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モンハン!つわもの!!コミュの天鱗のナハト外伝 「狂える暴虎☆白虎」

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こちらは、本編のアナザーストーリーとなります。 

多少、お見苦しい点があるかも知れませんが、御了承下さいませ<(_ _)>。


 破壊王との別名をも、持つ、「狂える暴虎☆白虎」デビル。
出自は定かでは無く、ココット村付近の砂漠で大破したという、キャラバンの唯一の生き残りの少年。

大人が引き摺る程の、巨大な剣を抱えて、残骸と化した馬車にうずくまり、そばには黒く長大な折れた角が落ちていたらしい。

偶然、通り掛かったアイルーの商隊に拾われ、ココット村で成人し、ハンターとなる。
村を襲う、白一角竜を、たった一人で倒し、さらなる世界を求め、さまよい、東の果てのユクモ村に辿り着く。

風よ、友に届いて居るか?


月夜の美しい夜

数日間、歩き通して

断崖絶壁から、東の果てのユクモ村を彼が見つけたところから、物語は始まる。

コメント(37)

眼下にわずかに見える、ユクモ村

篝火と湯煙を纏い、月明かりに映し出される景色は、まさに桃源郷。


遥か遠くの港街を出て、数十日。
狩りをしながら、糧を得、やっとの思いでユクモ村に辿り着いた。

途中、カーヴァー二頭と荷車を失い、最後に残ったのは、旅塵にまみれた、ハンターメイル一式と鉤爪の飛び出す、長大な鉄の大剣のみ。
そして、黒い長大な折れた角が一本。


あとは僅かな荷物と

一匹のアイルー
「みぎまき」


「やっと、着いたな?みぎまき。」

どんぐり一式で身を固め、どこからか拾ってきた、ブロードソードを背負い、嬉しそうに「にゃー」と、みぎまきは答えた。


風が心地良い

ホタルとかいう、光る虫もちらほら見える。


数匹がじゃれ合うように飛び、眼下に見える滝に集まって行く。

はじめは少しずつ

徐々に数を増し、巨大な光となる。


その光が映し出したのは、金の双角を持つ、怪しげな獣だった。

時折、雷を纏い、優雅に振る舞う、その姿は、竜の威厳を持ち、狼のように猛々しい。


息をのむ、一人と一匹。
我を忘れ、その姿に魅入る。

彼らを正気に戻したのは、一台のカーヴァー馬車とそれを守るハンター達だった。

日も沈み、かなりの時間が経つが、慌ててユクモ村に向かう一団。

何かに怯えるように。


光を纏う、怪しげな獣は、嬉しそうに舌なめずりしたあと、天に向かい吼える。

まるで、己を誇示するかのごとく。

青白い雷を纏い、一団を急襲せんと、断崖をものともせず、猛進してゆく。


「みぎまき!闘るぞ!」
叫ぶなり、崖を駆け下るデビル。
みぎまきは、にゃーにゃーと唸りながら、転がり下る。


必死に追うが、間に合わず

絶叫と悲鳴が木霊する、地獄絵図。

雷光纏う獣は馬車を一閃。
護衛のハンター達は尾の一撃で戦闘不能に。

やっと辿り着いた、眼前に見えたのは

凶悪な鉤爪で馬車を破壊し、雄叫びを上げる雷獣の姿だった。


蘇る記憶
あの忌まわしい、角竜の惨劇。


爪に引き裂かれた馬車には、まだ幼い女の子の姿が見える。

傷だらけの、その姿は、遥かな記憶の中の自分と同じ。

「赦さんぞぉぉお、貴様ァ!!!!」

怒声と共に走り込み、渾身の抜刀斬りが雷獣の左角に直撃。

そのまま、大剣を振り回し、旋回斬り。

そして、大剣を振りかぶり、叩き斬ろうとした刹那、雷獣の姿を見失う。

鋭い殺気を感じた瞬間、雷獣の回転する尻尾がデビルに直撃。

「がはっ!!」

しかし、同時に、直撃した斬撃が雷獣の左角を圧し折る。

怯む、雷獣。
そして、逃亡してゆく。


デビルは大剣を地面に突き刺したまま、崩れ落ちる。

「へへ、ざまぁみろ!犬ヤロウが!」
そう、呟くと気を失った。





…つづく
「ポコッ、ポコッ!」

鈍痛がまだ残る、アタマに何かが当たる。

にくきゅうパンチを「みぎまき」が発している。

霞む視界に見えて来たのは、鼻水と涙で顔をクシャクシャにした、小汚い黒アイルーだった。

お気に入りのどんぐりヘルムはヒビが入り、お宝のブロードソードは、くの字に折れ曲がり、肩当ても片方千切れて無い。

「にゃーにゃー、オロワァーオロワァー!」

わかったから、にくきゅうパンチを止めろっての。

うへっ、鼻水、顔にかけんな!


どうやら、気を失ったあと、この「みぎまき」が、雷獣に飛びかかったらしい。

あのな、みぎまき
剣は鞘から抜いて使うもんだぞ?
鞘ごと…くの字に曲がってるではないか。

あ、なに?
御主人の真似したら、抜けなくて、そのまま、叩いた?

にゃーと叫んで、抜刀溜め斬りを美しく?

そしたら、届かなくて、腕の爪に当たって…くの字に?

いや、オマエ。
そもそも、爆弾大好きオトモだろ?


はっ?


和んでる場合、じゃないな。


改めて見る、惨状。
尾の一撃で完全武装のハンター?らしき連中は、皆、即死。

御者も、たぶん爪で一瞬にして引き裂かれ、無残な姿に。

馬車は中央より、二つに裂け、後部座席の女性はかろうじて、服装で判断出来る程度に損壊。
前部座席には、血塗れの少女が倒れている。


みぎまきが無理矢理、飲ませたらしい秘薬の空き瓶が転がり、一命は取り留めていたらしい。


ふと、自分の倒れていた場所を見る。
やはり、空き瓶が一つ。

うん、みぎまき
それは漢方薬だよな?

にげーんだよ?


7〜8人の人数が居て、生存者はたった一人。

とりあえず、ユクモ村に向かう。



ユクモ村

東の果ての村

見たこともない、不思議な造りの壮大な門があり、入り口には気だるそうな門番が一人。


先程、起こった出来事を話し、怪我人を預けたところで、流暢な言葉を話すアイルーが一匹。


「ハンターさん、ハンターさん、その後ろの長いのは何ですニャ?」

砂漠の黒い角竜の角さ

「スゴいニャー!それと、もう一つ。そのベルトに挟んでる金の角は何かニャー?」

さっき折った、雷獣の角だな

「ハンターさん、ジンオウガと闘ったのかニャ?」

ジンオウガ?

