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なつみ館(仮)コミュのそんな『設定』は俺がぶっ壊してやる!【第三話】-?

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【第三話】

  文化祭。

  神崎のクラスではコスプレ喫茶をやっている。

  男子が集まっている。神崎のコスプレ衣装を見に、人だかりができている。
  
  男子たちが教室の中を覗きながら、話をしている。
  「あの子かわいい」「一年一組の神崎さんだって」「めっちゃレベル高いなあ」「ここのコスプレ喫茶入ろうぜ」「写メ撮ろうぜ写メ」。

  メイド服を着た女王(神崎)がいる。

  女王(神崎)、喫茶店の仕事をやりながら、運営を仕切っている。
  仕事を失敗した女子をフォローする女王(神崎)。
女子たちにも慕われ、彼女はクラスの中心にいた。
  
  女王(神崎)の人当たりの良い姿。


  神崎が現れる。

  女王(神崎)と神崎が並んで立つ。

  女王(神崎)は正面を向き、神崎は後ろを向いている。

山田「ここに、二人の女がいる。二人と言っても、同一人物だ。昔の神崎と、今の神崎。俺と付き合う前の神崎と、俺と付き合い始めてからの神崎。同じ人物だが、全くの別人だと言うこともできる」

  メイド服を着た女王(神崎)に照明が当たる。

山田「これが、神崎がモテていた時代だ。この頃の神崎を仮に、『女王』と呼ぼう。どこが女王なのかという声も上がりそうなものだが、彼女のその影響力、制圧力はやはり、女王と呼ぶにふさわしいと、俺は思う」

  人間達が神崎を中心に集まってくる。

女王「『近づくな』」

  女王(神崎)の言葉が世界を作り変えていく。

  どくん、と人間たちの体が脈打ち、ぴたりと動きが止まる。

女王「『あたしから離れろ』」

  ゆっくりと女王(神崎)から離れていく。
  女王(神崎)を中心に、花弁を開くように。

女王「あんたたち、頭が高いわよ。『跪きなさい』」

  ざっ、とその場に跪く人間たち。

山田「俺にとって、神崎のイメージはこういったものだ。確かにこれはやりすぎた表現であるが、しかし、神崎には確かに他人に影響する力があった」

女王「山田、『焼きそばパン買って来て』」

  山田の体が意を介さずに動き出し、焼きそばパンを取り出す。

  跪くように女王(神崎)に献上する。

女王「ふむ、くるしゅうない」

  ぱくり、もぐもぐ、と女王は焼きそばパンを頬張る。

山田「このように、俺はしばらくの間、神崎にぱしりとして使われていた。神崎には逆らえない。そんな不思議な力が、確かに彼女にはあったのだ」

  女王(神崎)、焼きそばパンを中空に投げるとそれが刀に変わる。

  菊川が後ろ姿で現れる。

山田「ルービックキューブを持った、菊川はこう言った」

菊川の声「お前の【それ】は、別に特別な能力でもなんでもない。ただのおまけだ。お前の大きすぎる影響力の産物の一つに過ぎない。お前に与えられた【設定】はただ一つ。その【容姿を愛される】ということだけ。お前のその言葉によって人間を制圧していたかのような一連のくだりはただ、お前のその影響力を表すための舞台的・演劇的表現の一つに過ぎない」(出典:「これからはそういう『設定』で!」第三幕より)

山田「菊川は確かに言った。神崎は愛されるからこそ、人に影響を与えることができたのだと。しかし、と俺は思う。これは水沢の一件からも思ったことなのだが、俺は菊川の言っていることとは逆なのではないかと思うのだ。神崎は影響を与える力があったからこそ、水沢や、周囲から愛されていたんじゃないかって」

  メイド姿の女王(神崎)は鞘から刀身を抜く。

山田「モテモテで、みんなからは愛されていた神崎だったが、俺にはまるで、鋭い刃物のような印象があった。とても綺麗なのだけれど、近づきがたく、危うい存在」

  菊川、ルービックキューブを回す。

  ガシャン、と世界が切り替わる。

  同時に女王(神崎)が後ろを向く。

  同時に神崎が正面を向く。

山田「菊川が世界の設定を変えることによって、世界は少しだけ変わった。簡単に言うと、神崎はモテなくなった。誰かに影響をすることもなく、誰からも愛されるということもなく、普通の、いや、むしろ普通よりも少し劣ったような、そんな女子に成れ果ててしまったのだ。
   神崎が女王から普通の女の子に変わって、それからなんやかんやあって、俺と神崎は付き合い始めることとなった。
設定が変わって、そして・・・結果、神崎はデレた」

