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【エヴァ】二人の瞬間コミュの【本編 Scene12(Bパート)】Reincarnation

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残骸と化したEVA零号機が人知れず鳴動していた。
地の底から響いてくるようなかすかな唸りだった。
しかし、不思議と不安な感じはなかった。
それは陣痛に耐える母親の声に似ていた。

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直上最終決戦から29日後。
ネルフ本部、戦術作戦部・第15戦況分析室。
緊張した面持ちでリツコがミサトと話しながら、端末を凝視している。

ミサト「零号機は完全に死んでないってこと?」
リツコ「これを見て…。」

端末には神経パルスのグラフが表示されていた。零号機はまだ生きていた。
潜在意識モニターにもはっきり顕在化するパルスがある。

リツコ「極秘裏にエヴァの生体パーツの生き残りを分析してみたの。
    …記憶中枢以外はほぼ全滅…。唯一、蒸発したエントリープラグの
    周りだけが最後まで生き残っていたわ。」

   「問題はこれよ…。」

二人が凝視する零号機のパルスには、なぜか微妙な揺らぎがあった。

ミサト「どういうこと?」
リツコ「マヤとこの事を発見した後、私はこの不可解な揺らぎを独自に
    研究して、零号機の固有パルスと分割することを試みたわ…。」
ミサト「…………………」
リツコ「そのデータを音声化できたの…。聞いてくれる?」



「………ザザ…君…ザ…いてくれ…ザ…私、ザ…のためにチョ…」

スクリーンはノイズだけ、音声もノイズ混じりのひどいものだった。
だが、徐々に明瞭になってきた。



「…ザザ…かりくん…。聞いてく…れる?私、今日あなた…ザザ…のために
 チョコ…レート…ザザ…シャーベッ…トを作っ…たの…」

「碇君…ザ……。きっとおいしいわ…ザザ…腕によりをか…けたから…ザ…」

「…ザザ……。碇君は私が……ザザ…守るもの…ザザ…」

「…ザザ…碇……君…。いつ…も…ザザ…笑って…ザザ…いて…」

ミサト「こ、これは?」
リツコ「エヴァの記憶… 正確には‘エヴァの中にいた時のレイ’の記憶…」
   「シンクロしてた間の彼女の記憶がエヴァに乗り移ってたのよ。」
ミサト「そんなことが…」
リツコ「シンクロしてる時、彼女はシンジ君のことだけ考えてたんだわ」
ミサト「レイは自分のコトを考えてくれる人だけを想っていた。そして
    司令に裏切られたと感じていた。だから、シンジ君だけが彼女の
    心の中にいたのね…」

リツコ「でも、100%シンクロしてた訳じゃないから…
    完全な記憶としては残ってないはずよ。
    多分、一番幸せなイメージだけが零号機には残っているんだわ」

ミサト「司令は知ってるの?」
リツコ「いいえ…… 副司令にはお話ししたけど…」
ミサト「どうして?」

リツコ「あの人はこれを見逃すような人じゃない
    …せめて… これだけは守りたいの…」

   「あたしにとって… これは最後の光明なのよ…」

リツコは目を逸らしながら、微笑して… そう言った。
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直上最終決戦から30日後。
ネルフ中央作戦司令室・第一発令所。
今は使われていない指揮デッキで、ゲンドウと冬月が話している。

冬月  「もう一度聞く。碇…いや、ルキフェル。人類をどうするつもりだ?」
ゲンドウ「どうもしないさ。ただ、生かしておきさえすれば、目的は達する。
     放っておいても人類は神を倒してくれるだろう…。」

冬月  「復讐か…」

ゲンドウ「俺は神から同化能力を奪われた。我々の一族は他の生命体と同化する
     能力以外はただの人間だ。地上に落とされるのは、これでなかなか
     辛いものだったからな…」

ゲンドウ「シンジは私の遺伝子を受け継いでいる、使徒と同化できる能力は
     先天的なものだ。俺は能力を奪われたが、シンジには遺伝として
     受け継がれた。」

