「奇襲は戦闘上、不可欠な作戦である、だが奇襲がすばらしい成功を収めた戦例はまれだ」とクラウゼヴィッツは述べています。机上で戦争を考える連中は奇襲がすばらしい作戦だと思いがちですが、実際には奇襲くらい難しいものはないのです。なぜなら奇襲には準備がいるが、極秘のうちに進められなければならないからです。
敵に知られたら奇襲にはならないです。準備が短期間なら秘密も守られやすいのだが長期となると困難です。大きな奇襲作戦が実行されにくいのはそのためです。秘密と並んで奇襲に欠くことのできない条件はスピードです。準備も実行も可能なかぎり迅速に行なわれなければ、失敗は目にみえています。
このふたつの条件を満たすには「旺盛な士気と厳格な軍規とそして卓越したリーダーが求められる」とクラウゼヴィッツはいい、「奇襲作戦の雄」としてふたりの武将をあげています。フリードリヒ二世とナポレオンです。
もしクラウゼヴィッツが真珠湾攻撃を目にしたら、その大成功ぶりに舌を巻き、この作戦を主導した山本五十六海軍大将に脱帽したことでしょう。いうまでもないのですが、クラウゼヴいが、クラウゼヴィッツの『戦争論』は陸戦を対象にしています。
彼は実戦主義者だから、みずから経験したことのない海戦を論じないのは当然です。まして航空戦が戦争でこれほど目覚ましい役割を果たすとは、想像もしなかったにちがいないでしょう。
昭和16年(1941) 12月8日未明、太平洋上から発進した日本軍の三百五十三機の攻撃で、米戦艦四隻、その他二隻を撃沈、戦艦四隻、巡洋艦二隻、駆逐艦三隻、その他二隻を撃破、二百三十一機の米軍航空機を撃墜破したのです。
日本側の損失は航空機二十九機と特殊潜航艇五隻。損益計算からいって、これほどの戦果は珍しいです。さらにこれで米太平洋艦隊は壊滅し、太平洋の制海権は日本軍のものとなりました。戦略的にも大成功です。
この作戦に従事したのは南雲忠一中将の指揮する第一航空艦隊です。航空母艦六隻を基幹とする機動部隊ですが、これだけの大艦隊が米国側に察知されず、奇襲攻撃に成功するにはよほど綿密な作戦計画と周到な訓練が必要でした。じつはルーズベルト大統領はこの奇襲作戦を察知していたといいます。しかしルーズベルトだって、これほどの大損害を蒙るは思ってみなかったのです。
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