  神崎、山田に甘える。

山田「誰っ!?」

  舞台上には神崎と山田の二人だけとなる。

山田「今日は、そんな神崎と、家で試験勉強をすることになった」

神崎「上がって」
山田「おう。おじゃましまーす」

  玄関で靴を脱ぐ。が、ふと気付く。

山田「あれ、神崎さん、靴が」
神崎「なに?」
山田「家の人は?」
神崎「ああ、今日は誰もいないよ」

  間。

  宮本が現れる。
  宮本は舞台の隅で山田の心の声を表現する。

宮本「こ、これは、誘われているのか・・・?」
山田「おいオッサン、俺の心の声を勝手にナレーションするのはやめてくれ」
宮本「別に僕はここにいるわけじゃあないし、勝手に今の君が神崎ちゃんの家でどんなことを思っているのか妄想するだけだから、気にしないでくれたまえ」
山田「いや、気になるって!」

神崎「どうしたの?」
山田「いや、別に、なんでもない。おじゃましまーす」

  神崎の部屋へと上がる。

神崎「飲み物、何がいい?」
山田「いや、お構いなく」
神崎「かまうよ、それくらい。麦茶とオレンジジュース、どっちがいい? あ、いちおうコーヒーも出せるけど」
山田「えっと、麦茶で」
神崎「わかった。ちょっと待っててね」

  神崎、部屋を出る。

山田「・・・・・・」
宮本「ど、どきどきするんですけどーっ! い、いきなり彼女の部屋に来て、二人きりとか、喜んでいいのか悪いのか・・・」

  山田、神崎の部屋を見渡す。

宮本「へえ、けっこう女子っぽい部屋なんだな。ぬいぐるみも置いてるし、カーテンとかベッドの柄もかわいいな」
山田「!?」
宮本「って、べ、ベッド!? い、いかん、俺は何を意識してるんだ。バカか。俺はバカなのか!」

  宮本(というか山田なのだが)、悶える。

  山田、棚の上にずらりと並べられたぬいぐるみやら小物やらに目を止める。

宮本「あれ、このへんに置いてあるのって、たぶんUFOキャッチャーで取ったやつだよな。得意なのかな。ていうか、ゲームセンターとか行くんだ。
   いや、待てよ、待て待て。昔の男と遊びに行ったときに取ってもらったという可能性は・・・? あるっ。十分にある。絶対そうだ! くそ、なんでへこんでんだ! 涙が出ちゃう、だって、男の子だもん!」

  神崎が戻ってくる。

神崎「なに、なんかへんなことしてないよね?」
山田「いや、してないよ、ほんとに。ただ、ぬいぐるみとか結構置いてあるなあと思って」
神崎「人の部屋あんまりじろじろ見ないでよ! 恥ずかしいでしょ」
山田「あ、ごめん」
神崎「うーん、ゲームセンターに行って取っちゃうんだけど、どんどん溜まっていくのよね、こういうの」
山田「え、自分で取るんだ?」
神崎「うん、まあね。たまに学校サボってゲーセン行ってたから。取るのが目的だから、別に欲しいってわけでもないんだよねー」
山田「へー、そうなんだ。神崎でも学校サボったりするんだ」
神崎「中学のときとか、塾に行くふりして、とかあったよ。まあ、最近はないけど。うーん、捨てるのももったいないし、山田、いる?」
山田「いや、俺は」
神崎「だよねー。水沢にでもあげよっかな」

宮本「いや、ふられた(?)ばかりのあいつにそれは酷なんじゃねえの? いや、よくわからないけど」

神崎「さ、粗茶ですが、どうぞどうぞ」
山田「麦茶に粗茶もなにもないだろ。いただきます」

  神崎と山田、一口、二口飲む。

山田「麦茶かあ。うちでは真夏しか出ないからなあ」
神崎「あ、やっぱりそうだよね。うちはさ、一年中冷蔵庫に入れてるよ、麦茶」
山田「そうなんだ」

宮本「あ、なんかいいな、こういうの。お互いの家のこととか、少しずつ知っていく感じ。あー、なんかほんとに、俺と神崎って付き合ってるんだなー」

  宮本、ガッツポーズをしたり踊ったりしてはしゃぐ。

神崎「さて、早速勉強始めようか」

  宮本、素早く正座する。

山田「あ、ああ」

  テーブルに座ってノートと教科書を開く。

神崎「とりあえず淡々と解いていこうよ。わからないところがあったら言ってね、教えるから」
山田「お、おう。頼むよ」

  かりかりとシャープペンシルが走る音がする。

宮本「なにこれなにこれなにこれ、なんか普通に勉強会が始まっちゃったんですけど!? ていうか、目的はそれで合ってるから別にいいのか・・・。いいのかあ? 俺、何を期待していたんだ! 自己嫌悪! 自己嫌悪! 自己嫌悪!」

