紅い竜と四天王女コミュの王女との出会い２

「俺も今から町に帰る所なんだ。よかったら、一緒に行こう」
「助かるわ。では、お言葉に甘えてご同行させてもらう」
　彼女たちはアルスと一緒に町へと行くことになった。
「俺はアルシアス。アルスって呼んでくれ」
「私はゼノヴィアよ。よろくね。アルス」
　アルスは愛馬に跨ると先導するように愛馬を歩かせた。
「シャラントの領主アルヌルフさんは知っている？」
　ゼノヴィアはアルスに訊く。
　一瞬、切なそうな表情を見せたが、ゼノヴィアには見えなかった。
「ああ。民に優しくて、いつも一番に民の事を考えてくれた強くて心優しい領主様だよ」
「私たちはアルヌルフさんに会いたいのだけど、今は御屋敷にいるのかしら？」
「いないよ。正確にはもうこの世にはいない……」
「「「「え？」」」」」
　一同が驚きの声を上げた。
　ここまでアルヌルフを頼りに来た。
　一瞬にして身体から力が抜けるような思いだった。
現に彼女たちの身体には体力は残ってない状態に等しいが。
「そんなことって……」
「これからどうするの……？」
「せっかくここまで来たのに……」
「嘘でしょ……？　これからどうするのよ……？」
「私も信じられません……」
　アルスは彼女たちの顔を見られなかった。
　その事実を作ってしまったのは自身であるから。
（父さん……ごめん……今は彼女たちに話せない……俺が父さんを殺してしまったことを……）
「アルヌルフがいないのなら、今のシャラントの領主は誰なの？」
　ゼノヴィアはアルスに訊いた。
　アルスは『自分』と言いそうになったが、喉元で押し止めた。
「アルヌルフの息子アルスレッド」
「そのアルスレッドはどんな人なのかしら？」
　自分で自分を説明するのは難しいが、アルスは客観的に自分を説明し始めた。
「よく町に視察に来て町人の話を訊いたり、仕事を手伝ったりしている人かな」
「アルヌルフ同様、民思いの領主の方ね。戦はした事あるのかしら？」
「初陣は果たしたらしいけど、詳しくは分らない」
「そう。アルスはアルスレッドをどう思ってるのかしら？」
（自分で自分をどう思うかって考えた事もないな）
　答えるのに困ったが分らないと言うわけにはいかなかった。
「今は良い領主だと思うけど、まだ領主になったばかりだから、これからは分らない」
「ありがとう。アルスの話を聞いて決めたわ。アルスレッドに会いましょう」
「お姉ちゃん！　アルヌルフはいないんだよ。そのアルスレッドに会ってどうするつもり？」
　エレンが強く抗議した。
（身なりからしてただ者ではないと思ったから領主の身を隠したが、何者なんだ？）
　アルスは気付いていた。彼女たちがただ者ではないと。
　領主の名を訊かれた時、自分だと言わなかったはそのためだった。
　彼女たちを疑い怪しんでいる訳ではなく、何者かと知りたいから隠しただけである。
「でも、話を聞いた限り強いと思わないしダメな領主だと思う」
（辛辣すぎる……。そこまで普通言うか？　あの子けっこう思った事を口にするんだな）
「わたしは会ってみたいかも？　どんな顔しているか興味あるし」
「僕も会ってみたいな。どんな人か詳しく知りたい」
「私は姫様たちに従います。個人的には顔くらいは見ておきたいです」
　賛成四人に反対一人。結論は言うまでもないだろう。
「アルスレッドに会うわ。アルス。屋敷まで案内お願いできるかしら？」
「俺、用事あるから途中までなら」
「では、そこまでお願いするわ」
　王女たちはシャラントの領主アルスレッドことアルシアスに会うことに決めた。
　誰もそのアルスレッドが隣にいると知らない……。
　いや、一人だけ怪しんでいる者がいた。



　ユリアは後方でゼノヴィアとアルスの後ろ姿を見ていた。
　二人の会話も耳に入っていた。
（アルヌルフが亡くなっていた事には驚いた。今でもあまり信じられない）
　ユリアもこの事実は計算外の出来事だった。
　疲弊した身体から力が抜け落ちたのも事実。
　それと同時にユリアの頭の中で一つの疑問が生じた。
（アルスはどのようにアルヌルフが亡くなったか言っていない。町人でも普通にわかることだけど）
　町人のアルスでも領主が亡くなった死因はわかるはずだ。だが、それを言っていない。
　自分たちが死因を聞かなかったからにしても、亡くなったら死因は言うはずだ。咄嗟的にも。
　言わない理由が引っ掛かっている。
（アルスってもしかして……それなら言わない理由が説明付く）
　ユリアの見解は当たっていたが、彼女はこのまま知らないふりをしようと決めた。