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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第百四回 文芸部A 大邦将猛作 「鉈坊主」(1) 自由課題

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雪の降りそうな寒い日におぬいが引き戸の向こうに見たのは大柄で垢で汚れた屈強さの漂う男だった。
熊の咆哮がすると同時に男は鉈をほとんど振り上げずに熊の眉間に向けて構えた。
両手で斜め前に構え熊を待っている。足は前後にして前脚をかがめて大地に踏ん張って熊に対抗する気だ。
熊は消して鈍重な獣ではない。
瞬発的に動くときは速力のついた馬よりも速く
無駄のない動きで当たってくる。

・・・むちゃやてあの人・・・
おぬいは村の男が柱を補強してくれたとびらの間から
「こっちへはやっはやっ」と呼び寄せた。たったの数間の距離だ。逃げれば間に合うかもしれない。

熊が近づいたときに男の鉈は熊の眉間を割るようにたたいた
痛みで熊は横に転げたがいかに強い男でも振りかぶりもせずに構えた鉈で熊の額を割ることは難しい。
とはいえ振りがぶったら熊の速さを御すことはできなかったろう。
怒り猛った熊は立上り爪を使って男を切り裂こうと前脚を振り上げた

熊は攻撃を強めるとき立ち上がって爪を獲物に振り下ろそうとする。
熊の喉輪に白い毛が光る。
男はおぬいが開けた戸に向って転がりこむ様に鉈を抱いて逃げてきた

熊が立ち上がったことで動きが止まるのを見計らっての男の動きだった。
小さな扉に飛び込んだ時には今にも熊が追いつくかというときだったが
間一髪逃れ、両方の柱がきしみそうなほどぶつかってきた。
もう一度熊が戻っていくときに男は鉈を大きく上に振りかぶった

熊の頭が戸に侵入するタイミングに鉈を大きくふり下ろし男は熊の額を縦に両断した。

おぬいは震えあがっていた。熊の獣臭と男の不潔なにおいが充満していたが
なにも考えられないほどに困惑していた。
男がサンガの忌まれ衆であることだけがわかる。
畑を耕さず、野山の畜生を狩って、山の中に暮らす。むらを持たない。
険しい山を渡り歩いて畜生の肉を食らいまくってるが修験者よろしく経らしきものを詠む

「ありがとさ。おめさんが扉に呼んでくれなきゃ。わしは死んでいた。こんなに怒り狂った熊を見るのは初めてだ。」

熊は元来臆病で人を恐れる。男は冷静に。

「最近、村で熊に人が襲われたりしたかえ?」

おぬいはこくりとうなずいた。
一度人を食らってその弱さを知って暴れ熊になったかと合点した。

「おそらくこの一頭だけだろう。よがった。安心しなされ。」

男が身支度をして出ていこうとすると

「おめさん。・・・・どこかへいくやさ?・・・・よかったら湯でもあんでいくやさ?」
おぬいはか細い声で男にやっとのことで言った。

男の顔がほころんだ。彫の深い東男の顔だ。あごひげを蓄え、顔に汚く垢がこびりついて日に焼けているが
人懐っこい二重の目は力強く輝いていた。

「サンガに湯を馳走してくれるのか?熊のしし鍋で礼になるがか?
 和人には匂いがきついのじゃろう?他の獣がよって来る前に皮をはいで肉をさばいて入れておかねばおそがいが
 それだけの間こらえてくりゃ」

サンガ衆は村里の人に忌み嫌われていることを知っている。私物を所有するという概念がないから
平気であるものを持っていく。物取りとされて乱暴な者は山賊に近い。そうかと思えば竹細工で農具を作って村に売りに来て生計を立てるものもいる。
男は村が年貢に縛られ、私有の概念があることを感じ取っていてサンガの中では和人をよく理解していた。

