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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第五十二回 ヴァンさん作「新世界 vol.2『しもべ妖精の魔法』」

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*この作品はフィクションであり、本文中に登場する人物、団体、名称等はいっさい実在するものと関係はございません*

*また、この作品は連載小説の二話目です。前回の「新世界 vol.1『あの場所』」は
https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=6226350&id=89130207&comment_count=0
こちらのURLをご覧ください*

 
* * * * *


「兄ちゃんがここ、大阪市立東洋陶磁美術館の館長! したら、鈴木さんは何者なん?」
「学芸員さん」
さとるは、せっかくの展示品に目をやることなく、自分の歩みに付いてくる。
「鈴木さんはあの前もあの後もここにいて、収蔵品を守ってくれてる偉い方」
「そんなん、館長の佐久兄ちゃんの方が偉いんちゃう?」
僕はさとると話しながら、館内をチェックする。大丈夫、今日誰がここに来ても、「ステキな展示だった。いい時間が過ごせた」と思ってくれる。
「僕の人事は仮人事だからね。さとる、組織に入るときにちゃんとテスト勉強したよね?」
「ああ、当たり前やん」
「じゃあ、今から大阪の歴史のテストをするよ」
「おう!」
さとるの元気な返事に、「これからの大阪をこの子たち組織に託すのは悪くはないな」と思えた。

「一問目、大阪がこうなったのは何年何月何日?」
「西暦二千十二年四月八日日曜日」
さとるはすかさず答える。
「曜日まで答えたのはやる気のある証拠だね。もちろん、問いに対しての答えにはなってないから、試験では三角だろうけど。あと、僕は『何年』としか訊いていないから……」
「大阪歴一年!」
そして、さとるの誕生した年でもあるな、と僕は思った。
「次は二問連続にするね。二問目、西暦二千十二年の流行語大賞と、三問目、大阪歴一年つまり第一回大阪流行語大賞を述べよ」
「はい! 二千十二年の流行語大賞は『金魚アナ』、第一回大阪流行語大賞は『しもべ妖精の魔法』です!」
よく勉強している。二千十二年の流行語大賞は「金魚アナ」と「縄ばしごアナ」(どちらも同じアナウンサーを示している)が人気を二分したらしかった。その様子を僕も見ていないし、まして生まれたばかりのさとるには、大阪世間の雰囲気もわからなかっただろうに。
「じゃあもうちょっと深く訊くよ。[『金魚アナ』と『縄ばしごアナ』の新語ができたきっかけを、というか、二千十二年四月八日のことを知っている限り教えて」

 大阪がこうなった日、かつ、僕と彼女が永遠に会えなくなった日のことを。

* * * * *

  語り手は僕の方だ。僕というか佐久。

 あの日あの時間、何が起こったか。
 僕はそのとき、中之島にいた。いた場所は、残念ながらここ東洋陶磁美術館ではなく、もう一つの美術館、国立国際美術館の方だった。
 当時、国際美術館では草間彌生展がやっていた。「草間彌生 永遠の永遠の永遠」展。四月八日はその最終日だった。僕と彼女は……いや、その話は止めよう。とにかく事実と事実と思しきことだけを語ろう。

 二千十二年四月八日三時三十三分、大阪の一部がなくなった。少なくとも最初は「なくなったように」見えた。

 その謎を解いたのが、例の「金魚アナ」であり、「縄ばしごアナ」でもある女性アナウンサーだった。
 アナウンサーはそのとき、ヘリコプターに乗っていた。いた場所は、僕たちの大阪に残っているUSJ――ユニバーサル・スタジオ・ジャパン――のある此花区ではなく、お隣の海遊館や天保山のある港区だった。
 当時、USJにはある疑惑があった。J・K・ローリングのあのベストセラー小説――ハリー・ポッター―シリーズという大ヒット映画をテーマにしたエリアができる、いやむしろ、建設中だという疑惑だ。四月八日三時三十三分、女性アナウンサーは上空から本当に「ハリー・ポッター」のエリアが造られているのか、自分の目で確かめようとしていたのだ。上司には、翌日のミヤネ屋で若い子ちゃんや家族連れに人気の天保山の様子を放送すると伝えていたものの、今日中に「ハリー・ポッター」らしきものを見つけたら明日はそれを放送。ここいらで面白いことをやって、全国区のアナウンサーになりたかっのだと、のちに彼女は言った。

 こういう情報が、僕たちの大阪に伝わってくる。一方的な伝聞に過ぎない。しかし、当時はそれを心待ちにしていた。いつか、僕たちのいる大阪から「金魚アナ」のいる大阪に戻れると思っていたからだ。

 「金魚アナ」と同乗したカメラマンのカメラにはすごい映像が残ることとなった。
 三時三十三分、海という海の水位が海抜三百メートルの高さまで上がった。海だけではない。川もだ。人口密集地区でのヘリコプターの高度は三百メートル以上と定められているが、大阪にはそんな高い建物はない。水上にいた人たちは水と共に三百メートルの高さまで上がった。彼ら、そしてその水を目撃した全ての人が、おそらく死を予感した。しかし、水はすぐに引いていった。その結果、「キタ」も「ナカ」も「ミナミ」もそして「新世界」もなくなった。なくなったというよりむしろ、海になった。 その映像がヘリコプターから撮られた。