ゲンドウ「アダムとの融合で覚醒したシンジにシンクロすることで、
     チルドレン達は変わるだろう。アダムと13使徒が、
     シンクロのためのゆりかごになるはずだ…。」

冬月  「では、レイはどうする?
     “エヴァ”にこだわり続けてきたのだろう?
     レイを失っても良かったのか?」

ゲンドウ「問題ない…もともとレイはシンジにその気を起こさせるために
     創ったのだ。孤独に馴れきった少年が、母親に一番近い異性に
     興味を示さないわけがない。」

ゲンドウ「確かにレイはエヴァ=使徒とシンクロできるようにユイのクローン
     から苦心して調整した人間ではあった。死なせたくはなかったが、
     止むを得ん… 用は済んだ。あとはまた誰かを探すさ…。
     第2のエデンにふさわしい“エヴァ”をな…」

冬月  「そのことはレイに知らせていたのか?」
ゲンドウ「知らせるわけがなかろう。俺に服従するように優しく…
     肯定的な印象を抱く記憶を、レイには与えた。
     その仮想記憶はMAGIに作らせた。
     主に女の部分の『カスパー』にな。」
冬月  「まさかMAGIシステムも… 初めからそのつもりで…」

ゲンドウ「彼女はよくやってくれたさ。生前からな…」
冬月  「お前という奴は…」
ゲンドウ「おっと、動くんじゃない…」

ゲンドウは拳銃を構えた。

ゲンドウ「お前がゼーレに与していることは知っている…まあ、最後の戦いで
     壊滅したはずだから、機関には頼りようがないだろうがな…」

冬月  「結局、俺は……悪魔に魂を売っただけだったというわけか…。」
ゲンドウ「いいパートナーだったと感謝しているよ… お別れだ、冬月。」

ゲンドウが引き金に力を込め、銃声が轟いた。だが、銃弾を浴びたのは
冬月ではなくゲンドウだった。ゲンドウはくず折れるようにして倒れた。


ゲンドウが背後を振り向くと拳銃を手にして立っているリツコがいた。
涙を流しながら口元に笑みを浮かべている。とても正気には見えなかった。

リツコ 「母も…私も…あなたを愛してた。報われなくてもよかったの…」
    「でも、なにもかも終わった今なら…、あなたを独占できるのよ。」
ゲンドウ「………………しつこい女だな。」
リツコ 「母に似て……ね。」
ゲンドウ「……………フッ。」

息も絶え絶えになりながら、ゲンドウが語る。

ゲンドウ「…冬月…… 絶望的な世界で…与えられた、たった一つの希望…
     というのが、どれほど…危険か考えた…ことがあるか?
     人類は記…憶を残したまま生き残…った。
     記憶は…希望の源…になる。それで…苦しむのは人類…自身だ…
     この世に…は知らない方がいいことも…ある。」

冬月  「…………………」

ゲンドウ「堕天使の息子…に人類…の…命運が賭けられたのだ。そして…、
     新人類にとっての…アダムになる…。皮肉な…話だろう?」

    「冬月…シンジと…レイは…頼む。次の世…紀を継承す…る
     子供たちだ。どう扱う…にせよ…
     人類の…『希望』なの…だから…な。」

冬月  「…………………」

ゲンドウは意地悪く微笑んだ。
それが冬月には勝ち誇った笑みのように見えた。
最後の瞬間に、ゲンドウが自分の死をどう受けとめていたかはわからない。

冬月  「生き存えるのがはたして幸せかどうか… だれにも答えは
     出せはしない。神の側から来たお前に分かるのか?
     神にならその答えは出せるというのか?」

己の無力感を罵るように冬月は言った。

冬月  「悪魔め!」





立ち尽くしているリツコが不意に口を開いた。目が虚ろだった。



リツコ 「やはり…彼にはレイの事もお見通しだったのね…
     …彼にとっては、ここで死ぬこと自体も大したことじゃ
     なかったのかも知れませんね。」

    「私は、彼…ゲンドウさんも人間だった記憶の部分はあったと
     思ってるんです。ときどき、ひどくやさしいときがあって…
     そんなときの彼が好きだった。ユイさんも、そして母も…
     そこに魅かれていたんだと思います。
     でも、それこそが『希望』だったのかもしれませんね…。」

