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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第91回 ロイヤー作 『サイバーガール』(テーマ選択『ココナッツ』)

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 チバのアパートの窓からは、灰色の空が見えた。

 ユーチューブを開いた。

 元旦なのにやっているVチューバーのライブをクリックした。

 ゴミが散らばっているデスクの上の27インチモニターにどこかで見たことのあるアニメの《ヒロイン》ような彼女現れた。

 俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出すとプルトップを引いた。

 缶から直接飲むビールは炭酸がきつく、ゲップがすぐに出た。

 ライブの同接の数は一桁だ。

 見るも無惨な状態だ。

 話は何を言っているのかよくわからず、面白くない。

 彼女が何を目的に元旦からこんなことをしているのかわからない。

 だが、声は合成ではなく地声のようで、その声からは本物の女だとわかる。

 メタバースとやらが最近また話題になっているようだが、男がアバターを着ると7割は女性の姿になりたがるという。マイナーなVチューバーの大半はネカマのたぐいで、自分と同じようなオッサンがやっていると思うと見る気がしない。

 俺は、500円のスパチャをした。

 コメントは「あけましておめでとう」だけだ。

 スーパーチャットが流れると彼女が俺の名前を呼んだ。

「マサトさん、あけましておめでとうございます。いつもありがとう」

 彼女は前に身を乗り出すようにして続けた。

「ねぇ、今、何しているの」

「酒を飲んでいる」

 チャットで俺は返した。

「何のお酒?」

「キリンだ」
 
「私も何か飲んでいい」

 俺は1000円のスーパーチャットを送った。

「うわー、ありがとう!」

 画面の向こうで彼女がはしゃぐ。

 俺との会話しか内容がないライブ配信にあいそをつかし、接続数はさらに減る。

「ちょっと待っててね」

 しばらく画面から彼女が消えた。

「お待たせ〜。乾杯しよう」

「何の酒だ?」

「カクテル。ピニャ・コラーダよ」

「なんだそれ?」

「ラムにココナッツミルクとパイナップルジュースを割ったものよ」

 真冬に季節外れのトロピカルなカクテルを作る彼女の感性がそのまま同接数というVチューバーの結果にもあらわれていると思った。

「ねぇ、マサトさん、仕事は何をしているの」

 今の俺は無職だ。

 だが、もうほとんど利益は出てないが、俺の横でグラボが働き、マイニングをし続けている。

「ネットで稼いでいる」

 嘘ではない。

「すごい! もしかして有名なユーチューバーさんとか?」

「違う」

「きっと、すごい人なんだろうね」

 彼女の声は可愛かった。

 現実に会ったらどうなのかは分からない。

 だが、俺は彼女に恋していた。

 30過ぎてマイナーなVにガチ恋など、童貞のおっさんの気の迷いだとシンジには馬鹿にされまくっていた。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 ネットにつながっていれば、視覚、聴覚を通じて頭は満たされる。だが身体だけが取り残される。脳や神経をディバイスと接続して身体もネットの世界に連れて行けたらと、酔った頭が考える。

 彼女がずっと何かを話し続けている。

 俺は、それを聞きながら、アルコールがゆっくりと脳内に浸透してゆき、気分が高揚してゆくのを待つ。

 窓の外の東京湾の海は垂れ込めた厚い雲のせいで昼間だというのに鉛のような色をしていた。

 メンテに手間と金がかかる自分の身体がうとましい。

 このまま、ネットの空間に同化して、彼女を抱きしめることを想像する。

 電脳空間のマトリックスが俺の網膜に映し出される。

 棺桶のような殺風景な部屋に彼女の声がただ響いていた。
 

コメント(7)

ちなみに、これはwattpadという海外の小説投稿サイトに英語で投稿した作品を書き直したものです。ご参考までにURLをはりつけておきます。
https://www.wattpad.com/1292676597-a-cybergirl
ウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』のオマージュです。
ちなみに映画の『マトリックス』は本当は『ニューロマンサー』を映像化したかったができず、あの形となりましたが、ニューロマンサーの派生です。同じく押井監督の『攻殻機動隊』も『ニューロマンサー』の影響を受けています。
『ニューロマンサー』は世界的に有名なSFですが、第1部は日本のチバが舞台です。キリンビールや三菱などが出てきます。"Chiba City Blues" がめっちゃ好きです!!
ちなみに貼り付けている表紙はwattpadに投稿した作品の表紙で、自分で制作しました。
メタバースの世界が嗅覚・味覚・触覚とも接続できる技術が出来たら、現実世界を捨ててしまう人がどのくらいいるか、考えただけでも怖くなります。それとも、「廃人」になるのも、幸福なのでしょうか。
主人公の住居ですが、設定ではチバの棺桶のような安アパートです。無職なのでお金がありません。

湾岸のタワマン住まいなら、Vチューバとの疑似恋愛ではなく、リアルに六本木のホステスさんでも連れ込んでシャンパンをあけていると思います(笑)。

そうそう英語版が自動翻訳されると小説というより、海外からの怪しい詐欺メールのような文体になります(笑)。

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