■
少年が、家族と一緒に歩いている。
父と母。隣には少年の弟。皆かしこまった服装。
母「最年少受賞おめでとう。よく頑張ったわね健介」
健介「でも、今日のは前哨戦だし、次で、成果を出さないと」
父「ま、健介。お前にはそれができるんだから、頑張れよ！」
健介「わかってるよ、親父」
智樹「兄貴って、滅茶苦茶頭いいよな。誰も勝てないよね、勉強に関しては」
母「でもほら、智樹もサッカーで今度大会出るのよ。２人とも自慢の息子なんだから」
彼女、４人に割って入る。
ア「健介君って、１６歳なのにあんなに立派な研究して、私信じられないなあー！」
一同、驚く。
智樹「あーちゃん、来てたの！？」
ア「うん。なんか興味あってさ」
健介「そうだったんだ…ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ。むしろ、君に自分に甘えちゃう気がして怖いなあ。でも、あーちゃんのお蔭で俺、励みになってるんだ」
ア「アハハハハ！私は全然わからないけど、健介君って、本当に将来、世の中を変える事ができちゃう気がするの！」
健介「ありがとう。あーちゃんは、ずっと前から、支えてくれてるから」
智樹「あーちゃんって、兄貴には勿体ないくらい可愛いよね。でも、いつも明るくしてくれるから理屈っぽい兄貴にある意味ちょうどいいかもね！」
ア「なんか、健介君も智樹君も、面白いよね。２重に」
健介「２重に？」
ア「ウフフフフ」
母「あーちゃんがいてくれて、なんだか楽しくなるわ。ずっと健介の力になってくれて有難うね」
ア「ウフフ、私もこの間、この町に越してきた所ですから。健介君と付き合えて嬉しいですよ！」
■
翌日。
彼女はまた、彼の居場所を探る。
とある研究室。
ア「何してるのー？」
健介、びくっと震える。
後ろを振り返る。
健介「あ、あーちゃん、今日はもう来てたんだ？…あれ、鍵をかけていたのに、一体どこから？」
ア「アハハハハ！ごめんねえ。興味あってさー」
健介、戸惑いながらも、彼女に親切に説明を始める。
健介「量子アニーリングによる離散フーリエ変換の実験。組み合わせ最適化問題の解決を目指してるんだ。量子ゲート方式より、デコヒーレンスの影響を受けにくいからね」
ア「アハハ！凄い！わからないなあー！健君って無茶苦茶頭いいねー」
健介「いやー、大雑把な説明でごめん。中々結果が出ないから、これでも、結構焦ってんだ、へへ」
彼女は部屋を見渡す。
無機質で角ばったものばかり。味気がない。
箱のような物。中にいくつもの機器が存在。
レンズのような小さな装置が沢山。それらがケーブルで１つ１つ繋がれている。
健介「あ、それ触らないでね。スピングラスの基底状態を一定にしないと、トンネル効果の発生率が落ちるんだ」
ア「難しいねー」
■
夕刻。
彼女と健介、電車へ。
流れる車窓の風景。赤い太陽。
健介、夕日に見とれる。
車掌『ご乗車有難うございます。この電車は…』
彼女、健介が口を開くのを楽しみに待つ。
健介「こんな綺麗な夕日を、ずっと眺めていたい」
ア「アハハハ、渋いなー！」
健介「…笑ってくれるのも、嬉しいよ。それが君の素敵な所さ。俺、君がいなかったらどうなってただろうって思う」
ア「ウフフ、私も、健君のそういう所好きよー」
健介「あーちゃん…俺、本当はこのままでいたいかも。今大詰めの論文、実は、上手く行ってないんだ。でも、駄目でもいいかなってさ。１位になったら、アメリカの大学に進学する事になる。あーちゃんにも会えなくなるし」
ア「その年齢で飛び級で大学行けるなんて、あなただけよね！」
健介「でも、なんか、普通に生きるのもいいかな」
ア「アハハハハ！そうだよね。やっぱり健君、２重に面白いなあ」
健介「うーん、君の言う『２重』って何か知らないけど…まあ、全然いいんだ。あーあ、俺、何故こういう人生なのかなって思うよ」
ア「え…あなたは、自分の生きる意味とか、悩むの？」
健介「そりゃ悩むよ。でも人に言えないんだ。不幸とかじゃないじゃん？だから悩んじゃいけないのかなって」
彼女。心底興味深そうな目。
ア「…やっぱ考えるんだ…」
健介「あーちゃん、それ、誰でもきっと考えるよ？あーちゃんだって、考えた事ある筈だよ」
ア「そうね、そうだけど…聞いてもいい？じゃ、『なぜ自分はここに存在するのか』って考える？」
健介「ん？」
ア「アハハ、答え難かったらいいよ！」
健介「何が聞きたいのかわかんないけど…自分は自分だと思うし、他の誰でもないと思うよ？それをなぜかって考える事もある。そういう事？」
ア「そっか、考えるんだ…ウフフフ…」
健介「え？」
彼女、涼しい顔で窓の外の一点を見つめる。
その目線を保ったまま話す。
ア「健君。私がいなかったら、どうなっただろうって言った？」
健介「さっき？言ったけど」
ア「私、知ってるよ。教えようか？」
健介「え？」
ア「あなたは、受賞できなくって、嫌になって研究やめるの。そして平凡な高校生を続ける。その後大学受験にも失敗してね。面白くない会社員になる。そして３０歳で結婚するけど、奥さんとも上手く行かず…」
健介「…何、言ってんの？なんで、そんな事わかるの？」
ア「アハハ、知ってるよ。調べたもん」
そして彼女、健介の手を握る。
ア「大丈夫よ！だって私が応援してるんだから！アハハ」
車掌『えー、ご利用有難うございました。次は終点…』
彼女、健介と駅で別れる。
健介、蟠りを抱えながらも自宅へ。
■
彼女、建物の前に。
ア「すみません。ここは何をする所？」
通行人「え？何って、ただの本屋だけど」
ア「本って、あのパラパラめくる物？」
通行人「は…？」
書店の中へ。
慣れない匂いがする。
何冊も積み上がった、紙製の本。
ア「なんか疲れそう。ま、いっか」
書店の外へ。
何件も家が立ち並ぶ。
夜なので、街灯が光っている。街灯には虫がたかる。
近くには駅。降りてくる人の集団。それぞれが思い思いの会話。
ア「それにしても、凄いなあ」
そう言って彼女は、腕時計のスイッチを押す。
■
翌日。
彼女、健介の自宅に。
弟の智樹、映像が映る機器を手に、黙々とゲーム中。
ゲーム（男の声）『まさかキミは、異なる時間軸から来たというのか？この荒廃の時代に！』
健介「お前ずっとゲームしてない？」
智樹「わかってるよ、もうやめるし」
ゲーム（女の声）『まって！このセカイをかえられるのは、アナタしかいないのよ！』
彼女、狙ったように口を挟む。
ア「ねー、聞いてもいい？この世界って何の事？」
智樹「え？何の事って、ゲームの中の世界？」
ア「ふーん。現実と、このゲームの中は違うって思う？」
智樹「えっ…え？何が聞きたいんですか？」
智樹、混乱。
健介、彼女の言葉に妙な空気を感じ、彼女に視線。
ア「アハハ！ごめんね。人は昔から現実を何かに投影するの好きだなって思っただけ。アハハハ！」
健介「あーちゃん、なんか昨日から変だよね。何聞きたいの？」
智樹「あーちゃん、兄貴の影響でも受けたんじゃ？」
母の夕食を呼びかける声。
３人、会話を切り上げる。
健介、やりきれない表情。
母「次の研究は、健介きっと１番になるわ！」
父「でも、お前が自分で頑張る道だぞ」
健介「うん。今結構厳しいけど、でも全力で頑張る。あと問題が１つ解決すればいいだけなんだ」
彼女、４人と食卓を囲みながら、一人テレビに視線。
キャスター『次です。オーストラリア機が未だ行方不明となっている事件で…』
父「しかしびっくりしたよ。お前みたいに理屈っぽい男が彼女作るなんて！」
智樹「そう、俺もびっくりした。兄貴に彼女？って。しかも彼女から告白してきたんでしょ？」
