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半蔵門かきもの倶楽部コミュの文芸部忘年会『セメント樽の中の手紙』の続き

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(とある賑やかなカフェ。2人の男が、周囲から少し離れたテラス席に向かい合って座り、次回の二時間ドラマについての打ち合わせをしている。企画としては、昨今の過労死報道等を踏まえ、労働問題に関連した『セメント樽の中の手紙』という小説の続きを広げ、二時間に伸ばしたドラマを作るというもの。ディレクターは、向かいに座る脚本家が書いた脚本のあらすじを少し読んで、少し手を震わせながら脚本を閉じる。)

ディレクター:「セメントマン」
脚本家:「いや」
「いや、じゃねえよ! なんなんだよ、これ! 何で亡くなった恋人、セメントマンになるの! 松戸与三が手紙を読むくだり、全然、関係ねえだろ! というか、セメントマンって何だよ。アメコミじゃねえよ!」
「二時間ドラマだよ!」
「言われなくても、俺は分かってるよ! だいたい、何を救うんだよ。このセメントマンってのは」
「決まってるだろ! 傾いた会社の経営だよ!」
「復讐しろよ! 会社の作業で死んで、訳の分からないセメントマンになったのに、なに、会社助けてんだよ…(ディレクター、脚本を少し読んで)しかも、デスクワークしかしないってどういうことよ! 力持ち設定、どこに活かされてるんだよ!」
「力強くて、鉛筆、ボキボキに折っちゃうんだよ!」
「地味に、経営圧迫してるだろ! どう展開するんだ、これ!」
「あ、店員さん。これ、おかわり」
「お前、このタイミングで、おかわりすんな!」
「あ、シロップは要らないです」
「無視すんな! ったく、良い度胸だな、全く。だいたい、なんで、一昨日に打ち合わせた内容の原型を留めてないんだよ」
「いや、セメントマンになった方も、原型留めてないですし」
「そこ、繋げるんじゃねえよ! 不謹慎だろ!」
 (脚本家、照れた仕草をする。)
「いや、褒めてねえから! 脚本家だったら、不謹慎の意味くらい分かれよ! ったく、勘弁してくれよ、あと、撮影まで10日間しか無いんだぞ。脚本無くて、どうすんの」
 (脚本家、ぶつぶつ言い始める。)
「聞こえねえよ」
 (脚本家、口をパクパクさせる。)
「喋ってねえだろ!」
「いや、だからさぁー、とっておきの教えるって」
「なに、もったいぶってんの! さっさと、見せろよ」
 (ディレクター、脚本家からテーブル越しに脚本を受け取るも、読まずに、)
「どういう内容?」
「手紙、届くじゃないっすか」
「ああ、届くってか、見つけるね。お前、ちゃんと、原作読んでる?」
「まあ、それはいいとして」
「まあ、良くないけど、話、続けて」
「で、松戸さん、手紙食べちゃうんすよ」
「いや、喰わねえよ」
「いや、食べちゃうんですって」
「なんで」
「やっぱ、そこは勢いっていうか」
「じゃあ、お前も勢いで、この脚本喰ってみろよ!」
 (脚本家、脚本を齧る。ディレクター、大慌てで引き離して)
「本気にすんなよ! 頭おかしいだろ、お前!」
 (脚本家、再び照れる。)
「だから、褒めて無いから! で、手紙食べてどうすんの」
「封筒に書いてた住所に手紙送るんすよ。『さっきのお手紙、お返事なあに』って」
「意味不明だけど、もういいや。で、どうなるの?」
「奥さんも、手紙食べちゃって」
「いや、だから、食べないって」
「それで、奥さんも手紙送るんすね、『さっきのお手紙…』」
「歌のまんまだろ! で、オチは、なんなんだよ」
「その手紙のやり取りを続けて、そのうち、ポケベルになって、携帯のメールになって、LINEになって…」
「長生きだな! というか、ポケベルになった時点で、食べれないだろ!」
「あっ」
「気付けよ! というか、オチがねえじゃねえか」
「結局、松戸さんは、内容を知れないまま死期を迎え…」
「いや、松戸さん、最初に手紙読んでるよ! ちゃんと原作読めよ! ほんと、無茶苦茶だな、お前の脚本」
 (脚本家、自分の身体中を撫で回すようにして照れ始める。)
「だから、褒めてねえからな! なんだ、その照れ方、気持ちわりぃな。おい、他の脚本無いのかよ」
「なんで、あるの知ってるんすかッ!」
「いや、知らねえけど、流れから、どうせある気がしたんだよ! 3つも作るなら、まともなの1つ作れよ!」
「3つ目、読む前からまともじゃないって決めつけんなよ!!」
「そこは、まともな反論するのかよ! いいよ、悪かったよ、だから、その脚本、読ませてくださいね」
