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ÆTHER KNIGHTSコミュの翡翠の騎士

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世界観の足しになればと。

某所の加筆修正版です。

コメント(5)

ガタガタと大きく背中が跳ねて、何事かと青年は飛び起きた。
青年の名前はジェイド・マーチン。
荷馬車から転げ落ちた、この冴えない男がこの物語の主人公である。

(まったく、命令とはいえどうしてべリアの田舎くんだりまで出張らにゃあならんかね)
ジェイドは長時間に渡りあばた道の段差と格闘した上半身を起こし、荷台に転がっている自分の背負い袋をまさぐった。
袋の中に目をやらず器用に中身を取り出すと、出てきた残り物の玉ねぎパイを手元の濁り酒で流し込む。
個性の強い酒の味しかしないが寝起きの頭に火を入れるには十分だ。
ジェイドはありとあらゆる国家の頂点にある宗教勢力、教会の騎士である。しかし、名誉ある騎士とは言え、選ばれた栄えある騎士なぞ一握りしかいない。彼がその一握りから零れた騎士であることは言うまでもない。
「自前の馬なんざ、あったためしなんてないしなぁ」
ジェイドは呟きながら、馬車の荷台から首を伸ばす。既に大国マグノリアの誇る石畳の街道はとうに消え、穴ぼこだらけの泥道になっている。周囲には樹高4mほどの大森林がほの暗い世界を形作っている。
小一時間も揺られると馬車は森を無事に抜けた。小さな集落が見えてきた。村だろうか。
 「騎士さま、そろそろ着きますでよ」
荷台の荷物が多すぎて、声の主を見ることができなかったが、マグノリアから親切にも同乗させてくれたあの好々爺のものだった。行き先の街に向かうということで頼み込んだのだ。
 「おぉ、意外に近いもんだなぁ」
前方の老人に届くように大きめな声でゆっくりと応える。とはいえ、運よく朝から出立したがもう夕闇だ。
未だ教会の治世によっても田舎には魔物の類が多いと聞く。夜の道行など自殺行為だ。
荷台で立ち上がると、目的の街であるべリア領ベルクランを遠景でようやく確認できた。
 街の門前まで律儀に送ってくれた老人に幾ばくかの謝礼を渡し、優雅な門をくぐる。
自警団だろうか、てんでばらばらの身なりをした男たちがお揃いの腕章をして街へ入るものをチェックしている。
手際が悪いのだろうか、すっかり行列ができていた。
篝火に照らされた古式ゆかしい門の装飾をなんともなく見上げていたところで自分の番が来た。
さすがに帯剣していたので自警団の男がもう一人奥から現れた。
 「ベルクランには何を」
二人の内、小太りの方が訝しい目つきで早口で聞いてくる。
 「あぁ、招待されてね」
ジェイドは所属している騎士団宛の招待状を小太りへ見せた。
すると隣の細身の方がひったくるようにして、中身を確認する。
 「ジェイド…殿か、失礼した」
小声でぼそぼそ言うと、招待状をつっ返した。
ジェイドはそりゃどうも、と愛想笑いを返しながら、招待状を懐へ収めた。
「それでは館への案内を…」と、小太りが口を開いた途端、ジェイドはそれを制して門の中にいる男へ駆け寄った。
見知った顔がそこにいたのだ。
「早かったな、先に着いてたのかウィル」
ジェイドが声を掛けると、その青年は嘆息しながら肩をすくめた。
「準備しとけって言ったのは君だろうに。到着は昼と聞いていたが」
ウィルと呼ばれた男――ウィルバーはジェイドの騎士アカデミー在学中に出会った無二の親友だ。
切り揃えられた清潔感のある栗毛はともかく、服装はかなりくしゃくしゃしているあたりが性格を体現している。
そう、真面目なのだが自分に無頓着な男なのだ。
もっとも信頼に足る男ということはジェイドにとって確かなことであった。
「それより、王子様がこないとコイツが搬入できないんで立ち往生してたところさ」
