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なつみ館(仮)コミュのけんだまっ 3

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8・ケンと二人の田中さん


元樹 いや物分かりよすぎるだろ……
ケン もとちゃん?
真太 元樹さん?すいません、起こしました?
元樹 なんか真太さんが来る夢見てると思ってたら本当に来てるし。(起き上がろうとする)
真太 ああいいですよ寝てて。
ケン もとちゃん、この人プリンもってきてくれたんだよ。
真太 ああそうそう、(おススメのプリン)です。
元樹 ありがとうございます。
真太 ケンちゃんも、食べる?
ケン 食べるー。あ、そう、名前なんだっけ?
真太 田中真太です。
ケン じゃあしんちゃんだね。ありがとう、しんちゃん。
真太 いえいえ。あ、そう元樹さん。
元樹 何でそう普通になじんでいられるんですか……
真太 いやー僕けんだまの精霊とか見るの初めてですよ。
元樹 普通ないでしょう……
真太 そういえば、元樹さん。
元樹 はい?
真太 今日来る途中でここのアパートの人と一緒になったんですけど。
元樹 はあ。
真太 何と、晴美さんのお友達だったんですよ、すごい偶然じゃないですか?
元樹 え?友達?
真太 山本晴さんって言う人です。顔見たこととかあります?
元樹 いや見たことあるっていうか……真太さんはないんですか?
真太 ええ?あるわけないじゃないですか。初対面ですし。
元樹 いやだからその人が……山本さん何て言ってました?
真太 晴美さんからお話伺ってます、だって。よっぽど仲がいい人なんでしょうねー雰囲気も似てましたし。
元樹 あーそうなんだー……
ケン お代わりー。
元樹 早っ。ケンちょっとは遠慮とかだな……
真太 おいしかったかー、また持ってくるね。いっぱい食べる女の子は魅力的だよ。
ケン うん、ねえねえ遊ぼう。
元樹 ケン!
ケン え?
真太 いいんだよ、ケンちゃん。遊ぼう。元樹さんは寝てていいですよ。
元樹 でも……(せき込む)じゃあ、すみません。

   元樹、再び寝る。
   ケン、真太、仲良く遊び始める。

真太 ケンちゃんは、元気いっぱいに遊んで、かわいいね。
ケン えへへ。

元樹 へらへらしてんじゃねえよ。馬鹿が。

真太 ほっぺが、けんだまのたまみたいに、真っ赤でいいね。
ケン 本当?それほめられるとうれしいなー。
真太 本当だよ、とっても元気よく見える。
ケン うん、あたし元気が取り柄だから。

元樹 ペラペラペラペラと……うるさいんだよ!

真太 ……あ、すいません元樹さん。ケンちゃん、もっと小さい声でしゃべろうか。
ケン 小さい声?
元樹 そういう問題じゃない。真太さん、今日は何しに来たんです?お見舞いですか?それともうちのケンにおべんちゃらいいにきたんですか?
真太 元樹さん?……あ、嫉妬ですか?
元樹 違います。見てられないんですよ、こういう光景。ケン、お前もへらへらしてんじゃないの。この人はね、女の人になら誰にでもこういうこという人なんだから。
ケン 誰にでも?
元樹 とにかく風邪うつしちゃ悪いんで、もうお引き取りいただきますか?折角来ていただいたのはうれしいですけど。僕も、静かに寝ていたいんで。
真太 すみません、お邪魔でしたね。明日は来れそうですか?
元樹 ああ、明日には行けると思います。
真太 よかった。あ、それと、週末予定してた飲み会、キャンセルになったんで。
元樹 え?
真太 ほら、元樹さん病み上がりだし、大変でしょ?
元樹 いやそんな気を遣わなくても……
真太 心配してたんですよ、安永さんも、お大事にって言ってましたし。
元樹 安永さんが?
真太 でも結構元気そうですね。よかったです。
元樹 ……すいません、でした。つい怒鳴っちゃったりして。御心配ありがとうございますって、伝えておいて下さい。
真太 誘ったらどうですか?
元樹 え?
真太 安永さん。これをきっかけに、二人で飲みに行ってきたらいいじゃないですか。
元樹 え、そ、そんな。
真太 飲みいっちゃいましょうよー
ケン 飲みに行くって、何を?
元樹 お酒の事だよ。
ケン 大人が楽しくなる飲み物だっけ?いいねー行っちゃいましょうよー
元樹 お前はそれでいいのかよ。
ケン ?何で?ダメなの?
元樹 いや……別に。じゃあ、いこっかな。
真太 それじゃ、ここ。(店の名刺)いい店ですから、渡しときますね。
元樹 はあ。
真太 あ、いけない。もう帰りますね。それじゃ、また明日会社で。
元樹 なんか色々……すみません、ありがとうございます。
真太 いえいえ。じゃ、またねケンちゃん。
ケン バイバーイ。

