原作が出版されたのは1981年、と映画パンフレットに書いてあった。
すぐに読んだんじゃないだろうか。表紙の岩崎ちひろに惹かれて。
…というのはうそで、あの不思議な女性がいったいどういう子供時代を送ったのか
知りたかった。
NHKの連想ゲームなんかで、大当たりを何度も出すのに、ものすごい勘違いもする。
なんでも知っていてどこへでも行ったはずなのに、
まだまだ知らないことがたくさんあるような顔をしている。
それから何度読んだかわからない。
内容はほぼ暗記している。
たとえば、トモエ学園に最初に行ったとき「お洋服はママが全部作るの」と言ったら
校長先生は「今着てるのもママが作ったのかい?」と聞く。
トットちゃんの答えはこうだ。「びりびりになっちゃったから、これは買ったやつ」。
当時のトットちゃんが熱中した遊びは、垣根の前に座って頭を下げ、
「おじゃまいたします」とそのまま垣根の下をくぐり、
「失礼いたしました」と頭を下げたまま後ろ向きにもう一度くぐる、というやつ。
夢中になって何時間もやった。もちろんひとりで。
で、垣根がたまたま有刺鉄線だったので、ワンピースの背中が
「びりびりに破けた」というわけ。
こういうことが日常茶飯事のトットちゃん。
どろどろになっても破けても、服のことで怒ったりしないお母さん。
このお母さんいてこそ、トットちゃんはトットちゃんでいられたのだと思う。
小児麻痺の泰明ちゃんは、右足と左手が不自由。
いつも本を読み、学校で早く授業が終わったときの「散歩」にも参加しない。
その泰明ちゃんを、トットちゃんは無理にプールに押し込む。
萎えた手足をみんなに見せたくなかった泰明ちゃんだが、
そもそもみんな、そんなことは気にしないし、
水の中で体が軽くなることを初めて知って、泰明ちゃんの顔が輝く。
こういうシーンは、文章でもいいけどやっぱり画像で見ると、素晴らしい。
夏休み、お互いの家に遊びに行くと嘘をついて、学校に来たふたり。
トットちゃんがいつも登る「トットの木」の木登りご招待のシーン。
本で読んでいたときも、手に汗にぎる場面だった。
トットちゃんはクラスの相撲大会で大きな男子を投げ飛ばすほど強い。
でも、成長不良で痩せていたとしても、
手足の不自由な男子ひとりを木に押し上げるなんて、絶対に無理!
…と思ったが、奇跡は起きる。
泰明ちゃんは無事に木に登り、トットちゃんは「いらっしゃいませ!」と歓迎する。
「木に登るってこういうことなのか」としみじみ言う泰明ちゃん。
家に帰ったあと泰明ちゃんは「服を汚してごめんなさい」とお母さんに謝る。
お母さんは「お洗濯が大変」とクチで言いながら、その服を抱きしめて、泣く。
このシーンは本にはない。
でも、きっとこうだっただろうと思う。
学校が冬休みに入る日、泰明ちゃんの愛読書「アンクルトムズケビン」を貸してもらう。
「学校が始まったら返すわ」と言って帰る電車に走りこむトットちゃん。
その後ろ姿に、泰明ちゃんが何か言っているが、周囲の騒音で聞こえない。
その言葉は、休み明けに行われた泰明ちゃんのご葬儀で聞こえてくる。
「トットちゃん、いろいろ楽しかったね。トットちゃんのこと忘れないよ」。
戦争がはじまり、子供たちが田舎に疎開していくので
トモエ学園は閉鎖になる。
最後の日、校長先生はトットちゃんを抱きしめて、言う。
「君は本当にいい子だ」。
最初に学校に来た日、長い長いトットちゃんのお話を聞いたあとで
校長先生は「君は本当はいい子なんだよ」というが、
それは「みんなにはわからないけどね」という意味だった。
トットちゃんはトモエ学園で成長し、「本当はいい子」でなく
「本当にいい子」になった。
このシーンも本にはない。脚本がうまい。
最後に、これはどうしても書いておきたい。
トットちゃんの愛犬ロッキーは、戦争がはじまったあと
軍に徴用された。
軍用犬、爆弾を装着して敵軍につっこむか、
兵隊の食料として連れていくか。
学校から帰ったある日、ロッキーがいなくなっている。
なんとなく事情を察したトットちゃんは、ロッキーが残した抜け毛を抱きしめて、
泣く。
このシーンは映画にはない。誰もいないロッキーの小屋に首輪が転がっているだけ。
もしロッキーが連れていかれるシーンがあったら席を立たないとダメかも
(声を出して号泣しそうなので)と思っていたが、
おかげさまで最後まで映画を見ることができた。
本当に脚本がうまい。
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