半蔵門かきもの倶楽部コミュの第八十一回みけねこ作『運命の人』

　お姉さん、お待たせしました。私はもう三十年も占い師やってるからね。あなたのお母さんくらいの歳になるわね。言っとくけど、私の占いはほんと当たるよ。
今日はどうしたのかな？　彼氏とうまくいかないとか……。お姉さんは可愛いから、もてるだろうね。

　占いやってるとね、金運はどうですか？　って聞く人が多いんだけど、何もないのにお金が入ると思う？　お金が急に入るときって、親が死んで遺産が入るとか、自分が怪我をして保険が入るとか、それくらいしかないんだよね。だから決して幸運ってわけではないんだよ。

　金運を占って欲しいって来た女の人がいてね。手相を見ると金運がすごく伸びてるわけ。あなたには、近々大金が入るかもって教えてあげたんだよ。でも良いことがあるという保障はないよって付け加えておいたよ。そしたら、数か月後、私のところに来てさ、主人が車の事故にあって慰謝料がたくさん入りましたって。でも、こんなことになるなら金運なんてよくないほうが良かったって泣いてたよ。かわいそうにね。でも、私が悪いわけじゃないからね。それは運命だったんだよ。奥さんがそれを少し前に知ってしまっただけなんだ。
だからね、占い師がいうのもなんだけど、将来のことなんて知らないほうがいいんだよ

　まあ、うちは占いながら人生相談してるってところかな。
　恋愛では彼氏の浮気相談が多いかな。そんなときは、相手の彼女も一緒に付き合っちゃえばいいんだよ。ん？　そんなの理解できない？　

　こんな私も、モテてた時期があってね。みんなから羨ましがられるほどの素敵な彼がいたのよ。ケンっていう名前の男だったんだけど、彼はモテるから、私の他にも彼女がたくさんいて、常に女どうしで揉めてたわよ。しかも彼は、ヒモ体質だったから、みんな競い合うように貢いでた。今、思えば馬鹿みたいよね。当時、バブルの頃だから私も何十万円もするスーツをプレゼントしたりしたわよ。その頃、私は銀行で働いてたからね。給料は良かったから、そいつに貢いだわ。あるとき、彼が私に向かって親しげにユリエって呼んだの。私はマリエって名前だからね。しかも、ユリエは私の友達で彼に紹介したのに、ちゃっかり二人で会ってたみたいなのよ。
　ケンに友達を紹介するときは、自分よりブサイクにしないといけないね。今後は気をつけなきゃ。
……って、今後なんてもうないか。で、ケンとユリエを呼び出し、私はユリエにありがとうって言ったわよ。だって、私にはないところをユリエが補填して、ユリエにないところを私が補填できるもんね。彼は、はじめは小さくなっていたけど、ほっとしたのか、とても優しかった。三人で付き合うとすごく楽なのよ、私たちにとってはとても良いバランスだったと思うわ。

　でも、彼は弱い男で、また違う彼女を作ってるのが分かったのよ。しかも私たちより十歳離れてる人だった。彼は、当時三十歳くらいだったんだけど無職で、貢いでもらったお金で優雅に暮らしてた。その頃からかな、私が自分の能力に気付き始めたのは。道で歩いている人を見て、あ、転ぶって思ったらその人が転んだり、病気で入院している人のお見舞いに行くと、余命が分かってしまったり。それで、能力を活かそうと占いと心理学を勉強して、このお店を作ったの。

　若い彼女を作ったケンの顔を見て分かったことは、ユリエとマリエから離れたがっていること。私はユリエと相談したの。どうしようって。そして二人でケンの運命を止めちゃった。笑うでしょ。今でもユリエとは仲良くしてるわ。そして永遠にケンは私たちの物よ。
　ユリエは、都内に二軒もバーを持ってる。私の良いパートナーよ。ユリエが新しく連れてくる男を見れば、だいたい運命が分かるからね。こっちでその男の運命を作ることもできるし。

　さて、私の話が長くなってしまったね。お姉さん、この紙に生年月日と名前を書いてくれる？　え、もう帰ってしまうの？　じゃあ、お代は要らないよ。あら、置いていってくれるの？　悪いね。ありがとう。

　私の占いはほんと当たるからね。