ウィルが暗闇に佇む大きな影をアゴで示す。そこには4、5m四方の巨大な鉄の箱が同じく鉄製の荷台に乗って鎮座していた。
おそらくここまで来るにあたっては4頭立ての馬車の荷台として、輸送されたのだろう。
だが、肝心の馬は既に引き払われていた。なるほど、これでは動かしようもない。
「お前さんのキスじゃ、お目覚めにはならなかったのかい?」
「馬鹿も休み休み言え、鍵…預かってきたんだろ。無くしてないだろうな」
「お、団長の冗談かと思ってた。まさかのまさかだな」
 ジェイドは懐から質素な作りの鍵を取り出すと、ウィルに投げてよこした。
 「馬鹿野郎!大事な騎士団の所有物だぞ!」
 「分かってるって、それより搬入するんだろ。後つかえてるぜ」
 ベルクランの門を入ってすぐの広場はそれなりの広さであったが、巨大な箱が占拠しているためにかなり手狭になっていた。
広場へ通ずる道こそ人間が入れる豪奢な門と、この巨大な箱がくぐってきたであろう大きく飾り気のない門の二つだが、ちょうど広場の通りの真ん中に鉄の箱は放置されていた。
広場に到着したばかりであろう隊商は、あからさまに不機嫌な顔でこちらを見ている。
誰が考えても、この位置はどちらの門からも通行の邪魔になる。
 ウィルはジェイドに鍵を投げ返すと、お前がやれと無言で指差した。
 「やっていいなら先に言ってくれ。久方ぶりでウズウズしてたんだ」
 ジェイドは一息入れてから早足で鉄の箱に近寄ると、外枠の突起を利用して器用に頂上まで到達する。
頂上の鍵を開け、人ひとりがギリギリ通れるサイズの蓋を上へと開ける。
中は暗いが訓練でどこに何があるかは身体が覚えている。
ジェイドは手早く箱の中身に乗り込み、手慣れた手つきで起動させた。
 『デュラハンだ。起き上がるから気をつけてくれ』
 ジェイドのくぐもった声が周囲に響く。内蔵された拡声器を使っての周囲への警告は騎士の基本作法だ。
次の瞬間、金属の軋む音とともに箱が割れ、鋼の巨人が姿を現した。
巨人はデュラハンの名前の通り人型であるが頭はなかった。
一見すると寸胴でどことなく愛嬌と哀愁すら感じる佇まいである。
だが、これこそが大陸の戦乱を決するための存在として広く知られた一騎当千の鋼の騎士、デュラハンなのである。
立ち上がったその威容は雄に7mはあろう巨体を夕闇の空気に曝し、それと同時に周囲にまき散らした重苦しい油の臭いと金属の粉塵は、それが人の手による機械であることを知らしめていた。
ざわめきとともに周囲の人々は空や塔を見上げるように、その巨人を仰ぎ見る。
 「調子はどうだい」
 見慣れていると言わんばかりのウィルが腰に手をあて、周囲の群衆と同様にこちらを見上げている様子を、ジェイドは街の屋根の高さの目線となった連動する巨人の視線を下ろして確認し、続けて操縦席内部の制御盤の画面へと目を移す。
 『…あまり良くないな。前に誰か使ったままだ』
 精霊結晶と呼ばれる魔法鉱物で作られた画面には、デュラハンの状態が事細かに表示されていた。
 発言した内容の通り、異常を示す赤い点滅が上半身を中心にいくつも明滅している。
 「歩けるか」
 『あぁ、歩く分には問題ないさ』
 ジェイドはギアを入れて緩慢だが優しい手つきを巨人に取らせると、鎮座していた荷台を手押し車のようにして均された道を前進する。
 『行き先は中央教会でいいんだろ』
  ウィルは無言でうなづき、荷台に飛び乗ると広場にいた人々に向かって深くおじぎをした。
ジェイドはその光景を操縦席で微笑みながら、親友の礼儀正しさを何だか誇らしく思ったのだった。
 「こんな時間だ。領主様とのご挨拶は明日でいいんだろ」
 「そうは言うがなジェイド…予定じゃ今日中には済ませてしまうはずなんだ」
 ジェイドは不承不承な親友ウィルと一緒に中央教会の渡り廊下を歩いていた。
辺りは薄暗く、既に人気はない。石造りの廊下には二人の足音だけが響いた。
 
