*最終版* 『ミシシッピーの想い出』
モノの見方を変えてみようと、ミシシッピーの源流を調べてみる。ミシシッピーといえば大きな川幅に緩やかな流れを持ち、そこに架かる鉄橋の荘厳さはアメリカの繁栄を想い出させる。されどそのような景色というのは河口近くに限定されたことであって、ミシシッピーのすべてというわけではない。そんなところから源流までを遡ってみるのにはかなりの想像力が必要となってくる。
あそこでチューをしようとしたところまではよかったのだろうか。運転の合間にバックシートから地図を取ろうとしたその瞬間、不可抗力で顔と顔が近づいた。わざとじゃないんだ、わざとじゃ、と自分に言い聞かせる。事務的な作業をしている途中で自然の流れのままチューをしたっていいんじゃないかっていうことにしておきたい。お互いにそういう気持ちはあったんだけれど、わざわざそんなふうにするのも変なんじゃないかと思っていただけで。お互いがそんなふうに考えてるってこともお互いには分かってはいるんだけれど、そんな思いっていうのはわざわざお互いが確認するようなものでもないということでそのままにしてあっただけだ。相手の顔なんて見れたもんじゃない。
ニューオーリンズを通ったその先でメキシコ湾へと注がれているミシシッピー川の流れはルイジアナ州、ミシシッピー州、アーカンソー州、テネシー州、ケンタッキー州、ミズーリ州、イリノイ州、アイオワ州、ウィスコンシン州、ミネソタ州と通りぬけながら緩やかな曲線を撫でて、アメリカ合衆国にはめずらしい自然の州境を作る。蛇行したミシシッピーの流れによって引かれたその境界線は込み入っている。
のらりくらりとしていたからちっとも前に進まなかったんだけれど相手はいったいどう思っていたんだろう？ 特にこちらは何も思っていませんよと相手が思ってしまうくらいにとりあえずは自分に信じ込ませることにしている。そうしてこそ初めて何気ないしぐさで相手にうまく接することが出来るんじゃないかって。相手に少しでもこっちに気があるんじゃないかと感づかれたら、かなりのレッドライト。いえ、いえ、違うんですよ、と無理して違うといったようなそぶりを見せる。逆に距離を置いたり無理によそよそしくしたりすることはさらにその逆に気があるんじゃないかって思わせる可能性も高いので単に違いますよっていう気持ちを表すのもじつは簡単ではないんですけれども、いつの頃からかそんなしぐさは慣れたものになっていてわざわざ考えることなくともそんな身ぶり手ぶりができてしまっている。だからその逆で普通に意識してわざとらしくやれよって言われるとそれが一番むつかしくなる。つまり不自然にやることをより不自然になるように自然にやることでいいのかな？ そして今こちらに注がれている視線は紛れもなく曇りきっていることはどんなフィルターを通したって認識できる。
川の此岸と彼岸でこの州とあの州というように分かれていることがアメリカにおいては興味深いということが興味深い。こんな事実はつまらないと思うのであればコロラド州やウィスコンシン州を見てみてほしい。ただの四角なんだぜ。それらの州が燐州に対して引かれている州境は常に直線で、四つの直角によって囲まれる空間としての州土は完全な四角として現出している。
もう前にも進めないし後ろにも戻れないと勝手に考えていたら思いもよらないところにそもそも道が開けていたっていうことは多々ある。せっかくデートに誘ってその為に朝から気持ちを高めている状態、そこで仕事だったり学校だったりがあったとしてもその日一日ぐらいはなんていってもちろん休んでフリーズさせる。しかしながら歯を磨いてそのままデートするまで食べることだけならまだしも飲むこともだめだと決めてしまったあとに起こる不自由さには閉口する。そんなことをすることこそが愉しいのだから仕方ないんだけれど、そんなときはまず間違いなく芳しくない結果となる。文字通りに期待をそこで築きあげておいてそれを上回る落胆を現出させる。どうせうまくいかないことがほとんどなんだから自由にさせてくれとつぶやいてみせる。それより相手は何処へ行ってしまったのだろう。
その川がなにを分けているのかを考える上で有効な手段としてその川の左手側つまりは西側と右手側つまりは東側を分けてみることがある。ルイジアナ州を縦に裂くようにして北上したあとのミシシッピー川の左手側つまり西側だけに注目してみると、そこに見つかるのはアーカンソー州、ミズーリ州、アイオワ州でその先へと進めてみるとミネソタ州へとたどり着く。
自由にやってうまくいかないのであればそれならそれで充分だ。そんなときに着ていくＴシャツはいつも決めている。だれに何と言われても、その上からはおるアウターと合わなくったって中に着ているＴシャツだけはバッチリとキメておきたい。愛着があるっていうのともちょっと違う。そんなにカッコいいデザインではないけれども、着ているととにかく落ち着く。このＴシャツを着ていこうと初めから誓っている。こいつを着てなにかができれば。このＴシャツとともにうまくいって欲しいと心から願っている。言い換えれば、これを着ているからこそうまくいっているようになるように祈りをこめてみる。これでうまくいかないのならしょうがない。その結果としてうまくいかないからってどこまで悪いことになるというのだろう。こちらの顔の筋肉の緊張は笑顔の輪郭などというものとはほど遠いことは現実なのだろう。
