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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第九十回 文芸部A 王都作「カナリア―平成・昭和ヒトケタ語り」(三題噺『きのこ』『黙示録』『ざまぁ』)

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〈あらすじ〉
【本稿は一話完結】平成生まれのアラサー女性が昭和ヒトケタ生まれの老作家からマンツーマンの文学賞ノミネートテクニックを掴み、一心不乱にそこを目指す。

〈登場人物〉
香椎紅空(28)(かしい・くれあ)〈本名:六角葵鋳(むすみ・あおい)〉乙女座A
1994/8/25生まれ。作家になる夢を諦めきれずにもがくアラサー女性。答案採点や少女漫画原作(これも香椎名義)などで食いつなぐ。マイナーな受賞を数回経験、その後「白羽と薄い手」で浣潮(かんちょう)文学新人賞受賞。最後のチャンスを有名な文学賞のひとつであるA賞候補に選ばれることを目的に据え、そこに明るいと評判の文学界のフィクサー、千早誠に相談することにした。
ちなみに詩作品のヒロイン・棗祈(なつき)と同じ厳格なカトリック教会に通った時期がある。

千早誠(91)〈ちはや・まこと、本名:大澤由樹(おおさわ・よしき)〉双子座O
1931/5/30生まれ。本作では指導を担当、日本文芸界のブライアン・オーサーコーチ的存在。
後年読売文学賞などの功労賞や日本文芸協会賞などの名誉賞を受賞するも、過去にA賞受賞を何度か逃し苦杯を喫している。その恨みから来ていると思われる執念により、後進でなおかつA賞を獲りたい若者たちに「文学賞ノミネート突破入門」なるカルチャー講座を開き、辛口ダメ出しの的確さとあふれ出る愛で反響を得る。これを辞しても口コミは止まず、残る噂を頼りに彼のもとに教えを乞う中のひとりに本作の主人公・香椎紅空(六角葵鋳)もいた。
拓殖大学文学部除籍中退(学費払えず)、明治大学客員教授、和光大学客員教授、N高非常勤講師

鈴木秋彦(68)(すずき・あきひこ)
紅空の母方伯父。明治期から昭和初期にかけての日本文学が好き。実は匂いとパンストフェチ(紅空にバレてない)


[プロローグ]
大昔、そのまた昔、また昔
「ムスミなんだからもっとムスッとしろよ〜」
「ネクラはずっとネクラ♪ ウチらはズッとネアカ! キャハ!ウッシッシうれしい顔
いつかあのときあの場所で、わたしを侮辱したあいつらに言ってやる
"ざまぁ"って


[イントロダクション]
2022年12月某日
あれから何年も経った東京、赤坂
ポインセチアの鮮やかな発色
煌々とした街の装飾
フリーザーの中に居るかと錯覚するような空気
その中で私は、ある特老級の男性元作家とリッツ・カールトン内、ザ・ロビーラウンジで待ち合わせ。この際一対一で会う不安は隠さないことにした
「待った?」
「いいえ」
初顔合わせで名刺交換。彼がふと
「香椎、って福岡の?」
「はい、おっしゃる通り。出身です。
ところで、千早さんの筆名の由来は調べても分からないのですが、わたしの不勉強かもしれません…すみません」
彼は即座に
「いや、そこまでへり下らなくても…。筆名の由来は大昔に「千早振る」という古典落語に抱腹絶倒したし、豊島区千早に暮らしていたからどっちもが正しいんだ。因みに本名は偶然サンライズ富野の筆名の一字とワタミ会長の名前のそれと被った」
由来そのものは聞けたが、ちょっと外れた感じ
わたしが頷いたタイミングで
「じゃ行こうか」

