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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第100回 文芸部A ガラス窓作「故郷」 三題噺『ハロウィン』『カモ』『細胞』

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 父の死後、色々な話し合いを経て、生家は当面売らずに、姉と弟と三分割で相続することになった。それどころか、いつの間にやら、私もそこで一緒に同居する話の流れになっていた。説得されて調べてみると、都心のどこへ出るにもアクセスのいい場所なのだ。弟は地方の大学進学の時に家を出て、就職以降は地方の支社に転々と回されていたのが、昨年の春から本社勤務になったので、私と会う少し前に戻ってきていた。姉に至っては、生まれてからずっとこの家に住んでいる。
 そう、姉は、実母、私の母、弟の母のように正式に結婚した元妻以外の、合間合間に転がり込んできた父の恋人の複数の女達との同居を経ても、唯一、ずっとこの家に住み続けていた。父の数々の女性トラブルも受け流して、父の病も殆ど一手に背負い、死を看取ったのだ。
 弟の母は、歴代最長の十八年間、父と結婚していたものの、後に弟に、「ずっと姉が本妻で自分が愛人の立場のように感じて嫌だった」などと言っていたという。弟自身が、「毎晩夜遊びして遅くにしか帰ってこない母より、帰宅するといつも家にいる姉の方が、安心出来る母親のような感覚でいたかもしれない」とも言っていた。
 
 私が生家に引っ越してきて、三人で同居を始めてから数ヶ月も経たないある朝に、姉が深刻な顔で切り出した。姉が前夜から様子がおかしいことには、弟も私も気が付いていた。父が死んで半年くらいしか経たないこのタイミングで、姉の実母が亡くなったらしい。
 姉の実母は、姉が四歳の時に出て行ったとだけ聞いていたので、てっきり男性と駆け落ち的なことなのかと思い込んでいたら、実は、新興宗教にはまって、宗教の共同居住施設に出て行ったというのだ。姉自身も、幼少期に母親に宗教施設に連れ去られていたのを、散々揉めて父が取り返したらしい。姉は、その時の記憶はあまりないと言いながらも震えていた。
 宗教団体は、荼毘に付される前に娘(姉)を呼んで欲しいとの故人の遺言だったと連絡してきたらしい。姉は、実母の亡骸に会ってみたいという気持ちと、行ったら宗教団体に取り込まれるんじゃないかと思う不安感に揺れていた。何やら相続関係の手続きがとも言われたのが、得体が知れず、余計に怖いとも。
 とりあえず、弟が、姉一人で行かせるのはやめよう。どちらかが付いていって、どちらかが何かあったら助け出す役として、役割を決めようと言ってきた。いやいや、オカルトめいたドラマや、胡散臭いネット記事ではそういう事件を見ることがあるとはいえ、現実にはそこまで警戒しなくても、と思いつつ、何かが起こった時の外でのフォローの方が無理だと思って、姉と同行する役につくことにした。
 事前に宗教名を検索してみても、その宗教団体自体の公式サイト以外は見つけられなかった。被害の告発的な口コミ情報が見たかったのだが、見つけられない。どうやら過去に名前を変えているようだ。以前の名称らしきものをを探り当ててみても、そこまで悪い記事もない。他のカルト集団を扱った告発記事は、色々と怖い。監禁洗脳とか、虐待とか。姉も過去そんな目にあったのだろうか?