「雷狼竜と云われてる、雷を纏った狼のような姿をした、竜の事だニャ!」

ほほう。面白いな

「ジンオウガと引き分けたハンターさん、スゴいのニャ!ボクはタマって言うニャ!あ、ハンターさん、待ってなのニャー…


うるさいから、ほっとくか。

案内されて、竜人族の村長に話しを聞く。
先程のタマとかいう、アイルーは村長とギルドの手伝いをしてるため、物知りらしい。

その他にも色々、話を聞く。

雪山に住む、牙の生えた虎のような竜
森に住む、漆黒の獣
そして、砂漠に住むという、巨大な古竜


ハンターの血が騒ぐのを見抜いた村長は、しばらく留まりハンター生活をするように勧め、空き家をデビルに提供してくれた。


この傷が癒えて、あのジンオウガと決着を付けるまでは、ユクモ村からは出られないな…と、理解した。

ところで、村長さん?
あの、煙は何ですかな?
温泉?



なるほど。
そりゃ、助かるね。


村長の館をあとにして、提供された家へと向かう。


道の途中に赤い服が居る

ちょうど、人間の半分ぐらいの大きさ。
帽子を生意気そうに被り、極彩色の羽根を飾り、全身は赤一色。

腰には細身の刺突剣

「ハンターさん、ハンターさん、勇者なオトモは要らないかニャ?ボクは物知りオトモのタマだニャん!」

ギルバード着てやがる、このネコ。


「何だ、このドロボーネコ!ボクが一番勇敢なアイルー、みぎまき様ニャ!!」
と叫び、唸りながら戦闘モードに


ああ、勇敢だな。
少し、バカだけどな。


起きたら、勝負の結果は聞く。

とりあえず、眠い。
気にせず、ベッドへむかう。

鎧を脱ぎ捨てて、ベッドに寝転ぶなり、睡魔に襲われ、深い闇の中へ堕ちてゆく。





ぷに?



なんじゃこらー!

翌朝、デビルの叫びがこだました。


…つづく。
翌朝、夜も明け切らぬ早暁、デビルの家に絶叫がこだまする。


ベッドの毛布の中に、それは居た。

下着姿の少女。

悪びれもせずに、胸を押さえ、微笑みかけている。

「おはようございます。」


少女は自分を「澪」と名乗る
ユクモ村に住む、元ハンターに育てられた、そうである。


いや、わかったけどな。
何でオレのベッドで寝てたのかね?


は?

また、ジンオウガが襲ってきても、あなたのようなハンターなら、また追い返してくれると思った?


いや、追い返したんじゃない
負けたのさ。


ま、とりあえず服を着ろ

話は後で聞く


ベッドを離れ、リビングに向かう。


そこには、二匹の薄汚れたアイルーが座り込んでいた。

御自慢のギルドバード装備はあちこち破れ、泥まみれ

涙と泥と鼻水で可愛らしいハズのその顔は見る影もなし。


もう片方のアイルーはすでに原形を留めてないどんぐりメイルの残骸らしい、樽をベルトで巻いただけで、あちこち焦げ、血塗れの姿。

一番目立つのは、アタマのタンコブ。
こちらも同じく、涙と泥と鼻水で見る影もない


どうやら、引き分けたらしい。


やれやれだな。


温泉とやらに行ってみるか!

おい、タマとかいうネコ!
温泉とやらに連れて行け!

ニャー…!

どうやら、目が覚めたらしい。
眠そうに顔を擦りながら、「旦那さん、お風呂に行くのかニャ?タマが一生懸命、お背中流してあげるのニャー!」


旦那さん?
雇った覚えなんて、無いぞ。

は?

勇者様専用オトモだから、問題ない?

有り過ぎだろ。

みぎまきとタマと大浴場に向かいながら、昨日の闘いを聞く。



どうやら、能力的には互角らしい。

はじめは、にくきゅうパンチの応酬からはじまり、次第にエスカレート。
丸腰のみの「みぎまき」に対して、「タマ」はギルドレイピアを抜く。

「丸腰相手に武器とは、卑怯なのニャ!!」

吼える「みぎまき」に、「タマ」がレイピアを振りかざし、一閃。

シャドウのフットワークで見事に…かわせず、「みぎまき」のアタマにレイピアが、ものの見事に直撃。

オトモ用のレイピア
刺突用の武器のため、先端以外はタダの棒である。

斬れるどころか、タンコブが一つ出来ただけ。


激昂する「みぎまき」

「もう、赦さんのニャー、貴様ァ!!!! ニャ」

どこから、取り出したか不明な大樽爆弾を頭上に掲げ、雄叫びを上げる「みぎまき」


限界を超えたその重さに、フラつきながら「タマ」へ突進し、「浪漫自爆☆バンザイアタック」を仕掛ける「みぎまき」

タマに直撃する寸前で、支えきれなくなった大樽爆弾がアタマのタンコブに触れる

「ふぎゃっ!」

あまりの痛みに手を離し、タンコブをさする「みぎまき」


そのまま、目の前を落下し大樽爆弾が発破。

火だるまと化し、転がる二匹


その、瞬間を見届けていたのは、寝ぼけた門番のみだったらしい。




…つづく
タマの案内で辿り着いたのは、大浴場。

近隣で活躍するハンター達の憩いの場所らしい。

併設するのは、ハンターズギルド・ユクモ村出張所である。

とりあえず、アイルーの番台の指図に従い、ユアミとかいう服に着替えさせられる。

二匹のオトモと云えば、自分のキズを自慢しつつ、武勇伝を語り出す。

のれんとかいう、カーテンのようなものの先が大浴場。

温泉とは、温まった水のことらしい。

砂漠育ちのデビルには何のことかイマイチ理解出来ずに、呆然としてると…。

「おう、新入りハンターか兄ちゃん?」
湯煙の向こうから、サビの効いた声がする。
「上っ張りを脱いで、入ってこいよ。」

云われるがまま、のれんをくぐる。

湯に浸かる、歴戦のハンターらしい老人が二人、こちらを見ている。
体には大小のキズ跡が残り、実力を物語っている。

しかし、デビルのカラダを見て、老人達は絶句する。

全身、キズ跡だらけ。
いくつもの深手もあるが、一番のキズは左胸の穴が開いたようなキズ。
生きてる事自体が不思議な程。

「兄ちゃん、その胸のキズは?」
と髭の老人が訊ねる

西の砂漠の白一角竜に刺されたキズだと説明する。

双角の悪魔といわれる、ディアブロスの変種でモノブロスというのが存在する。
 なかでも気性が更に荒い、全身が白い、一角竜の噂は数年前、たった一人のハンターによって討伐され、ギルドの知るところとなった。