その後、奥まった場所にある瀟洒な雰囲気のカフェの個室へ招かれた
「僕は、堅苦しいのは苦手中の苦手だから、とりあえず君の要望通りの防音可能な個室にしたけど、ここで良いかな?」
彼には、まず老人としての佇まいが微塵もない。これにはさすがに驚いた。但し年齢には勝てず少し掠れた声で、それでいて溌剌かつ矍鑠(かくしゃく)とした調子で話す彼にわたしは好感を持ちつつ、一方で"この人、かなりの遊び人でもあっただろう"という警戒心も忘れず
彼から突然、わたしと会う数時間前に目にした駅ナカ広告のキャッチコピーの「愛してる、ずっと、君だけ。」を見たことについて話し、
「「愛してる」って、ホント、適当すぎるね」
と呟いた。
わたしはハッとしたと同時に、体の中を流れる血液が逆流するような錯覚を感じ、大きくふらついたようだ。気づくと、彼の胸がわたしの視界を塞いでいた。
とっさに離れ、余裕のなさを晒した自分を恥じ、混乱しすぎて千早さんにまた負担かけての悪循環!嫌な人間過ぎるわたし……
以上のカオスダークサイドは杞憂で済み、私たちは最初に入った店を後にし、本命の店へ足を進めた。

熱々のマンダリンコーヒーを手にしながら彼はわたしに
「ちなみに本名は?」
わたしはコースターの裏に走り書きで「六角 葵鋳」と記し、彼に渡しながら一言
「こう書いて "むすみ・あおい" と読みます、むしろ読ませてしまって複雑な」
「何ともごつ、、、いや、しっかりした名前だね」
「いえ、慣れてますから」
彼から、
「じゃあ、先ずは何で僕を指名したのか聞こうかな。理由は口コミ?そうじゃなければ誰かに勧められた?」
わたしは迷わず
「先、の方です」
「そっちか。なら話は早い。君はどんな人間か」
わたしは彼を一瞬凝視した後、コトバを選びつつゆっくりと
「あなたの目に映り、あなたの感じる印象が私でしょう・・・としか今は言えません」
「何とも型にはまる安心しか持たない秀才みたいな答えだな。更に聞こう、君はどんな恋愛観で生きている?」
その質問は、一番避けたかったものだった。でも答えるしかない
ええい、ままよ!とばかりに
「フカンニンゲンです。ここでのフカンは視野を高く広く持つ「俯瞰」と 性的な衝動を全く持てず何も感じない「不感」の重なる意味で使っています」
伝え終えるなり、大量の汗が流れ、メイクがだらだらと落ちていそうに思えゾッとした。この状況じゃ確かめられない・・・
「頭や心で恋をしても、体が受けつけない。それを自認しているんだね。えーっと、横文字で言うとロマンティック・アセクシャルだったっけか」
わたしは首を静かに縦に振り、さっきまくし立てたことで、靄が晴れたのか、上気し始めていた
「先ほど話したことに加えて、なかなか告白できずに焦れやすい拗らせでもあります」
ここでわたしは息を整え
「あとすいません、話は変わりますが…」
“ ? ”
「お手洗い、行ってきます!」
"あぁ"と目を見開いて千早氏は納得した。さすがに気づいてよむかっ(怒り)ちっ(怒った顔)むかっ(怒り)

[作戦会議]
わたしがカフェの防音個室に戻ると、彼は早速切り出した。今は彼がゆっくりと
「ええと、君の生い立ちについて話してください。そこから創作へのヒントを探ります」
これの対策は一番自信がある。噛まずに滔々と
「わたしは1994年8月、札幌市北区に生まれました。現在兄と弟が居りますが、2000年、わたしが6歳になる年に美術家の両親が某撮影所の火災事故で亡くなり、3人とも福岡市東区香椎の日本近現代文学好きなおじ(68)もとい母の兄に引き取られました。わたしは公立高校卒業までその地区で暮らし、兄も弟もそれぞれ高校進学を機に寄宿(兄はニューデリーの某公立高校へ、弟は和歌山の高専へそれぞれ進学)し、2人とも独立しています。わたしは2013年3月頃上京して以来、小説家になるため文学部と関連のセミナーを経て現在は少女向け漫画の原作者です。ちなみに出版社勤めと編集プロダクション所属は未経験です。22年の早春、恩ある伯父の世話をしていた親族が1人倒れ、核家族化の煽りを受け、世話要員候補にされまして。わたしには叶える目標がありそれが出来ないと伝えたとき、親戚からは「向こう1年以内に躍進できる見通しが立たなければ香椎に戻れ」と返されて今に至ります。ちなみに伯父本人からは「良い報せを待ちましょう」と返事をいただいています」

少し眉の上がった彼からは
「ここまで聞いていて感じたのは、君はつまらない、ってこと」と早速ダメ出しされた
「!」
「自己紹介のときや論理を組み立てて話すのはとても長けてるけど、放送事故(笑)や、言い淀みや戸惑う時間をあえて割かないようにしているね?違うかな」
あまりに図星でとても残酷なように聞こえるが、わたしはそのことも含めて、あえて確かめようとしている。来てよかった