健介「…そうだけど、俺もあーちゃんの事本気で好きだよ、だからこそ研究は最高の成果出したくて…」
ア「フフフ、それよりさ」
健介「…え？」
ア「飛行機、行方不明なんだ？」
健介「え？ああ…」
ア「フフ、あのさ、明日、インドの海岸で見つかるよ」
■
翌日。
彼女は健介の研究室へ。
健介の姿なし。彼女は機器を観察。
ア「フフ、この時代なりに工夫してる」
男が入ってくる。
彼女は質問。
ア「健介君、探してるですけど？」
研究員「いや、今日は体調が悪いって連絡が…あなた誰？もしかして、彼女さん？」
ア「そうですよー」
研究員「びっくりした、健ちゃん彼女いたんだ！あいつ、昔からモテないタイプだと思ってたのに…」
ア「アハハ！あなた、昔の事を覚えてるの？」
研究員「え？」
ア「アハハハ！凄い、昔の記憶があるなんて！やっぱ２重に面白いなあ」
研究員「何がです？」
ア「あら、研究の邪魔ね。失礼しまーす」
彼女は去ろうとする。
しかし、立ち止まる。
ア「でもなぁ…」
研究員「え？」
ア「ウフフ…あの装置さ、観測によるゆらぎを減らす目的でしょ？でもあれじゃ、量子エンタングルメントの発生率まで減らないかな？パリティをちゃんと実装しないと駄目よ！アハハ！」
彼女、腕時計のスイッチを、わざとその研究員の目の前で押す。
彼女の体、瞬時に虚空に消える。
研究員、息を飲む。
彼女がいた場所、何もなくなる。
■
同日。
彼女は健介の自宅前。
母「あら、こんばんは。健介は今散歩に出てるの。昨日から落ち着かないみたいでちょっと心配で」
ア「上がってもいいです？」
健介の部屋。
本棚に、本が入っている。
ページを捲る。
紙切れが挟んである。以前見た本屋の名前が印字されている。
健介「…あーさん」
背後から声。
彼女は大笑い。
ア「あーさんって！アーッハッハ！」
健介「笑い事じゃないんだ。俺、もうあなたの事をあーちゃんと馴れ馴れしく呼べない」
ア「なあに？真剣な顔してるけど」
健介「今日ニュース見た。君の言う通りだったね、飛行機。なんで知ってる？それに、さっき研究室から連絡があった。君でしょ？突然姿を消したって」
彼女、相変わらずニヤニヤ。
健介「教えて…君は何者なの？」
ア「別にー。でも、私あなたの事は好きよー。応援したいし」
健介「どういう事？」
ア「だって、古い時代の人が一生懸命頑張ってるの見ると面白くて！」
健介「そ…その言い方！ああ、本当にそうなのか！」
ア「アハハ！何か気づいた？」
健介「笑われると思って、言わないでおくつもりだった…。実は…俺、あなたは未来から来たんじゃないかなって」
健介、緊張しながら話す。
彼女、その表情の観察が楽しい。
ア「アハハハハ！やっぱそう思うよね！ま、そういう事よ！」
健介、震える。
健介「本当なのか…？」
彼女、健介が次に何を話すか楽しみに待つ。
健介「でも待って。わからないんだ。相対性理論では、未来へは可能でも、過去へはタイムトラベルできない筈だ。タキオンか？超光速移動であれば時間の流れはマイナス…でも、生身の人間が丸ごとタキオン化するなど…」
ア「アッハッハ、こんな時まで理屈っぽいのね、それはそれで面白い！」
扉が開く。
智樹、健介の部屋へ。
智樹「聞こえてたよ。俺も興味がある」
ア「みんな真剣ね！ウフフ」
智樹「教えてよ。本当に未来から来たの？なら、あなたは俺たちの何なの？タイムトラベルってのが本当なら、何の目的で、この時代、この兄貴の所に…」
健介「そうだよ。それに過去にタイムトラベルができる技術があるとして、未来に影響ないの？『タイムパラドックス』はどうなるんだ？」
ア「プッ」
彼女、今までで一番激しく笑う。
ア「アーッハッハッハ！タイムパラドックスって！そ、そんなの、ある訳ないじゃん！」
健介「え？嘘？」
ア「タイムパラドックスなんて、あなたたちが言う事にびっくり！アハハ！やっぱ２重に面白い！」
健介「まさか、そうすると多世界解釈か？」
智樹「多世界解釈？それ俺のゲームに出てきた！パラレルワールドみたいなのでしょ」
健介「そうだ。信じがたいけど、この世界と独立に別の世界が存在し、ワームホール等で繋がっている…しかし…しかし！俺の解釈では、並行世界は同一の過去から枝分かれするから、結局パラドックスは解消しない…ああ、もう俺には全く分からない！」
ア「もー！２人とも難しく考えすぎよ。相対性理論とか多世界解釈とか、そんな難しい話ないよ。本当は、ものすごーく、単純な事よ！」
健介「…それって、結局全部冗談で、本当は未来から来てないって事？」
ア「私は２２世紀から来たよ」
健介「２２世紀！？タイムマシンができたとしても、ずっと先と思ってた…あと１００年ちょっと？」
ア「健介君」
彼女は、健介の目を見る。
ア「別に、何も企んでないよ？ただ、あなた本当だったら、この前の研究発表も受賞できなかった筈なの。そして、この前も言った通り、平凡な人生を送る。ちょっと可哀想だったからさー。ウフフ。助けてあげようかなって思って。それだけよ。力を出し切れずに人生終わるなんて、嫌じゃん？頑張って欲しくてさ！」
健介、無言の後、口を開く。
健介「…本当にそんな軽い話？…あの、さっきタイムパラドックスは起きないって言ってたけど…未来はちゃんと変わるの？俺が平凡な人生を送るという世界は、存在しなくなるの？」
ア「それは…まあ、それはちゃんと変わるのよ。うん。難しく考えない方がいいわ！アハハ！遅くなると悪いから、私はもう帰るね！またね！」
彼女、腕時計を使う。
彼女の体、一瞬で虚空へ消える。
残された２人、その様子にただ呆然。
■
翌日。
夕刻、彼女、とある会議室に出現。
ア「ほんと、頭でっかちな子だなあ」
健介の姿。
ア「こんばんは。昨日、疲れさせちゃってごめんねー！」
研究員「あーっ！あなたは昨日の！」
健介「あーちゃん…ここは何だから、隣で話そう」
会議室隣の部屋に移動。
健介「俺、正直、あーちゃんにもう怖くて会いたくないって思ったんだ」
ア「えー！寂しい事言わないでー」
健介「でもね。俺、君の正体が何者だろうと関係ないって思う事にするよ。未来人である君は、ずっと俺を観察してたんだね。でも俺は今も君を好きだよ。今まで俺たち恋人同士だった。俺にはそれだけの事。いつも研究室に来て応援してくれる事、純粋に嬉しいから。あーちゃんを信じてる」
ア「アハハハ、面白、じゃなくて、嬉しいなあ！健介君って優しいねえー！気持ちはそれだけ？」
健介「いや。俺、本当は悔しいんだ。君は昨日あの研究員にすごいヒントをくれたらしいね。君は、ずっと俺を想ってわからない風を装ってくれてた。でも本当は俺たちの研究も全部理解してたんだ」
ア「う〜ん…ていうか健介君、自分が一番って思いたいのね。研究で絶対に負けたくないってさー。そういうプライド、でしょ？」
健介「…そうやって、人の心が読めるのも未来の技術かい？」
ア「アハハハ！そんな訳ないじゃん！もう、健介君、ごめん、そういう所本当面白い！」
健介「いいよ。ハハ、俺あーちゃんに勝てないよ。第一、そんな、一瞬で姿を消せる様な人だもん」
彼女、腕時計をわざとちらつかせる。
ア「ん？これの事？」
健介、その腕時計をぼんやり見つめる。
健介「…この機械、もしかして、量子効果で動いてる？これって…」
健介、彼女にその時計を借りる。
彼女、にやけた表情。
健介「まさか…この方法なら波動関数の収縮を極端に抑えられる。デコヒーレンスの影響を受けずにＱビットの重ね合わせ状態が保持できれば…これだ！これがあれば論文が完成する！いや、それだけじゃない。物凄い事が…！」