   真太、去る。

ケン いい人だね、しんちゃん。
元樹 ……
ケン 大分熱、下がった?
元樹 ケン、お前……菊子人形の事……
ケン 何?
元樹 いや。
ケン もとちゃん?

元樹 その時は、近いのかもしれない。

9 うちのマドンナ

   元樹、ピシッとした格好に着替える。鏡の前で確かめる。
   そして、真太に教えてもらった店に安永と入る。

店員 ご予約は?
元樹 田中です。二名で予約してた……
店員 こちらへどうぞ。

   二人、席へと通される。
   ちょっとおしゃれな創作居酒屋である。

安永 ここ初めて来ましたー。
元樹 僕も……ここ真太さんに教えられてきたんで。
安永 本当ですか?田中さんって本当正直ですね。
元樹 え、そうですか?
安永 こういうときって、「僕はよく来てるんだ」とか言いそうじゃないですか。
元樹 いやでも本当に初めてだし。
安永 ふふ。私も実は、こんなおしゃれなところで、男の人と二人きりで飲むのは、初めてです。
元樹 ええ、そうなんですか?
安永 引きましたか?
元樹 いえそんな。安永さんみたいな、その、マドンナがそうだとは思えなくて……
安永 マドンナ?(笑う)久々に聞いた、そんな言葉。
元樹 使わないですかね?
安永 夏目漱石の「坊っちゃん」とかですよね。
元樹 ああ昔習ったような。
安永 あんな、男見る目がない女じゃないわよ、私。
元樹 そんなまさか。
安永 冗談。相手がいい人か悪い人かっての見分けるのは、結構自信あるんですよ、私。
元樹 え……

店員 お待たせいたしました、こちら季節のサラダ三種と、蛸とマグロのカルパッチョになります。

   安永、元樹、箸を取り、食べる。時折笑う。食べる。笑う。
   そのうち、安永だけ笑い、食べるが、元樹は箸をもったまま静かになっていく。

元樹 マドンナとご飯を食べている。マドンナとお酒を飲んでいる。マドンナが笑っている。なのに俺は今日の日付の事を考えていた。今日は週末だ。あの菊子人形が言ったのも、今週までだった。俺は……ここにいていいのだろうか。

元樹 嫌な予感がする。
安永 元樹さん?
元樹 安永さん。
安永 はい。
元樹 ちょっと……今日はもう、お開きでいいかな?
安永 ああ、何か用事が?
元樹 ちょっと、用事が。
安永 ……大丈夫ですか?
元樹 大丈夫です。

   元樹、店員のところで会計を済ませて、家へ帰る。

10・捨てて下さい、名前も過去も。

   ケンが珍しく部屋の中央でじっとしている。
   そこに帰ってくる元樹。

元樹 ただいま、……ケン?
ケン おかえりなさい。
元樹 ケン?
ケン ごめんね、黙ってて。
元樹 ……何を?
ケン 菊子ちゃんが、来たんでしょ?
元樹 菊子ちゃんって……菊子人形?
ケン あたし、戻らないと。
元樹 そう……か。
ケン でも、……いやかも。
元樹 え?
ケン ねえ、あのさ。
元樹 ん?
ケン あたしたちの世界に、来ない?
元樹 え?
ケン 名前も、過去も、仕事も、全部捨ててさ、あたしと一緒に暮らそう。(元樹の手をとる)
元樹 全部……?
ケン 精霊の世界で、暮らすの。
元樹 そんな……事言われても……
ケン じゃなきゃ、この手を振り払って。

