半蔵門かきもの倶楽部コミュの第98回　文芸部Ａ　王都作「どーすんだ」（三題噺「花火」「スイカ」「鬼ころし」）

予定外に群像劇化したので仮upして直します。　作者




＜あらすじ＞
とある酒パックをきっかけに知り合った女子学生の家にいた二人の男の身に、何が起こったのか？
【皆それぞれの「鬼ころし」、どうなるか】

＜登場人物＞　◆=病院駆けつけ　◇=それ以外
乗客・男
◆鷹宮黎士(たかみや れいじ 29)：都営浅草線の乗客の一人。スタイリスト。
風変わりな出で立ち、佇まい。外見の良し悪しに囚われやすい。もと愛知県民。バイセクシャル。12月27日生まれ壬午、O型。佳夫に一目惚れした
【今は、今だけは……込み上げる欲望を抑えなきゃ！】

乗客・女
◆渡辺秋(わたなべ あき 20)：同線乗客の一人。大学生。
映像研究会の撮影メンバー。遠くから憧れられるも、実はある事情から仮性ノンセクシャル傾向あり。10月1日生まれ壬寅、O型
【植物たちの養分です。と、ここじゃまだ、言えないんだ。秘密で】

男の親友（どんなフェチなのか：植物になら佇まいそのものに息づかいや感じ、両生類の目もとや単体細胞のしなやかな動きなどにも萌える）
◆中岡克海(なかおか かつみ 30)：T海大学鳥井一夫研究室(再生医学)助手。
大学からのつき合い。元々多趣味。自然の中に居たがる傾向あり。就活中、レイジに背中を押され現職につながる。T海大学の職員証によれば4月5日生まれ丙辰。AB型。同居中の父の決めた許嫁がいた。下戸
【過去の亡霊からの影。それと、万年金欠抜け苦笑】

親友の許嫁→元許嫁
☠大久保可南(おおくぼ かな 29)：克海の元許嫁で腐れ縁の幼馴染。生前は総合職OL。
吉岡里帆似、派手好みで何かと夢見がちなインフルエンサー。別シリーズ元レギュラー・優(まさる)の姉。腐れ縁のオジサン(41)と不倫していた。そろそろ精算し始めてるらしいが(実は克海との関係を)。2月11日生まれ戊辰。A型、8月9日亡くなる。死亡届は港区へ提出。
【自分は消えてしまうけれど、アイツも地獄へ引きずり下ろす】

その弟
◆大久保優(おおくぼ まさる 26)：可南のすぐ下の弟。カフェ店員
至ってクールだが密かに性行為依存を抱えている。可南とはつかず離れずの間柄だった。細身だがタフ、先月執事風喫茶を辞め(旧、弥生)、銀座の新店アートスペース併設カフェの店員へ。3月22日生まれ癸亥。A型。前職よりめちゃ楽で拍子抜けする日々
【生家からの澱みを徐々にでも減らす】

その兄
◆大久保佳夫(おおくぼ よしお 32)：◯◯カウンセラー兼アドレスホッパー
可南と優の兄、乃里と夕里の母違いの兄。誰にでも愛想良く振る舞う、風見鶏。でも心はいつも泣いていた。バイセクシャル。観光好き。7月2日生まれ癸酉、O型。今は神奈川県在住。
【僕の中の弱さ。これさえなければ…】

その妹
◇大久保乃里(おおくぼ のり 24)：可南と優と佳夫の妹。ネイリスト見習い
可南と優とは母違いの妹。外見はあーりん似。かなり好色で自己中。2月20日生まれ癸卯。AB型。
【無いよ〜♪】

さらに続く妹
◇大久保夕里(おおくぼ ゆり 21)：可南と優と佳夫と乃里の妹。大学生
可南と優とは母違いの妹。外見はヴァンゆんのゆん似、5月28日生まれ丙申、B型。20歳でプロテスタントに改宗。洗礼名、テレサ。真性ビアン。プライドパレード参加者
【わけもなく震えなくていい暮らしを邪魔するものすべて】

