半蔵門かきもの倶楽部コミュの第２５回　祐太作「八大龍王伝説」（2017年1月13日～同年2月8日執筆分）

〔はじめに〕
　こちらは、現在自分が執筆し連載している『八大龍王伝説』の前回（1月）の文芸部に掲載以降、今日（2017年2月8日）までに新たに執筆した分です。
　世界観を理解していただくために本文の前に『用語集』、『略年表』並びに『大陸全図』（巻末）をつけてみました。
　トピとしてあげることを最優先とした作品ですので、差支えないようでしたらお読みいただければと考える次第でございます。
　なお、前回アップ分（2016年12月11日～2017年1月6日執筆分）の続きとなっております。
　※また、今回はほとんど執筆できておりません。

〔用語集〕
（ア行）
　ヴェルト大陸（この物語の舞台となる大陸）
（カ行）
　グラフ将軍（ソルトルムンク聖王国の将軍）
　ゴンク帝國（ヴェルト八國の一つ）
（サ行）
　ザッド（黒宰相）（ソルトルムンク聖皇国の宰相）
　三種の神器（ソルトルムンク聖王国の聖王就任の儀式に必要な三つの品）
　ジュルリフォン聖王子（龍王暦一〇四〇年に水死）
　ジュルリフォン聖皇（水死した聖王子に扮した人物。正体は八大童子の一人である清浄比丘）
　ステイリーフォン聖王子（ステイリー）（ジュルリフォン聖王子の双子の弟）
　ソルトルムンク聖皇国（ソルトルムンク聖王国から改名した國。偽皇国と呼称される）
（タ行）
　ダードムス（ソルトルムンク聖皇国二代目碧牛将軍兼小型竜育成担当大臣）
　隊長クラス（小隊長、中隊長、大隊長の三つの軍組織の位。小隊が一番小さな軍組織（10人規模））
　ドンク（ソルトルムンク聖皇国銀狼将軍。シェーレの前夫）
（ナ行）
　偽皇国（ソルトルムンク聖皇国のこと。ミケルクスドのラムシェル王が演説の中で呼称する）
（ハ行）
　バルナート帝國（ヴェルト八國の一つ）
　ヒールテン地方（元ゴンク帝國の一地方。現在はミケルクスド國領）
　ヒルガムダス（ソルトルムンク聖皇国の大臣）
　ヘルテン・シュロス（元ゴンク帝國の帝都。『堅き城』の異名を持つ）
（マ行）
　マルシャース・グール（ソルトルムンク聖皇国の首都であり王城）
　ミケルクスド國（ヴェルト八國の一つ）
（ヤ行）
　ユングフラ（ラムシェル王の王妹。現在行方不明）
（ラ行）
　ラムシェル王（ミケルクスド國の王）
（ワ・ヲ・ン）
　ンド（ソルトルムンク聖王国の元大臣。反逆罪で逮捕）