つぎに、上るミシシッピーの右手つまり東側を焦点を合わせてみる。そうしてルイジアナ貫通後はまもなくしてミシシッピー州と交わることとなる。長い南北の州境の片端はその名前の物語る通りにミシシッピー川で型取られている。さらに上流の右側は申し訳ていどに横長縦狭のテネシー州の南北境界に重なる。そこよりさらなる絶頂を目指すためにも、北上を保ち続けることでケンタッキー州、イリノイ州、ウィスコンシン州というずいぶんな長旅をしていることとなる。北、まだ北、もっと北ということで、最終地点の源流ミネソタ州へとたどり着く。オー、ミネソター、ミネソターと！ しかしながらも、もしかするとミシシッピー川の源流はさらに高地で山岳部の奥深くモンタナ州にあるのかもしれないと想いうかんでしまう。
ちょっと待った、チューをしそうになったことがいけないんじゃなくって、それがわざとらしくなってしまったことがいけないんだろう。あれを空振りしているとは呼ばないのかもしれない。左にひねった首、その角度に不自然さはない。ハンドルに添えてあった左手をはなすタイミング。手首を返すその速度。始動の前に左脇の筋肉を上げるのは、まさに弓を引く準備の所作である。整ったらさて一息というわけにはいかない。あくまでスムーズであることを重視して行動を体現することさけなのだ。そうしてそっと左腕をバックシートに伸ばす。わるい方向ではない。獲物に近づくのにそれらしい。誰が見たって間違っているとは言わないだろう。その左手指の先が地図帳に当たろうとも当たらずとも。
とりあえずのミシシッピーの水源はイタスカ湖ということになっている。イタスコ。それはミネソタ州北西部に位置するそれほど大きくはない氷河湖である。イタスコ。北米大陸の真ん中にあっても氷河というくらいなのだからそこはかなり冷たい場所なのだろう。イタスコ。すべてのものを冷ましてしまう。イタスコ。北米大陸の臍のようなものだろうか。イタスコ。その氷河湖の大きさは偉大なるミシシッピーの流域とは似つかわしいくらいのものでもあるが水源とはそういったものなのかもしれない。イタスコ。そういったこともあってイタスコ湖が正式に水源だと確認されたのはたった1832年のことである。イタスコ。
次の瞬間、さも地図帳をつかんだかのように左手首をフックして上へと返す。あくまであくまでそちらに集中した神経があるように。一瞬でも気をゆるめると顔の部分の輪郭が不思議な型に崩壊してしまいそうだ。すでにもう右目と左目は頭蓋の奥深くうもれていってしまっているよう。かろうじて唇が顔の上から垂れおちてしまうことを踏ん張っているけれど、どうしても口の形はㇸの字になってしまっていがちである。尖った唇の真ん中は逆に鼻とくっつきそうになるところまで上がってしまった。誰がここで見ているのだろう、誰がいったいこの状態を直してくれるものだろうか？
そこで考えられる可能性がミズーリ川の支流としての存在である。ミズーリ川はミシシッピーの数ある支流のなかでも最も大きなものとして認識される。ここで重要なのは、その源流はモンタナ州南西部のロッキー山脈中にまで遡ることができることである。ミシシッピーとは双方が流れおりた先のセントルイスの北で合流するのだが。その手前までの長い道のりではミシシッピーを遥かに上回り、北米最高峰のロッキー山脈の遥か上の方からはるばる流れおちて来ていることとなる。
相手がその予定を軽んじて考えていたことが明白なくらいに、約束がキャンセルになったり待ち合わせ時間が後ろにずれこんだりすることとなる。そんなことなのであればあらかじめキャンセルしてくれていたほうがまだましなのかもしれない。さすがにこっちだって制限なしで待たされているような状態になるとイライラは募ってくる。仮にそういっておきながら相手がとつぜん現れても、それはそれで迷惑な話で、たとえどこで真実を聞かされたとしたって、それはそれで混乱してしまうか急に気持ちを立て直そうとしてみてもなかなかうまくはいかないだろう。どこかでそんなことも期待しているのかもしれないけれど、実際にそうなったらやはりシレっとしてしまう。
もう一度目の祈りを込めるように。ミシシッピーの当面の源流はミネソタ州にあるイタスカ湖だと言われる。ミシシッピー、ミネソタ、イタスカ。しかしながらミシシッピー川には支流とも呼ばれるミズーリ川が存在し、高地より流れ入るミズーリ川の方を源流と呼ぶことも不可能ではない。ミシシッピー、ミネソタ、イタスカ、ミズーリ。ミズーリ州セントルイスの北でミシシッピーと合流する前にはカンザスシティーを通ってミズーリ州とカンザス州の州境を引く。ミシシッピー、ミネソタ、イタスカ、ミズーリ、カンザス。さらに遡るとネブラスカ州とアイオワ州、サウスダコタ州を分けてさらにはノーズダコタ州に上り源流のモンタナ州の高原へと続く。ミシシッピー、ミネソタ、イタスカ、ミズーリ、カンザス、ネブラスカ、アイオワ、サウスダコタ、ノースダコタ。
水族館に行ったところまではよかったのだろうか？ オシャレ本屋では楽しく話したはずだったのに。メールやら電話やらの返事はまったくもうない。お気に入りの本を紹介しようと振り返ったそのとき近い位置の視界にその子の顔が入った。こんな可愛い女の子と今はデートしているんだぜと改めて実感をもつ。そんなふうに考えれば考えるほどさらにまた顔を直視できなくなる。