    「フフッ…残酷…すぎるわ…。」

リツコは自嘲するように笑った。一瞬、目が潤んでいた。



冬月  「赤木君……本当にこれで良かったのか?」
リツコ 「私たちは、結局自分のことだけ考えているうちに
     悪魔になってしまったんですわ。
     私たち親子もこの人も…どうしようもなく愚かだったんです。
     いまさら、どうあがいても天使には戻れません。

     けど、最後の幕引きだけは自分の手でしたかった…。」

リツコ 「……レイのことは、愛する女の最後の奇跡だと思いたいんです。
     この人ならきっとそれも利用しようとしたでしょう。
     それだけは許せなかった。
     私にとっては、彼等が心から愛し合うようになってくれること…
     それだけが、最後の望みであり、救いですから…」

リツコ 「……言えた義理じゃないってのは判ってます。でも、これ以上
     子供たちに鞭打つようなことをしたくなかったんです。…」

冬月  「……………」
リツコ 「……子供たちに、そしてミサトに…言っておいて下さい。
     ごめんなさい…と、
     そして… 心から幸せになって欲しいと思っていると…」
冬月  「赤木君……」

リツコ 「副司令、いえ… 冬月先生… すいません、
     最後までわがままにつきあわせてしまって。
     ご恩は忘れません…… さようなら…。」
冬月  「赤木君!!」

リツコは指揮デッキから身を投げた。
そこは母・ナオコが亡くなった場所でもあった。


冬月  「こんな… こんな…気持ちになるために、
     俺はネルフに来たわけでは無いぞ!」

冬月は誰に聞こえるはずもない台詞を低く叫び、コンソールに拳を叩きつけた。

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2日後、
無惨な外観をさらす零号機の残骸の前に、ミサトとマヤは立っていた。
ここは立入禁止区域であり、二人以外には誰もいない。
雨は降り続いていた…

ミサト「分析する人がいなくなっちゃったわね。」
マヤ 「私が、先輩の分までがんばります。」
ミサト「ええ、お願いね。」

マヤは真っ赤な目で言った。一晩中、泣き続けたのだろう。
マヤにとってはリツコは尊敬する先輩であると同時に、
よく相談に乗ってくれるお姉さんであり、心の許せる親友だったのだ。

ミサトもその気持ちは同じだった。
しかし、リツコの死を聞かされた時、不思議と悲しくはなかった。
彼女の覚悟は薄々感じていたし、最後に想いを遂げたことも聞いた。
むしろ彼女もようやく地獄のような人生から解放されたのだと思いたかった。
あるいは、リツコの死が実感として襲ってくる前にそう思いこんで
しまいたかっただけかも知れない……

その時、ミサトは残骸の脇に倒れている人影を見つけた。
それは、普通なら見過ごしかねないような場所だった……。

ミサトは急いで駆け寄ってみた。
それは… 胎児のように丸くなった姿勢で、間違いなく生きていた。

それは… 一糸まとわぬ姿のレイだった。
エヴァから伸びたケーブル状のものが、へその部分から繋がっていた。

マヤ 「どうしたんですか?葛城さん…あっ!」
ミサト「マヤ! 至急、副司令に連絡して!もちろん極秘扱いで。」
マヤ 「はい!」

ミサト「…リツコが知らせてくれたのかもしれないわね…。」



レイは保護された。このことは全て隠密裡に運ばれた。

後でわかった事だが、これはリツコが独断で調査し、ゲンドウに伏せた
最後の事実だった…。リツコの懇願に負け、冬月はゲンドウに隠していたのだ。
ミサトにも話さなかったところを見ると、よほどの覚悟だったに違いない。



冬月  「対外的にはまだ、パイロットの生死を知らせてはいない。
     軽傷で済んだとアナウンスすることにしよう…」
ミサト 「いいんですか…。」
冬月  「碇がいないのだ。もう、隠す必要もあるまい…」

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【つづく】
                           (初出 96/03/24)

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