ア「アハハ！良かったじゃん」
彼女、健介が誘導に従ってくれる事を喜ぶ。
健介「あーちゃん…俺、これを世に出してしまっていいの？本当の歴史ではきっと、この方式のコンピュータの実現なんてまだ数十年先だろう？今、未来人である君の機械の仕組みを知り、それを世に出てしまう事は、歴史を変えるんじゃないのか？」
ア「アハハ、知らないよそんなの。まだ気にしてるの？タイムパラドックスなんて無いよ。あったら、私がこの時代にいる時点でパラドックスだよ！」
健介「それは…」
ア「やりたいようにやれば？何も心配しなくていいよ。思うままにやって！私に何を聞いてもいいよー！」
健介「いや…その…俺、何か間違っているんじゃないかって。未来人の力を借りて研究を発表するなんて…俺はどうすれば…本当に、こんな事していいの？何か裏があるんじゃ？」
彼女、疲れを感じる。
が、見せないように話す。
ア「あのねー？裏なんてないよ。私は単にあなたに成功して欲しいなーって。別に何の役に立たなくてもいいけど、私はあなたの事応援したいって感じただけ！アハハ」
健介「うーん…」
ア「健介君。怖いって思ってるのはあなたでしょ？アメリカの大学行くの迷ってるから。でも、いいじゃん。あなた、きっと凄い発明できるよ！それに、私のヒントがあっても、あなたが仕上げた研究はあなたのものでしょ？」
■
翌日。
彼女、昼に一人で書店へ向かう。
本が沢山あり、天井からぶら下がった板に『物理・科学』等と、分類名が書いてある。
『セルオートマトンと生命』という本がある。
本には『ライフゲームというプログラムでは、以下のようにドットを配置するだけで、ドットが自然増殖します。その動きはまるで微生物の様です。ある意味では、コンピュータ上に作られた生命と言えるかもしれません』とある。
店主「お姉さん、悪いけど、もしかして、あの健介君の恋人さんかい？」
ア「なーにお婆さん。そうですよー？」
店主「こりゃ、美人さんねえ。あの子もこの辺じゃ昔から凄く頭のいい子だったけど、おまけにこんな恋人も作ってねえ」
ア「ふーん…やっぱり昔の記憶があるのねー」
隣で、急に声がする。
智樹「お婆さん！その人、気を付けた方が…」
ア「あ、智樹君いたんだー」
智樹「って、近づかないでくれる？俺、あんたの事怖いんだ。兄貴はどう感じてるか知らないけど。ここで何してるの？」
ア「アハハ、ちょっと興味わいて。別に私、あなたたちの何でもないから大丈夫よー」
彼女、本を読みながら生返事。
智樹「兄貴の研究手伝ってるらしいけど、何か企んでるの？そうすることで未来が変わる事があるわけ？」
ア「もー！あなた達の感覚って本当面白いね！それしか無いの？別に何もないよ」
智樹「じゃなんで兄貴の研究、手伝ってくれるの？」
ア「面白いじゃない？それだけー」
そこへ、智樹の衣服のポケットがブルブルと振動。
智樹、ポケットの携帯電話を取り出す。
画面を確認する。
智樹「…まだ確定じゃないとは、書いてあるけど…兄貴、研究１位通過かもしれないって…」
ア「あら。アハハハ！良かったじゃない」
■
彼女、健介の研究所へ。
ア「健介君？」
健介「あーちゃん！き、聞いてよ！俺研究が１位になるかもしれないって」
ア「弟君から聞いたよ！アハハ！良かったじゃん」
健介「それが、凄いんだよ。こんな研究は見たことがない、ってさ。多分、本当にアメリカの大学に行くことになるよ」
ア「あーそうなんだ。へー、なんか寂しいなあー」
彼女、目線は手元の腕時計へ。
健介「しかも先生が言うんだ！この発明は時代を数十年先取りしてるってさ！凄くない？」
ア「…あと３日分かあ…いっか、飽きてきたし…」
健介「え？今何て？」
ア「うん、何でもないよ、アハハ…」
■
３日後。
彼女はアメリカに姿を現す。
西洋の街並み。
車が往来。一つ一つが排気ガスを吐いている。
英語で様々な肌の色の人、会話をしている。
ア「今日までかあー！」
彼女、健介の居場所を突き止める。
ア「お疲れー！」
健介「…あーちゃん！まさか、あの腕時計でここまでワープしてきたの？」
ア「決まったんだって？おめでとー！」
健介「ありがとう。正式に審査が通った。先生も、信じられないって驚いてた。俺も信じられない。これ世界が変わるよってさ。理論上、計算速度がほぼ無限大のコンピュータもできるって」
ア「凄いねー！私はあれ見せただけで、書いたのはあなたよ！アハハ！」
智樹「あっ…」
母「あら、あーちゃん。こんな遠くまで来てくださって」
父「ああ、お陰様で…」
ア「皆さん、この度はおめでとーございます！私、こんな立派な人とお付き合いできて嬉しいなあ、アハハハ！」
■
その夜。
授賞式を終えた健介。
健介と彼女、高層ビルのレストラン。
健介「未成年だから、酒は飲めないけど…乾杯」
ア「かんぱーい」
健介「君の為に、用意したんだ」
ア「そうなんだー、有難う！美味しいよ…まあ味覚は感じないけど…」
健介「え？今なんて？」
ア「何でもないよ！アハハ」
健介「そ、そう…。でも俺、君には本当に感謝してる。君がいなければ俺は、ここまでできなかった」
健介、窓の外を眺める。
健介「ああ、こうしてアメリカの夜景を見てると、自分達は特別な存在だと思える…」
眼前に広がる無数の光。
建物の並びは、まるで法則性があるかのよう。
目を凝らすと一人一人の人間が確認できる。
それぞれが何かを考えている様に、不規則に動く。
健介「あーちゃん…君が未来から来たと聞いた時は驚いた。ねえ、もし周りから『あんな論文を、どう思いついたんですか』って聞かれたら、俺どう答えればいいかな。未来人の助けを借りて…なんてね、ハハ」
彼女、何も言わない。
ただ景色を眺める。
健介「俺、絶対君を忘れない。この世界で俺のもとにだけ、未来人である君が現れた。俺だけに与えられた運命だったんだ。だったらこの運命、絶対に最高の形にして見せるよ！俺も、今でも信じられないさ。こんなＳＦ小説の様な話が、現実に起きるなんて…」
ア「現実、かあ」
健介「え？」
ア「あのさ。健介君」
彼女、勿体ぶったように発言。
健介「な、何？」
ア「聞いてもいい？計算速度がほぼ無限のコンピュータって、さっき言ってたよね？そんなものできたら、コンピュータ上で、何もかもできちゃうよね？」
健介「えっ、まあ、どんな物だって、コンピュータでシミュレーションで作れてしまうだろうね。それが、何か？」
ア「じゃあ、例えばこの広がる夜景も、寸分の狂いもなく、完全に作れる？」
健介「そりゃ作れるだろうさ。バーチャル空間上でならね。朝飯前だろう」
ア「じゃあ、ここにいる人たちも？」
健介「人間だって、究極的には素粒子の集まりだ。つまり、全ての素粒子の位置関係やエネルギー状態を完全にシミュレートすることができれば、人間そのものをバーチャル空間上にそっくりそのまま再現する事も可能だろう…って、ちょっと待ってよ。なんでこんな事聞くの？あーちゃんは２２世紀から来たんだから、わかるでしょう？」
ア「フフフ…アーッハッハッハ！面白かったなあー、健介君。本当に面白かった！今まで有難う！」
健介「な、何なの？」
ア「そろそろ、気づいてもいいかなーって思うけどなあ。私、言ったでしょ？このタイムトラベルは、タイムパラドックスが発生しないって。しかも方法はものすごく単純って！アハハ。頭のいい健介君だもんね。もうわかるでしょ？」
健介「え、それって、つ＃り、え、いや、そ＃んなはずは…そ、そんな…ま＃か、そん＃バカなことが…そ＃なバカ＃こ＃が…」