元樹 俺は硬直したように動けなかった。この手を握り返すことも、振り払うこともできない。俺は何を考えているんだ。こいつが例えば安永さんみたいに可憐な美女で、例えばもっとおしとやかで、例えばもっとすごい……異世界の姫とか、それならまだ振り払えないのもわかる。けど……こいつはただのケンなんだぞ。振り払えばいいじゃないか。何で動けないんだ。

ケン 楽しいよ、精霊の世界。いくらでも遊べるし、死ぬことだってないし。
元樹 そんな事言われても……
ケン もしそうじゃなかったら……言って。
元樹 言うって……
ケン 菊子ちゃんから、聞いたんでしょ。『汝は二度とわが瞳を……
元樹 そんなこと言うなよ。
ケン 元樹さん、決めなきゃいけないんだよ。
元樹 ケン、何でそんな呼び方するんだよ。やめろよ。
ケン え?……田中元樹。それがお前の名前だろう?
元樹 ケン?
ケン どうした?
元樹 お前……菊子だろう。ケンじゃないな?
ケン そんな……ふう。まあしょうがない。呼び名でばれるとはな。
元樹 菊子人形。そうまでして俺の口から言わせたいのか。
ケン 道は二つしかない。お前が霊体となり精霊世界へ行くか、ケンだけ精霊世界へ帰るか。
元樹 ケンが人間になるとかいう道は、ないのかよ?
ケン 我々の実体は、ただの古道具だ。無から有は生み出せない。
元樹 ケンから、離れろ。

   インターホンが鳴る。

元樹 その身体から、離れろ。

   ケン、手を使わずにドアを開ける。
   そこにいたのは安永である。

安永 え?何これ、勝手にあいた?
元樹 安永さん、何でここに……
ケン ちょうどいい。

   ケンから菊子人形の魂が抜け、安永に入る。

元樹 ケン!大丈夫か。
ケン はー、菊子ちゃん、強引なんだから。
元樹 ケン?
ケン もとちゃん、お帰り。
元樹 ……ただいま。
安永 まるで私が悪役みたいだな。
元樹 菊子人形。安永さんの身体を……
ケン 菊子ちゃん、人の身体あんまり借りるのよくないよ。
安永 人前に姿を現すお前に言われたくはないな、ケン。本体を傷つけられてもなお懲りないとは、恐れ入るよ。
ケン いいもん、ちゃんとあんちゃんは、あたしの事大事にとっておいてくれたんだから。
安永 その結果、お前は何をたくらんでいる?
ケン ……関係ないでしょ。
元樹 ケン……?
安永 田中元樹、よく考えろ。お前は今まで道具に宿った精霊を見たことがあるか?
元樹 は?そんなの……
安永 おそらく、ないだろう。それが普通だ。道具は道具として生きる。ケンのように姿を現す場合はどういう場合かわかるか?個人に執着を持っている場合だ。
ケン 違うよ……
安永 ケンは自分の身体を壊された。お前の祖父にな。そして今、お前の目の前に現われた。何しにだ?
元樹 ……遊びに、きただけだろ?
安永 もっとよく考えろ。自分を殺した相手の子孫だぞ。何を考える?
元樹 ……復讐?
安永 最近、体調を崩したりしていないか?生気を抜かれた人間は、抵抗力が落ちて、まず風邪をひくのが定番だ。
元樹 そんな……ケン、違うよな?
ケン あたし、遊びたくて来ただけ。
安永 では何故こいつの前からすぐに消えなかった?遊ぶためだったら、最初の二、三日でよかったろう。
ケン 楽しかったから……
安永 ケン、忘れてはいないか?私達は、お前は、人間じゃない、化け物だ。化け物は人間に害をなすものでしかない。お前がこいつのそばにいるだけで、すでに害が……
ケン あたし、ただもとちゃんと遊んでいたくて……
元樹 やめろ!ケン、聞くんじゃない。いいんだ、いいんだ、俺は。
ケン もとちゃん?
元樹 菊子人形、そこをのけ。安永さんから離れろ。
安永 まだ話は済んでないぞ。
元樹 俺はもうあんたの話はたくさんだ。
安永 私はお前たちの態度にうんざりだ。
ケン ……もとちゃん、あれ行くよ。
元樹 え?
ケン せーの、けーん、だま!だま!だま!