???
◇？(謎の人)：可南の惚れていた上司。
一見優しく気の利くサイコパス。1981年10月29日生まれ庚辰。A型。



＜本文＞





│ Chapter 1


【レイジサイド】4/Aug/2023 19:00

どーしても
暇すぎて。。ふぁぁあ、、、、

金曜夜の帰り途中、こんがり焼けてる棒みたいな体型の僕は、左手で吊り革持ってアジアンスタイルの暗い橙系サマーシャツと緩めの黒系短パンで突っ立ちながら
観続けついでの惰性で
スマホでタイムシフトのドラマを観る。
液晶テレビ画面に映る見逃し配信の隅田川［花火］大会の打ち上げ模様と、それを観ながら手先の不器用なヒロインが手を濡らして［スイカ］を食べるシーン。
そこで飽きた俺は、一旦画面から目を外し、
ふと目に入る都営線車内広告。
それはあの、イヤでも目に飛び込んでくるような［鬼ころし］。
割りつけの煽り文句の中に“清州城　信長”とあり、僕の地元の東海地方で定期的に流されるこの商品のマヌケなＣＭを思い出し、見るたび笑いをこらえるのに必死だ。しかも俺の手に下げている買い物袋内に…入っている。その品が


さらにその日、車内で女子大生かな？と思ったコ。
一見パッとしない容貌に浜辺美波の輪郭、色白で見たところ155センチあるかないかな小柄さ。田中みな実くらいの細さ。
彼女が手にしていた紙パックは……なんと同じパッケージ！！

“プッ🤭”
つい笑ってしまって、彼女からジロッと睨まれた。
そして結局、この話は思いがけない方へ向かった。

―――――

ふいに彼女から
「え！？これ飲むんですか？」
サクッと頷くと、さらに驚かれた。
「私、口にしないので……」
”くち・・・“
思わずかぶりを振りたくなったがやめて、彼女に向き直り、
「じゃ、何に使うか教えてよ」
彼女は少しどもりながらポソっと
「笑、わない？」
僕はすぐに
「もちろん」と言いつつ大きくうなづいた。




【アキサイド】4/Aug/2023 19:00

買い出しと映研向けの街ナカ撮影帰り、疲れ切った体と手荷物片手に寝かけていた。
浅草線の相変わらず単調すぎて気に留めなくなった車窓の向こう側に、新しくホーム用広告が出ていたことに気づく。
“レンタルスペース◯◯”
いつもは降りない駅のものだったが、気になってググる。
運営会社が発信するサイトのホームに“新店続々OPEN！”とあった。速攻ブラウザの[お気に入り]へ。

作業終わってすぐ突然横から
“プッ🤭”

っと、な！？
何で？

隣に立つ男から、私がいつの間にか右手に持っていた、多分、そうすると落ち着く習慣があるモノ…つまり片手に収まるサイズの紙製飲料パック。これだ。

こんなの興味めったに持たれないし…なんて
不思議だ。
いや、むしろ私か。




【レイジサイド】6/Aug/2023 17:00

二人ともこれと言って用事がなかったので、とりあえず近い日時で会うことにした。
連絡手段はLINE。まだスマホの番号は伝えてない。
行く先はアキのアパートのリビング。一昨日話した鬼ころしの使い道を見に。
居間に置かれている観葉植物。これらの生命群に与える肥料の栄養素として使うらしい。世の中には僕を超える風変わりな暮らしぶりもあるんだなぁ…
もっと驚くようなインパクトの強さを期待して損したわ。まったく…
葉っぱがとてもきれいで、一葉ずつ撫でていくときが至福のとき、と彼女はいかにも悦んだ表情を僕に隠す素振りもなく話してくれた。この日は、それだけで帰った。

帰りの車内でなんとなく思う。
“アキには好きな奴いんのかな？”
カラダのごく一部がムズムズする。トイレ…




【アキサイド】6/Aug/2023 17:00

鷹宮さんからあの酒を何に使ってるか見たいって話で、別に隠すようなことでもないし、上がってもらおう。
見たらパッパと帰ってくれるでしょ、なんて初めは軽く考えてOKした。これが後々ああなるとは・・・
とりあえずLINEアドレスだけ伝えてよかった、かな？

忘れてた！
今月の10日、映研の夏休み中のミーティングだった！




【レイジサイド】9/Aug/2023 18:00-20:40頃

雨上がりの涼しさ…救われる

この話を秋の家で確かめた翌日、大学からの親友・中岡に話すと「俺も葉っぱフェチ♬」と飛びつかれ「是非彼女の宅へ行きたい！」とまで言われる。
渋々引き合わせ話の流れから健全？？な事情で秋の住むアパートへ、彼は初めて、僕は再び、向かった。

―――――

彼女の住むアパートの一角に着く。
彼女との約束で、現地に着いたことを知らせるとき彼女宅のインターホンは押さず、彼女のLINEへメッセージで「」を送る。それほどあの報せる音が苦手だそう。

