菅義偉前首相が生まれ育った秋田県南部の湯沢市は、日本有数の豪雪地帯です。「秋田の農家の長男に生まれた私は…」は、菅首相の決めゼリフで、自民党総裁選の演説や首相就任会見など重要局面で口にしました。「勝負服」ならぬ「勝負ゼリフ」でしょう。
「叩き上げ」「庶民派」を強調することで、大衆の気持ちが分かることをアピールする狙いかもしれません。日本の総理は二十一世紀に入って、小泉、安倍、福田、麻生、鳩山と政治家一族出身者が多く、久々の農家出身宰相でした。
「農家の長男」は「農家の嫁」と並んで、高齢の日本人にとって強烈な郷愁を抱かせる言葉です。「集団就職」「板橋の段ボール工場」も同世代の団塊の人々の琴線に触れました。「地縁血縁のないゼロからのスタートだった。私のような普通の人間でも努力をすれば首相を目指すことができる。これが日本の民主主義だ」と総裁選出馬演説で強調しました。
東北出身の首相は五人目で、他の四人は岩手県出身です。岩手県以外の東北出身宰相は初めてです。ただし、菅家は農家といっても、父親は戦前、満鉄に勤務して事業の才覚があり、ブランド・イチゴの開発に成功し、裕福でした。
母親は教師で、姉二人も大学を卒業。 菅首相は酒を一滴も飲まず、秋田県人のイメージとは異なると、地元紙『秋田魁新報』(2020年9月21日付)が書いていました。官房長官時代の菅氏は、隙のないカミソリという印象でした。
都内で開かれた秋田犬保存会全国展のイベントで、「学生時代、下宿先の主人が秋田犬を飼っており、郷里を思い出していつも勇気づけられた」と述べて秋田と秋田犬を売り込んでいました。政治家としての菅首相は、遅咲きながら巧みに派閥横断を繰り返し、官房長官時代は権謀術数にたけた策士のイメージがあります。
「令和おじさん」の強運にも恵まれ、安倍氏退陣のタイミングで素早く仕掛け、主要派閥を結集して首相の座を射止めました。2020年の就任直後は比較的高い支持率でしたが、新型コロナ第三波への対応の遅れで徐々に低下してきました。
放送事業会社に勤務する「総理の長男」らによる総務省幹部らへの接待という問題も浮上しました。自民党内で「菅おろし」が起きるかもしれず、菅首相にとって早くも正念場だったのです。「農家の長男」は菅氏が最後かもしれません。
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