男はつづけた、

「おめさんは変わってるな。あそこで扉を閉めて知らんふりしてればサンガの男が熊に食われておめさんは怖い思いもせず
 一人で湯があめたろうがや」

「たわけ。人が死ぬかもしれんのにそんなんできんやさ」

男はしばらく沈黙した。笑顔は消えておぬいをまっすぐに射抜くように見つめた。

「重ねて言う。ありがとう。サンガはあまり人として扱われん。ありがとうよ。」

「人にきまっとるがや。」
おぬいは不機嫌になったように顔をそむけた。

男は呪文のように熊に手を合わせしばらくぶつぶつ経のようなものを唱えた。
鉈を器用に使い熊の皮をはいだ。
寒いので肉も切ってすぐに茹でたらしばらく食える。そういって竈に火を入れてほしいと言った。
塩があればもんでおけばさらに肉はうまくて長持ちするが海のない美濃の国で百姓の娘に熊一頭を塩もみにするほどの塩は望むべくもない。
熊の生き血を残さず揉みこんでせめてもの代わりとした。
獣の解体される臓器をみることはおぬいには耐えがたく
「湯を沸かすよ。わっちはおそがいくてそんなのみてられん。」
「すまんの。生き血は命だがや。サンガはせっかくいただいた獣の命はなるべく無駄にせん。こらえてくりゃ」
おぬいはこくりとうなずいた。理屈はわかるのだろうと男は合点した。

胆はどこかで売れるだろう。和人の娘は熊の肉を食えるだろうか。
一晩鍋をふるまったら、あしたには仲間のサンガたちに肉を分けに行こう。男は思った。

突然の来訪者に湯をふるまうなら薪を思わず減らしてしまうのだろう。
肉をおぬいの部屋に取り込んだら、男は近くの木に器用に登り、あっという間に五右衛門が一つ炊けるほどの薪を作って持ってきた。

風呂を沸かしてるおぬいに届けると
「おめさん・・・すげえな。」
「サンガは体がなまったら死ぬ。どのサンガも木登りと薪をとるのは朝飯前だがや」
井戸の水もおぬいが引いてくるつもりだったが男があっというまに五右衛門一つ分の水を汲んできた。
「五右衛門がちんちんになったら水をたしてくつもりだったがや。おかげであっという間に沸くやさ」
「おめさんは大きいな。つかることできるがか?寒いかもしれんが外で少しぬかおとしするやさ」
ぬか袋を渡された男はどうしていいかわからなかった。
「米ぬかやさ。」
「米ぬか?」
「しらんのかえ?百姓はお上に持っていかれるから米を食えんが、もみ殻とぬかだけは残してくれるからな。
 ぬかは体に浮いた脂を面白いようにとってくれるや」
耕作をしないサンガ衆には無い知恵だ。定住もしないため、湯あみという習慣がない。
夏場に水に入って砂で体を洗う。
「わっちがながしてやるやさ。」
「和人の暮らしはほんとに違うの。ありがとう」
男は全裸になった、

おぬいは当惑した。むらの男衆が夏場に裸をさらしてることは少なくないがこれまで見たどの男とも違う。
『胸板も腕も大腿もどんなお武家様よりもたくましく鍛えられてるやさ。熊も倒せるわけじゃ・・
 どこかしこにシシが盛り上がって、仁王様がこの世にあらわれなさったようやさ』

ぬか袋で背や胸を流した。硬い筋肉の弾力をぬか袋を通して感じるたびに女との違いをまざまざと感じた。
「はよつかれやさ。」
髪や髭は自分で洗わせた。ぬかを揉みこみ流す。
「その股間のもんは自分でしてくれやさ」
ざばんと音を立ててでると男はぬかを自分のものにこすりつけて
しごき始め
「こんな感じか?」
弛緩してても一尺はあろうか、
はるか前に夜這いにきたことのある男の勃起したものよりもはるかに大きい。
男がぬかをこすりつけてぶらんぶらんとしごきだすと

「しらんが!たわけ!ようあらっとくやさ」

サンガの女たちと和人の娘はだいぶ扱いが違うと男は思う。
おぬいはぷいと風呂場を出て囲炉裏に火を入れて炊きものに使う菜っ葉をそろえた

男は背嚢の新しい着替えを付けてでてきた
おぬいは煮炊きをしておくようにいい、今度は自分が風呂へいった。

人と言ったが、村の男衆とあまりに違ってて同じ人には見えない。
熊をいなした冷静な行動とあまりある力に畏怖の念を抱いた。
我々を和人とよぶ彼らは蝦夷のなにかとつながりがあるのか