ア「健介君。あなたは紳士的だし、まあ優しい人だったね。ちょっと夢見がちで自分の事ばっかりだったけど！アハハ！でも、私あなたの事、まあ好きよ。ま、あなたに最高の成果を出させてあげたから、もういいでしょ？アハハハハ！」
健介「ま＃＃＃＃＃＃」
ア「ありがと、健介君。また気が向いたら、２１世紀に来るかも！まあ、あなたと会った事はこれで永遠に消えちゃうけどね！アハハハハ！」
健介、体が素粒子レベルで分解。
音声、少しずつ小さくなる。
広がる風景、人間、全て分解。
視界、ホワイトアウト。
■
少年が、家族と一緒に歩いている。
父と母。隣には少年の弟。皆かしこまった服装。
母「最年少受賞おめでとう。よく頑張ったわね健介」
健介「でも、今日のは前哨戦だし、次で、成果を出さないと」
父「ま、健介。お前にはそれができるんだから、頑張れよ！」
健介「わかってるよ、親父」
智樹「兄貴って、滅茶苦茶頭いいよな。誰も勝てないよね、勉強に関しては」
母「でもほら、智樹もサッカーで今度大会出るのよ。２人とも自慢の息子なんだから」
彼女、４人に割って入る。
ア「健介君って、１６歳なのにあんなに立派な研究して、私信じられないなあー！」
一同、驚く。
智樹「あーちゃん、来てたの！？」
ア「うん。なんか興味あってさ」
健介「そうだったんだ…ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ。むしろ、君に自分に甘えちゃう気がして怖いなあ。でも、あーちゃんのお蔭で俺、励みになってるんだ」
ア「アハハハハ！私は全然わからないけど、健介君って、本当に将来、世の中を変える事ができちゃう気がするの！」
健介「ありがとう。あーちゃんは、ずっと前から、支えてくれてるから」
智樹「あーちゃんって、兄貴には勿体ないくらい可愛いよね。でも、いつも明るくしてくれるから理屈っぽい兄貴にある意味ちょうどいいかもね！」
ア「なんか、健介君も智樹君も、面白いよね。２重に」
健介「２重に？」
ア「ウフフフフ」
母「あーちゃんがいてくれて、なんだか楽しくなるわ。ずっと健介の力になってくれて有難うね」
ア「ウフフ、私もこの間、この町に越してきた所ですから。健介君と付き合えて嬉しいですよ！」
■
翌日。
彼女はまた、彼の居場所を探る。
とある研究室。
ア「何してるのー？」
健介、びくっと震える。
後ろを振り返る。
健介「あ、あーちゃん、今日はもう来てたんだ？…あれ、鍵をかけていたのに、一体どこから？」
ア「アハハハハ！ごめんねえ。興味あってさー」
健介、戸惑いながらも、彼女に親切に説明を始める。
健介「量子アニーリングによる離散フーリエ変換の実験。組み合わせ最適化問題の解決を目指してるんだ。量子ゲート方式より、デコヒーレンスの影響を受けにくいからね」
ア「アハハ！凄い！わからないなあー！健君って無茶苦茶頭いいねー」
健介「いやー、大雑把な説明でごめん。中々結果が出ないから、これでも、結構焦ってんだ、へへ」
彼女は部屋を見渡す。
無機質で角ばったものばかり。味気がない。
箱のような物。中にいくつもの機器が存在。
レンズのような小さな装置が沢山。それらがケーブルで１つ１つ繋がれている。
健介「あ、それ触らないでね。スピングラスの基底状態を一定にしないと、トンネル効果の発生率が落ちるんだ」
ア「難しいねー」
■
夕刻。
彼女と健介、電車へ。
流れる車窓の風景。赤い太陽。
健介、夕日に見とれる。
車掌『ご乗車有難うございます。この電車は…』
彼女、健介が口を開くのを楽しみに待つ。
健介「こんな綺麗な夕日を、ずっと眺めていたい」
ア「アハハハ、渋いなー！」
健介「…笑ってくれるのも、嬉しいよ。それが君の素敵な所さ。俺、君がいなかったらどうなってただろうって思う」
ア「ウフフ、私も、健君のそういう所好きよー」
健介「あーちゃん…俺、本当はこのままでいたいかも。今大詰めの論文、実は、上手く行ってないんだ。でも、駄目でもいいかなってさ。１位になったら、アメリカの大学に進学する事になる。あーちゃんにも会えなくなるし」
ア「その年齢で飛び級で大学行けるなんて、あなただけよね！」
健介「でも、なんか、普通に生きるのもいいかな」
ア「アハハハハ！そうだよね。やっぱり健君、２重に面白いなあ」
健介「うーん、君の言う『２重』って何か知らないけど…まあ、全然いいんだ。あーあ、俺、何故こういう人生なのかなって思うよ」
ア「え…あなたは、自分の生きる意味とか、悩むの？」
健介「そりゃ悩むよ。でも人に言えないんだ。不幸とかじゃないじゃん？だから悩んじゃいけないのかなって」
彼女。心底興味深そうな目。
ア「…やっぱ考えるんだ…」
健介「あーちゃん、それ、誰でもきっと考えるよ？あーちゃんだって、考えた事ある筈だよ」
ア「そうね、そうだけど…聞いてもいい？じゃ、『なぜ自分はここに存在するのか』って考える？」
健介「ん？」
ア「アハハ、答え難かったらいいよ！」
健介「何が聞きたいのかわかんないけど…自分は自分だと思うし、他の誰でもないと思うよ？それをなぜかって考える事もある。そういう事？」
ア「そっか、考えるんだ…ウフフフ…」
健介「え？」
彼女、涼しい顔で窓の外の一点を見つめる。
その目線を保ったまま話す。
ア「健君。私がいなかったら、どうなっただろうって言った？」
健介「さっき？言ったけど」
ア「私、知ってるよ。教えようか？」
健介「え？」
ア「あなたは、受賞できなくって、嫌になって研究やめるの。そして平凡な高校生を続ける。その後大学受験にも失敗してね。面白くない会社員になる。そして３０歳で結婚するけど、奥さんとも上手く行かず…」
健介「…何、言ってんの？なんで、そんな事わかるの？」
ア「アハハ、知ってるよ。調べたもん」
そして彼女、健介の手を握る。
ア「大丈夫よ！だって私が応援してるんだから！アハハ」
車掌『えー、ご利用有難うございました。次は終点…』
彼女、健介と駅で別れる。
健介、蟠りを抱えながらも自宅へ。
■
彼女、建物の前に。
ア「すみません。ここは何をする所？」
通行人「え？何って、ただの本屋だけど」
ア「本って、あのパラパラめくる物？」
通行人「は…？」
書店の中へ。
慣れない匂いがする。
何冊も積み上がった、紙製の本。
ア「なんか疲れそう。ま、いっか」
書店の外へ。
何件も家が立ち並ぶ。
夜なので、街灯が光っている。街灯には虫がたかる。
近くには駅。降りてくる人の集団。それぞれが思い思いの会話。
ア「それにしても、凄いなあ」
そう言って彼女は、腕時計のスイッチを押す。
■
翌日。
彼女、健介の自宅に。
弟の智樹、映像が映る機器を手に、黙々とゲーム中。
ゲーム（男の声）『まさかキミは、異なる時間軸から来たというのか？この荒廃の時代に！』
健介「お前ずっとゲームしてない？」
智樹「わかってるよ、もうやめるし」
ゲーム（女の声）『まって！このセカイをかえられるのは、アナタしかいないのよ！』
彼女、狙ったように口を挟む。
ア「ねー、聞いてもいい？この世界って何の事？」
智樹「え？何の事って、ゲームの中の世界？」
ア「ふーん。現実と、このゲームの中は違うって思う？」
智樹「えっ…え？何が聞きたいんですか？」
智樹、混乱。
健介、彼女の言葉に妙な空気を感じ、彼女に視線。
ア「アハハ！ごめんね。人は昔から現実を何かに投影するの好きだなって思っただけ。アハハハ！」
健介「あーちゃん、なんか昨日から変だよね。何聞きたいの？」
智樹「あーちゃん、兄貴の影響でも受けたんじゃ？」
母の夕食を呼びかける声。
３人、会話を切り上げる。