　　＋　三人の動き、空気感


植物たちを肴にほろ酔い加減で談笑する二人に勝手に焼きもち焼く僕。どーすんだ。シャレにならねぇ…
ふいに秋が足りなくなった清酒を買い足しにマンション1階テナント入ってるコンビニへ。




【アキサイド】9/Aug/2023 18:00-20:40

私のインスタにダイレクトメッセージ届いた。レイジからだ。
文面は私から指定した「」。ありがとう。


私から見て二人の雰囲気悪くなかった。ただ、レイジは私に対して少し、ううん、わりと距離詰めてきてたから気をつけなきゃ。

飲み会も落ち着いた頃、私が追加の酒を買いに、一番近いコンビニへ出た。ちょっと外の空気吸いたくもなって。





│ Chapter 2


【レイジサイド】9/Aug/2023 20:45

秋が買いに出てる間、僕らはダラダラ過ごした。
そうだ、アノこと聞くなら今だ！とばかりに克海に尋ねた。
「ぶっちゃけ親友だから訊く。秋を見てヤりたくなるか？」
彼は即座に
「俺は今誰ともコンジャクション(重なり合うこと)したくないから」
僕はすかさず
「じゃあ可南さんとも？」
彼は無機質に
「ああ」
とだけ返した。
もともと克海は仲間から「中岡(本郷)フェチ之助」呼ばわりされていた。ちなみにその対象は必ずヒト以外。なので当然童貞。さらに言えば仮性ノンセクシャル。これは学生時代だったか、背景に母の奔放さが尾を引いている、と聞いた。僕にも覚えはあるが、肉親の中の“女”を感じたらまぁ・・・ゲンナリしてもおかしくない。あと昔の苗字は在学途中まで本郷だったな、母親の姓って言ってたような…かなり複雑な環境だったと思う。ガチで。




【カツミサイド】9/Aug/2023 20:50頃

そんな最中にネットニュース通知が。開くと俺にはかなり「ダメージ受ける」名前がそこにあった…
「死亡　大久保可南(29)」

「…………」

一瞬固まった
嫁じゃなかったが特別な仲間を亡くしたはずなのに、涙が出ない。出るのは、胃液が少し…辛い。
ガチ、黎士居合わせてくれて助かった!　神！！！
あまりの目まぐるしさに精神がついて行かず、虚ろさのまだ残る両目で黎士の姿を探す。
「レイジ…」
黎士は俺のいる方に飛んで来た。
わずかに心配してる目をして、小さく静かに語った。
「僕は、今ここにいるから。あと、いつものカラ元気ナシな。僕が辛くなる」

―――――

あれは、いつだったか。

普段から何かと気にしぃだなカツミは…と、古い友人たちはこぞって言った。そのことをつい思い出してしまう俺。細かっ。
俺はいつもの癖で左後頭部を勢いよく掻きながら、自分のスマホを手にしてすぐ…

‘’ﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟ！‘’
即座に‘‘誰？’’と思うも、相手は非通知。判らないので、とりあえず出た。
「コチラ千葉県警です。あなたはナカオカカツミ様ご本人でしょうか？」
克海は迷うことなく
「本人です」
「貴方の…どのようなご関係が判りませんが、オオクボカナさんのことを確認する件で電話しました。いくつかお尋ねしますが、まず、当人とのご関係は？」
俺は一瞬嫌な予感で身震いを感じ竦みかけたが、とっさに気を取り直し答えた。
「イイナズケ、です。いえ、、でした、と言うべきですね。ところで私はこれから何を話せばいいですか？」
この後、最後に交信した日時とやり取りした内容、そのとき気になる言動が見られたかどうか。そして、この場合悩み事を受けていたかどうか。受けていないと答えるとすぐに彼女の安置されている病院へ向かえるか訊かれ、向かえると答え、警察からの迎えの車を待った。それからのことは何もかもテキパキ運び、今も感心しているくらいだ。




【アキサイド】9/Aug/2023 21:10

未だ酔いの残っている私が帰ってきた。
アイツらの好みと違うけど、迷って迷ったけど買えたゼ！フルボトル2本☆
と、呟きながら自宅の自動ロックかかるドアを開け
……ってアレ！？誰もいない一気にほろ酔い気分が抜け落ちた。
がっかり〜
待つしかなくなった。明日のミーティングに響くからまもなく一人でベッドへ入って寝…れるわけがない！
早速繋がってそんなに経ってない二人それぞれのLINEアドレス宛に「ねぇ一体何があったの？」「こんな時一人じゃいれないから、私もそっちへ行かせて！」と連続送信し、返信を待つ。
20分ほど過ぎて、黎士から返信が届く。
私はそこにアップされた現地のピン(位置情報)を元に現地へ急いだ。




