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西岡の雑誌図書館コミュの石田勇治・田野大輔・(座談会)小野田拓也:ヒトラーは「良いこと」もしたのか(文藝春秋・2023年11月号:180〜194ページ)その1

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田野ーーただ、そのように専門家が指摘すると、「上から目線だ」と反発を受けることもあります。石田先生はこれまで、一般向けの本や講演などで啓蒙活動を数多くされてきたと思いますが、一般の人々の歴史認識を高めるための活動についてはどうお考えだったんですか?
石田ーー「私がやらなければ他に誰もやらないだろうな」と考えたように思います。そもそも、私がナチズムやホロコーストの問題に歴史家として携わるようになったきっかけは、1995年に起きた「マルコポーロ事件」です。文藝春秋の月刊誌「マルコポーロ」2月号にユダヤ人を虐殺した「ガス室はなかった」とする荒唐無稽な記事が掲載されました。その直後、ある週刊誌の問い合わせに答える形で反駁のコメントを公表したところ、「マルコポーロ」の記事を信じる人から「あなたは間違っているから、訂正記事を出せ」と逆に抗議を受けて、拒否すると訴訟をちらつかせられました。ある歴史学会この経緯を話して問題提起をしたのですが、大方は無関心でガッカリさせられました。気を取り直して、同僚と大急ぎで刊行したのが『アウシュヴィッツと<アウシュヴィッツの嘘>』(白水社)でした。
小野寺ーー当時、私は学部の1年生でしたが、石田先生が戦う姿を見て、尊敬の念を抱くとともに、ナチズム研究者とは大変な仕事だと思いました。
石田ーー『検証』を読んで「歴史は繰り返す」と感じたのは、歴史修正主義の問題です。マルコポーロの事件当時から広がりを見せていましたが、最近のツイッターでの動きは、歴史修正主義の新しいバリエーションではないでしょうか。
小野寺ーーおっしゃる通りなのですが、石田先生が約30年前に戦った相手とはその性質が変わってきているように感じます。マルコポーロ事件は、いわば「ハード」な歴史修正主義に基づいており、その言説は誤ってはいるけれど、根拠らしいものが用意されていました。一方で、田野さんや私が戦っているのは、「ソフト」な歴史修正主義です。何かを修正しようとする意図や特定の政治的な思想はないけれど、何としても「ナチスは良いこともした」と言いたくて、根拠は薄弱なのに、「世の中に絶対の悪はない」とか、「歴史は白か黒かではない」と言い張ります。もちろん、そうした考え方自体は歴史を学ぶ入り口としては間違ってはいませんが、問題はそれが結論になっていることです。
田野ーー「ソフト」な歴史修正主義の背景には、今の社会に蔓延している、何でも相対化する価値相対主義があると思います。歴史的事実を元に「ナチスは悪だ」と結論付けることに生理的な拒否感を持っていて、「左翼イデオロギーに凝り固まっているから偏った見方しかできなんだ」と批判する。明らかな歴史的事実まで相対化しようとするから、議論をしても話が嚙み合いません。
小野寺ーー現代の価値相対主義が不気味なのは、右翼や左翼といった従来のイデオロギーでは分類できないところです。本当に得体の知れない、いわば背骨の無い思想なのです。
田野ーーその通りですね。「ナチスは『良いこと』もしたと言いたがる人たちは、いわゆる「ネトウヨ」的な人が多いと思っていましたが、単純にそうとも言えません。複雑な背景があると思いますが、その一つには専門的な知見に対する不信感があるのではないでしょうか。石田先生が書かれた『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)は、初心者でも手に取りやすい信頼できる入門書ですから、「まずはこれを読んでください」と反論したこともありますが、彼らは読もうともしません。『検証』も、タイトルだけを見て拒絶する人が多い。専門家による歴史研究を軽んじる反権威主義的な姿勢が影響しているように思います。