健介、やりきれない表情。
母「次の研究は、健介きっと１番になるわ！」
父「でも、お前が自分で頑張る道だぞ」
健介「うん。今結構厳しいけど、でも全力で頑張る。あと問題が１つ解決すればいいだけなんだ」
彼女、４人と食卓を囲みながら、一人テレビに視線。
キャスター『次です。オーストラリア機が未だ行方不明となっている事件で…』
父「しかしびっくりしたよ。お前みたいに理屈っぽい男が彼女作るなんて！」
智樹「そう、俺もびっくりした。兄貴に彼女？って。しかも彼女から告白してきたんでしょ？」
健介「…そうだけど、俺もあーちゃんの事本気で好きだよ、だからこそ研究は最高の成果出したくて…」
ア「フフフ、それよりさ」
健介「…え？」
ア「飛行機、行方不明なんだ？」
健介「え？ああ…」
ア「フフ、あのさ、明日、インドの海岸で見つかるよ」
■
翌日。
彼女は健介の研究室へ。
健介の姿なし。彼女は機器を観察。
ア「フフ、この時代なりに工夫してる」
男が入ってくる。
彼女は質問。
ア「健介君、探してるですけど？」
研究員「いや、今日は体調が悪いって連絡が…あなた誰？もしかして、彼女さん？」
ア「そうですよー」
研究員「びっくりした、健ちゃん彼女いたんだ！あいつ、昔からモテないタイプだと思ってたのに…」
ア「アハハ！あなた、昔の事を覚えてるの？」
研究員「え？」
ア「アハハハ！凄い、昔の記憶があるなんて！やっぱ２重に面白いなあ」
研究員「何がです？」
ア「あら、研究の邪魔ね。失礼しまーす」
彼女は去ろうとする。
しかし、立ち止まる。
ア「でもなぁ…」
研究員「え？」
ア「ウフフ…あの装置さ、観測によるゆらぎを減らす目的でしょ？でもあれじゃ、量子エンタングルメントの発生率まで減らないかな？パリティをちゃんと実装しないと駄目よ！アハハ！」
彼女、腕時計のスイッチを、わざとその研究員の目の前で押す。
彼女の体、瞬時に虚空に消える。
研究員、息を飲む。
彼女がいた場所、何もなくなる。
■
同日。
彼女は健介の自宅前。
母「あら、こんばんは。健介は今散歩に出てるの。昨日から落ち着かないみたいでちょっと心配で」
ア「上がってもいいです？」
健介の部屋。
本棚に、本が入っている。
ページを捲る。
紙切れが挟んである。以前見た本屋の名前が印字されている。
健介「…あーさん」
背後から声。
彼女は大笑い。
ア「あーさんって！アーッハッハ！」
健介「笑い事じゃないんだ。俺、もうあなたの事をあーちゃんと馴れ馴れしく呼べない」
ア「なあに？真剣な顔してるけど」
健介「今日ニュース見た。君の言う通りだったね、飛行機。なんで知ってる？それに、さっき研究室から連絡があった。君でしょ？突然姿を消したって」
彼女、相変わらずニヤニヤ。
健介「教えて…君は何者なの？」
ア「別にー。でも、私あなたの事は好きよー。応援したいし」
健介「どういう事？」
ア「だって、古い時代の人が一生懸命頑張ってるの見ると面白くて！」
健介「そ…その言い方！ああ、本当にそうなのか！」
ア「アハハ！何か気づいた？」
健介「笑われると思って、言わないでおくつもりだった…。実は…俺、あなたは未来から来たんじゃないかなって」
健介、緊張しながら話す。
彼女、その表情の観察が楽しい。
ア「アハハハハ！やっぱそう思うよね！ま、そういう事よ！」
健介、震える。
健介「本当なのか…？」
彼女、健介が次に何を話すか楽しみに待つ。
健介「でも待って。わからないんだ。相対性理論では、未来へは可能でも、過去へはタイムトラベルできない筈だ。タキオンか？超光速移動であれば時間の流れはマイナス…でも、生身の人間が丸ごとタキオン化するなど…」
ア「アッハッハ、こんな時まで理屈っぽいのね、それはそれで面白い！」
扉が開く。
智樹、健介の部屋へ。
智樹「聞こえてたよ。俺も興味がある」
ア「みんな真剣ね！ウフフ」
智樹「教えてよ。本当に未来から来たの？なら、あなたは俺たちの何なの？タイムトラベルってのが本当なら、何の目的で、この時代、この兄貴の所に…」
健介「そうだよ。それに過去にタイムトラベルができる技術があるとして、未来に影響ないの？『タイムパラドックス』はどうなるんだ？」
ア「プッ」
彼女、今までで一番激しく笑う。
ア「アーッハッハッハ！タイムパラドックスって！そ、そんなの、ある訳ないじゃん！」
健介「え？嘘？」
ア「タイムパラドックスなんて、あなたたちが言う事にびっくり！アハハ！やっぱ２重に面白い！」
健介「まさか、そうすると多世界解釈か？」
智樹「多世界解釈？それ俺のゲームに出てきた！パラレルワールドみたいなのでしょ」
健介「そうだ。信じがたいけど、この世界と独立に別の世界が存在し、ワームホール等で繋がっている…しかし…しかし！俺の解釈では、並行世界は同一の過去から枝分かれするから、結局パラドックスは解消しない…ああ、もう俺には全く分からない！」
ア「もー！２人とも難しく考えすぎよ。相対性理論とか多世界解釈とか、そんな難しい話ないよ。本当は、ものすごーく、単純な事よ！」
健介「…それって、結局全部冗談で、本当は未来から来てないって事？」
ア「私は２２世紀から来たよ」
健介「２２世紀！？タイムマシンができたとしても、ずっと先と思ってた…あと１００年ちょっと？」
ア「健介君」
彼女は、健介の目を見る。
ア「別に、何も企んでないよ？ただ、あなた本当だったら、この前の研究発表も受賞できなかった筈なの。そして、この前も言った通り、平凡な人生を送る。ちょっと可哀想だったからさー。ウフフ。助けてあげようかなって思って。それだけよ。力を出し切れずに人生終わるなんて、嫌じゃん？頑張って欲しくてさ！」
健介、無言の後、口を開く。
健介「…本当にそんな軽い話？…あの、さっきタイムパラドックスは起きないって言ってたけど…未来はちゃんと変わるの？俺が平凡な人生を送るという世界は、存在しなくなるの？」
ア「それは…まあ、それはちゃんと変わるのよ。うん。難しく考えない方がいいわ！アハハ！遅くなると悪いから、私はもう帰るね！またね！」
彼女、腕時計を使う。
彼女の体、一瞬で虚空へ消える。
残された２人、その様子にただ呆然。
■
翌日。
夕刻、彼女、とある会議室に出現。
ア「ほんと、頭でっかちな子だなあ」
健介の姿。
ア「こんばんは。昨日、疲れさせちゃってごめんねー！」
研究員「あーっ！あなたは昨日の！」
健介「あーちゃん…ここは何だから、隣で話そう」
会議室隣の部屋に移動。
健介「俺、正直、あーちゃんにもう怖くて会いたくないって思ったんだ」
ア「えー！寂しい事言わないでー」
健介「でもね。俺、君の正体が何者だろうと関係ないって思う事にするよ。未来人である君は、ずっと俺を観察してたんだね。でも俺は今も君を好きだよ。今まで俺たち恋人同士だった。俺にはそれだけの事。いつも研究室に来て応援してくれる事、純粋に嬉しいから。あーちゃんを信じてる」
ア「アハハハ、面白、じゃなくて、嬉しいなあ！健介君って優しいねえー！気持ちはそれだけ？」
健介「いや。俺、本当は悔しいんだ。君は昨日あの研究員にすごいヒントをくれたらしいね。君は、ずっと俺を想ってわからない風を装ってくれてた。でも本当は俺たちの研究も全部理解してたんだ」
ア「う〜ん…ていうか健介君、自分が一番って思いたいのね。研究で絶対に負けたくないってさー。そういうプライド、でしょ？」
健介「…そうやって、人の心が読めるのも未来の技術かい？」
ア「アハハハ！そんな訳ないじゃん！もう、健介君、ごめん、そういう所本当面白い！」