   ケン、元樹、同時にけんだまのバランスポーズをとる。
   安永、滑るのを踏ん張ろうとするが、そのせいで一層派手に転んでしまう。

ケン やったー成功!
元樹 びっくりしたー……
ケン この人、縛って。
元樹 ええ?
ケン 菊子ちゃんが気がついたときに動けなかったら、この身体から離れるはず。
元樹 ああ、でもロープなんて……
ケン じゃーん。

   ケン、けんだまをいじる。するとけんだまのひもがずるりと伸びる。それを使って安永をぐるぐる巻きにする。

元樹 ええ、それ伸びるの?
ケン とっておきだよ。
元樹 知らなかった……
ケン ごめんね、菊子ちゃん。
元樹 安永さん、大丈夫かな。
ケン 大丈夫、後でここひっぱればほどけるようにしてるから。
元樹 へー。
ケン あんちゃんが、教えてくれたんだ。
元樹 ……そうか。
ケン とにかく、ここ離れなきゃ。行こう。

11・本当に伝えたかったこと

   ひとまず走って近くの公園に来た二人。

ケン いっぱい走ったー気持ちいいー。
元樹 俺は疲れたよ……
ケン 座ってれば?もとちゃん。
元樹 ケン……さっきのこと……
ケン 考えてなかったわけじゃないんだ。
元樹 え?
ケン ずっともとちゃんのそばにいたら、いけないんじゃないかって、思ってた。あんちゃんがそうだったから。
元樹 じいちゃんが?
ケン あたしとずっと遊んでるせいで、普通の人間の友達が減っちゃった。それで、ますます人前で緊張するようになって、怒ってあたしの事……
元樹 違うよ、それは違う。きっとじいちゃんには別の……
ケン ごめんね、嘘ついた。菊子ちゃんに言われたこと、ちょっとあたってたんだ。
元樹 え……
ケン あんちゃんの事、ちょっと恨んでた。昔、あたしと約束してくれたのに。
元樹 約束って、なんだったんだ?
ケン 『僕も、一緒に、ケンと一緒の世界につれてって』
元樹 ケン……
ケン だから、あたし、もとちゃんの事、連れて行こうと思ってた。
元樹 ……俺……
ケン でも、もういいんだ。もとちゃんには友達がいっぱいいるし、それに……あんちゃんの子孫、絶やすわけにいかないしね。

   一方こちらは元樹の家。
   ひもでぐるぐる巻きにされた安永、気を失っている。
   そこに晴がやってくる。
   インターホン。ドアは勝手に開く。

晴  あれ、田中さんち立てつけ悪いのかな……田中さん?
安永 う……うーん。
晴  あれ?だ……大丈夫ですか?
安永 田中元樹。あいつ……けんだまのひもで縛ったな。
晴  ええーどういうプレイなんですかそれ。

元樹 でも、それはケンのおかげだよ。
ケン あたし?
元樹 ケンが来てから、退屈な日常がちょっと面白くなった。同僚が変な奴だったり、隣人がおかまだったり、そういうのに気付けたのって、ケンのおかげなんだよ。
ケン あたし何かしたっけ?
元樹 俺に、遊びを教えてくれた。
ケン それだけだよ?
元樹 ケンの無邪気さが、俺にちょっとの一歩を踏み出す勇気をくれたんだ。
ケン そっか……よかった。

晴  ……警察通報しましょうか?
安永 警察は呼ぶな。これは個人の問題だ。
晴  あーそういう御趣味が。なるほどねえ。
安永 逃げられたか……

   菊子人形の魂、安永より抜ける。安永、ふたたび倒れる。

晴  って、アンタ大丈夫ー?プレイだからって、怪我はしちゃだめじゃない。
安永 いたた……私、縛られてる?
晴  見りゃわかるわよ。鏡欲しいの?変態ねえ。
安永 ここはどこですか?お願い、ほどいて下さい。
晴  はあ?

