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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第九回 抽斗の中のラブレター

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 おだやかな陽光を照り返しせわしなく動く車の群れをあなたと一緒に見ていた。私たちはそれぞれ自分の自転車にまたがりながら、交差点で信号の色が青に変わるのを待っていた。
「新しい季節って感じで気持ちいいね」
 と声をかけるとあなたはむっとした表情になった。
「そうかな、みんな浮わついてふわふわしてて気持ち悪い」
 そう舌打ち混じりに言ったくちびるのかたちと、さっと世界を鋭く見渡す目の動き。
 春を、一年の中で一番やさしく微笑んでくれるこの季節を、あなたは嫌っていた。
 もし私が夏ではなく春生まれだったらこの人は私を好きになっていたのだろうかと不安を覚えたけれど、そんな星座占いのようなくだらない予想はおよしなさいと向こう側に佇む赤信号機が諭してくれた。
 あなたはきっと新しい制服に身を包んだ高校生が浮かべる黒い瞳の潤いや、新しい社会人がちらちらと見やる腕時計のきらめきにうんざりしていたのだろう。

 一度栄えし者でも
 必ずや衰えゆく

 いつもあなたが歌う曲が頭の中にすっと流れこんでくる。ギターサウンドに負けない芯のある強い声。
「ねえ」
「何」
「早く夏になるといいね」
「そうだね」
 あなたは勢いよくペダルを漕ぎ出し、私も慌てて後に続いた。
 この生温いぬくもりの風をあと何回感じることができるのだろう。願わくば何巡も、あなたと手を取り合って。

コメント(7)

はじめまして。葉月です。

他の方々と比べてだいぶ短いので、ちょっとした掌編小説のつもりで読んで頂ければと思います。

ジャンルは「私小説」です。
繊細な描写で、美しい文章だと思いました。
この『あなた』のちょっとした動作や癖まで子細に描かれていて、その人に対する気持ちが伝わってくる気がしました。
簡単な感想で申し訳ありません。

タイトルがなぜ、抽斗の中のラブレターなのかがわかりませんでした。
こんばんは、初めまして。
今回、お休みさせていただくのでお会いできないのが残念ですが、コメントだけでも失礼致します。

とりあえず、とても素敵なお話だと思いました。

確かに、分量としては短いので、読み手は少量の描写から多くを想像する必要がある。
でも、逆に言えば、想像の余地が沢山残されていて、読書の自由さや、読者のそれまでの(読書を含む)経験、に委ねる、読書や読者を信じている作品だと捉えました。

具体的には「あなた」の描写や台詞が肝なのでしょうね。
ここが1番好きでした→「世界を鋭く見渡す目の動き」。
歌は、思い浮かぶのがあの方しかおらず、検索しても他に出てこず……以下、その人の歌だと思って書きますね。

むっとしたり、舌打ちをしたり、決して生まれながらの善人というタイプではない「あなた」。
でも、神経質とも言えるほど感受性が豊かで、それ故ちょっと斜め上から目線になってるような「あなた」に魅力を感じている「私」に、
誰しもが自分の心にいる「あなた」への思いを「私」に投影できる作品なんじゃないかな〜と読み取りました。

あとは……テーマが私小説ということで、ぜひ直接お話したかったです!
私もこんな風に人を好きになりたい!爆
>>[2]
『あなた』は昔お付き合いしていた方で特別な思いがあるので、それが滲み出ていたというのは嬉しく思います。ありがとうございます。

タイトルは、昔の恋人との素敵な思い出がぎゅっと詰まったラブレターが私の抽斗の中にあり、またその状態からそのラブレターが投函されていないことを表しています。でもわかりにくかったですね、すみません…。

ちなみに読書会で気付いたのですが、みなさんこの恋人を同級生と捉えていたようですが実は結構歳上の彼なのです。もし同い年くらいのイメージであったなら歳上を想像して読んでいただければと思います。
>>[3]
コメントありがとうございます。

今回の作品はとても短いですが、仰る通り私なりに余地を与えることで小説や読者の可能性信じた故です。(一応これはこういう意味だよ、というのはありますが読み手によって解釈が異なっても構わないと思っています)

「あなた」のことを思い出しながら丁寧に描写したので気に入ってくださって嬉しいです。

歌は、そうですね。おそらくお間違いないかと思います。
平家物語の盛者必衰をやわらかくここちよく表しているので使わせていただきました。

「私」と「あなた」の解釈、とても興味深いです。
是非直接お話したかったのでまたの機会にお願いします(*^^*)
>>[4]
先日はありがとうございました。
繊細さ、うつくしさは文体において重要視しているのでお褒めいただき嬉しく思います。

みけねこさんのように春のそわそわ感が苦手だと感じる方が他にもいらっしゃるので予想以上に「あなた」の価値観は共有できるものなのかなと感じました。

赤信号の部分の表現は実は何回か書き直しました。結果として読み手に「好き」と言ってもらえるような文になって良かったです。やはりリライトって大事ですね。

がんがんピュアな感じにしよう!…と意気込んで書いたわけではないのですが、素朴なので雰囲気がストレートに伝わったのかもしれません。
まずはこのシンプルさを武器にしたいです!

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