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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第35回 作品 匿名C 『そうだ!京都へ行こう(仮題)』

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鏡、でっかい鏡かと思いましたよ。最初はね。
     “第一発見者と思われる人物の証言より”

昔から色んなことが言われている。住民は全員幽霊だ、時間が止まっている、ずっと雨が降っている、人が一人もいない、魔物が支配している、あれはもうあの世だ。
等々、いずれも何の根拠もない想像でしかない。
確かめたくても確かめようがないのだから、この現象が起きた時、“京都”に行ってきた。“京都”から帰ってきた。と称する人々が多数現れた。最初の頃はマスコミも飛びついたりしたこともあったが、すぐにその欺瞞は暴かれるのがオチで、そういう事が何度も続き、そういう輩は誰にも相手にされなくなった。(いまでも一定数存在するが)
ただ、科学的にどうにも説明のつかないことなので、その存在は世界の宗教界にも多大な影響を与えた。科学的なアプローチがまるで通用しないので、神が持ち出されるのは至極当然の成り行きだったのだろう。様々な論争が生まれ、様々な宗教が自らの持つ論理で説明がつかないかと試みたが説得力のある説明は今のところ一つもない。

古来より神国日本という思想が様々な時代によって様々な意味合いで唱えられてきたが、
“京都”の存在によって新たな神国日本のイメージが盛り上がったのは確かだった。それは日本に留まらず世界中に広がった。それも当然といえば当然かもしれない。他には世界中にこんな場所は、こんな現象は一つもないのだから、このことが起きた当初は他の場所でも同様なことが起きるのではないか、という不安もあったが100年経った今ではその恐怖はだいぶ薄らいでいる。全く消えて無くなったわけではないが。
以前から観光地として、古い歴史を持つ文化国家として世界から日本はある種特殊な印象を持たれていたが、これを機に世界の研究者、宗教家はもちろん様々な思惑を持った人々がこぞって日本に集まった。人類にしてもこのような巨大な実在する神秘と普通に共存することはかつてなかったことなのだから、が流石に100年も経つとそのフィーバーぶりはかなり落ち着いてきていた。

10年ほど前、あるイギリス人の研究者が“京都”への行き方を発見した、と言い出したことがあった。まだ若い30そこそこの人物で日本好きが高じて日本に住み、日本人の女性と結婚もしていた。もともと子供のころから日本はもちろん“京都”の神秘に魅了されていたその人物、グレッグ・S・アンダーソンは、その魅力的な容姿と若さでマスコミからも注目されていたところだったが、ある日急に失踪した。“京都”への行き方。を発表する前夜だったので、逃げたとか、誘拐された、とか様々に言われた。家族も失踪届を出してマスコミも巻き込み、大々的に捜索が行われたが、ついに見つからなかった。それが今になって現れたのである。

大勢の記者が集まる会見場にグレッグ・S・アンダーソンが入ってきた。長身でスマートな体型で、さらさらとした金髪を耳にかすかに触れるくらいの長さに伸ばした、失踪した時と変わらない30そこそこの青年に見えた。用意されたテーブルの前に立ち、アンダーソンは深々と頭を下げ席に着き、両腕をテーブルの上に置いて流暢な日本語で話しだした。
「今日はお集まりいただきありがとうございます。グレッグ・シーモア・アンダーソンです。皆さんご存知のように京都は100年ほど前から鏡、と呼ばれる大きな水たまりの底に沈んだままです。その原因は現在に至るもまるで解明されていません。ですよね?」一渡り記者たちの顔を見渡してから
「わたしはそこに行き、帰ってきました。その間こちらの時間では10年が経ってしまったようですが、わたしの感覚ではせいぜいひと月ばかりのような気がしているので、まるで信じられませんでした。が、娘の成長を見ては信じないわけにもいきません」
その時記者から質問が飛んだ。
「アンダーソンさん、それを証明できる証拠はありますか?」
アンダーソンは質問者の方を向き、軽く片手を上げてこう言った。
「すみません、質問はわたしの話が終ってからにしていただけませんか。それ程長くはかかりませんから」
アンダーソンは前を向いて一息つくとまた話し出した。
「わたしはこちらの世界で10年前“京都”に行く方法を見つけた、とみなさんに言いました。しかし今その方法を言うことはできません。」
会見場が大きくざわめいた。今度はアンダーソンはなにも言わずに黙っていた。会見場のスタッフがお静かに、と何度も言って静まるのを待ってから、アンダーソンはまた話し始めた。
「なぜなら、外の人間、“京都”以外に棲むあなた方すべての人類を今この場ではこう呼びます。外の人間には、自らの意思で“京都”に行くことはできないからです。」
また少しざわめいた。
じゃぁどうやったら行けるんだ。会見場のどこかから馬鹿にしたような声が上がった。
「“京都”に行くには“京都”に選ばれるしかないのです」
会場がざわめき馬鹿にしたような嘆きの声が多く上がったが、一方話を聞こうぜ、という声もあり、すぐに静かになった。
「わたしも10年前に“京都”に選ばれてあちらに行きました。おそらく皆さんが気づかないだけで、わたし以外にも“京都”に選ばれてあちらに行った人は何人もいるのです。ただ、その多くはこちらに戻って来ていないのです。なぜなら戻ってくる必要がないからです。こう言うとなんでお前は帰ってきたんだ。と思われることでしょう。」
何人もの記者がうんうんと頷いた。
「これもわたしが“京都”に選ばれた結果なのです。わたしは皆さんに対するメッセンジャーとして“京都”によってこちらに遣わされたのです。」
「いったいどんなメッセージなのか。それをこれからお話ししましょう。・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・」
アンダーソンは口を開いてなにか話し続けているようだったが会見場のほとんどの記者には何も聞こえなかった。それが5分を越え10分を越えると多くの記者が怒りだし、罵声を金髪の青年に向けてぶつけだす一方、何人かは呆然とした顔で立ちつくし、その次に慌てて会見場から外へ飛び出して行った。
「・・・・・ということです。それではこの辺で時間のようです。」
と言ってアンダーソンは立ち上がると両手を上に向け肩のあたりまで上げるとにっこり笑った。その体は見る見る透き通り、アンダーソンの形をした水になって、その場に崩れ落ちた。


そして、それは始まった。

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