遠く、辺境のユクモ村にも噂話は伝わり、一時はハンター達の話題にもなった。

白一角竜を倒したのは、わずか17歳のハンターで、褐色の肌に白銀の髪と瞳をもつ、剣士だったらしい。

鉄の大剣を軽々と振り回し、滑空する火竜すらも易々と叩き落とすという。


その、人物と同じキズを持つこの男

名前はデビルとしか知られていない。

全身にいくつもの傷を纏い、左胸には穴の開いた痕。

白一角竜との死闘で作られた、その傷は白一角竜の一本角が心臓を貫き通した事を意味する。

しかし、彼の体質は特殊で、内臓の位置が左右逆になっていたと、後にギルドで判明するのだが…。




老ハンター達は邂逅する。

西の砂漠の村を襲う、幻の白一角竜。
逃げ惑う、村人たち


動くもの、すべてが白一角竜の敵
動くもの、すべてを破壊しつくし、未だ、彼の怒りは収まらない。

猛り狂い、雄叫びをあげる。

そこへ、遥か彼方から、走り込んで来た暴走した馬車が突っ込む。
怒りに我を忘れた、白一角竜は聴覚を失っていた。


凄まじい勢いと共に、馬車が直撃。
轟音とともに、積んでいた大樽爆弾が炸裂し、あまりの衝撃で白一角竜は我に返る。

頭部の紋様も消え、冷静さを取り戻した彼が見たのは、鉄の鎧に身を固めた、ちっぽけな人間だった。

ただし、その不似合いな長大な剣を除いて。

臨戦態勢を取ろうとする白一角竜に対し、剣士は剣も抜かず、廻り込む。

何とか、一本角で狙おうとするのだが、絶えず、動く剣士に的が絞れない。

やがて、困惑は怒りに変わる。
口から黒煙を吐き出し、足を蹴り上げ、怒りをあらわにする。

しかし、剣士はそれを待っていたかのごとく、引き摺るような大剣を引き抜きつつ、一閃。

そして、回り込みながら、もう一撃。

さらに、反転しつつ、一撃。

舞うように、踊るように。

長大な大剣の重さすら、力に付け加えての破壊的な斬撃。

怒りに任せ、反撃するが、攻撃しようと構えるとすでに剣士は回り込んでいる。

周囲を薙ぎ払おうと、自慢の巨槌ともいえる尻尾を振り回すが、足元に入り込まれ、かわされ、また攻撃される。

この戦いを傍観してるものが居るとすれば、まるでダンスを踊っているように見える事だろう。


死の踊りを
銀髪の悪魔とともに


…つづく
しかし白一角竜とて、歴戦の強者

消耗しつつも、虎視眈々と逆転する機会を窺っている。

その、瞬間は突然来た。


白一角竜の硬い甲殻は、大剣の刃先を傷め、鈍らせる。
 切れ味を失った大剣は、間の抜けた音と共に弾かれ、剣士は大きく態勢を崩す。

この機を狙っていた、白一角竜は狙いすました自慢の尾の一撃を剣士に放つ。

剣士は攻撃を受けることすらかなわず、弾け飛ぶ。

村の外れの大岩に叩きつけられる、剣士。

そして、頭甲に赤い紋様を浮かべ、すべてを穿つ一本角で剣士を倒しにかかる。

爆音を轟かせ、遮二無二、突進。

大岩に叩きつけられた剣士が気付いた時、目にしたのは、研ぎ澄まされた凶暴な一本角だった。

鉄の鎧を貫き通し、白一角竜は勝利を確信する。

血を吐き出し、のたうち回る剣士。

やがて、剣士は力尽きる。

怒りに任せ、剣士もろとも、大岩までも貫通させた一本角は容易には抜けない。

引き抜こうとして、足掻く。

自慢の角に伝わる、不快な感触。
不快さは次第に増し、その理由に気付く。

まだ、剣士の鼓動が止まってない。

糸の切れた操り人形のように、ダラリと四肢を垂れては居るが、まだ生きてる。

無理矢理、一本角を引き抜くと、鈍い音と共に、剣士の兜が千切れ飛ぶ。

そして、力無く、地面に倒れる剣士。


この、忌々しい剣士を殺してやりたいが、白一角竜とて、かなりの傷を負った。

どうせ、死ぬだろうと、背を向けた直後、白一角竜は奇怪な雄叫びを聞く。

ところどころ、鉄の鎧は千切れて、血は止まることなく流れている。
しかし、自分と同等かそれ以上の殺意と破壊衝動が、死に損ないの人間から出てる。

長大な大剣を片手で担ぎながら、異形の魔物のように高笑い。

決着をつけるべく、白一角竜も再度臨戦態勢に入る。

剣士は、異形の魔物ような奇声をあげながら、白一角竜に殺到する。

振りかぶっては、叩き付け
叩き付けては振り回す。

先程と、あまり変わらぬ攻撃。

違うのは、すでにかなり切れ味が落ちた大剣であるのに、自慢の鉄よりも堅い甲殻が簡単に斬り刻まれてしまうこと。

一撃、一撃の重みが先程とは別次元。
その斬撃は荒れ狂う嵐のごとく、すべてを破壊し血煙を闘気のように身に纏う。


白一角竜の攻撃はことごとく空を切り
剣士の攻撃はすべて直撃。


全身を切り刻まれ、怒りに狂ったまま朱に染まり、力尽きる白一角竜。

動かなくなった、その骸に大剣を斬り下ろし、無惨にも一本角を圧し折る剣士。



血塗れの銀髪の悪魔


それが、幻の白一角竜を討伐した剣士の別名らしい。


…という話をギルドの噂で聞いたんだが、お前さんがそのハンターなのかね?

老ハンターは問う


さぁね。
嫌でもそのうち、わかることだよ、先輩方。


とりあえず、風呂入らせてもらっても良いかな?



人の話には随分、尾鰭が付くもんだな。
みぎまき?


そうだったか?
説明してやれ。

意味ありげに、みぎまきはにくきゅうの付いた親指を突き出し、「ご主人は、最強ニャ、そして、ボクもその次に強いニャ!」と嬉しそうに自慢した。



……つづく
湯煙漂う、話に聞いてた温泉。
傷の痛みもやわらぎ、疲労も抜けていくのがわかる。

これは、ハンターには有り難い。


しばらくして、調子の外れた音頭とズレた二匹のネコの歌声が聞こえる。

どうやら、先程の老ハンター達と、たのしくやってるらしい。

近寄ってみると、完全に出来上がっている、二匹のオトモ。

なにやってんのかな?ネコ。

「お酒とかゆー、変な水飲んだら、気持ち良くなって、いい気分なのニャ!」とみぎまき。
「マタタビもすてがたいケド、お酒とかゆーのも、たまらんのニャ!」とタマ。


んー?
楽しんでおけ。
少し、用事があるから、適当に家に戻っておけ。

「了解ニャ('◇')ゞ!」と二匹。


出口の向かって行くと、横に妙な屋台がある。
「温泉ドリンク」?

ネジリハチマキに前掛けのアイルーが威勢よく、声掛けてくる。
「らっしぇー!温泉の後はコレ!ネコの温泉ドリンクなのニャ!」

「疲れもストレスも吹っ飛んで、スッキリするニャん!」


……?

