ルキノ・ビスコンティ監督の「ベニスに死す」(1971)で主人公を破滅に導く少年タジオ役を演じたビョルン・アンドレセンの50年間に迫ったドキュメンタリー。巨匠ルキノ・ビスコンティに見いだされて「ベニスに死す」に出演し、「世界で一番美しい少年」と称賛されたビョルン・アンドレセン。世界中から注目を集めた彼は、日本でもファンに熱く迎えられ、池田理代子の漫画「ベルサイユのばら」の主人公オスカルのモデルになるなど、日本のカルチャーに大きな影響を及ぼした。それから50年近い年月が流れ、アリ・アスター監督作「ミッドサマー」(2019)の老人ダン役でスクリーンに登場し、その変貌ぶりが話題となったアンドレセン。年老いた彼は、かつて熱狂の中で訪れた、東京、パリ、ベニスへ向かい、懐かしくも残酷な、栄光と破滅の軌跡をたどる。その旅路とともに、人生を運命づけられてしまったひとりの人間の心の再生を映し出す。(映画.comより)
<2021年12月25日 劇場鑑賞>
「ベニスに死す」は、さすがの私もリアルタイムでは見てなくて、ビデオだったか録画だったかで見たのでした。ビョルン・アンドレセンは、ダーク・ボガード扮する作曲家が夢中になるのも無理はない、目を疑うほどの美少年でした。映画自体は、ダーク・ボガードはきれいではないおじさんだし、理屈っぽいし、当時の私には何がいいのかわからないほど退屈だったのでした。でも、ビョルンの美しさには本当に見とれてしまい、世の中にこんなに美しい人がいるのか、これほどの美形は、そののちどんな人生を歩んでいるのか、と考えたものでした。「その割には、その後聞かないよなぁ。一杯映画見てるけど」とか思いました。
今回は、あの作品でしか知らない(「ミッドサマー」は見ましたが、出演時間が短かったので、あんまりわからなかった)彼の軌跡をたどる映画を見れたことに感謝していますが、同時に衝撃を受けました。彼の周りの大人たちが無責任すぎる。
ビョルンの母親は、1月に彼を産み、同じ年の12月に妹を産む(相手は当然違う)という離れ業をやってしまえる女性で、しかも、モデル・アーティストなどという肩書を持つ自由人だったために、彼らがごく小さい頃に失踪。「私はこうとしか生きれないのよ!」などという叔母とのやり取りが残っていたりします。すごいですねぇ、こんな普通の家族の電話のやり取りが残っているものなのですね。ビョルンはまだ小さく、芸能界にいたわけではないのに。彼は、いまだに自分の父親が誰なのか知らないのだそうです。(母親はその後変死体で見つかる)
その後、15歳でルキノ・ヴィスコンティ監督に見いだされます。美少年ばかり集めてオーディションしているヴィスコンティ監督の様子もなかなかに興味深いものでしたが、ふいにビョルンを見出したときも、服を脱がせたりするので、ちょっと衝撃でした。映画を撮っている間はビョルンを寵愛し守った監督はしかし、撮影が終わるとさっさと彼を手放します。もとより両親はいないビョルン。育ててくれていた祖母も、有名になってお金が入ることを喜んだだけで、さっさと国に帰ってしまっています。たった10代で、ありとあらゆる”夜の世界”に放り出され、その餌食となったビョルン。自分で理解せずに行動していたことも多々あったでしょうね。
人気絶頂だったころ、日本にも来ていたようです。ちゃっかりものの日本人たちは、レコード会社、CМ、カメラマンとすべてをお膳立てして待っていたようですね。元々音楽家になりたかったというビョルンは、耳もよかったのでしょう、な〜んと日本語で歌を歌い、レコードも出していたのです。私たちのイメージそのままの衣装を着せられて。チョコレートのCМにも出てたのですね!この辺、全然知らなかったので衝撃でした。当時の日本のプロデューサーもインタビューに登場していたし、現在の彼と握手やハグも交わしていたので、悪い印象はないようで、よかった。なんか、ちょい恥ずかしかったりもしましたが、でも多分当時年頃だったら、私も彼のCМに熱狂していたでしょうから、他人を責められません。すごい世界だなぁと思いました。
賢い彼は、その後演劇学校へ通ったり、適齢期には結婚もしたりと、自分を見失わないよう努力を重ねたようですが、何が悪かったのか、子供が乳幼児突然死症候群で亡くなったりしたようです。それが、自分と二人だけの時で、自分は酔って寝ていたというシチュエイションだったらしいので、自責の念は想像を絶しますよね。
現在の日本も訪ねてくれているのですが、そこで池田理代子先生と対談する場面があります。子供の頃に見た「ベルサイユのばら」のオスカルは、な〜んとビョルンがモデルだったのでした!ここで少し流れたテレビの主題歌に涙が出そうになりました。もう、ほとんど忘れていたのに「そう言えば、こんな歌だった」と思い出しました。オスカルとアンドレでしたね。
もちろん、これだけの美少年ですから、60代となった今も美しい。身体もスリムで、長髪もよく似合っています。私が書ききれてないことや、映画では描かれなかったこともあるのでしょうが、彼が存在したからこそ成り立った世界もあったことは確かだと思うのです。彼の苦悩は、他人に理解できるものではないのでしょうが、でも、いてくれてよかった。その存在に感謝です。
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