半蔵門かきもの倶楽部コミュの第107回　王都作「指きりげんまんエンガチョ」(テーマ選択：「ポマード」「信じる」)

ここでのエンガチョ：「約束」「絆」「縛り」

日記版
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1987351699&owner_id=9270648

出てくる人
とある奴：会社員。1972年5月生まれ。牡牛座。
会長：じいさん。たぶん90代。
小籔俊樹：とある奴の同僚
友達：とある奴の級友の一人。男子

本文
　ここは、とある国のとある会社の倉庫。
　日本の商社から転職して長いとある奴が、資料室の要らなくなったファイルやら何やらをまとめて運び込んでいる。
　ポロッとボヤく。
「あのプロジェクトでヘマしたのが痛いわ。ちくしょう……」
　そうしてるうちに、Xから誕生日の通知が届く。
　開けるとたくさんの祝いメッセ。中には、
［今週中、いつものバーでシンハービール飲みましょう！もちろん他のも

　小籔俊樹］
　ついつい顔がほころぶ。おっと、ヤバい！
　すれ違ったそのとき、【ポマード】の臭い襲来！
「か、会長。。。」

＊＊＊

　会長室。久々にここ入る……何年ぶりかな？
　思えば俺は、妻がいる身でタイにあるこの会社へ飛び込んだ。現地のゴムタイヤ卸会社。日本人の同僚は誰一人いなかった。その分来た当初は友人あてにかけた通話料が何万か。当然酒代も飛んだけど、もう笑って話せる。
　日本に居た頃からのサプライヤー狙いが当たったのか、無事採用されてのちに社長(今の会長)に気に入られ今がある。会長も俺もアジアンフード好きで、バンコク周辺の店はだいたい知ってる。
　更に身なりを正した会長の口からおもむろに、
「ワシらの会社はアレで首がつながった」
　ゴムタイヤ。すべてはここから始まった。
　会長は、温かな眼差しを遠くへやり、
「あの頃は、ただただ、全世界に向けて役立てていること。それのみが支えだった」
　会長は、目を閉じてなお、輝かしかった過去に思いを巡らせる。
“皆んなが喜ぶじゃないか！”
“三方よし。これだウチは”
　会長は、なおも続けて、
「そこに、君が来た。あのときの君はとても素直で活き活きとした目をしていた。その一点でわが社の連中より抜きん出ていて、ワシは見るなり直感した。“コイツはこの会社に欠かせなくなる人物だ！”と」
　会長の手がとある奴の肩まで伸び、がっちりと掴む。
「私は君を【信じ】てい【る】ぞ」

＊＊＊

　会長が倉庫を去って、入れ替わるタイミングで同僚の小籔が手伝いに来た。
「(Xでの)レス、サンキュ！現場早く上がれたから来たぜ」
　俺も迷わず、
「ありがとう！めっさ助かる！！！」
　ほどなくして小籔が資料室へ急いで向かい、彼の足音が聞こえなくなった。
　その頃、ハッと気づく！
　会長に掴まれた肩のたしかな感触が、別れて15分ほどたった今も消えない。
　と、ともに勝手に思い出されたのは……
　かつて、小学の頃らへんに引っ越しで離れてしまう友達とした、
「あんまし会えなくなるけど、友達だからな。指切りげんまんエ～ンガチョッ！」
　コレか。なるほど。

(完)

―― cahier ――
ポマード使用者はまだ居る
前線に戻れるチャンスはある社風
加工した製品は、原料の生ゴムよりも高く売れた
―― Material ――
「触れる」
バンコクの青空と喧騒
舗装されてなかった頃の土の道
真っ黒のゴムの原料映像
曲想のみ「前兆」／『薔薇色の明日』収録曲