健介「いいよ。ハハ、俺あーちゃんに勝てないよ。第一、そんな、一瞬で姿を消せる様な人だもん」
彼女、腕時計をわざとちらつかせる。
ア「ん？これの事？」
健介、その腕時計をぼんやり見つめる。
健介「…この機械、もしかして、量子効果で動いてる？これって…」
健介、彼女にその時計を借りる。
彼女、にやけた表情。
健介「まさか…この方法なら波動関数の収縮を極端に抑えられる。デコヒーレンスの影響を受けずにＱビットの重ね合わせ状態が保持できれば…これだ！これがあれば論文が完成する！いや、それだけじゃない。物凄い事が…！」
ア「アハハ！良かったじゃん」
彼女、健介が誘導に従ってくれる事を喜ぶ。
健介「あーちゃん…俺、これを世に出してしまっていいの？本当の歴史ではきっと、この方式のコンピュータの実現なんてまだ数十年先だろう？今、未来人である君の機械の仕組みを知り、それを世に出てしまう事は、歴史を変えるんじゃないのか？」
ア「アハハ、知らないよそんなの。まだ気にしてるの？タイムパラドックスなんて無いよ。あったら、私がこの時代にいる時点でパラドックスだよ！」
健介「それは…」
ア「やりたいようにやれば？何も心配しなくていいよ。思うままにやって！私に何を聞いてもいいよー！」
健介「いや…その…俺、何か間違っているんじゃないかって。未来人の力を借りて研究を発表するなんて…俺はどうすれば…本当に、こんな事していいの？何か裏があるんじゃ？」
彼女、疲れを感じる。
が、見せないように話す。
ア「あのねー？裏なんてないよ。私は単にあなたに成功して欲しいなーって。別に何の役に立たなくてもいいけど、私はあなたの事応援したいって感じただけ！アハハ」
健介「うーん…」
ア「健介君。怖いって思ってるのはあなたでしょ？アメリカの大学行くの迷ってるから。でも、いいじゃん。あなた、きっと凄い発明できるよ！それに、私のヒントがあっても、あなたが仕上げた研究はあなたのものでしょ？」
■
翌日。
彼女、昼に一人で書店へ向かう。
本が沢山あり、天井からぶら下がった板に『物理・科学』等と、分類名が書いてある。
『セルオートマトンと生命』という本がある。
本には『ライフゲームというプログラムでは、以下のようにドットを配置するだけで、ドットが自然増殖します。その動きはまるで微生物の様です。ある意味では、コンピュータ上に作られた生命と言えるかもしれません』とある。
店主「お姉さん、悪いけど、もしかして、あの健介君の恋人さんかい？」
ア「なーにお婆さん。そうですよー？」
店主「こりゃ、美人さんねえ。あの子もこの辺じゃ昔から凄く頭のいい子だったけど、おまけにこんな恋人も作ってねえ」
ア「ふーん…やっぱり昔の記憶があるのねー」
隣で、急に声がする。
智樹「お婆さん！その人、気を付けた方が…」
ア「あ、智樹君いたんだー」
智樹「って、近づかないでくれる？俺、あんたの事怖いんだ。兄貴はどう感じてるか知らないけど。ここで何してるの？」
ア「アハハ、ちょっと興味わいて。別に私、あなたたちの何でもないから大丈夫よー」
彼女、本を読みながら生返事。
智樹「兄貴の研究手伝ってるらしいけど、何か企んでるの？そうすることで未来が変わる事があるわけ？」
ア「もー！あなた達の感覚って本当面白いね！それしか無いの？別に何もないよ」
智樹「じゃなんで兄貴の研究、手伝ってくれるの？」
ア「面白いじゃない？それだけー」
そこへ、智樹の衣服のポケットがブルブルと振動。
智樹、ポケットの携帯電話を取り出す。
画面を確認する。
智樹「…まだ確定じゃないとは、書いてあるけど…兄貴、研究１位通過かもしれないって…」
ア「あら。アハハハ！良かったじゃない」
■
彼女、健介の研究所へ。
ア「健介君？」
健介「あーちゃん！き、聞いてよ！俺研究が１位になるかもしれないって」
ア「弟君から聞いたよ！アハハ！良かったじゃん」
健介「それが、凄いんだよ。こんな研究は見たことがない、ってさ。多分、本当にアメリカの大学に行くことになるよ」
ア「あーそうなんだ。へー、なんか寂しいなあー」
彼女、目線は手元の腕時計へ。
健介「しかも先生が言うんだ！この発明は時代を数十年先取りしてるってさ！凄くない？」
ア「…あと３日分かあ…いっか、飽きてきたし…」
健介「え？今何て？」
ア「うん、何でもないよ、アハハ…」
■
３日後。
彼女はアメリカに姿を現す。
西洋の街並み。
車が往来。一つ一つが排気ガスを吐いている。
英語で様々な肌の色の人、会話をしている。
ア「今日までかあー！」
彼女、健介の居場所を突き止める。
ア「お疲れー！」
健介「…あーちゃん！まさか、あの腕時計でここまでワープしてきたの？」
ア「決まったんだって？おめでとー！」
健介「ありがとう。正式に審査が通った。先生も、信じられないって驚いてた。俺も信じられない。これ世界が変わるよってさ。理論上、計算速度がほぼ無限大のコンピュータもできるって」
ア「凄いねー！私はあれ見せただけで、書いたのはあなたよ！アハハ！」
智樹「あっ…」
母「あら、あーちゃん。こんな遠くまで来てくださって」
父「ああ、お陰様で…」
ア「皆さん、この度はおめでとーございます！私、こんな立派な人とお付き合いできて嬉しいなあ、アハハハ！」
■
その夜。
授賞式を終えた健介。
健介と彼女、高層ビルのレストラン。
健介「未成年だから、酒は飲めないけど…乾杯」
ア「かんぱーい」
健介「君の為に、用意したんだ」
ア「そうなんだー、有難う！美味しいよ…まあ味覚は感じないけど…」
健介「え？今なんて？」
ア「何でもないよ！アハハ」
健介「そ、そう…。でも俺、君には本当に感謝してる。君がいなければ俺は、ここまでできなかった」
健介、窓の外を眺める。
健介「ああ、こうしてアメリカの夜景を見てると、自分達は特別な存在だと思える…」
眼前に広がる無数の光。
建物の並びは、まるで法則性があるかのよう。
目を凝らすと一人一人の人間が確認できる。
それぞれが何かを考えている様に、不規則に動く。
健介「あーちゃん…君が未来から来たと聞いた時は驚いた。ねえ、もし周りから『あんな論文を、どう思いついたんですか』って聞かれたら、俺どう答えればいいかな。未来人の助けを借りて…なんてね、ハハ」
彼女、何も言わない。
ただ景色を眺める。
健介「俺、絶対君を忘れない。この世界で俺のもとにだけ、未来人である君が現れた。俺だけに与えられた運命だったんだ。だったらこの運命、絶対に最高の形にして見せるよ！俺も、今でも信じられないさ。こんなＳＦ小説の様な話が、現実に起きるなんて…」
ア「現実、かあ」
健介「え？」
ア「あのさ。健介君」
彼女、勿体ぶったように発言。
健介「な、何？」
ア「聞いてもいい？計算速度がほぼ無限のコンピュータって、さっき言ってたよね？そんなものできたら、コンピュータ上で、何もかもできちゃうよね？」
健介「えっ、まあ、どんな物だって、コンピュータでシミュレーションで作れてしまうだろうね。それが、何か？」
ア「じゃあ、例えばこの広がる夜景も、寸分の狂いもなく、完全に作れる？」
健介「そりゃ作れるだろうさ。バーチャル空間上でならね。朝飯前だろう」
ア「じゃあ、ここにいる人たちも？」
健介「人間だって、究極的には素粒子の集まりだ。つまり、全ての素粒子の位置関係やエネルギー状態を完全にシミュレートすることができれば、人間そのものをバーチャル空間上にそっくりそのまま再現する事も可能だろう…って、ちょっと待ってよ。なんでこんな事聞くの？あーちゃんは２２世紀から来たんだから、わかるでしょう？」