（略年表）
　龍王暦元年：ヴェルト大陸に八大龍王によって八つの國（くに）が建国される。
　龍王暦一〇四〇年夏：ジュルリフォン聖王子が舟遊びの事故により死亡。
　龍王暦一〇四七年四月：偽ジュルリフォン聖王子がザッド（後の宰相）を召し抱える。
　龍王暦一〇五〇年二月：ソルトルムンク聖王国がバルナート帝國に宣戦布告。残り六國をも巻き込む大戦へと発展する（第一次ヴェルト大戦勃発）。
　龍王暦一〇五一年十月：バルナート帝國無条件降伏（第一次ヴェルト大戦終結）。
　龍王暦一〇五二年四月：カルガス國が七國に宣戦布告（第二次ヴェルト大戦勃発）。
　同年八月カルガス國滅亡。
　龍王暦一〇五三年：ソルトルムンク聖王国がゴンク帝國全域を占領。後に一地方（ツイン地方）のみ残し、ゴンク帝國は復活。
　龍王暦一〇五六年：グラフ将軍、ンド大臣、クレフティヒ大臣の三要人が反逆罪で逮捕される。
　龍王暦一〇五七年：ソルトルムンク聖王国が聖皇国に、国家名を改名。暦も独自に聖皇暦とする。
　龍王暦一〇五八年（聖皇暦二年）：ソルトルムンク聖皇国によって、フルーメス王国滅亡。
　龍王暦一〇六〇年（聖皇暦四年）五月：ソルトルムンク聖皇国によって、クルックス共和国滅亡（第二次ヴェルト大戦終結）。
　同年十二月：処刑が決定されたグラフ将軍、ンド大臣、クレフティヒ大臣達を、ミケルクスド國王妹ユングフラ姫率いるミケルクスド國別働隊が救出。そのまま聖皇国王城に入城。ジュルリフォン聖皇は王城より脱出する（第三次ヴェルト大戦勃発）。
　龍王暦一〇六一年（聖皇暦五年）二月四日：ソルトルムンク聖皇国、王城を奪回。ミケルクスド國王妹ユングフラ姫は行方不明。
　同年同月七日：ミケルクスドの王妹ユングフラ姫救出のために、ソルトルムンク聖皇国との国境付近まで進軍していたラムシェル王率いるミケルクスド國本軍が、王城へ撤退開始。
　同年同月九日：ソルトルムンク聖皇国軍、ミケルクスド國討伐に向け、王城より進軍開始。
　同年同月十四日：バルナート帝國において聖皇国における反逆者のンド元大臣の国葬が執り行われ、聖王国の聖王戴冠の儀式で使用される三種の神器の本物が、バルナート帝國の帝都にあることが、公に公開される。
　同年同月十八日：ソルトルムンク聖皇国への宣戦布告にあたり、ミケルクスド國ラムシェル王が王城において演説（ステイリーフォン聖王子、グラフ将軍同席）。聖皇国を偽皇国と呼称し、ヴェルト八國連合軍の構想及び偽皇国への宣戦布告を語る。
　同年同月二十日：聖皇国の七聖将軍のうち、三将軍が聖皇国から離反。
　同年同月二十五日：滅亡したカルガス、クルックス、フルーメスの三國残党軍が蜂起。同時期に、ナゾレク地方領主であるシェーレも反乱を起こす。
　同年同月二十八日：カルガス等三國の残党軍が、元カルガス國の王城ナゾレク・エクサーズに無血入城。

〔本文〕
「しかしながら聖皇陛下。今、すぐにザッドの宰相として地位をはく奪するなどの強硬措置をとってはなりません！　それを行えば、必ずザッドは、我が聖皇国から離反いたします！」

「うむ、ダードムス！　そちの言う通りだ。確かにザッドを、この状況下で露骨な形で除こうとすると、奴は必ず離反する。それで、多くの反ザッド派が我が陣営に戻ってくるのであれば、朕としても非常に好ましいと思うが、現在、グラフ将軍はステイリーフォン聖王子を擁して、我が國を偽皇国と僭称し、朕を偽者のジュルリフォン聖皇と断じておる！　……であれば、ザッドを除いたところで、何ら状況が好転するわけではない！」