 そして「金魚アナ」のもとに、一本の電話がかかってくる。自分は読売テレビ本社にいるが、お前はどこにいるのか、無事なのか、という上司からの電話だ。「金魚アナ」は信じられないものを目にしていた。天保山はあるものの、川向かいのUSJのあたりは忽然と海になっていた。「キタ」の高層ビル群、「ナカ」で建設中の中之島のフェスティバルタワー、「新世界」にほど近いつい先月に高さ二百メートルに達したあべのハルカス……そういったランドマークを探そうとしても探せない。
 「金魚アナ」の上司も同じく、信じられないものを目にしていた。大阪城の北東に位置し、二つの川に挟まれている読売テレビからは、そのどちらの川も水位も上昇したあと、元に戻ったように見えた。しかし、大阪城から先は、海になったようにしか思えないほど、何もなかった。

 「金魚アナ」と上司、読売テレビの考えは一致する。この大阪の訳のわからない現象を今から生中継しようと。

* * * * *

 ここからオレ、さとるが語る。なぜ読売テレビの女性アナウンサーが「金魚アナ」または「縄ばしごアナ」と呼ばれるようになったのか、それがオレに課された質問だったから。

 上司と本社のOKを得、佐久兄ちゃんが語った大阪の様子を一通り述べたあと、「金魚アナ」はおかしな行動を試みた。なぜ、海になったようにみえる大阪と普段通りの大阪があるのか、それを確かめるべく、アナはUSJがあったと思しき場所にヘリを移動させ、高度を海抜三百メートル近くまで下げさせ、そこからは縄ばしごを伝って少しずつ空中を下りていった。まさしく「縄ばしごアナ」といったところか。一歩一歩ヒールで下りている中、アナの靴になにか膜のようなものが当たる。縄ばしごに捕まったまま、片方のヒールを脱ぎ、ストッキングをやぶったアナは、素足で膜に触れる。それを通過することはできない。首にかけていた海辺の石みたいなものを放る。やはり通過することはできない。ここまでが「縄ばしごアナ」。すでに大阪の全局のみならず、全国の放送局が、「縄ばしごアナ」の奇怪な行動を生放送していた。
 
 そして金魚が登場する。なぜか「縄ばしごアナ」のペット、金魚の欽ちゃんが、その読売テレビのヘリコプター内にスタンバイしていた。アナは縄ばしごを上り「みなさん、いま大阪の一部、いや中心部の海抜三百メートルには何らかの膜があり、私たちはそこを通過するこはできないみたいです」と述べた。藪から棒に欽ちゃんを抱えたアナは「私たちをしっかり映しておいてください」とカメラマンに告げた。「金魚アナ」の誕生である。再びはしごを下りて三百メートルに達した「金魚アナ」は「さよなら欽ちゃん」と金魚に挨拶したのち、「ていやっ!」と欽ちゃんと一緒にダイブした。ベテランのカメラマンは、空中で寝そべっているアナと、膜を超えて、消えていく金魚を同時に映すことに成功した。
「みなさん、大阪の中心は今も存在します! この膜に『とうせき』しても意味はないれど、食料を通過させることはできるようです!!」

こうして、オレたちは大阪の中心で生まれ、生きることとなった。

* * * * *

「今のを四問目にするよ。そしたら今日のラスト。もう一つ、『しもべ妖精の魔法』はどうやって成立した?」

佐久の質問に答えるように、オレは語った。

 西暦二千十二年四月十日火曜日。つまり大阪がこうなって、二日後のUSJ。「金魚アナ」には見つからなかったその場所は、オレら側には存在していた。三日分の食料は前年の教訓で用意されていたけれど、ネットはおろかTVも何も映らない状態で、自分たちがなぜここで足止めされているのか全くわからない客たちは、多かれ少なかれいらだっていたそうだ。
 そんななか、一人の若い男性キャストが「そういえば、ここに新しくハリー・ポッターのエリアができるという噂があったなぁ……」 と、自分の任地を離れて歩いていると、どこからか、こんな場面でかげるわけのない香りがしてきた。キャストは「立ち入り禁止」の張り紙も無視して、森みたいな場所に迷い込む……。行き先不明の森を歩いてたキャストは「なんだここは、天国への入り口かな?」と思ったらしい。そして、狭い森の道が開けたそこには、ハリー・ポッターの世界が存在していた。
 おそらく常冬をイメージした街並みは、主人公ハリー・ポッターたち寄宿魔法学校ホグワーツの生徒が週末に遊びに行けるホグズミード村、そしてその奥にはホグワーツ城が見える。不思議な空間だが、なぜか人の温もりを感じたキャストは、「誰かいませんか〜?」とホグズミードの建物のなかの一つのドアを開ける。「サンタさんでも来たのかな?」と思えるほど、建物のなかは雪、いや、小麦粉であふれていた。キャストは次の建物に入る。間違いない、暖炉から、今度は米が建物に入ってきている。彼はどんどん建物に入る。どんどん食べ物が発見される。
 ホグワーツ城の横の池を見る。可愛らしい愛玩用金魚が一匹優雅に泳いでいる。「金魚?」と謎に思っているとあの匂いがしてきた。キャストは走る。ここはどこだか、いま何が起こっているのか、そんなことはどうでもいい。開けた建物で見たものは、まさにキャストが想像していたものだった。お好み焼き……。キャストは思わず声を上げた。
「これは『しもべ妖精の魔法』や〜!!!」

(続く)

コメント(2)

>>[1]
感想ありがとうございます!
大阪という都市自体が、私の中ではまだフィクションの世界なのです。

合点承知の助!
たこ焼き食べてみたいんやけど、今ぐらいの時間にならんと仕事が……orz

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