級は高い周波数で能動素子をスイッチングしながらパルス幅を変えることで信号出力を得るもの。
最近のアンプはほぼすべてAB級かD級だと思えばいい。
昔から言われていることに「A級アンプのほうが音がいい」というのがある。複数の能動素子を使うAB級、B級では素子の切り替えが必ず発生し「クロスオーバー歪」と呼ばれる小信号領域での歪があるが、A級ではクロスオーバー歪がないからだ、というのが通説。
・・・ほんまかいな。
現代のAB級アンプICでも、負荷を重くしても、クロスオーバー歪を計測することはとても難しいのが事実。理由は「アンプを含め増幅系で発生するノイズに埋もれてしまっている」からだ。高性能なオシロスコープで波形を拡大しても、クロスオーバー歪はほとんど見えない。
ここで少し考え方を変えてみよう。
昔も今もオーディオ測定といえば正弦波など「わかっている波形」を使い、負荷には抵抗器が使われている。
音楽の信号もスピーカーという「複雑な動作をし、複素インピーダンスを持つ負荷」で測定されたデータは「人間が聴いた官能検査による結果」だけで、そのほとんどは評論家などから出てくる。別に評論家の耳が悪いとかそんなことではない。少ないサンプル数であれこれ言ってもメソッドとして正しいとは言えないし、結果も数値化がほぼ不可能、ということだ。
スピーカーのほとんどは「ボイスコイルを磁場の中において電流を流し、その運動を振動板に伝えて音を出す」装置だ。ボイスコイルは誘導性だが損失も当然ある。磁場の中で運動すればそこには電流が発生する。振動板には質量もあり、空気は弾力があり、ダンパーやエッジといったメカニカルな部品で支えられているので、その振動特性も影響する。
とてもとても複雑な素子だと考えたほうがいい。
そんなこともあって、簡単な実験をしてみた。AB級アンプICの出力に外部から電流を流してみるという実験だ。
A級アンプであれば、アイドリング電流の範囲で外部からの電流を受け流し、出力電圧を保つことができる(LTSpiceというシミュレータで確認できた)。
が、AB級アンプではシミュレータでも、実際のICでも、外部から出力端子への電流の流入では出力電圧の維持はできなかった。
つまり、スピーカーから「逆起電力」が戻ってきたときの挙動が違う可能性がある、ということだ。
オーディオアンプの性能を示す測定値として「ダンピングファクタ」があるが、これは正弦波・抵抗負荷で測るものなので、アンプICでも決して悪い値にはならない。むしろヘタな設計をしたディスクリートアンプのほうが値は低かったりもする。
かなり難しいが、AB級動作をしながら、出力から電流が流れ込んでも出力電圧を維持できる増幅器は設計可能だ。
そして現代であれば、正弦波や方形波での測定ではなく、実際の音楽をまるごと1曲再生してスピーカー端子での電圧・電流を計測することも、聴取位置に計測用マイクロフォンを設置してデータを取ることも可能だ。
それらは官能試験ではなく、客観的なデータであり、繰り返し同じデータを取得することも、解析も可能だ。周波数特性だけでなく、もっと多くの情報がそこには存在する。
今年度から日本音響学会の末席に加えていただいたんだし、そういう研究もやってみたいね・・・いつできるか見当もつかんけど。
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