半蔵門かきもの倶楽部コミュの第68回文芸部A チャーリー作『ひっちーとまーぼー』（自由課題・シナリオ）

□第１話『生きてたのか』

〇ひっちーの部屋

雑然と散らかったひっちーの部屋。
ちゃぶ台の上にはお酒の空き缶、食べっぱなしのカップ麺など。
コミック雑誌を顔の上に乗せて寝ているひっちー。
（部屋の戸が静かに開く音）
忍び足で入ってくるまーぼー。
まーぼー、ひっちーの顔の上の雑誌を取り、食べかけのアイスを頬に当てる。
驚いて、飛び起きるひっちー。
ひっちー「おまえいきなりなにすんだよ！」
まーぼー「なんだ、生きてたのか」
ひっちー「生きてたのかじゃねーよ！！」
ひっちー、ちゃぶ台をひっくり返す。
ちゃぶ台の上のゴミが散乱。
ひっちー「人が気持ちよく寝てるときにアイスで起こすな！　というか、人の生死、アイスで確認すんな！　というか、それ俺ん家のアイスだろ！　なに勝手に食ってんだよう！！」
アイスを食べ終えるまーぼー。
まーぼー「このあずきバーうまいな。もう１本いい？」
部屋を出ていくまーぼー。
ひっちー「……」
布団に寝転ぶひっちー。

□第２話『ギター弾けんの？』

〇ひっちーの部屋

散らかった部屋で、ひっちーは寝転んでマンガ。
まーぼーはポテトチップスを食べている。
テーブルの上には麦茶の入ったコップ。
スタンドに置かれたギター、ほこりをかぶっている。
まーぼー「そういえばひっちーってさ、ギター弾けんの？」
ひっちー「は？　どうして」
まーぼー「弾いてるとこ見たことないからさ。弾けんのかなーって思って」
ひっちー「なに言ってんだよ、当たり前だろ。俺、ミュージシャン目指してるんだぞ」
まーぼー「じゃあなんか弾いてよ」
ひっちー「え」
まーぼー「弾いてって」
ひっちー「な、なにを？」
まーぼー「なんか有名なやつ」
ひっちー「たとえば」
まーぼー「魔王。シューベルトの」
ひっちー「なんでギターでやるのにクラシックなんだよ。普通、洋楽とかＪポップだろ」
まーぼー「じゃあ前川清」
ひっちー「それは……Ｊポップっつーか演歌だな」
まーぼー「中島みゆきは？　俺、あの金八先生のやつ好きなんだよ。世情だっけ」
ひっちー「まーぼー、普段どういうの聞いてんだよ？　たしかにアコギで歌ってるイメージあるけどさ」
まーぼー「じゃあ、ミスチルのTomorrow Never Knows」
ひっちー「いきなり俺ら世代来たな」
まーぼー「あれは？　Ⅹの紅（くれない）」
ひっちー「なんでよりによってそれなんだよ？」
まーぼー「ねえやってよ」
ひっちー「えっ」
まーぼー「紅やってよ」
ひっちー「あ、アコギじゃ厳しいかな……」
まーぼー「なんで」
ひっちー「紅、エレキだろ？　そもそもバンドだし。俺は弾き語りだからさ」
まーぼー「じゃあ、弾き語りで出来そうなのやってよ」
ひっちー「え……」
まーぼー「ゆずとか森山直太朗とか」
ひっちー「……」
まーぼー「なんでもいいからやってよ」
ひっちー「いや、あの、ほら。人の曲やるときはな、あの……なんとかに許可取らないといけないんだよ」
まーぼー「なんとか？」
ひっちー「そう。あの……じゃ、じゃ……JAXA（ジャクサ）！」
まーぼー「ジャスラックじゃなくて？」
ひっちー「あ、そうそうそう！　それ！　ジャスラックね」
まーぼー「そっかー残念だなー」
ひっちー「まあ、また俺のステージでな」
まーぼー「でも曲はあるんでしょ」
ひっちー「は？」
まーぼー「ひっちーのオリジナル曲。あるんでしょ」
ひっちー「そ、そりゃまあな」
まーぼー「やってよ」
ひっちー「えっ」
まーぼー「オリジナルやってよ」
ひっちー「……そ、それは難しいかな……」
まーぼー「なんで」
ひっちー「今日ちょっとのどがさ（咳払い）」
まーぼー「風邪ひいてないでしょ」
ひっちー「……」
まーぼー「ほら。（ポケットから龍角散を取り出し）龍角散もあるから」
ひっちー「で、でもお前。リハもなしにいきなり歌うってのは……」
まーぼー「じゃあ、歌わなくていいからコードだけ弾いてみてよ」
ひっちー「コード？」
まーぼー「Ｆコードとか。弾いてよ」
ひっちー「（焦る）……」
まーぼー「ミュージシャンでしょ？　弾いてよ」
ひっちー「（ますます焦る）……」
ひっちー、スタンドのギターに手を伸ばす。
突然、いかにも痛そうに左手を右手で押さえるひっちー。
ひっちー「あーいてー！」
まーぼー「どうしたの」
ひっちー「いやー腱鞘炎かな。左手が突然動かなくなっちゃったわー」
まーぼー「今まで何ともなかったじゃん」
ひっちー「いきなり来るんだって！　うわーいてーな。今日もう絶対ギター弾けねーな」
まーぼー「そっかー」
まーぼー、ギターを手に取る。
音叉を片手に、チューニングを調整する。
まーぼー「チューニングずれてるね」
ひっちー「……」
まーぼー、ひっちーにギターを渡す。
まーぼー「弦、張り替えたほうがいいよ」
コップを持って立ち上がるまーぼー、部屋から出ていく。
ひっちー、ギターを構え、コードを押さえようとするが、指が届かず、弾けない。
ちゃぶ台をひっくり返そうとするひっちー。しかしひっくり返さず、悔しそうにテーブルに突っ伏す。