「おっしゃる通りです。二月一八日のミケルクスド國のラムシェル王の演説の際に、グラフ将軍は、陛下がジュルリフォン聖王子の偽者である確たる証言を致しております。グラフ将軍程の人物が、何の確証もないまま、陛下を偽者と断ずるとは思いませんでしたが、まさか、ジュルリフォン聖王子様の幼少の頃の、左頬の剣による突き傷の跡がその決め手になるとは……。
　それで、ミケルクスドの別動隊の将である王妹のユングフラ姫が、グラフ等三人の救出の後に、聖皇国の王城を占拠した意味がようやく理解できました。少しでも戦略的な発想が出来る者ならグラフ将軍たちを救出した後は、元ゴンク帝國領でミケルクスド國の領土となっているヒールテン地方に戻るか、或いは、そのまま北西に向かいミケルクスド國の本国に向かうか、どちらかのはずです。
　あの状況で、我らの王城マルシャース・グールを抑えても、ミケルクスド國では、そこを拠点として版図を広げていく兵力も国力も無く、地理的利点も見出せません。案の定、ユングフラ姫の率いるヒールテン地方軍は、聖皇国内に孤立した状態に陥り、軍は壊滅、精神的支柱とである『王妹』であると同時に戦略的に考えても貴重な駒である『姫将軍』のユングフラを失ったのです。確かに、ユングフラ姫の生死は不明ですが、恐らくはもうこの世にはいないでしょう。
　しかし、それを差し引いても、王城の霊廟の中で眠っているジュルリフォン聖王子の遺体――その時まではステイリーフォン聖王子と思われていた――から、その頬の突き傷の後を確認し、その結果、グラフ将軍をミケルクスド國陣営に加えることに成功したのは非常に大きいでしょう。このグラフ将軍を得た効果は、ユングフラ姫を失ったとはいえ、かなり大きな効果を得たことを意味します。そのため、ザッドを除いたからといって、グラフ将軍たちが、――反ザッド派の立場のままであれば、こちらへの帰属も考えられますが――、今は完全なる反偽皇国連合の、それもグラフ将軍にあってはその連合の要（かなめ）であるため、グラフ将軍派のドンクを始めとする将軍級の者がこちらへ帰属することは先ず考えられません！」
　ダードムスは、こうはっきりと述べた後、さらに続けた。

「……しかしながら、それでも隊長クラスの兵以下については、我らへ帰属する可能性はございます！　そして、それに向けての妙案を実は持っております！」

「ほお！　それを朕に聞かせてもらえるかな？」

「むろんでございます。しかし、その前に一つ、陛下にお尋ねしたいことがございます」

「朕が答えられることであれば良いがの……」
　ジュルリフォン聖皇は、このような問いかけを楽しんでいるようであった。

「その点は大丈夫であると思われます。陛下！　現在、我が國の文官の中で宰相に次いで高い位といえば、内政全般を司（つかさど）る大臣と思われますが、いかがでございますか？」

「うむ。その通りである」

「陛下！　現在、その職に就かれている方は、ヒルガムダス様と記憶しておりますが、いかがでございますか？」

「うむ。それも間違いない！」

「そのヒルガムダス大臣は、陛下に忠実な方でございますか？」

「ヒルガムダスは、朕に対して忠誠心が厚い者であるが、前任のンドのような気骨な者ではない。朕にも忠誠を尽くすが、同じく宰相であるザッドと争うこともない！　優秀な者ではあるが、特筆するほどの能力があるわけでもない。まあ……、であるから宰相の粛清の対象にもならず、ンドの後釜として成り立っていたのであろう」

「成程。そしてヒルガムダス様は、今も陛下の元にいらっしゃいますか？　それとも黒宰相ザッド殿と共に、ヘルテン・シュロスの方に赴いていらっしゃるのですか？」

「そうか！　ダードムス。そちはまだヒルガムダスと会ったことがないか？　確かにそちは、まだ有事の時にしかこのマルシャース・グールにいないから、会っていないかもしれないな。あれは、第一等の大臣でありながら、内政に関わる特別な提案がある時以外は、公の会議にもほとんど出てこない。部下の者を公の会議に出席させ、そこからの報告だけを受けているようだ。
　まあ、そのような新しい政策などに関心のない姿勢が、ザッドからしてみれば、人畜無害の人物として、筆頭大臣に置いておくのに都合が良かったのであろう。今も、朕が王城に凱旋した折、共に随行して、今、王城において内政に従事しておる。それで、そのようなヒルガムダスが何かそちの妙案と関わってくるのか？」

「はい！」
　ダードムスは、そう答えると、そのまま妙案なるものを語り始めた。

「ヒルガムダス大臣に一度お会いしてから決めたいとは考えておりましたが、陛下の話を聞き、私の案に最も相応しい人物のように感じられました。私の案とは、ヒルガムダス様に新しい地位に就いていただくということでございます」

