半蔵門かきもの倶楽部コミュの第五十一回作品　匿名B『蝋燭・肉・新世界』　

　初対面の男の精液のシャワーが私の顔にかけられる。私のご主人様のＹが連れてきたAと名乗る筋骨逞しい青年が、ベッドに裸で横たわる私の顔に跨り今まで私がフェラチオをさせられていたモノを引き抜いた直後のことだ。
目に大量の白濁が命中して私は思わず叫び声を上げてしまう。
Aの精液で白くぬらぬらに汚された私の顔を見て興奮したYは、すぐさま、私の大きく開かされた足の間の、Yによって剃毛された割れ目から彼の太い男性器を引き抜き、Ａを押しのけると、自分でシゴいて私の鼻の穴のあたりに激しく精液を発射した。そして、精液が全部出きる前に、私の半開きの口の中に無理やり男性器をねじ込んだ。
「絞りとって飲み干せ」
私はYの命令通り口をすぼめて、一滴残らず飲み込もうと必死になる。遠慮なく口の奥まで押し込まれるＹの性器の先が喉に当たり私はえづきそうになる。
その私の苦しみにより興奮したようで、Ｙは私に咥えさせたまま、かけられた二人の精液を混ぜて顔の隅々まで塗りたくった。
そして、Yは、ゆっくりと私の口から男性器を引き抜くと、私の髪の毛を掴み、ベッドから引きずり下ろすと、カーペットのうえに跪かせた。ＹとＡが私の前に立つ。私は顔を上向かせらて、白いヨーグルトのような液体を、顔に塗られたまま二人の男を見上げた。Ｙは、私の右手をつかむと、柔らかくなった男性器を握らせ、左手にはＡのそれを握らされた。私は、奴隷らしく跪いた姿勢で両手で男性器をゆるやかにしごきながら、おびえた目でYをうかがった。
Yは私の髪の毛を掴みながら空いた手で私の無防備な乳首をきつく抓りあげた。私が余りの痛さに悲鳴を上げると、Ｙの力を失った男性器に復活の兆しが現れた。ＹはＡにも私の残った乳首を抓らせながら
「汚されて嬉しいか。もっと醜く汚してやるからな」
と冷たく私を罵倒する。
私はその言葉に興奮してしまい、両手に握らされているモノを、早く、私の中心に突っ込んで欲しくてたまらなくなってしまう。しかし、Yの天の邪鬼な性格を知る私は、彼の欲情に火をつけるには、どう答えればいいのか知っていた。私は哀願した。
「やめてください。もう許してください」
Yは
「肉便器の癖に、口答えするな。もっと酷い目にあわせるぞ」
と私の乳首への責めを強める。
Ａを指差して、
「こいつは柔道やっているからな。男ばかりの柔道の合宿所におまえを連れ込んで、皆に輪姦させてやる」
と言うと、Aもかなりのサディストらしく、ホクロのある頬を歪ませて、
「それはいいですね。熊みたいな奴らが合宿でオナニーもできずに性欲持て余していますからね。○さん（私の名前）みたいな色っぽい女性を、皆で自由にやってもいいというお許しがでたら、俺たち一晩中終わらないで攻め続けますよ。順番で皆に犯されて体力持ちますかね」
と調子を合わせる。二人の男性器はこうしたやり取りをしているうちに再び硬度を増してきた。私は、彼らの陰嚢を柔らかく撫でさすったり、尿道口に刺激を与えたりしながら、口では、
「嫌です。そんなこと、させないでください。その代わり何でもしますから」
Ｙは、その言葉を待っていたように、
「本当だな。じゃあ、これでオナニーしてみろ」
と言うと、巨大なバイブレータを取り出した。それを見たAの男性器が急速に固くなっていく。
「そんな。無理です。できません」
「じゃあ、汗臭い男たちの合宿所に連れて行ってまわしてやろうか」
私は、何人もの筋肉質の柔道の若者たちに取り囲まれることを想像し、また濡れてくるのを感じながらも、言葉のプレイを続けた。
「わかったわ。しますから、こっちを見ないで」
そう言って私は、男たちの股間から手を離して、バイブに手を伸ばした。

私は、手を手を伸ばした。しかし、むなしく虚空をつかんだだけだった。気づくと私は、真昼の公園のベンチで眠りからさめた。なんだ。夢だったのか。下半身に違和感があった。下着を通してスカートにシミを作るくらい自分が濡らしてしまっていることが分かった。
私は、ここで、Yと三回目のデートをしているのだった。Yとは複数プレイはおろかセックスもまだだった。というより、キスもまだだった。彼とのデートはいつもつまらなく、今日は、公園のベンチで彼と30センチ離れて座っているうちに、あまりにも退屈なので、眠ってしまったのだった。隣では、Yが心配そうにこちらを見ていた。
「うなされていたので、お起こししようか、迷ったのですが、よく眠っていらしたので」
「いやだわ。私、寝言を言っていませんでしたか」
「ええ、何ですか『許して』とか。夢を見ていたのですか」
「起こしてくれれば良かったのに」
木漏れ日の初夏のベンチに気持ち良い風が吹き抜けていた。どこからかヒバリのさえずりが遠く聞こえた。Yが、続けて何かを話してくれるかと私は期待したが、彼は、また、話すことが無くなって、黙ってしまい、気まずい沈黙が二人を包んだ。
「Yさん。いいお天気ね」
「いいお天気ですね。……。あ、すみません。ぼく、口下手で。だから、モテないんですよね。〇さんには、こんなぼくなのに、３回も誘っていただいて感謝しています。女の人と３回も、その、デートですか、デートしたことなんて初めてです」
じゃ、あなたは童貞なんですかという言葉は飲み込んだ。