つらつらと考えたが、そもそも自分らもご先祖がどこでどうなったか知らない
美濃の長良川は暴れ川。
大魔王の信長様が岐阜を超えて天下人となってから、治水の普請がおろそかで
川は数年に一度氾濫し、かって川の流域でなかった土地が新しく流域となって「新川」となって川底に消えた。
おぬいの両親も暴れ川に飲まれて世を去った。
一人暮らしを憐れんで村の人が家を建てたり田を耕す割り当てをくれて生きていられる。 

幼くして両親を失い、百姓のみなしごはそもそも自分の出自など知る由もないが
村人の語る村の歴史もあまり面白いものではなかった。
信長様があたりの村の墓石を全部持って行って寺が丸裸にされ、墓石に刻まれた先祖の名を知るものは
ほぼいない。そうかと思えば太閤が刀を取り上げ、検地でやせた土地にも年貢の量を土地の反数で決めた。
徳川の代になって、公方様が関所を置いてから百姓は生まれた村を抜けることも難しくなった。
島原で大乱が起きてから坊さんですら、国の境を超えての旅は難しい。
先祖にまつわるものを多く奪われ、百姓は生まれて耕し、子を産んで死ぬ。
畜生に似た生まれと育ちを繰り返す生き物になった。

どんな人たちかもわからないサンガの男が自分らの暮らしの想像を超えていることだけで
おぬいは心が躍る気持ちになった。なぜ彼らを忌み嫌っているのだろう。
彼らのことも自分らのこともろくにわかってもいないのに。

風呂をあがると鍋は煮立っていた。
サンガの男は味噌をいれてなかった。
味付けは知らんか塩でも入れたか
おぬいは濃い味が好きだからサンガにもふるまってやろうと
塩に上乗せになるかもしれない味噌を入れた。

「熊ははじめてか?」
「ああ、不思議だな。うめえ。サンガの人はこんなものをたべているのかや」
「熊なんぞめったに食えないわ。わしらはとにかくなんかの肉を食ってる。
 菜っ葉は山に生えてるものを食うから、おめさんが用意してくれたものは
 わしにはすべてめずらしい。味噌も初めてや。サンガと和人の寄せ鍋やがな。
 これは和人の公方様も食ったことのないごちそうやが。」

男はそう言って笑った。おぬいは屈強な体に張り付いた人懐こい顔が気に入った。
おぬいは熊どころか肉を食わない。熊の肉は脂身に甘みがあると男は語った。山の幸に味が染みると
旨いとほかの肉との違いを教えた。

「わっちはおぬいという。おめさん名前は?」
「ボロキャク。和人の言葉で大きな狼という意味だ」
囲炉裏の灰のところに棒で大狼と書いた
「おめさん字がわかるが?」
「多少な。サンガは人別帳にものらんヒニンやが、それでも和人と同じで誰かが死んだらサンガの坊さんが必要や。
 どこの坊さんもサンガにはあまり喜んで経をあげてはくれん。
 わしが短い経を読んで代わりをしてる。畜生を殺し食らって経を読む者を和人が坊さんというかどうかわからんが
 わしらは命を粗末にしたことはない。仏法にかなった生き方をサンガはサンガなりに求めている。
 わしは経を知るために字を覚えた。結構いろんな経の教えを知っとるがや。
 仮名は完全に読み書きできるが真名は怪しい。
 わしらは紙も漉くから書物も持ってる。和人と違う文字も使う。」

おぬいはボロキャクをまっすぐにみた。百姓の自分よりよほどいろんな葛藤を生きてるのを知った。
高ぶりを感じて頼んでみた。百姓は耕すことと乳繰り合うことしか楽しみがない。がどうしても村の男衆と乳繰り合うことが
興にのらなかった。つまらぬ反応をするおぬいを夜這う男はいなくなって久しい。

「ボロキャク。わっちに情けをくれんやさ。器量が悪いか、みなしごを憐れんでか村の男は夜這いにもこんやさ。
 そしてわっちは村の男衆が頼りなくて男に見えん。さっきの熊のしんとこ見て、体がぞくぞくするやさ。おそがいやあ。」

