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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第114回『JUNYのめぐり逢いに、めぐり逢い』チャーリー作(自由課題)

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思いがけない場所で、思いがけない人と出くわすことがある。


そういうときに限って、たいてい相手は顔を合わせたくない人、もしくは合わせると都合が悪い人が多い気がする。
先方もおそらく俺と全く同じ思いを抱いており、お互い気まずい思いをして、愛想笑いを浮かべながら、内心、「なんで、よりによってコイツと会っちまうんだろう。ちぇっ」などと苦虫を噛み潰すのである。
まれに、出くわした相手の、最も見せたくなかった場面に居合わせてしまうことがあって、そんなときはちょっと得したような気分にさえなる。表向き恐縮しつつも、心では相手の意外な一面に驚き、そして相手の弱みを握ったような気になってほくそ笑んだりする。
例えば、こんなことがあった。




          ***




あるクリスマス・イブの夜のことである。
俺は一人、ファミレスで小説を書いていた。
出版デビューすることを夢見て、毎年のように文学賞に応募しては落選を繰り返し、未だ『小説家になろう』専属小説家に甘んじている俺なのだが、そもそも執筆自体は好きなので、応募用の小説執筆の合間に息抜きを兼ねて短編を書くことがある。
今取りかかっている作品もまさしく趣味の産物で、一万文字を切るショートショートだ。
物語の主人公は、家の向かいに引っ越してきた一家を窓から覗き見するのが趣味の変態男である。男が隣人の夫の不倫現場を偶然目撃してしまったことから騒動に発展するという筋書きで、要はヒッチコックの『裏窓』をなぞっただけのたわいもない話だ。
一応、最後まで書き上げていて、後は細かい言い回しや誤字脱字を直せば完成である。
であるのだが、ラストのオチの部分が、どうもインパクトに欠けるというか、ありきたりな展開であるような気がして面白くない。
ここ数日間、徹夜で推敲を重ねているものの、なかなか納得のいく展開が思いつかない。
何とか今日中にはケリをつけよう。そう意気込んで、今朝は開店直後からファミレスの一席を陣取りパソコンの画面を睨みつけているのだが、寝不足で疲れが溜まっているのか、一行ひねり出すだけでも相当な時間を食ってしまう。
気分転換に吸うタバコの本数だけがいたずらに増え、日は昇り沈んで夜は確実に更けていき、そろそろ閉店のタイムリミットが迫ってきていた。
いったん切り上げて、家で続きを書く選択肢がないわけではないものの、疲労困憊の体では家に着くなり、ベッドに倒れ伏して朝まで寝入ってしまうのは容易に想像ができた。であれば、ここで一文、一文字でも書いた方がまだ生産的と言える。
全くご苦労な話だ。趣味で書いているだけで締め切りはないのだろうから、そんなに根を詰める必要もあるまい、と思われるかもしれない。
ところが、この作品には立派な提出期限が設けられているのである。



文学賞に応募する傍ら、俺は月に一度、都内のバーで開かれているある会に参加していた。
その名も『全蔵門(ぜんぞうもん)書きもの倶楽部』。
通称、文芸部。
読書家でありアマチュアの作家たちが集って、各々書いた短編小説を持ち寄り、皆で読み合って互いの作品を論評し合うという会である。
というと難しい文学評論を想像してしまうが、この文芸部の敷居は非常に低く、読書家はもちろんのこと、普段ほとんど小説を読まないような者も参加することができた。
提出する作品も様々であり、基本的にどんな内容を書いても構わない。
ただ条件として、一万文字以内の短編であり、月ごとに決められたお題に沿っていて、毎月第二日曜の夜までに提出することが求められた。
なぜ期日が設定されているかというと、会の開催が翌日の第二月曜の夜だからである。
当日は会の参加者が作品の感想を述べ合うため、執筆者は参加者に自分の作品を読んでもらう必要がある。さすがに当日提出されたのでは、なかなかゆっくりと読む時間が持てない可能性があるため、締め切りが設けられているのだ。
これを聞いて首を傾げる読者もいるだろう。
お前は先ほど、「クリスマス・イブの夜のことだった」と書いた。カレンダーを見るまでもなく、日付は十二月二十四日に決まっているのだから、文芸部の開催はまだ二週間先であり、締め切りにはだいぶ余裕があるではないか。
確かにその通りではあるのだが、完成を急ぐには切実な理由がある。
小説家では当然食えないため、自分も人並みに働いているのだが、この仕事が業種柄、休み前と休み明けが駆け込み需要のごとく忙しくなる傾向があった。特にクリスマス後から成人の日にかけての平日は、一日中職場に缶詰になることを覚悟しなければならないほどで、まず小説に費やせる時間はない。
さりとて、この時期の土日は、楽しみにしている推し活に忘年会に新年会にと、ただでさえイベントが盛りだくさんなうえに、正月は正月で実家に帰省することを常としている。
つまり、今のうちに小説を仕上げておかなければ、書く時間はほとんど残されていないも同然なのである。