オススメは?

「今日のオススメは、コレ! フルーツ牛乳!」

それをくれ。
とりあえず、飲んでみる。
ちょっとだけ、スタミナ付いたかな?


「またの、ご利用お待ちしとりやす。ありあとやっしたー!」


変なネコだ。



普段着に替え、目的の場所へ向かう。

村はずれの森の中にある、一軒家

先程、旅から帰ったという昔の仲間を訪ねるためだ。

伝説のハンターの一人
「古竜を討ち果たした者」

三年前、ある砦を襲った巨大な竜に挑んだ4人のハンターの一人
太刀使いにして、すでに忘れ去られた「回天斬魔流」と云う古代剣術を会得した一門の末裔。

ギルドの太刀剣術指南役を本業とし、時折、古竜調査隊に同行。
数多くの古竜討伐に成功し、「風使い」との異名をもつ。
彼の振るう太刀は風旋を纏い、瞬時に敵を切り裂くと云われる。

デビル達と組んだ古竜「老山龍」との戦いで、右腕を失い引退した伝説のハンター。


その、彼の依頼でデビルはユクモ村を訪れたのである。


鬱蒼と茂る、木々の中、目指す館はそこに有った。

この館の主人は伝説の天才剣士「燕 敬三郎」という。


あまり、手入れのされていない、質素な作りの居間に、その男は居た。
 どうやら、病のようだ。



……つづく
簡素な作りに、簡素な家具
贅を尽くしたとは言えない、質素な調度品の数々。

それが、いかにも、彼らしい

居間兼、広間の板敷きの部屋に、その男は居た。

年の頃は青年のようにも見えるが、髪も眉も髭も総白髪になり、老いは隠せない。

現役の頃は、艶やかな黒髪を居丈高に縛り、軽装で引き摺る程の太刀を背負い、誰が見ても異国の美剣士とも云える風貌で、ギルドの受付嬢などはヒマな時には一日中、彼の話で持ちきりだったほど。

しかし、今は病魔に犯され、余命幾ばくもない…とか。


待たせたな。とデビル。

咳き込みながら「遅い!」と返事がある。
共に地獄のような戦場を生き抜いてきた仲である。親しみを込めて、敬語などは使わない。

大丈夫なのか?とデビル。

「まだ、数日は持つ。俺の一族を滅ぼした忌まわしき古龍について話しておきたい。」との事。
「その前に、都から戻る途中の、俺の娘を助けてくれたそうだな。礼を言う。」

娘?
澪とかいう?
ありゃ、アンタの娘か?

「都でハンターになるべく、ギルドの訓練校へ入ってな。もう、二年になるかな。手紙では、優等生らしいが…」

回天斬魔流を教えたのか?

「いや、オマエを超える逸材にはついに、会えなかった。時が来たら、デビル、オマエが教えてやってくれ。此処に秘伝書がある。」

隻腕では、やはり無理か?

「ああ、無理だった。ギルドの古龍観測隊の手伝いと、このユクモ村での簡単な武器屋の手伝いが生業だった。」

そうか。
しかし、俺に太刀は向かないぜ?
叩き斬る事しか出来ない俺には、風すら斬るアンタの太刀筋は真似出来ない。
難しい頼み事をされても困る。

「デビル、オマエは間違っている。力こそが全てではない。後で秘伝書を読んでみろ。俺の全てを書いておいた。コレを読み、会得出来るのはオマエしかいない。」


重てぇなぁ。
ま、わかったよ。
老い先短けぇ、半死人の台詞だな。
化けて出ると、怖いから、願いは聞いてやるよ。

「それとな、澪の事だが、オマエとは腹違いの兄弟と云う事にしてある。身内の一切居ない俺には、家族がない。もしもの時には、娘をオマエに託したい。」

はぁーーーー?
なんだそりゃ。ギルドの連中はオレが天涯孤独だと、知ってるぞ?
何?適当に細工した?
マジかよ。
勝手に何しやがる。

娘は知っているのか?

「いや、これからきちんと話す。」


そうか。

家の外に人々の気配がする。
どうやら、また客のようだ。

「たぶん、娘だろう。デビル、また夜に訪ねてくれ。昼間は病で目が見えないんだ。」

……。
わかった。

家を出ると、門の前に数人のギルドの人間に守られた澪が居た。

軽く会釈し、挨拶されたが、デビルは上の空だった。


オレの大剣、ジンオウガとの戦いで壊れてたハズ。
竜の鉤爪の出ない状態では、まともに戦えない。

さて、どうしたものか。
とりあえず、ギルドか武器屋に相談してみよう。

軽く頷くと、小走りに駆けていった。
風を纏いながら……。


………つづく。
ギルドで事の顛末を報告する。
 そして、ギルドが用意してくれた装備を確認する。

ハンターメイル一式
壊れたアッパーブレイズ

この辺境の地では、火竜の飛び出す鉤爪は直せないらしい。

ギルドのユクモ村出張所所長が何やら、大事そうに恐ろしく長い包みを差し出す。

もし、オヌシが訪れたら渡して欲しいと言われていた太刀じゃよ。
あの、風使い・燕 敬三郎からのう

その太刀は「六花垂氷丸」(りっかたるひまる)と呼ばれる。

鋭く磨かれた刀身には冷気が宿り、切り刻まれた獲物の血が六花(雪の花・雪の結晶)のように見えて散り、刃に絡み付いた血雫は氷柱のようにまとわりつく…というもの。

元は彼の愛刀であった一振り。
添えられた手紙が一通。
「友よ
拙、病に蝕まれ、余命幾ばくも無く、無念の限り。
 願わくば、我が片見として、我が愛刀「六花垂氷丸」を譲りたい。
愛娘、澪の事もよろしく頼む。
 たとえ、我が身が病に倒れ、命尽きようとも、我が身、風となりて共に戦わん。
 友よ、風は届いているか?」