次に、過去に仕上げた作品の中から講評を希望するものを最多で3作まで持ち込み可。わたしは2作のプリントアウト分をファイリングしたものを用意。意気込んで渡してわりあい速いペースで読んでもらったが、芳しくない講評をいただき凹む
特に浣潮(かんちょう)新人賞を受賞した「白羽と薄い手」は、「ありきたりな素材のパッチワーク。女の子の輪郭があやふや過ぎて力不足」と酷評された。そして彼はこうも言う
「今のところどの賞も審査するのは未だ昭和生まれのしかも頭の固いもしくは頭の固まりかけている連中だ。どこかから称号や名誉だけは増やして、ついでに贅肉もつけて、いつの間にか忖度だらけで身動きが取れなくなっているのがあまりにも多い。少なくとも僕が見る限りでは。そんな連中の顔色伺って賞が取れても、君が頭中白髪だらけの頃には絶対後悔することになる。「何で昔あんなに向きになったんだろう?」とかね。長く話したけど、いずれ君と近い世代の審査員が座に着ける頃には、また違う基準や観点から評せるようにはなってないと本当に危ないと思う」
そう言い終えた彼の眼は、どこか寂しげに見えた

冷めてしまった紅茶をすすりながらわたしから
「イテウォン行ってなくて良かったんだろうか…」
彼、
「ああ、あったね。雑踏事故。それが?」
わたしは息を大きく吐いたあと、
「ハロウィン手前の数日間、あの辺に居る予定でした」
彼の眼が否応なく見開かれ、
「ほぉ、それで?」
静かに呼吸しつつ、ぽつぽつと
「ソウルの博物館や美術館、大型書店を回って、帰りは気晴らそうと…でも、出発7日前に原作大幅書き換え依頼が来て」
「おお、それは痛い」
「泣く泣く航空券を金券ショップで売り、現地のwebニュースとLINEで大学時代の留学先で出来た友人が一人、亡くなったことを知りました。SNS写真の追悼花束に掛けられた弔いのリボンを見たとき、過去に例の叔父からの又聞きで、親戚の一人が炭鉱採掘作業の途中に亡くなり、
鉱山事故後の処理される寸前で止めた人が "当人の遺体は、我々が引き受ける。セメント漬けなど論外" と伝え、わたしも入信している戒律のとても厳しいと評されていたカトリックの韓国系教会葬に限らずあの独特な太い白黒リボンを付けた花輪で送った話、そんなセレモニー初耳でビックリした!」と熱く語って、
彼は食い入るようにわたしの顔を見つめ
「その「引き」は強い。劇的な展開が多く見込める。かつて僕にもそれがあったらなぁ・・・あ、そしたら君ら小説家志願者に会えてなかったか。カッカッカッ!」
最後の押し笑いを省けば、掴みはある気がした。但し、有頂天にだけはならないよう慎重に……

ちょっと間が空いたのでわたしから
「そろそろクリスマスですね。」
彼は
「華やぐよね。君は好きなほう?」
わたしがすでにアラサーなこともあってか、そう聞かれるとあまり思ってなかったので、少し考え
「小さかった頃は好きでしたね。大学に入ってからは学内で静かに行われるのに慣れてしまって…母校はICUです」
彼はふと何か閃いたように
「君がクリスチャンと知って思い出したことがあってね。それは新約聖書最後にある『ヨハネの黙示録』の…あれはなかなか、含蓄に富んでいる」
それを受けてわたしは
「その文書は…大学入った頃読み直しても解らなかった覚えしかなくて。具体的にどの章句でしょうか?」
突然そっちへ話し振るんだな、と少し不思議に思ったが、とりあえず彼からは
「今の君に薦められるのが4章1〜8節、主人公が光輝く予告をされる話だ。長くなるけど原文を」
千早氏の右手のスマホが忙しなく動かされる。私との連絡以外放置って言ってたのに…いくつか出た結果から読みやすいものを選ぶ。以下引用

"1 その後、わたしが見ていると、見よ、開いた門が天にあった。そして、さきにラッパのような声でわたしに呼びかけるのを聞いた初めの声が、「ここに上ってきなさい。そうしたら、これから後に起るべきことを、見せてあげよう」と言った。