店は多摩ニュータウンの寂れた団地のど真ん中にあり、普段は週末でも客足は落ち着いているのだが、今日は日曜日のクリスマス・イブというカレンダー的な巡り合わせの良さもあって、昼間から夜にかけて店内は珍しく混み合っていた。
さすがに夜も十時を過ぎると、家族連れや年寄りのグループはほぼ姿を見せなくなったものの、それを補うかのように店内はカップルたちであふれ、下は高校生ぐらいから上は三十代くらいまでの二人連れが己の多幸感を見せびらかすようにいちゃついている。
イブという、恋人と一緒に過ごすことが半ば暗黙の了解になっているのもあって、しがない独り身であり絶賛彼女募集中の自分にとっては、余計に恋愛だの恋人だのを意識せざるを得ない。加えて、目の前でこうもたくさんのカップルたちにイチャイチャを見せつけられたのではたまったものではない。嫉妬心を通り越して、身勝手にも腹立たしささえ覚えてしまう。
小説を書きに来ているのだから、それに集中すればいいのだが、先ほども述べた通り、俺のやる気などに構わず、俺の脳は全く働く気がないようで、何を書いてもちっとも面白く感じられない。いったん指が止まってしまうと、あっという間に集中力は雲散霧消して万策尽き、イライラだけが募って、視界に入るカップルたちに八つ当たりするようにますます腹が立ってくるのである。完全なる悪循環だ。
そうして、文字通り頭を抱えていたときのことだった。
ふと、視界に入った男性に目が留まった。


自分の席から見て斜め右、四人掛けのテーブル席に一人で座っている男性である。
短いロマンスグレーの髪型からして、年齢はミドルエージぐらいだろうか。
高そうなダークグレーのセットアップジャケットに、インナーは白のロングTシャツ、こげ茶のマフラーを巻いて、それだけ見ればアパレルブランドの広告モデルのようなシックな出で立ちである。
ボストン型のメガネをかけ、黒いマスクをつけているため、顔つきは判然としないものの、なかなかの男前のようだ。
彼がいつからそこにいるのかはわからないが、テーブルにコップや皿の一つも置かれていない様子から察すると、誰かと待ち合わせをしているらしい。
男性の隣の席には、スーツケースほどの大きさのある紙袋が独特の存在感を放って鎮座しており、袋の中からこれまた大きな箱が顔を覗かせている。赤と緑のウールチェックの包装紙からして、中身はクリスマスプレゼントと見てほぼ間違いない。おそらく、男性はこれを渡す相手を待っているのだろう。
代官山か六本木のバーにいそうな彼の上品な身なりは、多摩などという郊外中の郊外の、それも安っぽいファミレス店にはおよそ似つかわしくなかった。まるでお忍びで来ている芸能人のように周りの客層から浮いている。
俺はパソコンのモニターごしに、ぶしつけにも彼をじろじろと観察した。
彼の風貌に強烈な既視感を感じたからである。どこかで会ったような気がしてならない。喉元まで正解が出かかっているのだが、思い出せない。映画で見た俳優さんだろうか。
マスクで顔の半分は隠されているせいで、かえって二つの目元が際立って見える。
優し気でありながら、どこか野性的で荒っぽさを感じさせる、意志の強そうな眼差し。
見覚えがあるような――と思ったのも束の間、頭の中でパズルがカチッと音を立てて噛みあった気がした。
「JUNY(ジュニー)さん……?」
心の声がそのまま独り言としてまろび出て、俺は慌てて口をふさいだ。
男性は、全く気付かない様子で手にしたスマートフォンに目を落としている。


……あの目つき、髪型、姿。そうだ、どう見てもJUNYさんじゃないか。


(続きます)

コメント(5)

妙にリアルですね。続きが気になります。
>>[1]

コメントありがとうございます!!
頑張って続きを書きます!
当日、移動の車内から電車

リアルな描写、やっちゃってますね〜あせあせ(飛び散る汗)
これは全体の分量大変になりそうあせあせ

ぶっちゃけ、私のJUNYさんイメージは中井貴一。
隣に置いてるギフトに引け取らない体格、さっちへ
切れました……続けます。

そっちへ寄せて最後まで読みました。
ダンディーの描写、素敵ですねぴかぴか(新しい)
>>[3]
コメントありがとうございます!
書き出したばかりなので、自分でも分量がまだわかっておりません汗

中井貴一もカッコいいですね〜
自分は完全にJさんを想像しながら書いてます笑

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