 よく分からないまま、弟の運転するレンタカーで、指定された住所の宗教施設に向かった。もっと地方の山奥の施設に呼ばれているのかと思いきや、逆に都心のオフィス街の中の、普通のオフィスビルのようにしか見えないビルだった。姉が幼少期にいたのは、もっと地方の公民館のような場所だった気がするとのことだったが、定かな記憶ではないらしい。あえて少し離れた地下鉄の出口の陰で姉と共に車を降り、徒歩でそのビルに向かった。弟は何処か近くで待機していて、何かあったらこちらに駆けつけるか、移動するようならGPSを頼りに車で後を追うとのことだった。
 ビルの入り口の扉は見た目より重く、二重になっていた。内側の扉を入ると天井の高いロビーが広がっていて、ホテルのフロントのような受付には、制服らしきスーツの男女が整然と立ち、にこやかに微笑んでいた。
 姉が名前を告げると、受付の女性の一人が外に出てきて、私達をエレベーターホールに案内した。奥のエレベーターの扉が開くと、エレベーター内は薄暗く、壁面や天井はグラデーションの掛かった紫色で、夜光塗料で神話のような絵が描かれている。観光地の路地裏にある、怪しい占いの館みたいだと思った。うわぁ、ここに一人で来るのはキツイ。姉がどう思っているのかは分からないけれど、付いてきてあげて良かったと思った。
 エレベーターの扉が開き、案内された先の扉の奥は、今風のセレモニーホールみたいになっていた。有名人の大規模な葬儀のように白菊で埋め尽くされた祭壇には、姉の母というには若い、笑みを浮かべた中年女性の写真が飾られている。祭壇を囲むような形で、コンサートホールのような、座面を下ろすタイプの連なった布張りの椅子が並んでいて、その最前列の真ん中に座って待つように促された。
 写真の女性が別れた実母なのか分からない、思い出せない、と姉は囁く。姉とはあまり似ていない。初めて会った時から思っていたのだけれど、私達姉妹弟の容姿は、面白いくらい全員父親似だ。だからこそ、こんな唐突に出来た複雑な家族関係も、違和感なくホンモノとして、すんなり受け入れられたような気がする。
 唐突にキラキラした電子音で構成された音楽が流れ始め、ハロウィンの仮装なのかと思うような、色とりどりの頭巾と長い衣装を纏った人達が入ってきた。後に続いて、同じ形のねずみ色の衣装の四人がうやうやしく棺を運んできて、祭壇の前の台の上に、その棺を下ろした。キラキラした電子音の音楽が一層盛り上がり、突然一気に音量を落とした。
 金の縁取りの付いた紫の衣装の偉そうな男が祭壇の横に立ち、何やら滔々と語り始めたが、半分も理解出来なかった。よくよく聞くと日本語なのに、日本語として認識しにくいような難解な単語の連発だったが、それは誤用では? と突っ込みたくなるようなところが多数あった。姉は無表情にまっすぐ前を見つめている。
 演説していた偉そうな人が近付いてきて、棺の傍に来るように促された。私とは血縁のない故人なので迷っていたら、姉がギュッと手を握ってきたので、一緒に立ち上がった。棺の窓を覗き込むと、写真より随分老けた老女が見えた。姉は私より七歳年上なので、私の実母より相応に年長だとは思う。それにしても姉の祖母かと思うくらいに、枯れ木のように見えた。ヴィジュアル系バンドのPVに出てくるような、やけに装飾的で豪華すぎる棺とのミスマッチが、余計にそのように見せているのかもしれない。祭壇の白菊は、近くで見ると造花だった。
 金の縁取り紫の偉そうな男が、ドラマティックな身振り手振りと共に大仰な言葉で言うのを要約すると、姉の実母は、長年教団に尽くし、結構な立場にあったらしい。姉を悪魔の僕たる父に奪われてしまった事を、姉の母は生涯悔いていて、魂の戦いで父を倒したものの自らも力尽きて死んでしまった。悪魔に唆された父も死んだ今、教団に戻ってきて欲しい。腹違いの私や弟は、悪魔の僕の子ではあるけれど、共に受け入れる用意がある。かな?
 長く離れていても、母と娘は細胞と細胞で呼び合って、再び相見えることが出来た。私と姉もそうで、細胞と細胞が、魂と魂が、と力説している。けれど、私と姉は、姉が探偵社に依頼して私を見つけたのだし、宗教が姉に連絡してきたに至っては、姉は実母が出て行った後も同じところに住み続けていたのだから、見つけるのは簡単だっただろう。ツッコミどころ満載で笑いそうになってしまった。が、横目で盗み見た姉は、真面目な顔で頷いていた。
 そこからが本題とばかりに、いつの間にか横にいた縁取りのない紫衣装の男が、ギャルのスマホケースかと思うような装飾がされた、クリップボードに挟まれた書類を、横から差し出してきた。どうやら姉が教団に残るなら、教団の中の姉の母名義の資産を継がせるし、その教団内での地位をも継がせる破格の好待遇を与える。教団に戻らないなら、相続放棄の書類にサインをという事らしい。サインを迫る手に持っているのが、羽付きボールペンなことに、目が釘付けになってしまった。羽ペンのフェイク、面白い。
 まぁ、想定内の展開だったので、打ち合わせ通り、「この場でサインはしないように弁護士に言われてますので、持ち帰らせてください」と無言の姉に代わって言ったら、何がなんでもこの場でサインさせたいらしく、縁無し紫男があれこれ理屈を捏ね回す。仕舞いには地獄がなんとか、悪魔がなんとか、と金縁紫男が横から威圧してくる。
 唐突に黙っていた姉が、どこから出しているのか分からないような甲高い悲鳴を上げ出した。驚きすぎて、今まで相容れない存在だった紫二人と目を見合わせて、姉を見てはまた見つめあってしまう。姉の肺活量はどうなってるのかと思うくらい悲鳴は長い。遠巻きにしていた色とりどりの人達も、ざわざわしている。
 「とりあえず、姉は動揺しているようなので、連れ帰ります。後日書類を整えて伺います」とクリップボードを奪い取って、ポカーンとしている紫や色とりどりの連中を振り切って、口を閉じた姉の手を取り、エレベーター前に引っ張っていった。エレベーターは待機してたようにすぐ扉が開き、一階に着いた。
 「ごきげんよう」「ごきげんよう」と、上階のことは知らなそうな、一階受付のスーツの人達ににこやかに送り出される。
 外に出た途端に、姉は笑い出した。姉はおかしくなってしまったのか? 何が何だか分からないまま、車を降りた地下鉄の出口の陰まで、笑い続ける姉の手を引っ張ってゆく。反対の手でスマホを取り出すと、弟から鬼のようにメッセージが入っていた。
 「あはは。ごめんごめん。ちょっと面倒くさくなっちゃって。悪魔が憑いたとか騒ぎだすかと思ったら、案外フツーだったね」とまだ笑いながら姉が言う。「まともに相手してたら逃げ出せなさそうだったから、イライラを悲鳴にしてみました」って、作戦的な芝居だったのかぁ。こっちは、連れ去られていた時期の記憶が蘇って、おかしくなったのかと思って焦ったというのに。
 まもなく、弟が到着したので、まだ笑ってる姉を後部座席に押し込んで、助手席に乗り込んだ。