【ヨシオ・マサルサイド】9/Aug/2023 19:00頃

ここは霊安室。
可南は冷たい鉄製の台の上に横たわっている。
その傍らに立つ大久保佳夫(ヨシオ)とその弟・優(マサル)は神妙にならざるを得なかった。
家族水入らず、と言っても一人は…二度と語り合えない。佳夫から
「こう、三人集まるの何年ぶりだっけ？」
優、
「10年は経ってるよ」
それを受けた佳夫は、少し間をおいて
「たしかに、顔は見てるけど……泣けないな」
優はゆっくりと頷きながら
「僕も、だよ」
再び、佳夫から
「一番に来るべき人間は、隆之。アイツだ」
優は、納得した表情で
「どうせ本当は誰より脆いから来ねえんだ。あのチキン」
隆之は、彼らの父である。




【カツミ・レイジ・アキ＋ヨシオ・マサルサイド】9/Aug/2023 21:30頃

千葉県警の護送担当・Ｉさんの手配した車で
カナの置かれた病院へ向かう。

建物はわりと小ぶりのコンクリート壁、周囲に人の気配はまばらで、街灯に照らされた緑地が広がっている。今は穏やかな風が吹く。

車寄せで警察車両から手早く降りた克海と黎士。Ｉさんは車を駐車場に停めて合流し同行、皆で院内へ。
克海は気が動転しているせいか、辺りをキョロキョロ忙しなく伺っている。息づかいも心なしか荒くなっている。そのなだめ役を黎士がするといった、極めてレアな状況が発生していた。
不意に克海から
「放っとかれたら放心しそう……しばらくそばにいてくれ」
「ああ。寝るなよ」
警察から連絡を受けたときはまだ冷静に対処出来たが、コイツは非常時に崩れやすくなる一面がある。

―――――

今、待合室にいる。
ここで黎士と克海がヨシオと初めて顔合わせ
ヨシオから挨拶し、二人が会釈をした。
ヨシオは可南と、弟のマサルの兄だという。
克海はこれまで会えなかった事情を尋ねると、ヨシオは




【同】9/Aug/2023 22:30頃:

待たされている間に可南のすぐ下の弟・マサルに会う
念のため彼と彼の兄の身分証を見せてもらって、僕らのそれも彼らに見せた。

先に可南の遺体を確かめた彼によれば、首を紐か何かで縛られ息絶えた痕がクッキリ残っている、そして、体のあちこちにも同じ縄で縛られていた痕がクッキリ残っているそうだ。
対応医と話し合い、マサルが遺体を警察へ預けた後返された後の処理とそれからのことを行政に任せることに同意の署名をする
「つくづく僕にはこういう役回りが来るようになってるんでしょうね。大昔に亡くなった母のもしましたから。今回は姉、って・・・」
実は、カナは両親と絶縁して長かった。音信不通が常態化、修正は不可能だった。
カナは大久保家初の死者となった。
彼女がこうなった背景について、マサルが語り始めた。
「元はウチが息詰まる家風だったんです。
子供ファーストな家が羨ましくて、向こうの家の子供になりたいくらい……
僕らは常に籠の鳥、父親の手足。学校や親が許す場所へ行くしか認められなかったですから。」
ヨシオと黎士は静かに頷き、克海はおもむろに
「それじゃ、あなた方にとって実家は針のむしろだったんですね」
三人に目配せしたマサルは続ける。
「で、自分たちが行きたいところで遊んだ帰りは必ず！百たたきされた上、夕食が出されませんでした。今振り返ると残酷過ぎて身震いが。ああぁ…。今でも情景が湧き上がると静かに泣けてしまいますから」
黎士からは
「それがずっと…」
「僕らきょうだいは皆そうです。おかげで折目正しいと認められるほどの社会的なことはあらかた身につきましたが、僕らの心には素直な子供でいられなかった苦しみと泥が貼りついていますから……何がいいか？全く解らないですね。恐らく姉は僕よりもそれがとても強かったと思います。長々と失礼しました。」
普通の状況なら一言も語らない事柄を初めて会った人間に話した。このこと自体マサルには異例だった。