  宮本、地面に自分の頭を叩きつける。

山田「うっせえよオッサン!」
神崎「どうしたの?」
山田「べ、べつに」

  かりかりとシャープペンシルが走る音がする。

  山田、ちらっと神崎の顔を見る。

宮本「うわー、顔近いなー。って、いかんいかん、集中しろ俺!」

神崎「ねえ、山田」
山田「はいっ!? なんでしょうか神崎さんっ!」
神崎「あたしたちってさ、その、名字で呼び合ってるじゃない?」
山田「あ、ああ。そうだな」
神崎「せっかく付き合ってるのに、なんか他人行儀というか」

宮本「お、これはまさか・・・?」

神崎「呼び方、決めない? 下の名前で呼ぶ、とか」

宮本「キターっ!!!!」

山田「よ、よ、よ、」

宮本「呼び方を決める、恋人っぽいイベントーっ!!」

神崎「ダメ、かな?」
宮本「いい、いい、全然いいっ!」
山田「お前が応えるな!」
宮本「(急に真面目な口調になって)ちなみに、「全然いい」とかいう全然+肯定の形は正しい日本語ではないと捉われているが、文法的にはあながち間違っているというわけでは──」
山田「お願い! 黙ってて!!」
神崎「そんなに嫌なんだ」
山田「嫌じゃない!」
宮本「嫌じゃないんだ」
山田「嫌だけど!」
神崎「嫌なんだ」
山田「嫌じゃないんだ!」

  それぞれ言いたいことを言ってしっちゃかめっちゃかに。

山田「ええい、ストップ、わっけわっかんねー!!」

  全員が止まる。

山田「というわけで、お互いの呼び方を決めるのは保留ということになった。なんて呼ぶか、考えてくるのが宿題ってわけだ」

  /

  場面はいつもの倉庫。

山田「なんか、最近平和だよな」
宮本「山田くん、どうしたんだい急に」
山田「いや、宮本のオッサンが来てから、なんかトラブル続きだったからさ」
宮本「おいおいよしてくれよ、それではまるで僕がトラブルを起こしているみたいじゃないか。
僕としては平和が一番いいんだけどね、世界のバランスを守る調停者としてはさ」
山田「ふーん、まあ、そっか。そうだよな」

宮本「そうだ、山田くん、そんな君に、これを渡そう」

  宮本はルービックキューブを山田に渡す。

山田「これは・・・」
宮本「そう、これは菊川が使っていたのと同じ効果を持ったルービックキューブだ。これを念じながら回せば、世界の設定を簡単に変えることができる」
山田「・・・どうしたんだよ、急に。こんなの渡して。そもそも、これは世界に一つしかないんじゃなかったのか?」
宮本「誰もそんなことは言っていないよ。ただ、形なんてなんでもいいのさ、それっぽい、格好だけが伴っていれば、中身は宿るべくして宿る。僕達は何かを介して能力を発揮するんじゃない。能力があるから形があるんだ」
山田「また、難しいことを言って。で、なんでこれを俺に渡すんだよ」
宮本「君に使って欲しいのさ。といっても、完全に世界の設定を変えるわけじゃない。ただほんの少し、変えて遊ぶだけだ。ゲームの無料お試し体験版みたいなものさ」
山田「だから、どうしてその体験版を俺に?」
宮本「山田くんには僕の仕事をたくさん手伝ってもらったからね。そのお礼さ。それに、僕はそろそろ別の街に引っ越そうかと思うんだ」
山田「・・・そうなのか?」
宮本「僕も、同じ場所に留まって仕事をしているわけにはいかないのさ。だからさ、何か想いでづくりというか、君に思い出を提供することで、僕の思い出にしたいというか」
山田「そっか」
宮本「ちょっと、使ってみないかい? なんでも、君の思うがままだ」
山田「それは、ちょっと・・・」
宮本「じゃあ、こういうのはどうだい? 君も、かつての神崎ちゃんと同じ設定になってみるっていうのは」
山田「同じ設定?」」
宮本「そう。彼女の影響力の塊だった時代。モテモテだった時期。孤独だった頃。その頃の彼女と同じ世界を経験すれば、もっと神崎ちゃんのことを理解してあげることができるんじゃないのかな?」
山田「神崎を理解──」

