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幻想生物 コミュのヤマトイロナシ

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アフリカに生息する蛙に、グラスフォッグと呼ばれるものがいる。内臓が透けて見えるほど腹部が透明な蛙で、その特異な容貌から愛好家が多く、様々なメディアでも度々取り上げられているので、ご存知の方もいらっしゃると思う。
しかし、この日本にもヤマトイロナシという同様の生物がいることはあまり知られていない。ヤマトイロナシは、ハグロトンボによく似た、すっきりと洗練された体形を持つ蜻蛉の一種だ。

ヤマトイロナシが昆虫学会によって公式に登録されたのは1954年。大きな体を持つものも多く、比較的発見が易しいとされている蜻蛉目の他の種と比べると、登録が圧倒的に遅れていることが容易に察せられるだろう。そして、それはこの蜻蛉の生態に起因している。まず、その透明度は先に挙げたグラスフォッグよりも数枚上手で、腹部のみならず背面や羽根を含め、美しい碧色をした比較的小さな両眼を除いた全身が透けている。さらにこの蜻蛉は、晴れの日には他の種の蜻蛉よりも高空を飛び回って空に溶け込み、雨の日でも水に程近い川辺の草むらなどに身を潜ませているため、目に付くことが非常に少ない。加えて、その食事の殆どが飛翔中の小さな虫を捕えることによって賄われているため、ヤマトイロナシは非常に敏捷であり、捕獲が極めて困難である。以上を御覧頂くと、学会の登録が異常に遅れたことも十分に首肯頂けるだろう。

体が透明であるために、ヤマトイロナシの個体の認識は同種間でも容易ではない。そのため、彼らは蜻蛉目では他に類を見ない特性を備えている。つまり、音響を用いてコミュニケーションを行うのだ。
ヤマトイロナシの胸部には3対6つの小さな穴が開いており、それが耳として機能を果たしている。彼等の雄は羽を素早く擦り合わせ、よく響く、音叉のような美しい持続金属音(精確には金属に似た音、であるが)を出す。雌はその音響に惹かれて、雄の元へ飛んでいくのだ。他の雄に聞き付けられ、雌の奪い合いになる心配があると思われるかも知れないが、そこには自然の成せる妙技が働く。要するに、ヤマトイロナシの雄の耳は、各々が雌のそれの約8分の1の大きさしかなく、聴力もそれに付随するため、そのような事態が起こることはまず無いのだ。
ちなみに性の営みを行う際、上空では風が強すぎるため、つがいは河辺へと移動する。そして蜻蛉目の例に漏れず、二匹が輪になって営みを行う。

ヤマトイロナシは生息地が四国の南西部のみと非常に狭く、その上個体数が少ないため、現在では天然記念物に指定されている。そのため、現存している標本は日本中を探しても100に満たないといわれている。
私は実際にヤマトイロナシを見たことはないが、2003年の冬に、たった一度だけ標本にお目にかかったことがある。…胸が震えた。今でも鮮明に思い起こすことが出来るが、あれほど緻密な、美しい造形物が存在し、しかも生命を持っていたことにすっかり感動してしまったのだ。私は夢中になって、その標本を様々な角度から眺め続けた。細かな羽の彫り、綺麗に折れ曲がった脚、微かに光沢のある体、淡さの中に深みを帯びた碧色の眼。あの標本のヤマトイロナシの姿が、私の脳裏に住み着いている。ああ、次は生きた姿を見に行こう。

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