2 すると、たちまち、わたしは御霊に感じた。見よ、御座が天に設けられており、その御座にいますかたがあった。

3 その座にいますかたは、碧玉や赤めのうのように見え、また、御座のまわりには、緑玉のように見えるにじが現れていた。

4 また、御座のまわりには二十四の座があって、二十四人の長老が白い衣を身にまとい、頭に金の冠をかぶって、それらの座についていた。

5 御座からは、いなずまと、もろもろの声と、雷鳴とが、発していた。また、七つのともし火が、御座の前で燃えていた。これらは、神の七つの霊である。

6 御座の前は、水晶に似たガラスの海のようであった。御座のそば近くそのまわりには、四つの生き物がいたが、その前にも後にも、一面に目がついていた。

7 第一の生き物はししのようであり、第二の生き物は雄牛のようであり、第三の生き物は人のような顔をしており、第四の生き物は飛ぶわしのようであった。

8 この四つの生き物には、それぞれ六つの翼があり、その翼のまわりも内側も目で満ちていた。そして、昼も夜も、絶え間なくこう叫びつづけていた、「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、全能者にして主なる神。昔いまし、今いまし、やがてきたるべき者」。

9 これらの生き物が、御座にいまし、かつ、世々限りなく生きておられるかたに、栄光とほまれとを帰し、また、感謝をささげている時、

10 二十四人の長老は、御座にいますかたのみまえにひれ伏し、世々限りなく生きておられるかたを拝み、彼らの冠を御座のまえに、投げ出して言った、

11 「われらの主なる神よ、あなたこそは、栄光とほまれと力とを受けるにふさわしいかた。あなたは万物を造られました。御旨によって、万物は存在し、また造られたのであります」。"

黙読のあと、彼からは
「君はこの物語の「来(きた)るべきひと」。とてもとても選ばれた素晴らしい人だ。だからもっと自信を持て!っな感じでガンガン攻めて似合う人だから」
わたしはビックリ ☆
さすがに誉められ過ぎて一瞬険しくなったが、それでも悦んでしまう。ああやだこんなの!

すっかり彼のペースに乗せられ、私の調子が取り戻せない
彼はそんな状態の私にかまわず
「オリジナルの黙示録があることを知るきっかけになったのはずいぶん昔に好評だった『地獄の黙示録』って映画。これも黙示録繋がりだけど、原題は「黙示」だけで、教義には触れてない。隠喩は入っていると言われてるけど、知らなくても観れる。僕はバトルが観たかった向きだけどね(笑)」
感嘆して小さく拍手した
それを見た千早氏は少しだけ照れているようにも映る
「そしてこれは蛇足かもしれないけれど、」
彼はそこで言葉を詰まらせ、
「元々僕らの世代だと、誰かからの上っ面な言葉を疑って」
わたしは彼に向かって強く頷く
「自分から真実は何なのかこの目で見て判断したがる」
わたしは同感していると分かるくらい大げさに頷いた
「それが行き過ぎてよくぶつかりもしたが、振り返るといい思い出だ」
彼は少し間を置き、
「原点にあのドデカい戦いがある。いわゆる「二次大戦」が。あの頃はとにかく何もかも不可解で混乱していた。そこから僕ら世代の人生は始まった。だから今も手探りしながら、時に、世の風潮や固定観念なんかに抗いながら生きてる。ところで君は77年前の8月に発生したきのこ雲の映像を見てどうなった?」
わたしはすぐに
「平和に関する授業の中で、先生の話を聞いてからビデオで視たことが響いたのか、気づくと泣けていました」
千早氏は納得するようにゆっくり頷いた、そして
「ああ、あれはただ "でけぇなあ" だよ。それだけ。世の中はあれを生で見たり当時を生きたというだけで「命が大切」だの「平和」が何だのやたらと綺麗事に繋げたがる。飽き飽きだよ、もう。勘弁してくれ」
そう言われたわたしはあまりに話が飛びすぎてそこまで考えが及ばず、しばらく絶句。彼からは
「そうなっても仕方ない。だって君は当時のあれを知りようがないんだから。つまり僕があえて引き合いに出したのは、ひとつの物事でも、どう見るかはさまざまで、かつ、自在だってことを伝えたかったから」
ここで、お互いにひと休みしよう、となった