ボロキャクにおぬいは器量が悪いとは見えなかった。サンガは女を共有する。河童衆という女たちがいて、やせ細った働き者の女を里で好きなように抱く、生まれた子は皆の子で適性に応じて狩や細工の技を仕込まれてそだっていく。
おぬいと子をなしたらどう育てるとは思いも至らなかったが、どの河童よりもろうたげで好ましく思えた。

鍋を食った食器をそのままにおぬいは床にいきボロキャクを迎え入れた。
ボロキャクはおぬいに口づけをしながら、痛むほどに屹立した陽器をなんどもなんどもおぬいの中に沈めていた。
おぬいは体の芯が引き裂かれるような痛みと、陰器を縦横に抉られる快感に翻弄された。
ボロキャクのたくましい肢体が見せる形にも酔えた。
「胤(たね)をくれやさ」
「あほう。サンガの子なんて宿したら、和人の村では生きぬくいがよ」
「親だといわねばいい。これからもいつでもきてわっちをだいてくれやさ。
 わっちはもうおめさんでなきゃ女でいられん。」

コメント(12)

もう少し書きたかったけど
私的なことでバタバタしてここまでで今月止まりそうです
話は終わりまで考えてますが、果たして来月もつづく話についてきてもらえるやら…・
魂入れて書きたいなと拙くも思ってます。

よろしくお願いいたします。
言葉遣いが、それっぽくて、雰囲気がでています。話の展開のテンポがよく、最後まで面白く読めました。寡聞にして「サンガ」の知識がないのですが、部落民のようなものでしょうか、それとも「彼らは蝦夷のなにかとつながりがあるのか」とあるように、アイヌ民族のようなものでしょうか。ボロキャクの知性を感じさせる魅力に、もっと先が読みたくなりました。
>>[2]
さんか とも呼ばれた被差別民で第二次世界大戦前まで実在していました 地方の発音でなまらせてます
アイヌやまたぎと同族とも平家の落人が合流したともとれる諸説ありますが繋がりがある民族として書いてます

ありがとうございます
うまく表現できないのですが、魂込めて書かれた感じが伝わってきました。ボロキャクのキャラと、幻の山の民サンカの魅力が伝わって素敵です。
大きな狼って、ネイティブアメリカンのニックネーム?みたいでかっこいいです。
>>[4]
ありがとうございます。やっと導入までかいたら、私事に翻弄されて書く暇をうしなってしまい、男女が出合うところまでで終わってしまいました。
来月には終わりまで書きたいです。短いから続けても読み返してもらえると信じて次回に何とか終わらせます^^
これまでとはまた異なる作風で、まるで映画のいちシーンを見ているようでした。
おそらくはっきりとした映像が頭の中にあって(もしかしたらアニメのようにあらすじの絵コンテがあり)、それを文章にしているのではないかと想像したりもします。

死と食と性という命の源が太い線で描かれていて、そのナラティブが読み手の命の根幹に呼びかけてくるような気がします。

続きが気になります。
>>[6] ロイヤーさん

ありがとうございます
コメントいただけてうれしいです

この先がほんとはかきたかったほんとの主人公を想定してるんですが
途中でいってしまった

そのほんとの主人公のばっくぐらうんどのためにその父と母を丁寧に描こうともがいてます

今度お久しぶりにお会いするのがたのしみてす

よろしくお願いいたします
>>[9]

はじめまして
作品よませていただいて
おあいするたのしみにしてました

流動的とのことでしたが
お会いできたら光栄です

山か(漢字でない スマホはいやです)の映画いろいろあるみたいですね

ショーケンがでてるやつとか
ググりました


なぞか多いので適当にかいてるとこもありますが
ありそうにしてます
一読、してました。

「説話集原文と巻物画の独特な平面感」
「ゴールデンカムイのサンガ版」

こんなふうに感じました。
>>[11] ありがとうございます
そうですねゴルカムのパクりとおもわれないように気を付けてました

あの漫画の方が話ははるかにぶっとんでてすごいなーとおもうけど
僕なりに新しい虚構をおとどけしたいです

平面感かー立体感だしたかったけどそこは僕の筆力不足てす笑

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