なんだかモンタナ州の方こそが、ミシシッピーの本当の源流だというような気になってきている。もしそれが本当ならば、そこからはどんなドラマが生まれるのだろう。もはや幻とさえなっている源流はそちらの方こそがあるべき姿なのかもしれない。たとえ本当に源流だとしても、違う、違うぞと言い続けられてしまう孤立したモンタナ州の高原。ロッキー山脈の遥か高いところから流れおちてきている偉大だと呼ばれるべきアメリカの水の源。あれ、あれ、ナイアガラの滝？みたいなみたいなイメージが想いうかんできた。考えればそこにも行ってみたかったわけだ。そのどれと比べても暫定で公式とされているミネソタ州の源流は、とりあえずそこにあった水たまりぐらいのイタスコ湖がその位置から考えてミシシッピーの源流だと呼ばれた。イ、イタ、、イタス、イタスコ、、イタス、イタスコ、、イタス、イタスコ……、そこまで。モンタナのその先までは思いもよらずに。
海岸線のドライブの結末はレストランからの夕焼けに間に合わせるために少し急ぎすぎてしまっていたのか？ 途中で通った漁師町の磯のにおいが強すぎたのかもしれない。立てかけて干してある海苔のカーテンを見つけて美味しそうと言った彼女はあまり海苔を食べない。もしかして彼女はさらに海苔が嫌いになり、このさき海苔を全く食べなくなってしまうかもしれない。その場合自分もこのさき海苔を食べなくてもいいような覚悟を決めておいたほうがよいのかもしれない。
ルイジアナ州のメキシコ湾際でのミシシッピー川の存在は曖昧だ。モザイク柄のように散りばめれているかのような陸地と逆にモザイクに散らばっているミシシッピー川の河川地帯を浮き上がらせているのはメキシコ湾河口近くの標高の低い土地である。
レストランでの食事は決して豪華なものではなかったのだが喜んでくれていたはずだ。少し安めの値段設定で済ませたのだけれども、もちろん相手の財布は出させなかった。少し困った表情を浮かべながらありがとうっていう言葉を繰りかえしてきた理由は、こちらがそれにうまく応えられなかったことにあるのだろうけど、それも愛嬌だと取ってくれるような気がするぐらいかなりの部分で相手も大人なのだ。
たとえば、こんなに緩やかに見えるミシシッピーの流れの中にだって落とし穴はあるのだろう。そんなふうに意識するかしないかに関わらず落とし穴というのは確実に存在する。こうして見ている限り、のんびりと緩やかで癒しにしか見えないようなミシシッピーの流れなのに。
別れているといえども彼女のいとこというのはマズかっただろうか。こちらが意識してもしなくてもむこうの方からは意識されているのかもしれない。二ヶ月前から専門学校に通い始めたばかりなのだから同級生もまだ免許を取れていないだろう。ドライブに行かないかと誘ってみたらふたつ返事で行くというのはそういうことだったのだろうか。そのときはまだこっちが彼女と別れないと思っていたからだろうか。別れたからって連絡先を交換しているのなら連絡していけないということはない。でも誘ったからって本当に来ることになるとは。純粋恋愛に関してはだれもジャマすることなど出来ないはずだ。だから誘われたら来たっていいわけだし、理論上はもっとなんでも出来る。相手もそう思っていればよいのだが。
最後にもう一度ニューオリンズからたどってみることにする。指先の触角を意識してその水辺の上をなぞるように。まだなにか新しいことが見つかるかもしれない。上り始めるのはいつものルイジアナ州ニューオーリンズ、この州の中ですでにミシシッピー川は何度もうねりを作っている。どのように川がうねりを作るのかを考えてみるほうが、どのように州境が作られているかよりも数倍もというか比べものにならないほど興味深いのだけれど、ここではそれは伏せておく。あらためてミシシッピーによってどんなふうに州境が型作られているのかを見てみようと思う。
「道が空いてていいわね」ちょうど向かいから来た車とすれ違うときにその子は言った。本気でそう思って言っているのかな。乾いた空気の中で響いた ”いいわね” だけが耳に残ったものですから。「車の性能ってなかなか本気で発揮できる機会がないって聞いたわ。でもこんな日なら、それも叶いそうね」買ってまもなくでまだ新車とも呼べるくらいの時期なのにそんな無茶をこの車にさせる気だろうか。「本当によいドライブは静かな音で移動してる気もしない。そこに文明の進歩を感じるわね」文明論？ それとも車会社の関係者？ と普通なら思うところだと頭の片隅で引っかかりながら、やっぱりやさしい性格だった彼女のことにグッとまた引き寄せられる。世界がその色加減と光の中で今までよく見えなかった粒子で埋め尽くされる。こんな色彩だったんだね。こんなに鮮やかな光の層が世界の中には存在していたっていうのか。この視界を持ったまま中学校のときに通っていた通学路に行ってみたい。きっと今なら輝いて見える。やっと今なら輝き始める。だから今は世界が変わる５秒前のあとの５秒。そしてそれから５秒と永遠。本当にこのまま続くのか？
とつぜんミシシッピーが乱れているように感じられたのは、イリノイ州とウィスコンシン州の間ぐらいで、この辺りだけ川幅が異様に狭くなっていることを見つける。いったいこれまでの水量をどのようにしてこの辺りの集水面積に収めることができるのだろうかと不安になってくる。他の流域が全て問題なく均等に流れていたのかという確証はないのだけれども、なぜだか不思議と安心感を持たされていた。流れが急になるところにはそれなりの理由があるだろうし、そういった箇所さえすぎれば穏やかに戻るのはやはりミシシッピーの持っている許容さがその偉大性を意味づけている所以であった。この狭い川幅の領域だけをのぞいては。何処かにたくさんの水が流れ落ちているような現象でもあるとしか考えられない。でもいったい何処へだろうか？