遺言てやつかな?
本人はまだ生きているし、なんか照れ臭い内容な気も……。

ま、いいか。
ヤツの覚悟はわかった。
不慣れな太刀を、昔、ギルド訓練校で習った方法で扱う。

なんとなく、思い出して、少しずつ慣らしていく。
太刀は新しい主を認めたらしく、手に馴染み、手応えを伝えてくれる。

懐かしい、そして新しい感覚。
鋭敏に研ぎ澄まされた感覚が、別の次元に到達する。

太刀に酔い、しばらくギルドの道場で振り回していたらしい。

気が付けば、数人のハンターが呆然と見惚れていたらしい。

抜刀し、切り下げてもう一度、切り下げる。
そのまま、流れるように突く。
そして、突きからの連続動作で切り上げ。
そして、切り下げる。

ここまでは、連続動作で流れるように扱える。
敬三郎に昔習った殺陣である。

しばらく、ギルドの道場で太刀を振り、己の考えに浸る。
ひとしきり、太刀を振り回した後、一息つく。
疲労が心地よい。

大の字に寝転ぶと急に、眠くなり、気を失った。



……。
夢を見ていた。


悪夢のような、老山龍との戦いを


…つづく。
老山龍という、古龍がいる。
伝説には、こうある。

その姿、山と見紛う程の巨体にて
かの龍の咆哮は大地を揺るがし
かの龍の歩みは全てを砕く

神代より生き長らえし、古龍に既に自我なく、ただ、度々彷徨い…人々に大災厄をもたらす。

存在そのものが、災厄。
かの龍の進む先には大災厄有るのみ。
忘我により、度々迷うが、どこへ向かうかは龍のみぞ知る。

三年前のある日、古龍観測隊から恐ろしい情報がもたらされる。
西の砂漠に程近い村に、巨大な龍が現れたらしい。

古龍の名は「老山龍」。
山か、巨大な城と並ぶ程の巨龍である。

西の街の多くは、老山龍に踏み潰され、村々は壊滅状態。

異変を告げる早馬も告げる先々で、その事実を笑われ相手にされない。何とか、説得を試みるが間に合わず、必死に逃亡し東へ東へ向かう。

憔悴し、必死に砦のある街に辿り着く。

「老山龍がこちらに来る!」
そう、声を振り絞るなり名も無き勇者は力尽きたそうである。


数十年前にも起きた大災厄。
この砦を守る街の長老は二度目になる。
この何年かにまた、かの龍が再び来る事はわかっていた。
竜人族直伝の古文書にある。


今日、やっと一人の戦士が最後に辿り着いた。

竜の顎を砕くという、巨槌使いの戦士が…。

他に揃うは

黒き艶やかな長髪をなびかせ、身の丈程の長大な太刀を帯び、微笑をたやさない風使いの名を持つ東方のサムライ。

火竜の鱗に身を包み、素顔を明かさない女重弩使いのフェイロン。

そして、鉄と火竜の鱗を合わせたハンターメイルを身に纏い、自分一人では持ち運べない程の巨大な大剣を携えた男。
 小粋にヘルムを跳ね上げた、その顔にはまだ幼さが残る。
面白いのは、この男。あまりにも巨大すぎる大剣を持ち運べないらしく、三匹のアイルーを引き連れている。
 三匹ともお揃いのどんぐりメイル一式に身を包み、兜にデカデカと「いちろう」「じろう」「さぶろう」と書いてあるのも面白い。

さて、4人揃うたの。
これから、この砦を襲う、かの古龍「老山龍」を撃退して欲しいのじゃ。

撃退で良いのか?
大剣使いが笑いながら、問う。

駆逐するんだ、デビル。
穏やかな微笑をたたえたまま、黒髪のサムライは答えた。

良いだろう!
やってやるぜ!!


砦に向かう西の外れに、地響きを漂わせ、赤黒い古龍が霞む視界に姿を現した。


…つづく
闇夜に浮かぶ、赤黒い古龍。
その、瞳に既に光は無く、龍である誇りも、知能もない。

当然、自我など無く、本能のまま進む。

何処へ?
それは彼しかわからない。
しかし、忘我の老龍には、無意味な質問かも知れない。




砦の西の外れの街道に、巨大な龍が姿を現す。
その歩みは大地を揺るがし、ありとあらゆるものを踏み潰して進む。

古文書の「大崩壊」がはじまろうとしている。


瓦礫を寄せ合わせたバリケードは何の甲斐もなく、一蹴する。
その、先に三人の戦士が立ちはだかる。

示し合わせたかの如く、巨槌使いと太刀使いが左右に分かれ、攻撃を仕掛ける。

怒濤の連続攻撃が炸裂し、老山龍の両腕が血に染まる。
鱗は剥がれ、幾つかの傷が刻み込まれてゆく。
しかし、お構いなしに、悠然と歩を進める、老山龍。



そのまま、二歩、三歩、確かに歩いた。
しかし、四歩目は無かった。

人間が集めたらしい、樽とかいう木の入れ物が幾つも並ぶ。
全て、怪しい「にくきゅう印」

全員分+αな大樽爆弾Gフルセットである。

ヘルムに「いちろう」と書かれたアイルーが「にくきゅう印」の旗を振る。

それを合図に、遥か彼方の高台の櫓より凶悪な重弩が火を噴く。

 狙い澄ました、貫通弾で見事に発破。

爆炎と衝撃で、大地が揺れる。

あまりの重撃に怯む、老山龍。

そして、怒る…自我もなく、忘我の身でありながら、猛り狂う古龍。

赤い双眸に怒りが宿る。

ニ、ニンゲン?

怒りで少しだけ記憶が蘇る。

「また、邪魔をするのかー!! ニンゲンよ!!!!!」

と叫べども言葉にはならず、耳をつんざく咆哮が出るのみ。

両腕には幾つもの微細な切り傷、そして軽い打ち身。
先程から、両腕に鬱陶しいくニンゲンが張り付いている。

邪魔だ!このニンゲン

だがしかし、ただただ進む。
理由もわからない。
古龍にもわからない。


その進む先に、一人のニンゲンが立っている。

嬉しそう腕を組み、
楽しそうに、老山龍を見上げる。

その、両の手には武器はない。
そばにあるのは、一台の荷車と、どんぐりメイル一式の三匹のアイルー。

そして、何処からか取り出した三本の瓶。
鬼人薬グレート
硬化薬グレート
強走薬グレート
三本まとめて、一気に飲み干す。


混ぜると超苦ぇーんだよ?


いくぜ!バケモン!


…つづく。

おもむろに、荷車に掛けた布を剥ぐ

そこには、規格外な大剣が鎮座している。
剣と云うよりは石碑。
妖しい超古代文字がびっしりと刻まれた石板に無理矢理、柄を付けたものが、通常の「エピタフプレート」である。

しかし、この特大エピタフプレートはその三倍近い大きさを持つ。
無論、人間一人で取り回しできる、重量ではない。

荷台から生えた柄を両腕で掴み、三匹のオトモアイルーが荷車を猛ダッシュで引っ張る事で強引に台座の鞘から引き抜く。

怒声とともに、引き抜かれた大剣をそのまま、勢い良く、老山龍の頭部に叩きつける。
跳ね上がり、吹き飛びそうに剣士はなるのだが、大剣の恐ろしいまでの自重で更に頭部へ斬りつける。
そのまま、反動を付けて、更に一撃、また更に一撃と。

まるで、大剣が勝手に戦っているようにも見えはする。
ぶら下がってる、人間がおまけで、大剣が本体のような錯覚すら覚える。
振り回されてるのが人間で、振り回してふのは大剣のようだ。