中央教会は何も大きな都市にだけある司教座という意味ではない。
ある程度の規模の都市に見られる、その中心部にある教会という意味だ。
教会の勢力図は大陸ほぼ全域に渡り、人々への心の平穏としての宗教的な主とした役割以上に、医療を施すための施療院、大陸全土に未だ多く眠る太古の文明の遺産である聖遺物を回収する聖遺物管理局、精霊結晶を用いた疑似魔術である彩術や教会の教えを説くための寺子屋にあたる修学所などが併設されていることが多い。
これらの併設施設は本来の布教活動以上に地域に根付き、さらなる信者獲得に繋がっている。
もちろん、必要以上の知恵をつけることを反対する為政者も数多く、そうした場合は施療院だけが併設されるなど、現地の為政者と折り合いをつけ臨機応変に対応するしたたかさも教会を増大する要因になっていた。
 そういった中央教会へ鋼の巨人――デュラハンを乗りつけたのには、訳がある。
 教会の持ち物であるデュラハンを、街の外へ留め置くのは損壊・盗難の恐れがあるため、そして何より修理を受ける必要があるためだった。
そう、先述の施設に加え、教会はこれら騎体と呼ばれる機械の巨人を製造、維持管理する技術を独占しており、それらをバックアップするための騎士房と呼ばれる大きな工房すらも自前で用意しているのだった。
宗教による心の支配、機械の巨人による圧倒的な武力による支配。
まさに教会は大陸一の最大勢力と言えた。
 ジェイドたちは騎士房の担当者の司祭に事情を話し、中央教会の代表者である大司教に取り次いでもらえるようにしてもらった。
 小さな客人用の埃っぽい部屋に通されるとほどなくして、皺がれた老婆がしっかりとした足取りで現れた。
 「私がこのベルクラン中央教会の代表…スチュアートよ」
スチュアートと名乗った老齢の女性はこちらに手を差し出した。
顔と同様に長年の苦労が凝縮したような皺くちゃな、その手を軽く握る。
たたき上げの大司教様なんだろうか、ジェイドはぼんやりと考えながら挨拶の言葉を喉へと送りだす。
 「お初にお目にかかります、ミス・スチュアート。私は教会騎士団領から参りましたジェイド・マーチンです。こちらは同じくウィルバー」
 「よろしくお願いします、スチュアート大司教様」
飽きるほどに言い慣れた挨拶の文言に続けて、ウィルが軽く会釈してから続ける。
挨拶を受けたスチュアートも慣れた様子でこちらに労いの言葉をかけ、一歩こちらにずいと寄る。
 「施設は騎士殿の好きなようにお使いなさい。協力は惜しまないわ」
でもね、と老婆はこちらの目を見据えたまま低い調子で言葉を続ける。
 「あなた方の目的くらい聞かせて下さるかしら」
害になるのであれば、嘘をつくのであれば容赦はしない、といったような皺に裏打ちされたような威圧感が周囲に滲み出る。
 これは腹を割って話すしかないなウィル、と隣に目を遣ると。
「はい、背信者を斬るために私たちはここへ参りました。それが真実です」
ジェイドは抑揚をつけず、ただ淡々と真実を述べた。

 スチュアート大司教は思わず息を呑んだようだった。
 ジェイドは大司教の言葉を待たず、次の句を続ける。
 「私がお話できるのは、ここまでです」
 虚ろに前方を見つめたまま、答えを返さない老婆の背は小さい。
 しばしの間の後、わかりましたと短く答えると部屋の外に待機していた司祭に、抱えられるように退出した。
無理もない。自分の統括する教区に教会本部から誅殺が下されるほどの背信者が潜伏していようとは。
先ほどの司祭が声を掛けてくれたのだろう、俺たちに部屋を案内する下男が現れた

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