山田「それは、確かに魅力的な提案ではあった。しかし、同時に悪魔のささやきのようにも思えた。でも、神崎の名前を出された途端、俺の心は揺らいだ。水沢の一件があってから、俺はかなり考えさせられたのだ。本当に俺は神崎にふさわしいのか。俺は神崎のことをわかってあげることができているのか。神崎の相手は、本当に俺なんかでいいのかって。
   だから、俺はオッサンの提案を飲むことにした。俺は、ゆっくりと、その手にしたルービックキューブを回した」

  ガシャン、と世界が切り替わる。


  昔の神崎のシーンの焼き回し。
  跪かせ、優越感に浸る。

  女をはべらせ、快楽のままに、溺れる。

  島村、水沢、その他の女子をはべらせている。

島村「結果、山田は力におぼれた」
水沢「その強大過ぎる影響力に、自らが呑みこまれてしまったのだ」


宮本「くくくくく・・・ははははは、あーっはっはっは!
   これは愉快だ! ここまで楽しいとは、予想だにしなかった!」


  神崎が現れる。

神崎「山田・・・」
山田「・・・神崎」
神崎「あんた、なにやってるの?」
山田「なにって、なんでもないよ」
神崎「そのルービックキューブ、あんたがどうして持ってるの?」
山田「これか? これは、オッサンがくれたんだよ」
神崎「宮本さん、が?」
山田「そうだ。俺、なんでも上手くいくようになった。全てが俺の思いのままだ。神崎、これで俺はお前を本当に理解することができた。これで俺は、お前と対等になることができた」
神崎「最低ね、あんた。あたしがそんなことして欲しいって、一言でも言った?」
山田「なんだよ、どうしたんだよ神崎。俺は、神崎に認めてもらおうと思って、それで」
神崎「それで、なに?」
山田「俺は、神崎、お前のために」
神崎「ふうん。これが、あたしのため? ばっかじゃないの? あたしは、今のあんた、嫌いだわ」
山田「なんだよそれ、そんなの、俺、は、なんのために・・・」
神崎「・・・・・・
山田「俺を認めろよ、神崎」
神崎「あたしは、あんたを、認めない」
山田「嘘、だろ・・・? だったら、俺も、そんなお前なんか、認めない」

山田「『動くな』」

  どくん、と世界が脈打ち、山田の言葉に神崎が釘付けにされる。

山田「どうだ、動けないだろ、何もできないだろ、抗えないだろ? 全部思うがままだ。俺は、お前に好きなコトを好きなだけできるんだ」
神崎「あたしはよく知っている。こんなことは、間違っているんだよ」
山田「間違ってる? 俺が?」
神崎「そうだよ」
山田「うるさいな」
神崎「何度でも言ってあげるよ。あんたは、間違ってる」
山田「『黙れ!』」

  神崎の口が強制的に閉ざされる。しかし、神崎は自力で、無理やり口を開く。

神崎「嫌だ! 黙らない。何度でも言ってやる。今のあんたは間違ってるし、今のあんたなんて、大っきらいだ!」
山田「黙れって言ってるだろ? どうして俺の言う事を聞かないんだよ。俺の理想じゃないお前なんて、もういいよ! 『どっかに行っちまえよ!』」
神崎「『嫌だ!』」

  神崎、全ての呪縛を振りほどき、山田に近づく。
  山田の背中にゆっくりと手を回し、抱きしめる。

神崎「ほんと、バカなんだから。あたしがあんたの傍から離れるわけないでしょ?」
山田「こう、ざき・・・」
神崎「菊川さんも言ってたでしょ。あたしは愛されるって設定だから、人が言う事を聞いてくれてただけだって。そんな風に命令するあんたは好きじゃないし、それに、好きだから、いくらあんたの頼みでも離れたりとかはできないよ」
山田「こうざき、ごめん、俺・・・」
神崎「もういいよ」