しかし、太刀使いは知っていた。
この、狂戦士の恐ろしさを

端から見れば、ただの舞いのよう。

しかし、実体は、全体重と大剣の重さを利用した凶悪極まりない一撃、一撃を連続攻撃している。

人知を超えた怪力に、薬による効果を加えた、彼にしか出来ない、発狂技「バースト」。

荒れ狂う竜巻さながらの斬撃に、古龍の頭鎧は切り刻まれ、甲殻は破片となって飛び散る。

龍を破壊するという、その大剣の属性は蝕むように、古龍を壊してゆく。

まだだ、もっと疾く。
破壊、破壊、全てを破壊しろ
大剣使いの精神と特大エピタフプレートの波長がリンクする。

プレートの超古代文字が妖しく光る。
大剣使いの兜が弾け飛び、短髪だった銀の髪が赤い長髪に変化する。

龍族暴走

無意識に禁じ手の封龍の武器の破龍属性を解放してしまった大剣使い。

このまま、使い続ければ、魂は龍に乗っ取られ終末の狩人として竜になるという。

しかし、既にほとんどの体力と精神力を使い果たし、衰弱しているのがわかる。

更に振りかぶり、上からの叩き付け斬りを行う大剣使い。

凄まじい閃光と爆音の中、特大エピタフプレートは中央部より砕け、崩れる。

老山龍の角も同時に圧し折れる。
怯む、古龍。
苦しむ古龍。

仰け反り、戻ろうとする左腕の下で大剣使いは昏倒する。

咄嗟に、走り出す太刀使い。

いかん!
このままでは、潰されてしまう。
友の窮地を救うべく、太刀使いに神速と神業が宿る。

風よ、届け!!!

…つづく
我が刃は風の宿命。
我が一撃は岩をも穿つ。

我が錬気は風をも纏い、我が刃身には神威が宿る。

武神詠唱

東の果ての滅びし大国の末裔の滅びた剣技の一つ。

「回天斬魔流・奥義!  天狼牙旋衝!!!!」

魂を込めて練られた気が刃に集まり、風を纏い、唸りつつ、共鳴をはじめる。
集約された錬気の塊は疾風(つむじかぜ)を纏い、太刀使いの渾身の突きと共に爆ぜる。

錬気塊は大剣使いを弾き飛ばした。


しかし、悲しいかな。
無情にもその瞬間、老山龍の左腕が突き出した太刀使いの右腕を巻き込み、地面に叩き付けたのである。

凄まじい衝撃に、我に帰る中、耳に聞こえて来るのは、友の右腕の粉砕する音である。


すまねぇええぇーーーー。
大剣使いの叫びが虚しく響いた。


大剣使いはオトモアイルー三匹に強制的に縛り付けられ、荷車を「さぶろう」が曳く。
 ネコの火事場力で高速離脱してゆく。

太刀使いは薄れゆく意識の中、アイルーの声を聞いた。

いちろう、サムライの右手が無いニャ!

でも、太刀は此処にあるのニャ!

ハンターさん、しっかりするのニャ!コレを飲み干すのニャ!

差し出されたのは、古の秘薬だった。
とりあえず、訳もわからず、それを飲む。

ふと、我に帰ると右腕が肩先から無くなっていた。
言葉を失う太刀使い。

しかし、今は真剣勝負の真っ最中。
退くわけには行かない。

左腕で太刀を掴み直すと、砦に向かい、太刀使いは走り出した。

一方、残された「いちろう」と「じろう」は巨槌使いの元へと駆け付ける。

ハンターさん、ハンターさん、一時撤退ニャ!
二人も倒れたニャ!
撤退して立て直すニャ!


今、はじめて喋る巨槌使い。

ネコよーう、オラッチが逃げたら誰がこのバケモン竜を誰が食い止めるだぁよ?

しばらくはオラッチに任せて、あの二人についててやれぁ。

と、叫ぶなり、古龍に突進していった。

それ以来、彼を見た人間はいない。
あとに遺されたのは、巨大な爪が数本と彼の使っていた変形した、巨槌「パルセイトコア」のみだった。

骸は見つかってない。古龍に踏み砕かれ、大地に還ったのかも知れない。


不利を悟った重弩使いは巨槌使いの最期を見届け、砦にある攻城兵器(防御用なので、防城兵器か?)を確認するためキャンプに戻る。

途中、どさくさの騒動に紛れ現れたフロギィの一団に囲まれるも、必死に逃げ延び、キャンプに辿り着く。

フェイロンがいう。

ギーゴは死んだよ。
再三、老山龍を怯ませた挙げ句、両腕の爪を砕いたものの、体当たりが直撃し、力尽きたそうだ。



まだ、これからさ
あきらめる訳にはいかないんだよ。

無邪気な子供のように、赤毛の大剣使いは笑いながら、飛び出して行った。

あとには「つむじかぜ」が一陣漂っていた。

…つづく。
風が気持ち良いや!!!
砦の防御兵器、「バリスタ」の前で、遥か彼方の古龍を眺めながら、散歩にでも行くような弾んだ声で大剣使いは笑う。

笑っては居るが、バリスタの弾の手入れはきちんと済ませてる。

大砲の弾はここかな?
さぶろう!お前も手伝え!

なに?いちろうとじろうがまだ来ない?

しばらくすると、多少の手傷を負ったいちろうとじろうがやってくる。

ひどいのニャー!フロギィのヤツら群れで襲うのニャ!
いちろうがお尻をさすりながら、嘆く

じろうはと言えば、壊れてるという撃龍槍をじっと眺めてる。

どうした、じろう?

お主様?コレは壊れてるのかニャ?
ジーッと仕掛けを見てる。

いちろう、コレは使えるニャよ?
直すのニャ!

いちろうとじろうは壊れた撃龍槍を修理する気らしい。

ありったけの飛び道具と迎撃兵器
全て、揃えた。
あとは、重弩使いの持ち弾すべてが、この砦の武器の全てである。

デビル、太刀を使え。
太刀使いが太刀を渡す。

悪いが、元々、肉弾戦しか知らないオマエにはこの迎撃兵器は使えない。

可能な限りの火器を撃ち込んだら、オマエは斬り込め。
援護する。

そういうなり、バリスタに太刀使いは陣取った。

さぶろう、オマエはデビルと大砲担当だ。

凄いのニャー!大砲なのニャー!
爆弾大好きオトモのさぶろうには、最高の武器である。


次第に老山龍が近付いてくる。
地響きを立てながら。

あらためてみる、その全長は城並みにして、高さは小さな山と変わらない。

勝てないまでも、負けない戦いをするんだ。太刀使いが言う。

デビルが、つぶやく。
さっきな、老山龍の精神とリンクしたんだ、大剣が折れる前に、一瞬。
アイツ、殺してくれって言ってたよ?
もう、ひとりきりは嫌なんだ。
誰か、自分を眠らせてくれってさ。

自我なんか無いし、忘我の古龍なのに、変なヤツだよな。

リンクしたのなら、会話したのか?太刀使いが訊ねる。

したよ。
さらっとデビルが、つぶやく。

楽にしてやるから、待ってろってね!