「最近よく見かける選挙カーも今日は見ないし」 って彼女。ちょっと待ってよ！ 今日って投票日じゃない！？ わたし、投票に行かないと行けないわ。そうするためには、その前に一度実家に戻って投票券を取りに行かなければいけないし、それを計算に入れると今すぐ行ってもギリギリぐらいになってしまいそうだわ。って、どういうこと…… 「今日行かなきゃ行けないの？」という言葉に返事はない。そうか、 期限前投票っていうのはあっても期限後投票っていうのは、ないのか？ なんてことを言ったら、あなた何を馬鹿なこと言ってるのが関の山だ。「もしかして、家族とか親戚とか他の知り合いに選挙関係者とかどこかの党員で票を入れてくれって言ってきる人がいるわけ？」と言いそうになりながら、隣にいる彼女の口元がギム、ケンリ、ギム、ケンリ……と呟いているのを見てとる。「わたしね、今まで三回あった選挙の投票を一度も欠かしたことがないの！ だから今回も……」それを耳にして全てを悟りそうで悟りきれなかった僕をとり残して彼女は携帯で選挙予測を調べ始める。彼女にとっては競馬予想みたいなものなのだろうか。「ちょっとそこの駅で降ろして！」と無理矢理ドアを開け始めた彼女を制止しきれすはずはなく、ハンドバッグが後ろに水平になるくらいの勢いで駅の中に吸い込まれていくのが最後に見た彼女の姿だった。
そういった流れに身をまかすのであればその内に存在するゆらぎだって感じ取れるものだろうか。束ねられた絹糸のゆらぎを体感することこそがミシシッピーを感じることだというのであれば、自分自身がその糸の内に入り込んで流れてみること以外に方法はないだろう。
流れていても流れていなくてもそこには二つの頭があってその距離は限りなく近づいていた。そのように想像することこそだけが意味を持つことなのかもしれないけれど、その場にしたその瞬間にいたってもそれはそれだけのことなんだと歯を喰いしばるように見守っていた。必要以上の気持ちは決してなかったのだと。ただ偶然にしてその空間の中で頭と頭が近づき唇と唇が合わさったのかもしれないということだ。
もはやどちらの方向に進んでいることなどには意識を持たず、訪れ来るゆらぎにこそ神経をとぎすませ、カーブしている角度の圧力をとりのがさず身体に吸収できるように集中を高める。五体を圧迫されるような感触にきっとわるい気はしないだろう。一点に尖った絶頂というのとは異なるけれども、裏窓の中を遠く延びた深淵に踏み込んでいくことはまさにここで実感できる。流れ流れて、座標のどこかで自分を失うことなどもなく、どこだって自分がどのように感じていること。自分の想う場所にこそ自分があると信じこむことが能力もあるけれど、そんな信念さえもくたびれさせるぐらいに達成感のないというのがミシシッピーについて想い出すときにたどりついている境の地である。
しかしよりにもよって手にした地図帳がアメリカ全土地図帳って。そりゃあ、あの子も呆れるわな。というか、あの子に呆れてしまわれてるって思ってしまうわ。自信を喪失したのは確かだけれどその他にも喪失したものがないかと周りを見回してみるけれど自信の喪失が余りにも大きすぎて他のなにものにもたどり着かない。仕方なく開いたアメリカ全土のページは日本の地図帳なんかの紙質とは違い、ザラってとしているその紙質を指先で撫でてみる。もしかしたら今日初めて何かに触れることができたんじゃないかっていう微かな驚きを感じながら。撫でている指先の皮膚の表面では山の勾配も川の流れの緩急も等質に感じられ今日一日に起こったこと全ても相対化できてしまえるような親密さがあった。
こうしている間にも29の龍が死に、延べの数字でいうと831の王位が入れ代わったことは言うまでもない。そのことは予め決められた通り一方的にだけ進んでいった。そしてそのことこそがこの物語全体のメインのプロットなのである。
ミシシッピーは緩やかに流れ。
モノの見方を変えてみようと、ミシシッピーの源流を調べてみる。ミシシッピーといえば大きな川幅に緩やかな流れを持ち、そこに架かる鉄橋の荘厳さはアメリカの繁栄を想い出させる。されどそのような景色というのは河口近くに限定されたことであって、ミシシッピーのすべてというわけではない。そんなところから源流までを遡ってみるのにはかなりの想像力が必要となってくる。
あそこでチューをしようとしたところまではよかったのだろうか。運転の合間にバックシートから地図を取ろうとしたその瞬間、不可抗力で顔と顔が近づいた。わざとじゃないんだ、わざとじゃ、と自分に言い聞かせる。事務的な作業をしている途中で自然の流れのままチューをしたっていいんじゃないかっていうことにしておきたい。お互いにそういう気持ちはあったんだけれど、わざわざそんなふうにするのも変なんじゃないかと思っていただけで。お互いがそんなふうに考えてるってこともお互いには分かってはいるんだけれど、そんな思いっていうのはわざわざお互いが確認するようなものでもないということでそのままにしてあっただけだ。相手の顔なんて見れたもんじゃない。
ニューオーリンズを通ったその先でメキシコ湾へと注がれているミシシッピー川の流れはルイジアナ州、ミシシッピー州、アーカンソー州、テネシー州、ケンタッキー州、ミズーリ州、イリノイ州、アイオワ州、ウィスコンシン州、ミネソタ州と通りぬけながら緩やかな曲線を撫でて、アメリカ合衆国にはめずらしい自然の州境を作る。蛇行したミシシッピーの流れによって引かれたその境界線は込み入っている。
