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2023年05月02日00:00

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聖地には蜘蛛が巣を張る(Holy Spider)

 「ボーダー 二つの世界」の鬼才アリ・アッバシ監督が、イランに実在した殺人鬼サイード・ハナイによる娼婦連続殺人事件に着想を得て撮りあげたクライムサスペンス。

2000年代初頭。イランの聖地マシュハドで、娼婦を標的にした連続殺人事件が発生した。「スパイダー・キラー」と呼ばれる殺人者は「街を浄化する」という声明のもと犯行を繰り返し、住民たちは震撼するが、一部の人々はそんな犯人を英雄視する。真相を追う女性ジャーナリストのラヒミは、事件を覆い隠そうとする不穏な圧力にさらされながらも、危険を顧みず取材にのめり込んでいく。そして遂に犯人の正体にたどりついた彼女は、家族と暮らす平凡な男の心に潜んだ狂気を目の当たりにする。

ザーラ・アミール・エブラヒミがジャーナリストのラヒミを熱演し、2022年・第75回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞。(映画.comより)





<2023年4月30日 劇場鑑賞>

 イラン、聖地マシュハド。ここで娼婦ばかりを狙った連続殺人が起きます。犯人はスパイダー・キラーと言われ、証拠もなく次々と女たちを歯牙にかけるプロなどと言われたのですが、なんのことはない、いたって普通のおじさんで、ただ「腐った女たちを排除して、社会を正常に戻す」という”間違った正義”の信念のもとに行動していただけで、手口も平凡、証拠隠滅も中途半端なのでした。しかし、それを良しとする通念がかの国にあったがために、彼は英雄視され、警察も及び腰、かばう市民も多数いたために、捕まらないだけなのでした。

 女性ジャーナリストのラヒミは、取材のためマシュハドにやって来るのですが、未婚で女性一人というだけで、予約していたはずのホテルには「満室だ」と滞在を断られます。ジャーナリストである身分証明書を提示すると、急に満室だったはずの部屋が空いたのですが「髪を全部隠せ」とか、ホテルのレセプションの男性に難癖つけられます。当然、取材を始めても社会のありようは同じで、質問など何か発言するたびに「わきまえなさい」「女にはわからない」など、とっかかりすらつかめない状態。協力してくれる男性はいるのですが、彼だって、忖度すべき人や事柄が多すぎて自由には動けません。なにより、犯人は自分の行動をこの記者に報告したうえ、遺体の場所まで教えてくるのですが、それでも彼は、手がかりがつかめないでいたわけです。(そんなバカな!)

 警察の偉いさん(所長?)も「いろいろと大変なんだ。上からもいろいろ言って来るし」と、動く様子もありません。そのくせ、彼女のホテルだけはちゃんと把握していて、夜に部屋まで訪ねて来て、迫ったりするのです。なんて卑怯な。彼女は前の会社(多分新聞社とか、ジャーナリズム関係)で、上司に、自分が残業の時に彼女も残業させる(そして誘われる)というセクハラを受け続け、それを会社に報告したところクビになったわけです。ところが、「尻軽」「売女」という評判を立てられて、それは警察にまで聞こえて来ていたため、所長が早々に部屋を訪ねて来るという展開になってるわけですね。



<ここからネタバレ>

 問題は男尊女卑だけではありません。ともかく、”汚い女たち”を処刑した彼を英雄視する奴らが後を絶たないため(娼婦さんたちにもいろんな事情があるのに)、妻も息子もそれを信じてしまうし、あれだけの数の女を殺しているのに、「重い罪なんて課せるわけがない」と本気で思っているのです。実際、仲間が助けに入り、むち打ちの刑を叫び声だけで本当にやらなかったり、仲間は犯人を本気で逃すつもりだったようです。さすがに軍の監視がついたりしたので、そんなことはできなくて、死刑は執行されるのですが。

 しかし、本当に怖いのはここからです。彼の年端のいかない息子(中学生くらい?)が、ビデオの中で話します。「実際、”後を継げ”と20人か30人くらいから言われてるんだ。父さんに教わった女の殺し方はこうだ」と、幼い妹を相手に、フリとは言え、実際にやってみせるのです。首の根元を膝で押さえこむ、そこでスカーフを右・左から引っ張る、とかね。怖すぎます。しかも10代の息子は得意満面。これは本当に怖かったです。映画はこの辺で終わります。つまり、女性に対する態度も何も改善されないし、犯人も死刑になったとはいえ、誰も何も反省していない、ということです。それどころか、子供がこんなことで得意満面。なんということでしょう。



<ネタバレ終わり>

 映画の説明によると、実話とのこと。せめて、息子のくだりはフィクションであって欲しいです。ちなみに、主演のジャーナリスト役の女性は、国民的女優として成功を収めていたイランで、第三者に私的なセックステープを流出される被害に遭い、フランスへの亡命を余儀なくされた女性なんだそうです。本当に・・・なんということでしょう。どうしてこれほど悪意に満ちた人がいるのか、理解できません。

 少ししんどい映画ですが、見ごたえのある作品です。是非。
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