うらぁ!
大砲が炸裂する。
バリスタ、ジャベリン、守備隊の矢も雨のように降り注ぐ。

老山龍はただただ進む。
理由なんかない。

全身に迎撃兵器で数多くの手傷を負い、それでもなお砦の先へ進もうと足掻く老山龍。

爪の折れた腕で砦を攻撃するが、全く歯が立たない。

後ろ脚で直立し、後ずさる。


…体当たりが来るぞー!
誰かが叫ぶ。

砦が圧し折れそうな、体当たりが炸裂。
と、同時に太刀使いが壊れていない、撃龍槍を使う。

撃龍槍

砦最大の迎撃兵器

巨大な槍を機械仕掛けで撃ち込んで龍を倒すもの。

胸に二本の撃龍槍が直撃。
たまらず、たたらを踏む古龍。

コッチもやるニャー!!!!!
壊れてるらしい、撃龍槍からアイルーの声がする。

これでも、くらえニャー!!!!!




しかし、その声のみが虚しく響いていた。

……つづく。
なんで、出ないのニャー!!!!!

砦にいちろうの猛りが響く。

いちろう、火薬が足りないニャよ?
此処に大樽爆弾を置くニャ。

ちがうちがう、そのバネの後ろニャよ?

バカ、いちろう!出れなくなったニャ!
なんで、出口に置くのニャー!!!!!

ちっ!
舌打ちしながら、デビルが下を見下ろす。

まだ、まだ、戦るかよ?

イヤッハー!!!!!

雄叫びと共に、太刀を握りしめて、デビルが老山龍に飛び移った。

血で足が滑り、安定せず、地面までずり落ちてしまう。
大地は古龍の血で赤黒く染まっていた。

フェイロンの重弩が火を噴く
撃ち下ろしの集中砲火である。
ありとあらゆる、弾すべてを撃ち込み、急にふと重弩が止む。

横倒しに倒れる、フェイロン。
ずり落ちたキャップからのぞく、顔には大きな古傷が残る、元は美貌の持ち主だったらしい女戦士。

首筋にはフロギィの爪が残り、肌は全身紫色。
どうやら、砦に向かう際、フロギィの毒爪に傷を負っていたようだ。


既に二人も散った。
しかし、砦を守るためには、戦うしかない。
太刀使いがフェイロンのそばから離れて、見下ろす先には、太刀を振るうデビルの姿が見える。

太刀など、五年前のギルド訓練所以来、触って無いはずのデビル。
 流れるように、舞うように、美しく華麗に斬撃を加えていく。

あの時教えた基礎の型を実直に再現しているようだ。

次第に速く、加速していく。

デビルは無意識に太刀に話し掛けていた。
何がしたいのかな?

太刀からは一言

疾く

とだけ聞こえた。
更に加速していく。

まだ、まだ疾く

そうだ!あの、青二才よりも疾く!
左の胸が「ズクン」とうずく。


破壊の衝動がまた、発動する。

忌まわしい、黒角竜の記憶を呼び覚ます。

心を開放せよ。

腕に脚に、指に爪に力が宿る。
血が沸騰する感覚。

熱くて苦しくて苛々する。
オレを閉じ込めたのはダレだ?

荒ぶる、砂漠の白一角竜様だぞ!

よせ、デビル!
もう、カラダが保たないぞ!

敬三郎が叫ぶ!

しかし、デビルの太刀は止まるどころか、更に加速していく。
全身を血に染めながら。


老山龍は苛立っていた。

この邪魔な石の砦。
なぜ、いつもいつも、邪魔をするのか!
このニンゲン達も邪魔だ。

ふと、砦の最上階を見れば、なんとネコまで逆らうではないか!
ちょうどその頃、さぶろうは石を拾って投げ、拾っては投げしていた。


赦せん!!


瀕死のカラダで死力を尽くし、体当たりを試みる老人龍。


壊れた撃龍槍の中では、いちろうとじろうが覚悟を決めていた。
ヘルメットの上に巻いた鉢巻きには、玉砕上等と書かれている。

どうやら、爆弾で撃龍槍を発射させる気らしい。

さぶろう、あとは任せニャー!!!!!

体当たりする老山龍が砦に直撃するの同時に壊れたはずの撃龍槍が発動する。

一本は直撃し、深々と胸甲を貫いていた。
もう一本は「ペチン」と間抜けな音を立てて弾かれていた。
通常は戻るはずの撃龍槍。
しかし、抜け落ちた槍は地面に落下。

刺さった側の槍はきちんと戻る。
そこに、オトモアイルー二匹の断末魔の悲鳴が轟く


我に帰る、デビル。


まわりを見渡すと横倒しに崩れ落ちる老山龍がみえる。

ふと、手許を見ると知らぬ間に太刀は刃先が欠けているのがわかる。

視界に見えるのは、胸甲に大穴の開いた老山龍と壊れた撃龍槍のみ。

咄嗟に両腕で抱え上げ大剣のように担ぐ。

想像以上に重い槍だが、踏ん張り、狙いを定める。

走り込みながら、突進。

胸甲を破り、骨を砕き、槍の中程まで深々刺さる。
その、先にあるのは、龍の心臓。

お疲れ様、爺さん!

更に力を込めると、古龍の鼓動は完全に停止した。



老山龍、討伐

これは、奇蹟が生んだ友情と信念の証しである。




とな?



微睡みつつ、目を開けると、そこは質素な道場だった。


……つづく。
板敷きの道場は暗く、静まり返っていた。

蝋燭と燭台がいくつか見える。

道場の奥には白髪の男が一人
禅とかいう、古のサムライの作法の座り方をし、小声で何かブツブツと囁いている。

息を整え、気を静め、精神を統一する。


その、白髪の男は隻腕だった。
風使い、燕 敬三郎である。

そして、
道場の真ん中に大の字になり、デビルは寝ていた。

そろそろ、起きてはどうか?敬三郎が声を掛ける。


起きてるさ。
病気は大丈夫なのか?


古の秘薬と
秘薬
強走薬G
鬼人薬G
を常用してるから、何とかなってる。
しかし、あと数日で俺は死ぬな。

そうは、見えねーよ。
寝ぼけ眼で半身を起こしたデビルが返事する。

いや、薬が切れた時の反動はデカい。
それは、オマエも知っているハズだが?
と敬三郎。

オレのバースト時の服用とはまた、別だろう。
 しかし、破龍属性で死に至るとは、ギルドも驚いてたな。
右腕の付け根に残る、老山龍の爪の破片が敬三郎を蝕んでいたのである。

いや、生きてるだけでも奇跡なのだ。
あの、戦いでは多くの勇者が散っていった。
俺は運良く、生き残れただけさ。


……。


老山龍も、数十年に毎、ああやって現れるそうだ。
古龍とは、人知を超えた存在であり、時として天候を操り、大自然の脅威として表現されることもある。


クシャルダオラとかの事かな?