のらりくらりとしていたからちっとも前に進まなかったんだけれど相手はいったいどう思っていたんだろう？ 特にこちらは何も思っていませんよと相手が思ってしまうくらいにとりあえずは自分に信じ込ませることにしている。そうしてこそ初めて何気ないしぐさで相手にうまく接することが出来るんじゃないかって。相手に少しでもこっちに気があるんじゃないかと感づかれたら、かなりのレッドライト。いえ、いえ、違うんですよ、と無理して違うといったようなそぶりを見せる。逆に距離を置いたり無理によそよそしくしたりすることはさらにその逆に気があるんじゃないかって思わせる可能性も高いので単に違いますよっていう気持ちを表すのもじつは簡単ではないんですけれども、いつの頃からかそんなしぐさは慣れたものになっていてわざわざ考えることなくともそんな身ぶり手ぶりができてしまっている。だからその逆で普通に意識してわざとらしくやれよって言われるとそれが一番むつかしくなる。つまり不自然にやることをより不自然になるように自然にやることでいいのかな？ そして今こちらに注がれている視線は紛れもなく曇りきっていることはどんなフィルターを通したって認識できる。
川の此岸と彼岸でこの州とあの州というように分かれていることがアメリカにおいては興味深いということが興味深い。こんな事実はつまらないと思うのであればコロラド州やウィスコンシン州を見てみてほしい。ただの四角なんだぜ。それらの州が燐州に対して引かれている州境は常に直線で、四つの直角によって囲まれる空間としての州土は完全な四角として現出している。
もう前にも進めないし後ろにも戻れないと勝手に考えていたら思いもよらないところにそもそも道が開けていたっていうことは多々ある。せっかくデートに誘ってその為に朝から気持ちを高めている状態、そこで仕事だったり学校だったりがあったとしてもその日一日ぐらいはなんていってもちろん休んでフリーズさせる。しかしながら歯を磨いてそのままデートするまで食べることだけならまだしも飲むこともだめだと決めてしまったあとに起こる不自由さには閉口する。そんなことをすることこそが愉しいのだから仕方ないんだけれど、そんなときはまず間違いなく芳しくない結果となる。文字通りに期待をそこで築きあげておいてそれを上回る落胆を現出させる。どうせうまくいかないことがほとんどなんだから自由にさせてくれとつぶやいてみせる。それより相手は何処へ行ってしまったのだろう。
その川がなにを分けているのかを考える上で有効な手段としてその川の左手側つまりは西側と右手側つまりは東側を分けてみることがある。ルイジアナ州を縦に裂くようにして北上したあとのミシシッピー川の左手側つまり西側だけに注目してみると、そこに見つかるのはアーカンソー州、ミズーリ州、アイオワ州でその先へと進めてみるとミネソタ州へとたどり着く。
自由にやってうまくいかないのであればそれならそれで充分だ。そんなときに着ていくＴシャツはいつも決めている。だれに何と言われても、その上からはおるアウターと合わなくったって中に着ているＴシャツだけはバッチリとキメておきたい。愛着があるっていうのともちょっと違う。そんなにカッコいいデザインではないけれども、着ているととにかく落ち着く。このＴシャツを着ていこうと初めから誓っている。こいつを着てなにかができれば。このＴシャツとともにうまくいって欲しいと心から願っている。言い換えれば、これを着ているからこそうまくいっているようになるように祈りをこめてみる。これでうまくいかないのならしょうがない。その結果としてうまくいかないからってどこまで悪いことになるというのだろう。こちらの顔の筋肉の緊張は笑顔の輪郭などというものとはほど遠いことは現実なのだろう。
つぎに、上るミシシッピーの右手つまり東側を焦点を合わせてみる。そうしてルイジアナ貫通後はまもなくしてミシシッピー州と交わることとなる。長い南北の州境の片端はその名前の物語る通りにミシシッピー川で型取られている。さらに上流の右側は申し訳ていどに横長縦狭のテネシー州の南北境界に重なる。そこよりさらなる絶頂を目指すためにも、北上を保ち続けることでケンタッキー州、イリノイ州、ウィスコンシン州というずいぶんな長旅をしていることとなる。北、まだ北、もっと北ということで、最終地点の源流ミネソタ州へとたどり着く。オー、ミネソター、ミネソターと！ しかしながらも、もしかするとミシシッピー川の源流はさらに高地で山岳部の奥深くモンタナ州にあるのかもしれないと想いうかんでしまう。
ちょっと待った、チューをしそうになったことがいけないんじゃなくって、それがわざとらしくなってしまったことがいけないんだろう。あれを空振りしているとは呼ばないのかもしれない。左にひねった首、その角度に不自然さはない。ハンドルに添えてあった左手をはなすタイミング。手首を返すその速度。始動の前に左脇の筋肉を上げるのは、まさに弓を引く準備の所作である。整ったらさて一息というわけにはいかない。あくまでスムーズであることを重視して行動を体現することさけなのだ。そうしてそっと左腕をバックシートに伸ばす。わるい方向ではない。獲物に近づくのにそれらしい。誰が見たって間違っているとは言わないだろう。その左手指の先が地図帳に当たろうとも当たらずとも。
とりあえずのミシシッピーの水源はイタスカ湖ということになっている。イタスコ。それはミネソタ州北西部に位置するそれほど大きくはない氷河湖である。イタスコ。北米大陸の真ん中にあっても氷河というくらいなのだからそこはかなり冷たい場所なのだろう。イタスコ。すべてのものを冷ましてしまう。イタスコ。北米大陸の臍のようなものだろうか。イタスコ。その氷河湖の大きさは偉大なるミシシッピーの流域とは似つかわしいくらいのものでもあるが水源とはそういったものなのかもしれない。イタスコ。そういったこともあってイタスコ湖が正式に水源だと確認されたのはたった1832年のことである。イタスコ。