 (脚本家、腕組みして踏ん反り返る。)
「分かり易いな、お前。いいから見せろよ!」
 (ディレクター、机の上に置いてあった脚本を奪い取って、中身を見る。)
「って、何も書いてねえじゃねえか!」
「だから、口頭で説明しますって!」
「だからじゃねえよ! じゃあ、製本すんなよ! 紙、もったいないだろ、ったく」
 (脚本家、その脚本を奪って食べ始める。)
「だから、そういう振りじゃねえんだよ! いいから、説明しろって!」
「もったいないなー」
「お前が言うなって。いいから説明しろっ」
「いきますよ!」
 (脚本家、柏手を打つ。ディレクター、苦笑いする。)
「時は、20世紀初頭。工場内で手紙を読み終える松戸与三…。そこに、彼の左側から、眼鏡をかけたスーツ姿の初老の男がやってくる! その男は、道化師の様な仕草と、独特な口調で、こう語る。『妙ですねえ…気になりますねえ…僕としたことが!』」
「いや、お前の脚本の方が気になるよ! いつの間に殺人事件になってるの」
「そして、与三の右側から、上下黒の衣装を身にまとった、妙な髪型の男が! 彼は、顎に手を当て、同じく独特な口調で、『んー、お察しします』と言いながら登場」
「名探偵、2人も要らないよ! 意味不明な上に、ギャラ高いな、このドラマ!」
「そして、与三の目の前からは、時空を破って、東尋坊から刑事が登場し、与三に自白を迫る!」
「いや、そんな時空を破るとか、そんな能力ねえよ! だいたい、残り2人の方が、超能力者っぽいからな。特に、右から来た方は。…ったく、何なんだよ、お前の脚本…。まあ、セメントマンよりは、マシかもな。で、犯人は誰なんだ。スタートから自白を迫るんなら、松戸与三じゃ無いんだろ」
「決まってるだろ!」
「誰なんだよ! 分かんねえから訊いたんだ、答えろよ!」
「社会だよ!」
「これだけ、探偵の雁首揃えて、フォークソングみたいな答えだな! それじゃ推理要らねえよ!」
「だから、陽水が要るんだよ!」
「ギャラ払えねえよ! シュールすぎて苦情が来るだろ、ったく…」
「じゃあ、これはどうなんだよ!」
 (脚本家、ディレクターの目の前に、脚本を叩き付けるように置く。)
「まだ、あんのかよ! お前、メンタル強えな! で、これ、どういう話なんだよ」
「手紙を読み終えた松戸与三は、手紙を書いた女性の家に行く」
「家行っちゃうんだ。行動派だな」
「でも、木板でできた塀の隙間から、縁側で嘆き悲しみ、亡き夫に会いたいと言っている女性の姿を目撃してしまい、与三は、入る勇気が出ない」
「まあ、そうね。で、次は」
「どうしようかと思案していた与三は、たまたま、ある少年に出会う」
「ふむ」
「で、その少年は、自分は幽霊が見えるのだと、与三に打ち明ける」
「あ、ああ…」
「で、与三と少年が協力し、亡き夫の霊と交信して、彼の望みを叶えてあげて、妻も救われる。それで、夜遅くに家に帰った与三は、妻の寝言を聞いて…」
「どこのナイト・シャマラン映画だよ! ふざけんじゃねえよ。最後なんて、丸パクリじゃねえか」
「物語なんて、どれもパクリだよ!」
「逆ギレすんなよ!」
「じゃあ、これ読めよ!」
 (脚本家、ディレクターの目の前に、再び脚本を叩き付けるように置く。)
「まだ、あんのかよ!」
「最高傑作だ」
「どれ。えっと…松戸与三は、手紙を持って家に帰る途中、ふとした拍子に、廃れたトンネルをくぐる。すると、そこは見たことも無い歓楽街が広がっており…湯じいじなる人物に、名前を奪われ、与三から与にされ…また、パクリじゃねえか! しかも、セメントマンが風呂に入りに来るって、なんなんだよ! しかも、括弧して、『設定として、勤務時間中に、サボって来店。パチ屋が空いてなかったことを来店の理由にし、何度も言い訳をする』って。働けよ、セメントマン! コイツ、全然、真面目じゃねぇじゃねえか!」
「やっぱ、セメントマンの魂が救われないといけないだろ」
「昇天は、昇天でも意味が違うだろ! 気持ち良くて、昇天しましたとか。ふざけんじゃねえよ! まあ、原作はそういうメタファーの映画だけど、そういう魂の救われ方じゃ無いだろ!」
「あー、あ。あー、あああ。ふぁ〜あっ。で、やっぱ、俺、思うんだ」
「テンポ刻んで、背伸びして、しかも、あくびまでしてんじゃねえよ! で、なんなんだよ」
「やっぱ、原作が一番だな、って」
「これだけ、改変しといてお前が言うな!」
 (以上で、2人揃ってお辞儀して、『どうもありがとうございましたー』で、暗転、閉幕)

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