古今東西　キツネの話コミュのドイツ民話「狐の奥様の嫁入り」

ドイツ民話にある狐のお話らしいです。
某所にて訳された方がいたので、転載させていただきます。

原文
http://www.1000-maerchen.de/fairyTale/928-die-hochzeit-der-frau-fuechsin.htm

　昔々あるところに、九つの尻尾を持った老狐の旦那様がいました。
　その老狐は常々妻の誠実さを疑っていて、それを試してやろうとしました。
そこで彼は椅子の下に挟まって、死んでしまったふりをしました。
　さあ大変。
　奥様狐は自分の部屋へ引っ込むと、悲しさのあまりそこに閉じこもってしまいました。
　心配した下女の子猫は台所でお料理を作って、食事の時間になるたびに
奥様のためにこっそりと持っていくことにしました。

　老狐の旦那様が死んでしまったという話は、すぐにみんなに知れ渡りました。
　子猫は誰かが家の前に立って、扉をノックした音を聞きました。
　彼女が扉を開けると、そこには若い狐がいて、こう言いました。
「何をなすっておいでですか、猫のお嬢さん？
お休みになっていたのですか、それとも起きておられたのですか？」
　彼女は答えました。
「眠ってなんかいませんよ。起きてました。
何をしてたかといいますと、ビールを温めて、そこにバターを入れるところだったんです。
ところで――お客様ですか？」
「ええ、そうです、お嬢さん」
　狐は言いました。「狐の奥様はどうなさっておられますか？」

　下女は答えました。
「奥様はご自分の部屋に篭もられて
このたびの悲劇を深く悲しんでおられます
あの可愛らしい目を赤くして
旦那様がお亡くなりになったことを嘆いておられます」
「こうお伝えくださいな、お嬢さん。ここに若い狐が来て、あなたと結婚したがっている、とね」
「それは素敵。分かりました、若い狐さん」

　猫はとことこと歩き、
　ドアをぱたぱたと叩きました。
「奥様、いらっしゃいますか？」
「ええ、可愛い猫さん。居ますよ」
「外に奥様と結婚したいと仰る方がいらっしゃいましたが」
「あら、猫さん。どんな方？　主人のような、あの九つの美しい尻尾を持っていらっしゃるの？」
「それは……いいえ」
　猫は答えました。「一本だけです」
「そう。じゃあ、お断りするわ」

　猫は階下へ降りてゆくと、求婚しにやってきた狐を帰してやりました。
　するとすぐにドアがまたノックされ、今度は別の狐が扉の前に立っていました。彼も狐の奥さんと結婚したがっていて、
二本の尻尾を持っていましたが、狐の旦那様の尻尾には到底及びませんでした。さらに続けて別の狐がやってきて、
そのたびに尻尾の数は増えてゆき、しかしそれらも全て断られてしまいました。
　最後にやってきたのは、九つの尻尾を持つ、まるで旦那様そっくりの狐でした。
　これを聞くと、奥様は子猫に言いました。
「さて、ドアを全部開けて
あの年寄りギツネを外に掃き出してしまいましょう
そして結婚式の準備をしなくちゃ」

　しかし、まさしく結婚式が催されようというときになって、老狐の旦那様が椅子の下から這い出てきました。
　彼は他の狐たちを全てやっつけてしまうと、狐の奥さんもろとも家から追い出してしまいましたとさ。