[仕切り直して再開]
「で、どうするかい?」
「何を、でしょうか」
「このまま話を続けるかどうかだよ。こっちはどっちでもいいんだ」
「もちろん、続けてください」
千早氏は、眼を伏せて "わかった" という合図をした

彼からおもむろに
「君は、あの話題…いや…問題作扱いされたあの作品を覚えてるかな」
「それなら2003年頭に受賞した「キンスマート」!」
「そう!あれはほぼ全男性の悩みに直球で刺さる。あれぐらいのインパクトは欲しいよね。君のこれから書く作品にも」
その作品は、当時18歳のパンクロッカー高専生が書いた、ある下着メーカーの画期的な男性向け新作開発記録を描いた至極真面目な冒険譚。しかし会議の中に「キン◯マ」「チ◯コ」「ウ◯コ」・・・当時の小学生の頭と股間をも撃ち抜いた強烈さ。私にはとてもとてもムリ…
「あとオプションで一押しできるけど…あまり大っぴらには勧められねぇな」
「それはどのような…」
「裏取引。人によってためらわずにやっちゃって受賞につながることもあったからなぁ。もうそれは赤裸々に」
「あの・・具体的には?」
「ひとつは出版社側から懇意にしている大物通して密約、もうひとつは候補者個人が色仕掛け、果ては性接待まで発展。とな」
わたしはあまりに呆れ
「そんな無茶振り・・・」
「明らかにおかしな誘いなのに抗えない。特に好みの相手からならズルズルと。男ってのは自分からその愚かさに気づけない(苦笑) いや、わざとに気づかない振りをするのか…ともかく自分から気づけるのはほとんどいなくなるんだわ。権力握っちゃうとますます。アホだから」
親、特に母親が居なく、深めの異性交際もしていないわたしには全く思いつかなかった。男友達のこういう相談にも乗るのになぁ…
「対応策は」
「そうだな、、、香椎さんなら編集・出版作業の進行について解ってるとは思うけど、A賞を狙うために作品を書くなら、選考する月を逆算して7月から11月の間にある程度売上部数を見込めるものをブチ込む。そしたら営業は・・・たしか君は色仕掛けしないと決めてるんだよね?なら…」
「あの、、、先に言いましたが私戒律のとても厳しいカトリックの教会に属しているので…」
「そうだった!ごめんなさい。僕が間違えました。失礼しました」
結局、いつも通りInstegramとtwitterとぬとらぼ、最近はダヴィンテでも宣伝することにした。コアなフォロワーのリプライ(拡散方法のひとつ)向け告知でもしないよりはいい。できることはしよう

「それでもまだ不安が残る」とわたしが言うと、別れ際に千早氏から、
「君は確実にその手に心にある素材の味で勝負できる。僕が保証する。君が真っ直ぐ進むなら、望む結果は手に出来るよ必ず。神様は微笑む。あと、当面のタイトルは『紅―Red―』で。これ後で変えられるから安心出来るよ」
彼はわたしに惜しみなく言葉と熱量のシャワーをくれて、無くしかけていた情熱が戻ってきたように感じた

――――――――――――――――
[対話を終えて]
日比谷線の改札前で千早さんと別れてしばらく、さっきまで話したアレコレの諸々がわたしの集積回路を駆け回った。その間噛んだ森永のクラシカルなミルクキャラメル粒総計8個…幾らなんでも摂りすぎた。頭がクラクラする。それにしても相当な熱量と気力を注ぎ込んだんだなぁ…と、妙なところに感心してしまった。
もうそんなことは横に置いて、わたしの信じる道へ書いて書いて書いて書いて書いて書きまくってどんどん近づこう!
という気になった

――――――――――――――――
そして時は過ぎ
「引き攣る世界は必ず来る」
『文愕界』2023年8月号掲載。同年11月単行本刊行。
内容紹介:社畜・刈部という男は自覚していた、自らは炭鉱のカナリア的存在であるということを――。研ぎ澄まされた直感と硬直化した世論が引き攣る様を鮮烈な筆致で描く。
題名は文学かぶれの内勤野郎が自らの手帳のフリーページに残した文言から。