 結局、奪い取ってきた書類は、父の相続の時にお願いした弁護士さんに渡して、再び宗教施設に行くことはなく、その人経由で正式な相続放棄の手続きが完了したという。その場でサインしたら、何かとんでもない詐欺契約のカモにされるんじゃないかと恐れていたけれど、案外そんな怪しい内容の書類でもなかったらしい。ただ、教団内の姉の母の名義になっているという資産や土地の区分などには、色々と問題があるのではということだったが、放棄する分には深掘りしない方がいいでしょうとのことだった。
 書類を見るに、実は姉の母には、教団内で再婚相手がいて、その間に息子が一人いるらしかった。その弟に会ってみたかったかと聞いたら、あの宗教に関わり合うのはキツいから、会わなくて良かったと思うと姉は言う。あまりにもハリボテっぽく幼稚なセンスのあの宗教を、大の大人の人達が真面目に信仰していることは、滑稽すぎた。血を分けた弟が、そんな中で疑問を持つこともなく生まれ育ったと考えたら、可哀想だとは思うけれど、今から今更どうにかしてあげられるとも思えないし、と。
 ほんの短い間対面した実母の亡骸については、ちゃんとした医療を受けずに亡くなったんじゃないかと思ったとのことだった。私もそう思う。勿論、どんな先進の医療を受けようと、どうしようもなく、やつれ果てて亡くなることはあるので、何とも言い難い。とりあえずそう思っただけで、懐かしさみたいなものは感じられなかったと言う。私も父の生前に再会出来た時には、肉親の情も何も感じなかったのが、交流を重ねるにつれ、そういう情が芽生えてきたので、いきなり遺体での対面となった姉が、そのご遺体に母親という実感を持てなかったとしても無理はない。だがしかし、優しいこの人は、そんな自分に落ち込んでいるのだろうなぁ。
 宗教施設での生活の記憶は無いものの、唯一鮮明な記憶があるのは、そこから父にこの家に連れ戻されてきた時のことだという。嬉しくて嬉しくて、二度とここから出たくないと思ったのだという。「まぁ、いつか二人が出て行くことになった時には、私も引っ越す事を考えるけどねー」という姉に、弟が「俺達がここを出たとしても、姉貴にはこの家に居て欲しいよ。俺は。姉貴のいるこの家が、俺の故郷って気がするからさぁ」と言う。「このシスコンは困ったね。案外私が先に出ていくかもだけどね」と姉が照れたように笑う。
 母親とも長く生活を別にし、随分前に母方の祖父母も死んで、育った家も無くなってしまった私にとって、故郷といえる場所はもう存在しなくなったと思っていた。だけど、こうして一応私の生家でもあるこの家が残って、ここから姉弟との思い出を作ってゆけるというのは、こそばゆいような嬉しさがある。たとえ、この三人での生活が数年も続かず終わったとしても。
 改めて今は、この古くて新しい故郷での生活を、純粋に満喫したいと思っている。