ア「フフフ…アーッハッハッハ！面白かったなあー、健介君。本当に面白かった！今まで有難う！」
健介「な、何なの？」
ア「そろそろ、気づいてもいいかなーって思うけどなあ。私、言ったでしょ？このタイムトラベルは、タイムパラドックスが発生しないって。しかも方法はものすごく単純って！アハハ。頭のいい健介君だもんね。もうわかるでしょ？」
健介「え、それって、つ＃り、え、いや、そ＃んなはずは…そ、そんな…ま＃か、そん＃バカなことが…そ＃なバカ＃こ＃が…」
ア「健介君。あなたは紳士的だし、まあ優しい人だったね。ちょっと夢見がちで自分の事ばっかりだったけど！アハハ！でも、私あなたの事、まあ好きよ。ま、あなたに最高の成果を出させてあげたから、もういいでしょ？アハハハハ！」
健介「ま＃＃＃＃＃＃」
ア「ありがと、健介君。また気が向いたら、２１世紀に来るかも！まあ、あなたと会った事はこれで永遠に消えちゃうけどね！アハハハハ！」
健介、体が素粒子レベルで分解。
音声、少しずつ小さくなる。
広がる風景、人間、全て分解。
視界、ホワイトアウト。
■
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コメント(24)
「あー楽しかった！」
彼女はその装置を取り外すと、ベッドから起きた。
「おはよう。どうだった？随分楽しそうだったね」
「アハハ。おはよう。面白かったよ２１世紀」
「それは良かった！」
「凄いよね！ここまで『再現』させられるなんて！」
「何かエラーは起きなかったか？」
彼はその装置の性能について確認した。
「アハハ、全然。でももっと長い時間楽しめたらいいのに。再現できるのまだ数週間分？」
「ま、性能が向上したら、な」
「でも、こういう発明できたら本物のタイムマシンなんて要らないね」
彼女は背伸びしながら彼に言った。
「ああ、本当の時間移動なんてまだ無理だろうしな。まして生身の人間がそんな事するなんて。俺たちには、データだけは無限にあるから。過去に行くんじゃなくて過去を再現すればいいって考えも尤もだ」
コンピュータの情報処理能力は、２２世紀までに凄まじく向上した。
２１世紀までの古典的コンピュータに加え、量子コンピュータ等あらゆる発明が、あらゆる計算を一瞬で行う迄になった。
そして、あらゆるシミュレーションが可能になった。
過去のある特定の時点、何年何月何日何時何分何秒に、この太陽系の範囲で、あらゆる物質がどういう素粒子の配置で存在し、どういう状態だったかという情報は、全て計算で求められた。
計算で、特定の時点の太陽系そのものの状態を、完全無欠にシミュレートできる。
そこに地球という星が存在し、大気の状態や気温はどうか、といった事から、どこにどういう粒子が存在し、人間がどういう状態だったか、勿論それら人間一人一人の脳内で、今どんな脳内伝達物質が流れているか…等、寸分の狂いもなく現実の通りに再現できた。
バーチャル空間に過去を作る事は、簡単なのだ。
そのバーチャル空間に入ったり、内容を変えて歴史のｉｆを体験する事も。
「アハハ、面白いね！完璧なシミュレーションってだけでも面白いし、その上、シミュレーションなのにみんな人間らしくて、愛着わいて面白い！」
「ああ、君がよく言ってる、『２重に面白い』ってやつ？」
「そうそう。再現時点より前の記憶も持ってる事になってたりとか、未来人に会ったからって特別な運命感じたりとか、もー本当リアルで！」
「リアルか…俺も最初リアルだと思った。まあ、脳内の状態まで完全再現されるんだから当然なんだけど、怖かったくらい」
「確かに怖い！私も、今出会った男の子にさ、『自分がなぜ生きているか、考える？』って聞いたのね。そしたらその子、考えた事あるって言ってた！アハハ、凄いよね！」
彼は、意見に同調した。
「俺も同じ事したよ。その人も、考えてると言ってたな…。単にバーチャルの世界に、素粒子の状態を再現しただけで、再現した結果人間という固まりがここに存在しましたっていう、シミュレーションに過ぎないのに。そいつが生きていると感じてるって…。ま、もう慣れたけど」
「あ、そうそう、リアルと言えば！」彼女は、笑いながら話を続けた。
「私ね、別にどうでもいいけど、自分が２２世紀の人間ですって、わざわざその子に示してあげたの。そしたら、その子さ、ウフフ…アハハハ、その子、『タイムパラドックスはどうなるんだ！』って言ったのよ！私、それ聞いた時に本当に面白くて！」
「はは！それ面白いな！タイムパラドックスってあれだろ？過去を変えたら未来も変わるってやつ」
「そうそう！『あんた達ただのシミュレーションでしょ』って話じゃない！終わったら破棄するし。だから聞いた時もう大爆笑！」
「なんか、その子可哀想だな。君のいい様に遊ばれてたんじゃない？」
「え、シミュレーションに同情しちゃう？アハハ！いいじゃん面白くて。あと、バーチャルだから一時停止して、設定を変えて、また時間を流したりできるでしょ？私それで、瞬間移動してるかの様に振る舞ったり…」
「賢いね」
彼は笑いながらため息をついた。
「…でも俺、やっぱ怖いって気持ちあるな」
「なんで？」
「シミュレーションの中の人すら、自分が生きているって認識あるなら、俺たちもまた…」
「シミュレーションかもしれないって？」
「そう。思わない？」
「私、気にしてないよ。じゃあ、私たちを作った人もまたシミュレーション？ってなって、話終わんないじゃん！アハハ！私はただ、次はいつの時代再現して、誰に会えるか楽しみよ！前の子は理屈っぽくて疲れたから、もっとカッコいい人がいいな」
「ハァ…俺はまだ点検があるから。まあ君は好きに遊んでな」
「ありがと！お疲れ！」
彼女はベッドに戻り、装置を取り付けた。
入力されていた、２０１１年１１月１１日１１時１１分１１秒を消し、数値を気分で入力する。１９００年１２月１２日１２時１２分１２秒。
「この時代の人は、私にどう反応するかなあ！」
彼女は次の旅に出るのだった。
彼女はその装置を取り外すと、ベッドから起きた。
「おはよう。どうだった？随分楽しそうだったね」
「アハハ。おはよう。面白かったよ２１世紀」
「それは良かった！」
「凄いよね！ここまで『再現』させられるなんて！」
「何かエラーは起きなかったか？」
彼はその装置の性能について確認した。
「アハハ、全然。でももっと長い時間楽しめたらいいのに。再現できるのまだ数週間分？」
「ま、性能が向上したら、な」
「でも、こういう発明できたら本物のタイムマシンなんて要らないね」
彼女は背伸びしながら彼に言った。
「ああ、本当の時間移動なんてまだ無理だろうしな。まして生身の人間がそんな事するなんて。俺たちには、データだけは無限にあるから。過去に行くんじゃなくて過去を再現すればいいって考えも尤もだ」
コンピュータの情報処理能力は、２２世紀までに凄まじく向上した。
２１世紀までの古典的コンピュータに加え、量子コンピュータ等あらゆる発明が、あらゆる計算を一瞬で行う迄になった。
そして、あらゆるシミュレーションが可能になった。
過去のある特定の時点、何年何月何日何時何分何秒に、この太陽系の範囲で、あらゆる物質がどういう素粒子の配置で存在し、どういう状態だったかという情報は、全て計算で求められた。
計算で、特定の時点の太陽系そのものの状態を、完全無欠にシミュレートできる。
そこに地球という星が存在し、大気の状態や気温はどうか、といった事から、どこにどういう粒子が存在し、人間がどういう状態だったか、勿論それら人間一人一人の脳内で、今どんな脳内伝達物質が流れているか…等、寸分の狂いもなく現実の通りに再現できた。