  神崎、山田の頭を撫でる。

  神崎、山田のルービックキューブを回す。

  ガシャン、と世界が切り替わる。

  正気を取り戻した山田は全身で怯える。
  自分は、なんてことをしてしまったのかと。

山田「あ、あ、あ・・・俺は、俺は・・・」
神崎「山田。あんたは、ちょっと休んでていいよ」

宮本「いやはやしかし、女王様の登場とはね。してやられたよ、ほんとに。まさか山田君の影響力の設定をものともしないんだもの。君、ほんとに普通の人間なのかい? まだ何か、不可思議な設定でも隠し持ってるんじゃないのかい?」
神崎「・・・言ったよね、山田に何かしたら絶対に許さないって」
宮本「あれ? あれは、水沢ちゃんに言ったセリフじゃあなかったっけ?」
神崎「あれは、あなたをけん制するためにも言ったんですよ。だってあたしは、あなたを一番警戒していたんだから」
宮本「ほう」
神崎「だって当たり前でしょ。あたしの人生をひっかきまわしてくれた菊川と同業者の奴なんて、信用できる理由がどこにもない」
宮本「そりゃそう、か」
神崎「あたしは、あんたを、絶対に許さない」
宮本「そうかそうか。僕はね、君のことをかわいそうだと思っているんだよ。だって、菊川のせいで、君は人生を振り回されたんだから。山田くんに関しては、僕は悪気があってやったわけじゃあない。彼の気持ちを汲んでやってくれよ。彼はね、君を理解したかったのさ。君に近づきたかったのさ。君のことが好きだから」
神崎「そうだね。ほんとにバカだよ、こいつは」
宮本「僕は、君達みたいな若者が大好きなんだ。だから、それがぶっ壊れるのを見るのも、悪くはない」

  宮本、ナイフを取り出し、神崎に斬りかかる。

  それを軽々と避ける神崎。

神崎「なんのつもり? 頭でもおかしくなった? ただの犯罪者になりたいわけ?」
宮本「惜しいなあ。もう少しで、断ち切ることができたのに」
神崎「切るって、何を?」
宮本「君達の関係を、だよ」
神崎「!?」
宮本「惜しい。ほんとに惜しかった。君が右に飛んでいれば、君たちの物語はここで終わっていたのに」
神崎「何を言っているの?」
宮本「神崎ちゃん。君、今左に飛んだだろ? だから、山田くんと君との間に、僕の刃が割って入ることができなかった。このナイフ、見覚えないかい?」
神崎「それは、水沢が──あかねが持っていた──」
宮本「その通り。いやあ、実に想いがこもっていて、実に呪いじみていて、僕の好みだなあ。これはね、君達の運命の赤い糸って奴を切ることができるんだよ」
神崎「!?」

コメント(2)

山田「な、なんだよ、何を切ったんだよ、今」
宮本「今のはなんでもない。君がそのルービックキューブを使えないようにした。そういう繋がりを断ち切ったんだ。このルールブレイカーは契約解除の意味もあってね、関係を、感情を、繋がりを、設定を切って、なかったことにする。これで、君は設定を変えて僕の邪魔をすることはできない。言葉による命令も、使えない」
山田「くそっ」
宮本「さあ、次は君達の関係を、赤い糸って奴を切ってあげよう」

  宮本、手を振り上げる。

  神崎、地面を転がってルービックキューブを拾い上げ、回す。

  ガシャン、世界の設定がすこしだけ切り替わる。

  宮本の手が動かなくなる。

宮本「なんと、驚いた。どうやって使い方を知った?」
神崎「この世界の設定を少しだけ変えた。この場において、あんたはあたしたちに触れることすらできない」
山田「それって、菊川のセリフじゃないか」
宮本「なるほど。よく学習しているね」
神崎「同じ轍は踏まない。それがあたしのモットーだ!」
宮本「そうかだったら僕も、菊川風に称賛しよう。「素晴らしい」」

  宮本、手首を返してナイフを一太刀動かす。

  すると、宮本の体は自由を取り戻す。
  まるで、操り人形の糸を断ち切って自由を手に入れたかのように。

神崎「な、なんで?」
宮本「言っただろ? このナイフは、設定を斬り裂くことができる。君の作り変えた設定を無効化した。それだけだ」
神崎「なるほどね。でもそれは後出ししかできないってことだ」
宮本「へえ?」
神崎「だって、存在しない設定はなかったことにはできない。だったら、あたしの攻撃の方が1ターン早い!」
宮本「驚いたよ。ほんとに驚いた。君は頭の回転が速いんだね。素晴らしい観察力と洞察力だ。その通り。ルールブレイカーの弱点は、僕が認識した設定や関係しか壊せないこと。イメージを作ってからじゃないと、何を切っていいのか、こいつが理解できないからね」