□第３話『じゃがいも、食べる？』

〇ひっちーの部屋

布団で寝ているひっちー。
部屋に入ってくるまーぼー。
まーぼー「（大声で）おーはーよーう！！」
驚いて起きるひっちー。
まーぼー、電話している。
ひっちー「……で、電話中かよ」
まーぼー、ポケットからじゃがいもを取り出してひっちーに渡す。
まーぼー「これ。おばあちゃんから差し入れ」
ひっちー「……ありがとう」
まーぼー「（電話の相手に）あ、ごめんごめん」
ひっちー「誰と話してるんだよ？」
まーぼー「もしもし？あの、補聴器スイッチ……、（大声で）ほ、ちょう、き！　オフに……（突然普通の声になって）あ。聞こえてる？　聞こえてるのね」
ひっちー「？」
まーぼー「うん。昨日届いたよ、じゃがいも！　うん。……食べた食べた！　そうだね、あ～おばあちゃんの味だなあって感じ。やっぱスーパーのとは違うね。おばあちゃんの愛情こもってるから！　うん」
ひっちー「……」
まーぼー「うん。……俺も食べた！　じゃがいもはやっぱ生に限るよね～」
ひっちー「（小声で）……そうか？」
まーぼー「えっなに？　じゃがいも、芽取らずに食べちゃったの？！」
ひっちー「えっ？！」
まーぼー「お腹痛いの？　大丈夫？？」
ひっちー「（心配）」
まーぼー「あ、なんだ～。腹筋やりすぎてお腹筋肉痛なだけなんだね」
ひっちー「そっち？！　おばあちゃん筋トレすんの？」
まーぼー「うん。……まあ、そうだよね。じゃがいもの芽食べたぐらいじゃね～。俺も毎日食べてるし」
ひっちー「毎日？！　毎日食ってんの？」
まーぼー「しっ。（電話の相手に）あーごめん。ちょっと近所の犬がうるさくて」
ひっちー「俺、犬かよ……」
まーぼー「うん。うんうん。……あ～ホント？　良かった、退院できて」
ひっちー「（小声で）さらっと話題変わったな」
まーぼー「そういえば、なんで入院したんだっけ？」
ひっちー「……」
まーぼー「あー突き指か。それは大変だったねぇ……」
ひっちー「突き指？」
まーぼー「それと、大腿骨骨折かあ。ふ～ん」
ひっちー「そっちのほうが重症だろ！」
まーぼー「しいっ！　（電話の相手に）ううん、大丈夫。ちょっと近所で江ノ電走って手」
ひっちー「いや、あれ江ノ電じゃないから」
まーぼー「で、おじいちゃんは元気？」
ひっちー「……」
まーぼー「あーははは。そういえば亡くなってたね～。忘れてたよ」
ひっちー「なんでそんな大事なことで笑ってんの？？」
まーぼー「そりゃ切腹だもんねぇ。しょうがないよね～」
ひっちー「え、いつの時代？　おじいちゃんいつの人？」
まーぼー「まあ、でもＵＦＯにさらわれるよりはマシだったんじゃないかな」
ひっちー「ＵＦＯ……？」
まーぼー「だって、おじいちゃんＵＦＯに乗せたら、逆に宇宙人支配しちゃうでしょ？　カリスマあったもんなあ」
ひっちー「どんなじじいだよ」
まーぼー「でもおばあちゃんには敵わなかったもんね」
ひっちー「？」
まーぼー「だっておばあちゃん、生まれてこの方お風呂入ったことないもんね～。そりゃおじいちゃん負けちゃうよ～」
ひっちー「強さ、そこ？」
まーぼー「でも俺、おばあちゃん見習って強くなる！　だから俺もトイレ行ったあと、毎回手洗わないようにしてるんだ！」
驚くひっちー、ショックでじゃがいもを落とす。
まーぼー「うん。うんうんうん。は～い、じゃね～」
電話を切るまーぼー。
まーぼー「ひっちー！　そういえばもう１個。じゃがいも！」
まーぼー、ポケットからじゃがいもを取り出してひっちーに投げる。
ひっちー「いらねーよ！！」
ちゃぶ台をひっくり返すひっちー。
畳の上に転がるじゃがいも。

テロップ「つづく」