バーチャル空間に過去を作る事は、簡単なのだ。
そのバーチャル空間に入ったり、内容を変えて歴史のｉｆを体験する事も。
「アハハ、面白いね！完璧なシミュレーションってだけでも面白いし、その上、シミュレーションなのにみんな人間らしくて、愛着わいて面白い！」
「ああ、君がよく言ってる、『２重に面白い』ってやつ？」
「そうそう。再現時点より前の記憶も持ってる事になってたりとか、未来人に会ったからって特別な運命感じたりとか、もー本当リアルで！」
「リアルか…俺も最初リアルだと思った。まあ、脳内の状態まで完全再現されるんだから当然なんだけど、怖かったくらい」
「確かに怖い！私も、今出会った男の子にさ、『自分がなぜ生きているか、考える？』って聞いたのね。そしたらその子、考えた事あるって言ってた！アハハ、凄いよね！」
彼は、意見に同調した。
「俺も同じ事したよ。その人も、考えてると言ってたな…。単にバーチャルの世界に、素粒子の状態を再現しただけで、再現した結果人間という固まりがここに存在しましたっていう、シミュレーションに過ぎないのに。そいつが生きていると感じてるって…。ま、もう慣れたけど」
「あ、そうそう、リアルと言えば！」彼女は、笑いながら話を続けた。
「私ね、別にどうでもいいけど、自分が２２世紀の人間ですって、わざわざその子に示してあげたの。そしたら、その子さ、ウフフ…アハハハ、その子、『タイムパラドックスはどうなるんだ！』って言ったのよ！私、それ聞いた時に本当に面白くて！」
「はは！それ面白いな！タイムパラドックスってあれだろ？過去を変えたら未来も変わるってやつ」
「そうそう！『あんた達ただのシミュレーションでしょ』って話じゃない！終わったら破棄するし。だから聞いた時もう大爆笑！」
「なんか、その子可哀想だな。君のいい様に遊ばれてたんじゃない？」
「え、シミュレーションに同情しちゃう？アハハ！いいじゃん面白くて。あと、バーチャルだから一時停止して、設定を変えて、また時間を流したりできるでしょ？私それで、瞬間移動してるかの様に振る舞ったり…」
「賢いね」
彼は笑いながらため息をついた。
「…でも俺、やっぱ怖いって気持ちあるな」
「なんで？」
「シミュレーションの中の人すら、自分が生きているって認識あるなら、俺たちもまた…」
「シミュレーションかもしれないって？」
「そう。思わない？」
「私、気にしてないよ。じゃあ、私たちを作った人もまたシミュレーション？ってなって、話終わんないじゃん！アハハ！私はただ、次はいつの時代再現して、誰に会えるか楽しみよ！前の子は理屈っぽくて疲れたから、もっとカッコいい人がいいな」
「ハァ…俺はまだ点検があるから。まあ君は好きに遊んでな」
「ありがと！お疲れ！」
彼女はベッドに戻り、装置を取り付けた。
入力されていた、２０１１年１１月１１日１１時１１分１１秒を消し、数値を気分で入力する。１９００年１２月１２日１２時１２分１２秒。
「この時代の人は、私にどう反応するかなあ！」
彼女は次の旅に出るのだった。
>>[10]
たぶん僕はこの作風が好きなので、うまく感想が書けなかったのだと思います。ただそういった場合では、自分がどうして好きなのかを分析してから意見するべきなのかなと。もう少し楽しく読ませてもらいます。
１年前マトモに書き始めるキッカケになった『2014』の連作で自分が書いていたものを思い出したので。それもまたなぜか分からないけれど、脚本のように書くのは楽しい。読者はどう思って読んでいるんだろうと思ったけど、読んでみても楽しいということをこのたかーきさんの作品読んで実感しました。会話から状況を浮かび上がらせることが表現にミニマルな要素を与え形として美しいかなと思っていたので。
たぶん僕はこの作風が好きなので、うまく感想が書けなかったのだと思います。ただそういった場合では、自分がどうして好きなのかを分析してから意見するべきなのかなと。もう少し楽しく読ませてもらいます。
１年前マトモに書き始めるキッカケになった『2014』の連作で自分が書いていたものを思い出したので。それもまたなぜか分からないけれど、脚本のように書くのは楽しい。読者はどう思って読んでいるんだろうと思ったけど、読んでみても楽しいということをこのたかーきさんの作品読んで実感しました。会話から状況を浮かび上がらせることが表現にミニマルな要素を与え形として美しいかなと思っていたので。
SFでありながら、ホラー要素（？）も強かった！ 冒頭からあーちゃんの笑い具合が恐すぎました。たかーきさんは狂気じみたものを書くのがお上手ですね。「これは何やらただならぬことが起きている」と感じながら読み進めることができました（特に今回、個人的に、緊張感を維持して書くことの難しさを感じておりまして……）。
私は悲恋だと思いますよ。でも腕時計なんか使ってるあーちゃんに、ほんの少しでも『時をかける少女』みたいなロマンスを期待したら……（´Д｀）でしたね。再読したら健介が「…あーさん」と呼びかけるところが（笑）でしたが、真剣な健介とお遊びのあーちゃんとの距離を表しているところと考えると切ないですね。
私は悲恋だと思いますよ。でも腕時計なんか使ってるあーちゃんに、ほんの少しでも『時をかける少女』みたいなロマンスを期待したら……（´Д｀）でしたね。再読したら健介が「…あーさん」と呼びかけるところが（笑）でしたが、真剣な健介とお遊びのあーちゃんとの距離を表しているところと考えると切ないですね。
>>[23]
ご感想、ありがとうございます！とても嬉しいです(^^)
シナリオ風は、作品の意図を考えた結果、これが一番いいだろうと落ち着きました。
そうですね、あーちゃんうざすぎて自分でも書いててイライラしました(笑)
時間の壁を越える技術があったとしても、タイムパラドックスが起きたらどうなるかわからないからと、法律で禁止されるだろうし、
そもそも生身の人間は時空の壁を越えた瞬間に粒子レベルでバラバラになりそうで、まずできないんじゃないかと思います。
その点、シミュレーションなら、今でもテレビドラマで過去の再現はやってるし、リアルでも江戸時代の町並みのテーマパークとかあるし、歴史をテーマにしたオンラインゲームなどで過去の世界に入っても、ある意味タイムマシンですよね。
その延長線で過去をよりリアルに再現できるようになってきたら、誰も過去に本当に行くリスクなんて負わなくなる、と思うんです。
ご感想、ありがとうございます！とても嬉しいです(^^)
シナリオ風は、作品の意図を考えた結果、これが一番いいだろうと落ち着きました。
そうですね、あーちゃんうざすぎて自分でも書いててイライラしました(笑)
時間の壁を越える技術があったとしても、タイムパラドックスが起きたらどうなるかわからないからと、法律で禁止されるだろうし、
そもそも生身の人間は時空の壁を越えた瞬間に粒子レベルでバラバラになりそうで、まずできないんじゃないかと思います。
その点、シミュレーションなら、今でもテレビドラマで過去の再現はやってるし、リアルでも江戸時代の町並みのテーマパークとかあるし、歴史をテーマにしたオンラインゲームなどで過去の世界に入っても、ある意味タイムマシンですよね。
その延長線で過去をよりリアルに再現できるようになってきたら、誰も過去に本当に行くリスクなんて負わなくなる、と思うんです。
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