コメント(12)

下記2つの続編デス。。
花火の夜 https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=6226350&id=100382366
乱入者 https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=6226350&id=100544377
狂ったふりは賢いですね・・・僕もこういうことあったらそうやって逃げよう

まえの話から一気にどろどろしてきましたね・・・・
>>[2]
どろどろしてそうで、アッサリ解決あせあせ
狂信者からのアタックに対しては、狂気のペルソナ(仮面)でリフレクト(reflect)する。

まさに毒をもって毒を制すですね。

でも、作中のカルト教団の幹部こそが、実は本心では神も仏も信じていなくて、悪霊を祓う力などなく、「まさか本物の悪魔憑き?」と一番ビビっていたのかもしれません。

前々回の『鬼ころし』の回とはまた違うティストで、ガラス窓さんの引き出しの多さと、豊かな発想力に魅入りました。
>>[4]
ありがとうございます顔(笑)
インチキカルトの幹部が一番ビビってたはそうかも??
なんとなくワールドメイトの劣化版的なイメージで書きましたあせあせ
家族それぞれのストーリーが個性的でそれを俯瞰すると大河の流れのような趣があって、中身の濃いまとまった一連の作品ですね。それぞれの登場人物のキャラがしっかりしていて、魅力的です。このリアリティは実際に見聞した経験に基づいたものでしょうか。良い作品を味わわせていただきました。
>>[6]
ありがとうございます顔(笑)
大河というよりは、昼ドラ?
次々謎設定の不幸が襲いかかる中、健気に生きてゆく主人公的なあせあせあせあせあせあせ

宗教施設はどこか見学に行ってみたかったのですが、うっかり洗脳されて、全財産寄進してしまったりしたら怖いので、やめときました。
高校からの友達が新興宗教マニアというか、色々入信してた時期があって、その話を根掘り葉掘り聞いては色々想像していたので、その頃の想像を思い出して書いてみましたあせあせあくまで又聞きからの偏見に基づいた勝手な想像ですあせあせあせあせ
おお、とうとう主人公は同居するに至ったのですね!
花火を見上げて鬼ころしスイカを食べていたころから、考えるとなんとも感慨深いです
主人公きょうだいのような関係性、うらやましい笑
しかしお姉さんの幸薄さというか、置かれた境遇は世知辛いですね。。
それでも気丈に前向きに振る舞う強さともろさが、キャラクターの魅力を深めている気がします。
主人公目線で見た宗教団体の滑稽さに笑いました。なぜ新興宗教は、どんどん傍目ではギャグとしか思えない行動に走るのでしょうか…
>>[8]
そう。ついに同居を。
このシリーズは、ここで終わりにするか、続きを書くか迷ってマス。
書くなら、あと登場してないのは、弟の家庭教師と駆け落ちした後、別の人て再婚した母親か?あせあせ
あるいは、父に更に隠し子がいて四人目の兄弟登場?

宗教は、本当に、どうして大の大人がこんな荒唐無稽なの信じているのか、謎なの多いです〜。
興味深いけど、近寄りたくない〜あせあせ
四人目が、角田美代子みたいなの連れて乗り込んできて、監禁監視互いに暴力が強要され、三人のほのぼの生活がズタズタに〜の妄想を始めていますあせあせあせあせ
>>[10]
構想がどんどん膨らみますね(笑)
角田美代子はヤバそう…w

今のままでエンドロールなら、三部作できれいな〆方だな〜と思いますが、同居するほど仲が深まった三人なので、それを崩される様も面白いかもしれませんね〜〜
>>[11]
構想というか妄想というか。

父親似で女好きする弟が美代子に気に入られ、美代子の性奴隷にされてしまう。弟はどんどん洗脳されて、素直だった性格が豹変し、美代子に次ぐ暴君に。
可哀想担当のお姉ちゃんは、一番の虐待のターゲットにされ、衰弱死。
隙をみて逃げ出した主人公は警察に駆け込み、全員逮捕。
主人公も姉の死体損壊遺棄に問われるが、情状酌量で執行猶予付き判決で家に帰される。
そこで、獄中で洗脳が解けた弟が自死したとの連絡が入り、異臭漂う荒れ果てた家の中で、独り呆然と立ち尽くすのであった。。。《完》

ナンチャッテ🤪

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