そもそもの始まりは、知人のKという占い師だった。タロットカードをめくりながらKは
「驚いたな。君はまじめでおとなしい人だと思っていたけど、並外れた被虐願望があるね。君を心から満足させてくれるご主人は」
そう言ってまたカードをめくり
「Yだな」
と、二人の共通の知人Yの名をあげた。私は、まるで印象の薄かったYの顔を思い出そうとしたが、覚えていなかった。しかし、こういう目立たない人が私に合ったクールなサディストなのかもしれない。
Kは、カードをまとめると、
「手を貸して」
と言って、私の手を取ると、いきなり、手の甲を強くつねった。
「痛い」
「本当は、ぼくが君をじっくり調教してあげたいんだけど」
Kは片手で私の手の甲をつねり続けながら、もう一方の手でカードを一枚めくり
「やはり、ぼくと君との相性は最悪だ」
と吐き捨てるように言って、つねっていた指をようやく離した。私の手の甲にはあざと言ってもいいほどのはっきりした赤い跡が残った。
「これは、今日の占いを忘れないようにつけた印だ。いつか、君が、Yの奴隷となったときに、この印をありがたく思う日が来るよ」

まだ、私の左手の甲には、赤い跡が残っていた。しかし、あの占いがあたる日が来るとは到底思えなかった。私は、公園のベンチから立ち上がった。
「Yさん。少し、歩きましょうか」
「そうですね。そうしましょう」
何気なく、その左手の甲をYの右手に当てたが、Yはそのサインも見逃して、手をつなぐことはせず、３０センチの距離を保ったまま、二人は歩きだした。
４回目のデートは無いな。あのインチキ占い師め。
そのとき、公園の中を、柔道着を着た集団が掛け声をかけながら、並んで走ってくる集団に出会った。彼らと私たちの距離が狭まり、先頭を走る背の高い青年の顔が見えてきた。
「あっ」
それは、Aだった。夢の中にでてきた、Yが連れてきて、私の顔に精液をかけさせた男に間違いなかった。
「どうか、なさいましたか」
「いいえ。Yさん、柔道をしている方をどなたかご存じですか」
「柔道ですか。そうですね。後輩に一人いますけど」
「その方って、背が高くて、頬にホクロがある人じゃありませんか」
「あ、そうです。そうです。なぜ、知っているのですか」
私は、公園の道を走り去っていく柔道着姿のランニング集団を指さした。
「そのホクロの人がYさんのことをじっと見てたものですから」
嘘だった。彼はＹに気づいてもいなかった。
「そうですか。あいつ、ぼくに気付いたのなら声をかけてくれれば、よかったのに」
とＹは独りごちた。
「その方、私の知り合いに似てるのですけど、お名前は何と言う方ですか」
もちろん、これも嘘である。まさか、名前まで一致するわけがないと思いつつ、念の為に聞いてみたのだ。
「ええと、何と言ったかな。そうだ。Ａです」
私は立ち止まり、呆然と、Ｙの顔を見つめた。
「Ａは○さんのお知り合いなのですか」
私は辛うじて
「いいえ、人違いでした」
と答えたものの、脇の下から冷汗が流れ出ていた。
予知夢。
私は自分の未来の1シーンを夢に見たのだろう。こう見えてＹは、私の理想のご主人様になるバリバリのサディストなのだ。
公園の道に立ちすくんだままの私を心配そうに見つめているＹと手を繋ごうと、私は手を差し出した。

私は手を差し出した。しかし、虚しく虚空をつかんだだけだった。気づくと私は、ラブホテルで眠りからさめた。なんだ。夢だったのか。下半身に違和感があった。両足が開かされベッドの脚に固定されていた。
見回すと、壁には十字架型の固定器具があり、綺麗にまとめられたロープやムチが掛かっていた。みあげると、天井からは、鎖と滑車が吊り下げられていた。
バスルームから腰にバスタオルを巻いて髪の毛をもう一枚のタオルで拭きながら、裸の男が近寄ってくる。
Ｋ？
「私との相性は最悪じゃなかったの？」
Kはベッドに腰を下ろすと、私の頭を撫でた。
「最悪の相性の君を調教できるのか、試してみたくなったのさ」
「なにそれ？」
悪夢。これは悪夢だ。
私は、この世界から一刻も早く、抜け出すべく、手を空中に差し出して、虚空で何かを掴もうとしたが、この世界は変わらなかった。
（終わり）