「ほぉ」
　ジュルリフォン聖皇が悪戯（いたずら）小僧のような無邪気な笑いで呟いた。

「大臣のうちで筆頭の大臣であるヒルガムダスに新しい地位に就いてもらうと……。彼の者の性格からして武官とは思えぬ。さりとて、最高位の大臣であり、特に失態を犯した訳でもない。となると、まさかの文官の上の位ということになるが……」

「はい。陛下！　そのまさかでございます」
　ダードムスも平然とそう答えた。

「黒宰相を降格させるのか？！」

「まさか！　それをしては、ザッド殿は至極当然の如く反旗を翻すでしょう。難攻不落の元ゴンク帝國の帝都であるヘルテン・シュロスを拠点として……」

「そうだな。朕がザッドであっても、そうするであろう。しかし、それではヒルガムダスをどの地位につけるというのだ。もしや、朕の代わりに聖皇陛下にでもなっていただく算段かな？」

「陛下！　それは、お戯れが過ぎます。ザッド殿につきましては、引き続き宰相の地位に就いていただきます。そして、ヒルガムダス様にも宰相と同じ地位についていただくのでございます！」

「何！」
　さすがのジュルリフォン聖皇も目を見開いて、ダードムスの目をまじまじと見た。

「宰相が二人になるのか？！　第一宰相、第二宰相のような感じか？」

「いえ！　宰相と同列の地位とは申しましたが、宰相ではありません！　ヒルガムダス様を宰相の地位につければ、ザッド殿とどちらが上位かとかの問題になります。また、ザッド殿からしても、いずれはヒルガムダス様お一人を宰相として、自分は宰相の地位をはく奪されるのではないかという危惧から、やはり離反する可能性はございます。
　元々一人しかつけない地位に、二人をつけるという変則的な在り様は、その地位に就かれるお二人の同意がなければうまくいくものでありません。……ですので、ヒルガムダス様が就いていただく地位は、新設いたしたいと考えております」

「ふむ。それは確かに妙案かもしれぬな！」
　ジュルリフォン聖皇が感心したように呟く。

「はい！　新しく作る地位であれば、ザッド殿からしても宰相の地位から追われる心配もなく、この非常時の便宜的な手段と考えるでしょう。事実、聖皇陛下にはヒルガムダス様を、その新設する地位に就けていただく時に便宜上であると、そう表明していただきます」

「そして、ダードムス。そちはその新設する地位の名をどうするつもりであるのか？」

「丞相（じょうしょう）はいかがでございましょうか？」

「ジョウショウ！　全く新しい言葉だな」

「はい。今までにない言葉であれば、どのような位置づけの地位であるかは、分りにくいものであります。そして、この丞相という地位は、宰相と同じ権限を持つと定めるのです。さらに、今後は宰相と丞相のお二方により、あらゆる案件を合議し、それを聖皇陛下の承認の上に実現させるものと位置付けるのです。
　これにより、今まで宰相ザッド殿の独断で行われていた数々の政策が、二人の同地位の者の合議によって決定していくことになります。この体制を確立させれば、既に寝返った反ザッドの兵たちを、再び、聖皇国の元に帰属させることも可能であります。また、帰属しないまでも中立の立場となったり、積極的に聖皇国に弓を引いたりしにくくなると思われます。
　陛下自身が、自らジュルリフォン聖皇の偽者であると公言しない限り、聖皇陛下の偽者説について、確たる証拠はございません！　確たる証拠のジュルリフォン聖王子様のご遺体は、ここマルシャース・グールの王の霊廟に眠っております。またバルナート帝國が本物と提唱している三種の神器に関しては、この聖皇国にあるものと、バルナート帝國にあるもののどちらが本物かは、絶対に判別できません！
　陛下！　ヒルガムダス様を丞相の地位に就ける際に、便宜的であるということと、既に離反している元聖皇国の兵や民も、再び聖皇国に帰属するのであれば、その罪は一切問わず、さらに働き次第では、厚い恩賞と高い地位で報いる積りであることを明言していただきたいと考えております」

（続く）