【レイジ・カツミ・アキサイド】9/Aug/2023 23:30頃

一通りコトが済み、僕らは帰ることになった。
ヨシオさんとマサル君に別れを告げ、車に乗る。
このときは居たたまれなさよりも、安堵感が勝っていたと思いたい。彼らは大丈夫、きっと、本当に笑える日が戻るよ。
そして運んでくださった警察の方に感謝！

―――――
警察の方、Ｉさんが待っていてくれて
彼の車で東京の浅草まで戻った。
夜でもとても明るいここで降りることになったのは、駅チカの地上にあるコンビニで予約していた商品を受け取るためだった。黎士、秋、ごめんな。
不幸中の幸いというか、彼らが都営浅草線の定期券を持っていてくれてて助かった。

―――――
伝えることほとんど書かれちゃってるから私は…
帰り途中までＩさんの車のお世話になったことへの感謝を降りるときに頭を下げて話したら、彼から照れ顔で「いえいえ、すべきことをしたまでですよ」と言われて私もちょっとだけ照れちゃった…。
おかげで無事帰れました🤍




【大久保家御一同様＋カツミ】13/Aug/2023 11 :00

可南の告別式、現場。
もちろん父の姿はない。
テキパキと受付してる兄・佳夫
押し寄せる参列者を案内する弟・優
斎場を後にする参列者に礼をする末妹・夕里
これみよがしに棺にすがって大泣きする妹・乃里
はた目にも分かりすぎるほど大げさな点数稼ぎの感情演技がウザすぎて優からは
「さすがにうるせぇ。いい加減にしろ！」
また、夕里からも
「何なんだろう？乃里のこういう時のリアクション」
と直接言われるほど嫌われている。
そして、棺の中の可南。とても綺麗にしてもらえて、まるで白雪姫のように見える。
その傍らで静かに想い偲ぶ、克海の姿もあった。
式当日の勤怠については、大学側の規定で忌引にはならないが、師である鳥居教授の計らいで休めた。曰く
「行かなかったことで悔やんでも、その日は戻らない。行って存分に思え」
克海にとっては、とてもありがたかった。
彼が遺族側へ「何か俺に手伝えることあったら言ってください」と申し出たが、一家の喪主・佳夫からよどみなく「克海君には、ぜひとも可南に寄り添っていて欲しい」と言われてここにいる。




【 (回想) カナサイド】

後日、カナのスマホから延々つけられていた日記が見つかった。以下、最新更新分の一部を引用する。


―――――――――――――――――――
2023年7月13日
肉体を持つワタシといずれ魂だけにされてしまうだろうワタシのために、あらかじめ記す。

***

晴れて新社会人になったワタシは、
大学生のころからトレンドキャッチャーとしてインスタでバズってたからか、
日本中に名の知れたお菓子会社の宣伝部門に配属された。
同期からときにうらやまれまたときに妬まれ、
日に日にシンドクなっていった……
ココロの中いつも曇り空
そんな頃、顔と声が好みな、背は低めな直属の上司からお茶に誘われついていったら告白された。

「君、ボクのお姫様だからね」

落ち込みまくっていたワタシの目に薔薇色が備わったのは言うまでもなかった。もう何なら

”この人のためなら何でもしちゃう“

それはもう…ワタシのためと彼の喜ぶ姿が見られるならry


（ 中略 ）


ところが・・・

「君は可愛く綺麗だ……永遠に僕だけの可南ﾊｧﾊｧ」

彼の手に荒縄。それをワタシの目の前に見せつけトロンと独りでウットリしてやがる。
キモッ
―――――――――――――――――――


この文に先は無い。
さらに、彼女が本人のスマホで繰り返し聴いていたと思われる楽曲も判明した。

♪ ユー・レイズ・ミー・アップ / シークレット・ガーデン



―――――

後日、この存在を知らされた
兄と弟と夕里は
何とも言えなくなった……
さらに後日



“2023年9月2日　東◯新聞オンライン”
【逮捕】
かねてから✕✕製菓OL殺害事件で捜索されていた同社社員の萩元秀康容疑者(41)が文京区春日付近の路上で逮捕されました。警視庁の発表によれば、元交際相手のスマートフォンに加害の記録が見つかり、身体の外傷との一致も見られたとのことです。
容疑者は本件に関し一切否認しており、…

〈終〉



―― Materials ――
https://photohito.com/photo/9003455/
Cross To You / Cubic U
「キラーポール」ゲスの極み乙女
ユー・レイズ・ミー・アップ / シークレット・ガーデン歌詞と訳詞の解説
女と男／艶