  宮本、切りかかる。

  神崎、ルービックキューブを回して見えない壁を作り、応戦する。

  その壁のことごとくをナイフで消していく宮本。

宮本「ダメだなあ。これじゃあ、らちがあかない。それじゃあ仕方がない、あんまり気が進まないけど、手伝ってもらうかあ。
   おいで。出てきてもいいよ」

  宮本の影からメイド服を着た女王(神崎)が現れる。
神崎「な、んで?」
宮本「別に、驚くことじゃない。僕はなんにもしていない。自分との戦いなんて、君達若者は大好きだろ? 常日頃からやっていることだ。この子は過去の君であるが、しかし同時に、今の君の心の中にもいるっていうことだ。さあ、学生は学生らしく、バトルでもしていればいいと思うよ」

  女王(神崎)が刀を抜く。

神崎「くそっ、洒落にならないっての」

  神崎、ルービックキューブを回して刀を取り出す。

  闘う二人。

  闘う二人を背景にして、山田と宮本が言葉を交わす。

山田「神崎、なに真面目に闘ってるんだよ! そんなの、マジメに相手してる場合じゃないだろ!?」
宮本「山田くんさあ、これはね、そういう理屈じゃあないんだよ。君はさ、マジメに自分自身と向き合ったことなんてないんだろうけど、彼女は違う。いつだって、自分と戦いながら、自分の間違いを認めながら、正しながら、負けながら、それでもがんばってきたんだよ。それを、真面目に相手するなんて馬鹿げているだなんて、それはなんて傲慢だ。君はなんて失礼を彼女にしているんだ。冒涜だよ、それは」
山田「それは・・・そんなの、屁理屈じゃないか!」
宮本「屁理屈でも、理屈のは理屈。それに言ったじゃないか。理屈じゃないって、こういうのは。自分から逃げていたんじゃ、なんにも成長しないよ。君みたいにね」
山田「うるさい。俺の話は関係ないだろ?」
宮本「関係ない? ずいぶんな言い方だね。君は、何さまのつもりなのかな? がんばっている人間を、くだらないと決め付けて、努力をせずに生きて来た君に、何か言う資格があるっていうのかい?」
山田「うるさい」
宮本「君はさ、認めるべきなんだよ。自分の弱さを。君は弱い。人と繋がることも、自分を見せることも恐れて、なんにもできない、そんな臆病ものだって」
山田「うるさい!」
宮本「本当はもう、気付いているんだろ?」
山田「わかってるよ! そんなこと! 俺にはなんにもないって、それくらい、わかってるよ。でも、それでも、神崎は俺のことを好きだって言ってくれたんだ。こんな俺のことを! だから、だから、がんばってみようって思ったんだよ!」

  神崎、女王(神崎)、ぴたりと動きを止める。

  女王、その場に崩れ落ちる。

山田「神崎、俺、水沢と同じなんだ。お前がまぶしかった。いつも自信たっぷりで、前向きなお前が。だから、お前が自信をなくして凹んだ時、俺、お前のために何かしてやりたいって、力になりたいって思った。生まれて初めてだったんだ。自分から、誰かのためにがんばりたいって思ったのは。だから、俺はお前が好きなんだ。ごめんな、こんな俺で。こんな理由で好きになって、ごめんな。でも俺、お前のことが大好きなんだ。お前のためならがんばれる。お前と一緒なら、がんばれる。俺にはなんにもないんだ。だから、お前が、俺の何かになってくれよ!」
神崎「なにかってなによ。あたしたち、もう恋人同士じゃん」
山田「俺なんかでもいいのか?」
神崎「それはこっちのセリフだよ。あたしなんかでいいの?」
山田「もちろんだよ。俺、お前じゃなきゃ嫌だ。お前じゃなきゃ、ダメなんだ」
神崎「そんなに好きだっていうなら、あたしのどこが好きなのか教えてよ」
山田「いじっぱりなとこ」
神崎「うん」
山田「友達想いなとこ」
神崎「うん」
山田「がんばりやさんなとこ」
神崎「うん」
山田「かわいいとこ」
神崎「うん」
山田「・・・ダメだいっぱいありすぎてわかんねえ。ていうかさ、もっと神崎と一緒にいて、もっと神崎のこと知って、もっと神崎のこと好きになりたい」
神崎「・・・うん」


  神崎と女王が刀で闘う。

宮本「山田くん、さあ選ぶんだ。君はどっちを選ぶんだい?」


  手にしたナイフ(ルール・ブレイカー)でどちらかの神崎を切り捨てる選択を迫られる。


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