半蔵門かきもの倶楽部コミュの第八十七回　王都作「Don't touch me! plus」（テーマ選択『長靴』）

―独白―

空は雲だらけで重たい
大きく空っぽな
ママの家
今、ここに、わたし
お腹空いたのど渇いた
お母さん
お兄ちゃん
おばあちゃん
たまに顔見せるお父さん、になった人
みんな、どこ行っちゃったの？
いるのは
横になった、ぬいぐるみのくまさん
泣くより
静かに
広い屋敷の大きな窓から見える夜空に話しかける
「どうして・・・？」

思い出すのは
お兄ちゃんの頼もしい声とお母さんのいつも強かった香水とお酒の混ざった臭いとおばあちゃんの意味がわからない叫びと、お父さん一人でソワソワワクワク釣りgo…

わたしの部屋の扉が開いて
見たくもない優しげがプレゼント持って来た
わざとらしい雰囲気が……
奴から
軽く小さな包みを示すように見せられ
「きみのお母さんを知ってるよ」
来るな来るな来るな！！！
嬉しいのはＹＯＵだけ
お兄ちゃんと二度と話せなくした
その手で
触らないで！

パニックの中、何とか奴を遠ざけ
奥の隅にあるクローゼットから
山登りに使う長いロープと懐中電灯と
お気に入りの長靴を出した
山にはいていく靴は重くて疲れるからゴム長靴
何とかする！

開いた大窓から抜け出て
大理石造りのベランダの太いフェンスの支えの一本にロープをきつく巻いて逃げ出せた
ラッキー！雨降ってない
空は暗くなっても重く
庭の犬たちは果樹園の近くで繋がれてこっちには来れないし
ついでに言うと車庫も遠い
半ば藪と化す歩き慣れない道を怯えながら走る
汗が流れても気にしていられない
息堰切って敷地の裏門をやっと飛び出せた

…が、目の前に信じられない光景が
「え

！？」

―種明かし―

裏門近く、運転席が左になるように横付けた小さなワゴンカーの座席エリアに、普段は遠くに住むクラスメート数人と運転席には庭師のチャールズ！
あまりの急展開につい
「なんでみんないるの？」
おしゃべりのケイトが
「チャールズから4日前に連絡あって"サプライズでティミーの誕生祝いしようよ"って。私と彼親戚だから携帯番号知ってたし

♪」
ついでブリンダ
「なんか面白そうな気がしたからついて来ちゃった

」
さらにフランチェスカ
「もう！ケイトってば電話来たらすぐに"これでティミーママの豪邸へ行ける☆"って喜んじゃって…行けても門の前までなのに

」
そしてチャールズ。私に向けてウィンクしながら
「やっぱあの男来たか☆ 間一髪だっただろ？もしヤバくなったら絶対に裏門来るって賭けてw」

あらまぁ・・・でも、ありがとう
気がつくと…靴の中ぐじゅぐじゅ

脱ぎたくても今は無理

チャールズは前から奴を怪しんでたらしい
「あのニヤケ面は何か隠してるな、と🤔
おまけにティミーのママにべちゃべちゃして羨ま…おっと！やばい、ここから先は

とにかく移動するか

」

移動中の落ち着いた頃に、わたしはお礼を言った
「どうもありがとう。でも、チャールズ。あなた次の行き先はあるの？」
彼は
「健康な体に福音が来れば何とかなるさ

」
それを聞いて少し頼もしく思えた
ブリンダとケイトが目配せながら興味アリアリで聞いていた
フランチェスカは、あまりに疲れたからか、一番後ろのシートで横になってイビキを立て…

市街地の広々とした公園の入口で下ろしてもらった後、わたしはチャールズたちと別れて学校へ
学長に話して速やかに寄宿舎へ避難した