次の瞬間、さも地図帳をつかんだかのように左手首をフックして上へと返す。あくまであくまでそちらに集中した神経があるように。一瞬でも気をゆるめると顔の部分の輪郭が不思議な型に崩壊してしまいそうだ。すでにもう右目と左目は頭蓋の奥深くうもれていってしまっているよう。かろうじて唇が顔の上から垂れおちてしまうことを踏ん張っているけれど、どうしても口の形はㇸの字になってしまっていがちである。尖った唇の真ん中は逆に鼻とくっつきそうになるところまで上がってしまった。誰がここで見ているのだろう、誰がいったいこの状態を直してくれるものだろうか？
そこで考えられる可能性がミズーリ川の支流としての存在である。ミズーリ川はミシシッピーの数ある支流のなかでも最も大きなものとして認識される。ここで重要なのは、その源流はモンタナ州南西部のロッキー山脈中にまで遡ることができることである。ミシシッピーとは双方が流れおりた先のセントルイスの北で合流するのだが。その手前までの長い道のりではミシシッピーを遥かに上回り、北米最高峰のロッキー山脈の遥か上の方からはるばる流れおちて来ていることとなる。
相手がその予定を軽んじて考えていたことが明白なくらいに、約束がキャンセルになったり待ち合わせ時間が後ろにずれこんだりすることとなる。そんなことなのであればあらかじめキャンセルしてくれていたほうがまだましなのかもしれない。さすがにこっちだって制限なしで待たされているような状態になるとイライラは募ってくる。仮にそういっておきながら相手がとつぜん現れても、それはそれで迷惑な話で、たとえどこで真実を聞かされたとしたって、それはそれで混乱してしまうか急に気持ちを立て直そうとしてみてもなかなかうまくはいかないだろう。どこかでそんなことも期待しているのかもしれないけれど、実際にそうなったらやはりシレっとしてしまう。
もう一度目の祈りを込めるように。ミシシッピーの当面の源流はミネソタ州にあるイタスカ湖だと言われる。ミシシッピー、ミネソタ、イタスカ。しかしながらミシシッピー川には支流とも呼ばれるミズーリ川が存在し、高地より流れ入るミズーリ川の方を源流と呼ぶことも不可能ではない。ミシシッピー、ミネソタ、イタスカ、ミズーリ。ミズーリ州セントルイスの北でミシシッピーと合流する前にはカンザスシティーを通ってミズーリ州とカンザス州の州境を引く。ミシシッピー、ミネソタ、イタスカ、ミズーリ、カンザス。さらに遡るとネブラスカ州とアイオワ州、サウスダコタ州を分けてさらにはノーズダコタ州に上り源流のモンタナ州の高原へと続く。ミシシッピー、ミネソタ、イタスカ、ミズーリ、カンザス、ネブラスカ、アイオワ、サウスダコタ、ノースダコタ。
水族館に行ったところまではよかったのだろうか？ オシャレ本屋では楽しく話したはずだったのに。メールやら電話やらの返事はまったくもうない。お気に入りの本を紹介しようと振り返ったそのとき近い位置の視界にその子の顔が入った。こんな可愛い女の子と今はデートしているんだぜと改めて実感をもつ。そんなふうに考えれば考えるほどさらにまた顔を直視できなくなる。
なんだかモンタナ州の方こそが、ミシシッピーの本当の源流だというような気になってきている。もしそれが本当ならば、そこからはどんなドラマが生まれるのだろう。もはや幻とさえなっている源流はそちらの方こそがあるべき姿なのかもしれない。たとえ本当に源流だとしても、違う、違うぞと言い続けられてしまう孤立したモンタナ州の高原。ロッキー山脈の遥か高いところから流れおちてきている偉大だと呼ばれるべきアメリカの水の源。あれ、あれ、ナイアガラの滝？みたいなみたいなイメージが想いうかんできた。考えればそこにも行ってみたかったわけだ。そのどれと比べても暫定で公式とされているミネソタ州の源流は、とりあえずそこにあった水たまりぐらいのイタスコ湖がその位置から考えてミシシッピーの源流だと呼ばれた。イ、イタ、、イタス、イタスコ、、イタス、イタスコ、、イタス、イタスコ……、そこまで。モンタナのその先までは思いもよらずに。
海岸線のドライブの結末はレストランからの夕焼けに間に合わせるために少し急ぎすぎてしまっていたのか？ 途中で通った漁師町の磯のにおいが強すぎたのかもしれない。立てかけて干してある海苔のカーテンを見つけて美味しそうと言った彼女はあまり海苔を食べない。もしかして彼女はさらに海苔が嫌いになり、このさき海苔を全く食べなくなってしまうかもしれない。その場合自分もこのさき海苔を食べなくてもいいような覚悟を決めておいたほうがよいのかもしれない。
ルイジアナ州のメキシコ湾際でのミシシッピー川の存在は曖昧だ。モザイク柄のように散りばめれているかのような陸地と逆にモザイクに散らばっているミシシッピー川の河川地帯を浮き上がらせているのはメキシコ湾河口近くの標高の低い土地である。
レストランでの食事は決して豪華なものではなかったのだが喜んでくれていたはずだ。少し安めの値段設定で済ませたのだけれども、もちろん相手の財布は出させなかった。少し困った表情を浮かべながらありがとうっていう言葉を繰りかえしてきた理由は、こちらがそれにうまく応えられなかったことにあるのだろうけど、それも愛嬌だと取ってくれるような気がするぐらいかなりの部分で相手も大人なのだ。