元樹 だから……俺……
ケン ありがと、もとちゃん。うれしかった。
元樹 ケン?
ケン でも、菊子ちゃんに言われたこと、忘れてたよ。
元樹 あんな奴の言うことなんか……
ケン ううん、あたしがもとちゃんの体力を奪っていることは、確かだよ。
元樹 俺そんな……元気だよ?ほらもう風邪も治ったし。
ケン それは、人間のつながりの力のおかげだよ。
元樹 え?
ケン しんちゃんが来たでしょ?お見舞いに来てくれた。それに、安永さんと約束もした。人間の世界とのつながりが強くなったから、回復したんだ。多分。
元樹 つながり……
ケン もとちゃんは、人間として生きないと。

晴  やだー本当にここ地縛霊いるんじゃないの?
安永 ひもが……ボタンに引っ掛かって……
晴  大丈夫?あーやだこれかんじゃってるわ。切らないと。はさみはさみ……

元樹 ……ケン。
ケン ん?
元樹 魔法みたいなことって、起こらないかな。
ケン え?
元樹 俺とのつながりが強くなってるから、ケンも人間になれたりとか……
ケン そんなこと……
元樹 人間のつながる力が俺の体力を戻したなら、ケンの身体だって、なんとかなるんじゃないか?ほら、俺にも見えてるし、真太さんにも見えたんだし。そうだよ、増やしていけばいいんだよ。けんだま色んな人に持って技決めさせてさ。そしたらいつか……
ケン もとちゃん……
元樹 菊子が言ってただろ?俺が、そのケンのこと必要ないって言えば、ケンは消えるって。じゃあ逆を言えばいいんじゃないか?
ケン 逆って?
元樹 ケン。俺にはお前が……

   晴、はさみで安永の服にひっかかったひもを切る。
   とたんに、ケン力を失う。

元樹 ケン?

晴  もーあんた大丈夫?
安永 ありがとうございます……ここはどこですか?
晴  田中さんの家だけど?
安永 田中さん?
晴  けんだまのひもで縛るなんて、なかなか変わった御趣味なのね。
安永 ええ、けんだま?
晴  それにしても随分長いひもねえ。大丈夫よ、もう切っておいたから。

元樹 ケン?大丈夫か?
ケン 切られた……あたしのいのちが。
元樹 それって……けんだまのひも?
ケン さよならだね、もとちゃん。
元樹 そんなこと言うなよ、修理すれば大丈夫なんだろ?
ケン でも、次会えるのは、もう何十年後か……
元樹 俺が生きているうちには……?
ケン (首をふる)
元樹 そんな……
ケン けんだま、大事に使ってね。子供に、孫に、渡していけばあたし、必ず……
元樹 ……ケン?

   ケンの姿が、元樹に見えなくなる。

元樹 ケンは、姿を消した。家に帰った後、安永さんと、山本さんと、その手に握られたはさみとを見て、俺は、ケンの消えた事を理解した。二人の質問責めには参ったけど、見えていないものを説明できるはずもない。各方面に誤解を残しつつ、今回の事はひと段落ついた。ひと段落ついたけど……ケンはいない。残ったのは、けんだまだけ。俺は、俺達は、人間として、生きていかないといけない。

12・それでも日常は流れるけれども

   元樹の会社内。
   元樹はデスクに向かって仕事をしている。
   シーン1と同じく、機械のようにパソコンに向かって、書類を渡し、受け、渡し。
   そこに真太がやってくる。

元樹 ああ真太さん。
真太 元樹さん、今度こそみんなで飲み行きません?
元樹 ああいいですね。
真太 おかまバーあんず姫のサービス券、安永さんがもらったらしいんですよ。
元樹 ええ?安永さんが?
真太 なんか、山本さんが晴美さんからもらったからって。
元樹 いつのまに安永さん山本さんと仲良くなったんですか……
真太 けんだまも持って行って遊んだりとか……
元樹 ケンの事は……
真太 寂しいですよね……孫の代まで会えないって。
元樹 いいんだ。ケンは、けんだまなんだから。いなくなった訳じゃないんだから。
真太 みんなでけんだま使いましょう。そしたら、きっと早く姿を取り戻せるかも。
元樹 そうかも……そうかもしれないですね。

   おかまバーあんず姫店内。
   元樹、真太、安永、山本、それぞれのけんだまを持って遊ぶ。
   笑い合ったり、ふざけ合ったり、楽しみながら。
   その場をケンが見ている。
   ケンの姿はみんなには見えない。

ケン けーん、……だま!

   ケン以外の全員、滑る。
   他が戸惑っているなか、元樹と真太だけが、顔を見合わせて笑う。
                                    終わり

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