(石田勇治・田野大輔・(座談会)小野田拓也:ヒトラーは「良いこと」もしたのか(文藝春秋・2023年11月号:180〜194ページ)より 183〜184ページ)
https://www.amazon.co.jp/%E6%96%87%E8%97%9D%E6%98%A5%E7%A7%8B2023%E5%B9%B412%E6%9C%88%E5%8F%B7-%E6%96%87%E8%97%9D%E6%98%A5%E7%A7%8B/dp/B0CLYV154J/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=9N3D4M1VRHRW&keywords=%E6%96%87%E8%97%9D%E6%98%A5%E7%A7%8B+2023+12&qid=1700084204&s=books&sprefix=%E6%96%87%E8%97%9D%E6%98%A5%E7%A7%8B+2023+12%2Cstripbooks%2C183&sr=1-1
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小野寺ーーナチズム研究をやる以上、現代社会との関わりは避けて通れません。批判を恐れずに発信されている田野さんの姿には、本当に感嘆しますよ。20年近い付き合いですが、私は後ろを付いて行っています(笑)。
石田ーーお二人は7月に『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット、以下『検証』)を上梓されました。ナチスの経済政策や労働政策について、それらに良い面もあったとする言説を検証し、批判する本ですが、論争的に書かれてあるから一般の人が読んでも面白い。しかも、ナチスが推し進めた環境保護政策などについては、私も見落としていた最先端の研究が紹介されていました。専門家が読んでも勉強になりますから、ベストセラーになっているのも、むべなるかなです。
小野寺ーーそう言って頂けると嬉しいです。時々、「この本に書いてあることは全て知っている」という意見を目にしますが、絶対にそれはないと思います。少なくとも環境保護政策は日本ではほとんど紹介されていない議論を取り入れていますから。
石田「『検証』を読んで驚いたのは、最近、ツイッター(現・X)上でナチスやヒトラーを肯定する言説や「良いこと」もしたとする主張が増えていることです。私はツイッターに馴染みが無いですから、そんな状況は知りませんでした。
田野ーー今、ネットで専門家と一般社会の認識のギャップが広がっていることに危惧を抱いています。2年ほど前、「30年ぐらい研究しているが、ナチスの政策で肯定できるものはない」とツイートしたところ、「30年も研究してそんなことも知らないのか」と嘲笑するような返信が次々と寄せられ、”炎上”したのですが、彼らが「肯定できる政策」として挙げるのは、「アウトバーンの建設によって失業を解消した」など、事実認識のレベルで間違っていると言えるものばかりでした。そんな時に岩波書店から「このような言説を一つひとつ論駁する本を書いてみては」と提案されたので、「一緒に欠きませんか」と小野寺さんに声を掛けたのです。
石田ーー『検証』の中で、「間違ったことが書かれている」と名指しされている書籍もありますね。
田野ーーツイッターの返信を見ていて、ネタ本はこれだな、と特定できた書名を出しました。
小野寺ーーそういう本はもっともらしいタイトルが付いていますから、釘を刺しておかないと、学生が参考文献で使ってしまうんです。
田野ーーただ、そのように専門家が指摘すると、「上から目線だ」と反発を受けることもあります。石田先生はこれまで、一般向けの本や講演などで啓蒙活動を数多くされてきたと思いますが、一般の人々の歴史認識を高めるための活動についてはどうお考えだったんですか?
石田ーー「私がやらなければ他に誰もやらないだろうな」と考えたように思います。そもそも、私がナチズムやホロコーストの問題に歴史家として携わるようになったきっかけは、1995年に起きた「マルコポーロ事件」です。文藝春秋の月刊誌「マルコポーロ」2月号にユダヤ人を虐殺した「ガス室はなかった」とする荒唐無稽な記事が掲載されました。その直後、ある週刊誌の問い合わせに答える形で反駁のコメントを公表したところ、「マルコポーロ」の記事を信じる人から「あなたは間違っているから、訂正記事を出せ」と逆に抗議を受けて、拒否すると訴訟をちらつかせられました。ある歴史学会この経緯を話して問題提起をしたのですが、大方は無関心でガッカリさせられました。気を取り直して、同僚と大急ぎで刊行したのが『アウシュヴィッツと<アウシュヴィッツの嘘>』(白水社)でした。
小野寺ーー当時、私は学部の1年生でしたが、石田先生が戦う姿を見て、尊敬の念を抱くとともに、ナチズム研究者とは大変な仕事だと思いました。
石田ーー『検証』を読んで「歴史は繰り返す」と感じたのは、歴史修正主義の問題です。マルコポーロの事件当時から広がりを見せていましたが、最近のツイッターでの動きは、歴史修正主義の新しいバリエーションではないでしょうか。
小野寺ーーおっしゃる通りなのですが、石田先生が約30年前に戦った相手とはその性質が変わってきているように感じます。マルコポーロ事件は、いわば「ハード」な歴史修正主義に基づいており、その言説は誤ってはいるけれど、根拠らしいものが用意されていました。一方で、田野さんや私が戦っているのは、「ソフト」な歴史修正主義です。何かを修正しようとする意図や特定の政治的な思想はないけれど、何としても「ナチスは良いこともした」と言いたくて、根拠は薄弱なのに、「世の中に絶対の悪はない」とか、「歴史は白か黒かではない」と言い張ります。もちろん、そうした考え方自体は歴史を学ぶ入り口としては間違ってはいませんが、問題はそれが結論になっていることです。
田野ーー「ソフト」な歴史修正主義の背景には、今の社会に蔓延している、何でも相対化する価値相対主義があると思います。歴史的事実を元に「ナチスは悪だ」と結論付けることに生理的な拒否感を持っていて、「左翼イデオロギーに凝り固まっているから偏った見方しかできなんだ」と批判する。明らかな歴史的事実まで相対化しようとするから、議論をしても話が嚙み合いません。
小野寺ーー現代の価値相対主義が不気味なのは、右翼や左翼といった従来のイデオロギーでは分類できないところです。本当に得体の知れない、いわば背骨の無い思想なのです。
田野ーーその通りですね。「ナチスは『良いこと』もしたと言いたがる人たちは、いわゆる「ネトウヨ」的な人が多いと思っていましたが、単純にそうとも言えません。複雑な背景があると思いますが、その一つには専門的な知見に対する不信感があるのではないでしょうか。石田先生が書かれた『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)は、初心者でも手に取りやすい信頼できる入門書ですから、「まずはこれを読んでください」と反論したこともありますが、彼らは読もうともしません。『検証』も、タイトルだけを見て拒絶する人が多い。専門家による歴史研究を軽んじる反権威主義的な姿勢が影響しているように思います。

(石田勇治・田野大輔・(座談会)小野田拓也:ヒトラーは「良いこと」もしたのか(文藝春秋・2023年11月号:180〜194ページ)より 182〜184ページ)
https://www.amazon.co.jp/%E6%96%87%E8%97%9D%E6%98%A5%E7%A7%8B2023%E5%B9%B412%E6%9C%88%E5%8F%B7-%E6%96%87%E8%97%9D%E6%98%A5%E7%A7%8B/dp/B0CLYV154J/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=9N3D4M1VRHRW&keywords=%E6%96%87%E8%97%9D%E6%98%A5%E7%A7%8B+2023+12&qid=1700084204&s=books&sprefix=%E6%96%87%E8%97%9D%E6%98%A5%E7%A7%8B+2023+12%2Cstripbooks%2C183&sr=1-1
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