たとえば、こんなに緩やかに見えるミシシッピーの流れの中にだって落とし穴はあるのだろう。そんなふうに意識するかしないかに関わらず落とし穴というのは確実に存在する。こうして見ている限り、のんびりと緩やかで癒しにしか見えないようなミシシッピーの流れなのに。
別れているといえども彼女のいとこというのはマズかっただろうか。こちらが意識してもしなくてもむこうの方からは意識されているのかもしれない。二ヶ月前から専門学校に通い始めたばかりなのだから同級生もまだ免許を取れていないだろう。ドライブに行かないかと誘ってみたらふたつ返事で行くというのはそういうことだったのだろうか。そのときはまだこっちが彼女と別れないと思っていたからだろうか。別れたからって連絡先を交換しているのなら連絡していけないということはない。でも誘ったからって本当に来ることになるとは。純粋恋愛に関してはだれもジャマすることなど出来ないはずだ。だから誘われたら来たっていいわけだし、理論上はもっとなんでも出来る。相手もそう思っていればよいのだが。
最後にもう一度ニューオリンズからたどってみることにする。指先の触角を意識してその水辺の上をなぞるように。まだなにか新しいことが見つかるかもしれない。上り始めるのはいつものルイジアナ州ニューオーリンズ、この州の中ですでにミシシッピー川は何度もうねりを作っている。どのように川がうねりを作るのかを考えてみるほうが、どのように州境が作られているかよりも数倍もというか比べものにならないほど興味深いのだけれど、ここではそれは伏せておく。あらためてミシシッピーによってどんなふうに州境が型作られているのかを見てみようと思う。
「道が空いてていいわね」ちょうど向かいから来た車とすれ違うときにその子は言った。本気でそう思って言っているのかな。乾いた空気の中で響いた ”いいわね” だけが耳に残ったものですから。「車の性能ってなかなか本気で発揮できる機会がないって聞いたわ。でもこんな日なら、それも叶いそうね」買ってまもなくでまだ新車とも呼べるくらいの時期なのにそんな無茶をこの車にさせる気だろうか。「本当によいドライブは静かな音で移動してる気もしない。そこに文明の進歩を感じるわね」文明論？ それとも車会社の関係者？ と普通なら思うところだと頭の片隅で引っかかりながら、やっぱりやさしい性格だった彼女のことにグッとまた引き寄せられる。世界がその色加減と光の中で今までよく見えなかった粒子で埋め尽くされる。こんな色彩だったんだね。こんなに鮮やかな光の層が世界の中には存在していたっていうのか。この視界を持ったまま中学校のときに通っていた通学路に行ってみたい。きっと今なら輝いて見える。やっと今なら輝き始める。だから今は世界が変わる５秒前のあとの５秒。そしてそれから５秒と永遠。本当にこのまま続くのか？
とつぜんミシシッピーが乱れているように感じられたのは、イリノイ州とウィスコンシン州の間ぐらいで、この辺りだけ川幅が異様に狭くなっていることを見つける。いったいこれまでの水量をどのようにしてこの辺りの集水面積に収めることができるのだろうかと不安になってくる。他の流域が全て問題なく均等に流れていたのかという確証はないのだけれども、なぜだか不思議と安心感を持たされていた。流れが急になるところにはそれなりの理由があるだろうし、そういった箇所さえすぎれば穏やかに戻るのはやはりミシシッピーの持っている許容さがその偉大性を意味づけている所以であった。この狭い川幅の領域だけをのぞいては。何処かにたくさんの水が流れ落ちているような現象でもあるとしか考えられない。でもいったい何処へだろうか？
「最近よく見かける選挙カーも今日は見ないし」 って彼女。ちょっと待ってよ！ 今日って投票日じゃない！？ わたし、投票に行かないと行けないわ。そうするためには、その前に一度実家に戻って投票券を取りに行かなければいけないし、それを計算に入れると今すぐ行ってもギリギリぐらいになってしまいそうだわ。って、どういうこと…… 「今日行かなきゃ行けないの？」という言葉に返事はない。そうか、 期限前投票っていうのはあっても期限後投票っていうのは、ないのか？ なんてことを言ったら、あなた何を馬鹿なこと言ってるのが関の山だ。「もしかして、家族とか親戚とか他の知り合いに選挙関係者とかどこかの党員で票を入れてくれって言ってきる人がいるわけ？」と言いそうになりながら、隣にいる彼女の口元がギム、ケンリ、ギム、ケンリ……と呟いているのを見てとる。「わたしね、今まで三回あった選挙の投票を一度も欠かしたことがないの！ だから今回も……」それを耳にして全てを悟りそうで悟りきれなかった僕をとり残して彼女は携帯で選挙予測を調べ始める。彼女にとっては競馬予想みたいなものなのだろうか。「ちょっとそこの駅で降ろして！」と無理矢理ドアを開け始めた彼女を制止しきれすはずはなく、ハンドバッグが後ろに水平になるくらいの勢いで駅の中に吸い込まれていくのが最後に見た彼女の姿だった。
そういった流れに身をまかすのであればその内に存在するゆらぎだって感じ取れるものだろうか。束ねられた絹糸のゆらぎを体感することこそがミシシッピーを感じることだというのであれば、自分自身がその糸の内に入り込んで流れてみること以外に方法はないだろう。
流れていても流れていなくてもそこには二つの頭があってその距離は限りなく近づいていた。そのように想像することこそだけが意味を持つことなのかもしれないけれど、その場にしたその瞬間にいたってもそれはそれだけのことなんだと歯を喰いしばるように見守っていた。必要以上の気持ちは決してなかったのだと。ただ偶然にしてその空間の中で頭と頭が近づき唇と唇が合わさったのかもしれないということだ。
