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半蔵門かきもの倶楽部コミュの 第七十二回 JONY作 「続 J・O・I」三題噺『餅』『初詣』『駅伝』

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 O子が訳のわからないことを小一時間喋って、店を出て行ったあと、Jは一人になったので、『餅』をつまみながら、TVを何気なくONにすると、最終10区で駒沢大の颯爽としたアンカーが創価大の疲れきった選手を抜くところだった。ドラマチックな展開に普段観ない『駅伝』をつい最後まで観てしまうと、ちょうど、読書会の会員の男Iが店に入ってきた。
「Jさん。日枝神社に『初詣』に行ってきたので新年のご挨拶に寄りました。明けましておめでとうございます」
「おめでとう」
「今日はさすがに誰も来ませんね」
「さっきまでO子がいたよ」
『O子』という言葉を出したとたんに、へらへら笑っていたIの表情が一瞬追い詰められた小動物のように余裕を無くしたのをJは見逃さなかった。わかりやすい奴だ。JはTVのスイッチを切ると、コルトレーンを流した。
「何を飲む?」
「日本酒を使ったカクテルなんてありますか。なにか甘めのものなんか」
「了解」
 Jは、三角のカクテルグラスに氷を入れて、日本酒を注ぎ、モナンのライムシロップを加えてステアした。美しいライトグリーンの液体をIの前に出してやる。
「ありがとうございます。何ていうカクテルすか」
「サムライ」
 Jにもなぜこんな女のようなカクテルがサムライというのかわからないが、ウォッカベースでコアントローとライムシロップでつくるのが「カミカゼ」なのだから、こういう甘口のカクテルを女に飲ませてサムライやカミカゼのように速攻で落とすという意味なのかも知れない。
「旨いっす」
 Jは、それには答えず、自分用にシングルモルトのラフロイグをロックグラスに注ぎ大きな氷を入れて、グラスを振ってカランと音を立てた。
「あ、そういえば、おまえみたいなタイプをいいなって言っていた子がいたぞ」
「え、誰っすか」
とすぐに食いついてくるIに
「本人の許諾がないから、誰ってのは言えねえな」
といなせば、
「えええ、そんなあ」
とふくれる。
 こういうところがO子には可愛く見えるのだろう。
「俺みたいタイプってどんなタイプっすか?」
 Jは、ラフロイグのスモーキーな磯のような香りを吸い込むと、舌にのせて深い味わいを楽しんだ。
「何と言ったのか忘れたけど、要するにおまえのことだったよ」
 本人に、『ヘタレでネズミみたいな男性』とは言えない。
「だから、どんなタイプなんすか」
「そうだな。繊細っていうか、慎重っていうか。そういうのがいいんだってさ。好きになっちゃうんだそうだ。この子がおまえのことを念頭に言っているなと俺は感じたけどな」
「俺が知っている子か。えー、誰だろう?」
 そう言いながらも、Iが、この店に直前までいたO子のことを考えていることは間違いなかった。こいつがO子を自分から誘うことなんてあるのだろうか。
「なあ、I。何かするときに迷ったら止めておく?それともやる?」
「何すか。いきなり。何かするときって何すか」
「女に告るとかさ」
「成功率にもよりますね。80%以上成功することが判っていれば告りますよ」
「成功率20%だったら?」
「外堀を埋めて成功率を80%まで高めてから告りますよ」
「家康みたいなヤツだなおまえは」
 確かに、Iは、成功する男なのかも知れないとJは思った。Jだったら成功率が20%だろうが2%だろうが行くことに迷いはしない。それは自分に自信があるからではなく、自分の人生とか、命とかを、ポーカーチップのように賭けてみたい欲望があるからだろうとJは思った。Jはグラスに残ったラフロイグを一気に干すとIに言った。
「今度、合コンしようか。男はおまえが集めろよ」
「女はどうするんすか」
「O子に集めてもらうよ」
 O子という言葉にビクッとIが反応する。IはJをまじまじと見上げて小さな声で言った。
「でも、Jさんは参加しないで下さいよ。年齢も合わないし、既婚者なんすから」
「ばーか。俺が参加しなけりゃ合コンをセッティングする意味ねーじゃないかよ。O子に既婚のお姉さまも一緒に集めてもらうからさ」
「ひどい。ひどくないすか」
「じゃ、おまえが直接O子に連絡して、合コンすりゃ良いじゃないか」
「えー、そんなあ。無理っすよ」
 Jは、心の中で『てか、O子が好きなら、合コンなんかしてないで、直接誘えよ』と呟き、
「じゃ、ラインでO子に、合コンの連絡しておくからな」
と言いながら、ノートパソコンをテーブルの上に開いた。
「何してるんすか」
「文芸部Aの原稿書くんだよ。悪いけど、今から60分間俺に話しかけないで一人で遊んでいてくれ」
「えー、そんなあ」
 Jは、ぶつくさ文句を言ってくるIを相手にせず、キーボードを叩き始める。 O子がいつか雑談で言っていた「60分で小説を書こう!」というのをマネして書くのだ。デジタルタイマーが残り60分へカウントダウンしはじめる。59分50秒、40秒、30秒、、、。 
(終わり)

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