さらに時が過ぎ
2023年 第170回 A賞下半期受賞作発表
受賞作
乃辺テイカ(のべ・ていか)(39)『光りのなか』
候補作
香椎紅空(かしい・くれあ)(29)『引き攣(つ)る世界は必ず来(きた)る』
哩多理千酔(りたり・ちよ)(37)『◆(ダイア)』
齊木僕(さいき・ぼく)(23)『をしなへて』
MuT(むと)(51)『鳥と卯月』

〜選評の一部〜 わたし絡みから順に
A氏:"私の中では候補は二作、香椎さんの『引き攣る世界は必ず来る』と、哩多理さんの『◆』。前者は必然性の強みというか超然とした達観から来る向日性が、後者は貫かれた頑なさの成せる力業が大きな魅力と言えます。"
B氏:"ある意味で芥川の文学性を体現する香椎氏に一票。主人公である刈部の「「我の危機」は「世の危機」の極めて重要な前触れ」という指摘を、ファクトフルネス(事実を基に考えること)の活用と絶妙な演出により説得力を増す域にまで高めている。これからが楽しみな作家である。"
C氏:"正直なところ推したくなかったですが、哩多理氏の『◆』は独特の圧倒的な勢いが満ち満ちて、押さざるを得ず。今日びの生の逞しさを突きつけられた感じでした。"
D氏:"今回鎬を削った二強の凄まじさは認めますが、それでも私は、乃辺さんの『光りのなか』で。本作からは透徹した率直さ、ヒロインが一心に相手を守る、ここに焦点を定め、ぶれることなく完走した。そして、現在を生きるすべての人間の心に届くだろう、温かいまなざしが作品すべてを包む……感無量です。"
E氏:"これは『光りのなか』でしょう。主人公と私の娘がだいぶ重なりまして、もう涙涙・・・。僕はもう、この作品を選ぶしかないんですよ。"
F氏:"消去法で『光りのなか』と『鳥と卯月』。口当たりよく印税をたくさん生み出してくれましょう。"
G氏:"フィールド違いの挑戦心を買う意味で『をしなへて』を選びます。"
H氏:"包み隠さず言います、どの作品も選びたくない。私からは「推薦作なし」で"
I氏:"何故こうも「噛み応えの無い」小説ばかりなのだろうか。情けないにもほどがある。今回を最後に選考委員を辞めます。"

総じて、質の高い作品が集まった回だったと思います。


香椎紅空
1994年生まれ。国際基督教大学卒。2019年「白羽と薄い手」で第54回浣潮新人賞受賞しデビュー。
〈作品〉「白羽と薄い手」2019年浣潮5月号、単行本は同年8月浣潮社刊。「引き攣る世界は必ず来る」2023年文顎界7月号、単行本は同年10月文藝恂集刊(予定)。


コメント(2)

――Materials――
福岡県の炭鉱資料のサイトページ
聖書の部屋>オンライン聖書>ヨハネの黙示録:第4章
https://www.bible-jp.org/revelation-4.html
新約聖書に学ぶ 聖句講解90 Sekaishiso seminar 飯坂 良明/著 世界思想社 1996.11
新約聖書 5 パウロの名による書簡公同書簡ヨハネの黙示録 岩波書店 1996.2 (こちらは参考に)
十返肇「「文壇」の崩壊」と「千早振る」原典
文月悠光と森川雅美の文学タッグ、吉村昭と松井雪子の小心さ
磯崎新と田中純(雑誌編集者)の人間性、何故か諫山創と私の大学時代の友人と某マイミク
駒田信二の小説教室の話 (教室の評判の一部だけ拝借)
時を超えて――漱石、芥川、川端
日本近代文学館 創立35周年・開館30周年記念展
芥川賞の選評
直木賞・芥川賞の各種データベース
小谷野敦『文学賞の光と闇』※通史
倉知淳『文学賞の人たち』※平成話
「キノコ雲に“憧れる”米国人は、原爆のリアルを今も知らない」文春オンライン https://bunshun.jp/articles/-/13145
「Hail Holy Queen」聖歌
「新時代」中田ヤスタカfeat.Ado
「紅」X Japan
「A Whole New World」Walt Disney Records
91歳の世界は想像もできないが、千早先生の後進への愛とエネルギーの正体は、一体何なのでしょうか。千早先生のようなコーチが実際に実在するのでしょうか。いろいろお訊きしたいです。

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