もはやどちらの方向に進んでいることなどには意識を持たず、訪れ来るゆらぎにこそ神経をとぎすませ、カーブしている角度の圧力をとりのがさず身体に吸収できるように集中を高める。五体を圧迫されるような感触にきっとわるい気はしないだろう。一点に尖った絶頂というのとは異なるけれども、裏窓の中を遠く延びた深淵に踏み込んでいくことはまさにここで実感できる。流れ流れて、座標のどこかで自分を失うことなどもなく、どこだって自分がどのように感じていること。自分の想う場所にこそ自分があると信じこむことが能力もあるけれど、そんな信念さえもくたびれさせるぐらいに達成感のないというのがミシシッピーについて想い出すときにたどりついている境の地である。
しかしよりにもよって手にした地図帳がアメリカ全土地図帳って。そりゃあ、あの子も呆れるわな。というか、あの子に呆れてしまわれてるって思ってしまうわ。自信を喪失したのは確かだけれどその他にも喪失したものがないかと周りを見回してみるけれど自信の喪失が余りにも大きすぎて他のなにものにもたどり着かない。仕方なく開いたアメリカ全土のページは日本の地図帳なんかの紙質とは違い、ザラってとしているその紙質を指先で撫でてみる。もしかしたら今日初めて何かに触れることができたんじゃないかっていう微かな驚きを感じながら。撫でている指先の皮膚の表面では山の勾配も川の流れの緩急も等質に感じられ今日一日に起こったこと全ても相対化できてしまえるような親密さがあった。
こうしている間にも29の龍が死に、延べの数字でいうと831の王位が入れ代わったことは言うまでもない。そのことは予め決められた通り一方的にだけ進んでいった。そしてそのことこそがこの物語全体のメインのプロットなのである。
ミシシッピーは緩やかに流れ。
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コメント(13)
>>[4]
エディーさんの作品は、いつも難解なのですが、もしかして時代が無味無臭的に追いついていないのかなって思ったりもします。
かの、アインシュタインも、この前テレビで知ったのですが、20世紀最大の物理学者として、相対性理論で有名ですが、実はノーベル物理学賞は光量子仮説に基づく〜、とかで受賞したらしいです。
何でも相対性理論は、その当時のノーベル賞の選考委員の人たちには、理解ができなかったらしくて、何とか理解ができた光量子仮説に基づく〜になったそうです。（大学の博士号論文でも、相対性理論は受け入れられなかったようです）
・・・ということで、10年後には無味無臭的は、最も先鋭的な文学になっているのかもしれません＾＾
そんな自分は10年後どころか、一か月先すら読めない凡人ですので、今回の作品も理解できませんでした。ごめんなさい＞＜
無味無臭的な戯れとしてお許しください
エディーさんの作品は、いつも難解なのですが、もしかして時代が無味無臭的に追いついていないのかなって思ったりもします。
かの、アインシュタインも、この前テレビで知ったのですが、20世紀最大の物理学者として、相対性理論で有名ですが、実はノーベル物理学賞は光量子仮説に基づく〜、とかで受賞したらしいです。
何でも相対性理論は、その当時のノーベル賞の選考委員の人たちには、理解ができなかったらしくて、何とか理解ができた光量子仮説に基づく〜になったそうです。（大学の博士号論文でも、相対性理論は受け入れられなかったようです）
・・・ということで、10年後には無味無臭的は、最も先鋭的な文学になっているのかもしれません＾＾
そんな自分は10年後どころか、一か月先すら読めない凡人ですので、今回の作品も理解できませんでした。ごめんなさい＞＜
無味無臭的な戯れとしてお許しください
まず、出だしに引き込まれまれ、どんな物語が続くのか、まさか、アメリカ開拓史的な物語なのか！？
とわくわくしたところ、まさかのチューについての話で驚きました。
この二つの流れをどう繋げていくのだろうか、と思って、さらに読み進めたのですが、ミシシッピー川の流れのようにテネシー川などと合流するのかと思いきや、それぞれが平行に流れて行ってしまったのも驚きでした。
そして、最後に、龍と王座という極めて中国的なものが出てきて、さらに驚きました。
これは、アメリカと中国の関係を表しているのでしょうか？(笑)
さらに、龍と王座の数字についても気になります。ジョイスのユリシーズで1132という数字が多用されているのを思い出してしまいました。
前回よりも、さらに謎が深まりました。
とわくわくしたところ、まさかのチューについての話で驚きました。
この二つの流れをどう繋げていくのだろうか、と思って、さらに読み進めたのですが、ミシシッピー川の流れのようにテネシー川などと合流するのかと思いきや、それぞれが平行に流れて行ってしまったのも驚きでした。
そして、最後に、龍と王座という極めて中国的なものが出てきて、さらに驚きました。
これは、アメリカと中国の関係を表しているのでしょうか？(笑)
さらに、龍と王座の数字についても気になります。ジョイスのユリシーズで1132という数字が多用されているのを思い出してしまいました。
前回よりも、さらに謎が深まりました。
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