紅い竜と四天王女コミュの王女たちとの出会い３

アルスもこちらの身元を探って話しているような気がしていた。
　互いの腹を探り合う二人に他の四人は何も知らない。
（アルスなかなかやるね。まだ、頼れる人か分からないけど）
　ユリアはアルスを評価したが、まだ、警戒を緩めてはいない。
　本当に信用するかは領主の顔を見せ、頼れる者かと値した時だと判断した。
　ユリアは会話を聞きつつ、アルスの言葉一つ一つに考えを廻らせた。
　アルスはユリアが自身を探っている事は知りもしていないが、言葉を選んでゼノヴィアと会話している。
　二人の探り合いはシャラントの街まで続きそうだ。


　シャラントの街は領主の屋敷のある丘を頂点として扇状に街が整備されており、その奥には広大な田畑が広がっている。
　街道は馬車が行き交うほど広く、建物は石造りで屋根は褐色か土色が多い。
　畑仕事をする者、露店では活気ある声を出して商いをする者など汗を流して働く姿が見える。
　道の端では婦人たちの世間話、子どもたちの遊び、独自に商いをする占い師や装飾品を売る者などがいる。
　ゼノヴィアたちは街の中を歩いていた。
　さすがに、五人が騎乗して進むのは迷惑だと思い、せめて、手綱を引きながら歩くことにした。
　アルスとは街が見えてきた所で別れた。
　ユリアだけは先回りして屋敷に行ったのかもしれないと思っていた。
　五人は屋敷を目指して歩いているが、街の人々からの視線を浴びている。
　身なりは高級な服ではあるものの、ボロボロで汚れている。
血が付いている箇所もある。
　その視線は物騒なことでもあってこの街に来たのだと非難さえにも思える眼だ。
　五人にとって痛いわけではないが居心地が良くないはたしかだろう。
「すごい眼で見られてるよ。屋敷はまだなの〜」
「もう少しだから、静かにしなさい。これ以上、目立ちたくはないでしょ？　まったく」
アリエルは小声で愚痴を溢すもエレンに怒られた。
「もう十分に目立ってると思うけど」
「これ以上、目立つのは良くないと言ってるの、ほんと、アリエルは言い訳ばかりよね」
「エレンお姉ちゃんだって、いつも、私に口では負けてるよね」
「うるさいわね！　アリエルは武勇では一番弱いじゃない」
　ここまで溜まって来た様々な感情が出始めた。
エレンとアリエルは、その感情を苛立ちという形で出してしまい互いに衝突させた。
その結果、口喧嘩が始まった。

声は大きくなり視線は非難から驚きへと変わった。
「武勇が無くても頭を使えばいいの。猪みたいな将よりはよっぽど良いもん」
「誰が猪だって？」
　二人の言い争いは街中の注目の的になっていた。
「二人ともいい加減にしなさい！　街の人たちに迷惑になっているでしょ。慎みなさい！」
　煮を切らしたゼノヴィアが威を込めて二人の口論を止めた。
「「ごめんなさい……」」
　ゼノヴィアの一喝がエレンとアリエルに効いた。
「エレンお姉ちゃんもアリエルもう少しで屋敷に着くから落ち着いて、ね？」
　ユ場を察してかユリアは二人に言葉を掛けた。
　ユリアは姉妹の中でも場を見て機転を利かせることが上手い。
「ルドミラ、ちょっとこっちに来て」
「はい」
ゼノヴィアは振り向き最後尾にいるルドミラを呼んだ。
「アルヌルフがいないけど、シャラントに匿ってもらった方が良いかしら？」
「アルヌルフ殿がいない今、その子息が領主になっていると言っていましたが、その子息があまり有能ではないと思いました」
「あなたもエレンと同じ評価はそんなにしてないのね」
「い、いや、あくまで私の思いでありまして、け、決してエレン様の味方とかではなく」
「落ち着きなさい。別に責めているわけじゃないのよ」
「は、はい……」
（私もまだ判断しかねるけど、話した限りでは無能でもないと思うわ。いや、言葉巧みに自身の事を隠してたわ。なかなかやるわね）
　ゼノヴィアもユリア同様に気付いていた。アルスがシャラント領主だと。
　長女のゼノヴィアは王の後継者として恥じない優れた将で慧眼の持ち主かもしれない。
「なるべく、こちらの身元は隠しましょう。まぁ、身なりからして名門貴族とまでしか隠せないけど」
「わかりました」
　ゼノヴィアはアルスもこちらの身元を知ったのではないかと、少し危惧している。
　初見で互いに牽制し合い探り合った二人はどこか互いに、ただ者ではないと感じ合ったのかもしれない。


　アルスは先回りして屋敷に戻っていた。
「ただいまー」
　玄関先で侍女の名を叫んだ。

「もう〜。また狩りに行ってたんですね〜。今日はお説教とアルス様の嫌いなニンジン題しますからね」
「そんな事より、リュイ、正装を持ってきてくれ」