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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第四十九回 みょこ作 「valentine」

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今回も作品だけ提出させていただきます。
たぶん https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=6226350&id=88406239 の続きです。
参加者の方の作品を優先してもらいたいですが、お時間に余裕があれば目を通してくださるとうれしいです。

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「で、柚は誰にあげるの?」
 一番に作り終えて、一見暇を持て余しているようでいて目つきは真剣にテーブルの周りを指でなぞっていた浩美が顔を上げて訊いた。
「ん……、先輩。……」
「先輩って、図書委員の? 憧れてるって言ってた?」
「そう」
 私の手元では、黒いチョコレートに白い線が少しずつ垂らされていた。H、a、p……。単語を書いているのではなく、文字を描いているような心持ちだったが、それでも描き進めるにつれてだんだん意味を伴った言葉になっていく気がした。
「へえ、付き合ってるんだ。よかったじゃん」
「……違うけど」
「え、じゃあ呼び出すの?」
 呼び出すって、生徒じゃあるまいし。
「柚が先輩を追っかけて……かどうかは知らないけど、実は同じ大学で、しかも同じサークルなんだって」
 私の斜向かい、浩美の傍でラッピングに取り組んでいる晶が口を挟んだ。
「マジ? 知らなかった」
「昨日聞き出した。浩美がさっさと寝ちゃった後でね」
 浩美はラッピング済みのチョコレートを指先でつつくふりをした。  
「だって、おとついは晶が寝かせてくれなかったから……」
「っ、課題を溜め込んでる浩美が悪いんでしょexclamation & question
「あ、はは。はーい」
 同じ大学に通う二人のやり取りが高校時代よりも気の置けないものになっていることを微笑ましく思いながら、私はチョコレートと向き合っていた。黒いチョコレートに白い文字。たぶん先輩なら黒と白ではなくもっと別の色で表現するであろう物体を前にして、私は気の遠くなる思いがした。今すぐ真っ白に塗りつぶして叩き割り、なかったことにしてしまいたい衝動に駆られたが、二人の手前、そんなことはできない。半ばヤケになりつつ惰性で続けていると、衝動はだんだん収まって、チョコレートの美しい姿は守られた。まあ、なるようになるだろう。
  
       *

「あれ、柚。早いね」
 私は扉に背を向けて立ち、先輩がいつも座っている場所に向けてチョコレートの包みを差し出す練習をしている状態で固まっていた。恐る恐る振り向くと、当然そこには先輩がいて、挙動不審な私に構わず自分の席に着いて鞄を開け始めた。私は何を思ったか、チョコレートを先輩に向けて投げつけた。
「わっと」
 チョコレートは先輩の腕にガードされ、机に向かって正面から落下していった。
「……私に?」
 先輩が私を見た。
「Happy Valentine's Day. Will you be my valentine?」
 噛まずに言えた。……あれ、チョコレートは?
 不安になって顔を上げると、机の上に差し出された先輩の掌の上に裏返しで乗っかっていた。先輩が微笑むのが目の端に写った。
「ありがとう。うん、一緒にバレンタインを楽しもう」
 先輩はチョコレートをやさしくひっくり返して机の上に置くと、鞄から包を取り出してさっと開封し、出てきたマフラーを私の首に巻きつけた。
「私はチョコレートじゃないんだけど……、いつも寒そうで気になってたんだよね。平気だって言ってたけど、私のために巻いてくれないかな?」
「はい……」
「よかった。じゃあ、チョコレート……かな? を一緒に食べようか」
 私の告白が伝わったのか伝わっていないのかよくわからず、あまりよくはなかったが、気力を使い果たした私はしばらくの間マフラーに顔を埋めていた。

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