いや、あれはまだ、規模が違う。
ちょうど、30年ほど前になる。

この東の果ての地、ユクモ村より、まだ東にも当時…村や街が栄えていた。
俺の生まれた街はホウライという街で、あのドントルマという都市並みの栄華を誇っていたらしい。

しかし、ある日突然、巨大な嵐が近隣の村を襲う。
その、荒れ狂う嵐は数匹の巨大な空を飛ぶ大蛇だったとも伝わっている。

近隣の村が襲われた後、ホウライの街にさらに強大な大嵐が襲う。

伝説の嵐龍アマツマガツチ、「天津禍鎚」とも「天津禍津鉾」とも言われる、古龍。そのなかでも、龍神と恐れられた、群れの王の事である。

天空の神々の強大なる力の具現

という意味らしい。
その、王の怒りを買ったホウライの街は一夜にして壊滅し、タダの更地になってしまったという。


なぜ、怒りを買ったのか?

古龍観測隊の飛行船が嵐龍の群れ(嵐)に巻き込まれ、制御不能になり、墜落する際に嵐龍の一匹に直撃し、大怪我を負わせた事に起因するらしい。

仲間の負傷に憤慨した王は、その街を襲い壊滅させたのである。


事故などではすまない
大自然の脅威だ。

たまたま、ユクモ村へ母と向かっていた敬三郎達は難を逃れたらしい。

運良く、大災厄から逃れた敬三郎少年は生き延びた負傷者から、その嵐龍の話をきいた。
尊敬する、父はただ一人立ち向かい、嵐龍の王の右目を太刀で潰したものの、武運拙く、力尽きたらしい。


父の亡骸は見つかっていない。

遺されたのは、太刀の鞘のみ。


渾身の一撃、「奥義・天狼牙旋衝」が深々と嵐龍の王の右目を穿つが、全身に238もの傷を負い、太刀を握り締めたまま息絶えたらしい。


右目を失い、常軌を逸した嵐龍の王は暴走し、荒れ狂い、ホウライの街を含め近隣の村々を破壊しつくしたらしい。


その、王が再びこの地へ向かっているらしい。



幾つもの嵐を従えて……。


…つづく。

なるほど。

その、嵐龍の王とやらはすぐ来る訳ではないのか?

凶兆があるのさ。
古文書によると、何十年かに一度、近くを通るらしい。
ホウライの街はその、通り道に近かっただけだろうと推測されてる。
しばらくは先の話だがな

まぁ、詳しくは古龍観測隊の集めた、この資料と俺が纏めた古文書の注釈でわかる。
暇が有ったら目を通しておけ。


ふむ。
んで?
用はそれだけでは無いだろう。


そうだな。
今日より、5日間毎晩稽古をつけてやる。
太刀を極め、オマエの力とするがよい。


何、言ってんだよ?
太刀の習得には何十年もかかると、アンタ本人から聞いてるぞ。

忌まわの際で、耄碌したか?ジジイ。


型や技は書物にしてある。
あとで読みながら、覚えても間に合う。

基礎というか、一番大事な事をまず、教えておく。

一度、しか教えんぞ。
よく、聞け。
見ながら真似をして、覚えてしまえ。

まず、心を整える。
怒りや恐怖、惑いや憂い。
それらを忘れ、ただ心を一つに整える。
大地と空と森羅万象を司る、全てと同化する。

禅を組むのは、その鍛錬の一つだ。

禅を組み、心を一つにし、目を閉じる。
瞑想し、風の音、木々の声、川のせせらぎ、に心を溶かしてゆく。

慣れてくれば、遠く彼方に落ちる針の音すら聞き分け、風の声すら聞こえるようになる。
自分と森羅万象、全てのものを同化させ、自らを同調させてはじめて、刀に魂が宿る。

それが、「極み」の世界だ。

前にデビル、オマエが言っていた老山龍の精神と大剣を介して同調したのと一部似てる事だ。

大剣や刀を増幅器として、心を一つにし、心を一つに纏めあげることで心気を練り、さらに気を高めて心刃と化す。

それこそ、「回天斬魔流」の奥義だ。

敬三郎はデビルと向かい合って座り直し、禅を組み直し、精神を集中しはじめる。

空気が張り詰め、全ての風が止み、無音に帰す。
やがて、徐々に風が巻き起こり、敬三郎の全身に纏わりつく。

風が無数の蛇のように絡み、彼方此方で爆ぜ、彼のカラダを覆う。

徐に立ち上がり、ただの丸い木の棒をつかむ。

道場の片隅に置いてある、練習用の丸太に近寄り、デビルを呼ぶ。

洞窟に行った事はあるな、デビル。

頷く、デビル。
何をする気なのか、見定めたくて口すら訊けない。

洞窟の天井より、滴る水は、大地の岩盤を削る。
一滴、一滴は力無くとも
繰り返し、同じ箇所に滴り岩盤を穿つ。

水は岩ほど硬くない。
しかし、水滴のみが
雫のみが、岩に大穴を穿つ。

力では無いのだよ、デビル。
気を練り、集約し一点にのみ集中するのだ。
刃先に心を集中し、穿つ。

電光石火の妙技が冴える!

一瞬の間の後、敬三郎により、ただの木の丸棒は、丸太に深々と刺さっていた。

!!!!!

デビルよ、今のオマエの剣技にコレが加わったら、どうなる。

龍の鱗鎧すら、簡単に穿つ能力だ。

大剣や太刀を自由自在に振り回し、剣撃の乱舞を放ち、狙い澄ました一撃は龍の金剛の鎧すら穿つ。

それが出来るのは、デビル
オマエしか今は居ないんだ。


俺の風の魂を継いでくれ、友よ!



風を纏う、やつれた小さな背中が、酷く寂しそうにデビルの眼には映っていた。



…つづく。
水滴のみが、岩に大穴を穿つ



ブツブツ復唱しながら、足を組み直し、見様見真似で禅の真似事をはじめるデビル。
心を整え、気を静め、精神をあたりに融合させてみる。

風が流れていくのが目を閉じてもわかる。
風のように流れてるのは、気の流れであり、塊でもある。
それは、四方より、敬三郎に向かい流れているようだ。

ピリピリと空気の裂けるような、張り詰めた感覚。
しかし安定し、敬三郎を中心として気流は穏やかに佇んでいるようだ。


所詮、見様見真似ではある。
デビルは己自身の心の中のばらばらに散っている部品を集めてみる。

少しずつ、形を整えて、みる。
次第に何か、得体の知れない何かが形成されてゆく。

人のような
獣のような
竜のような

なにか。

瞑想は続く

一つわかった事は、何やら得体の知れないエネルギーのようなものが、そこいら中にあるらしい、と言うこと。

それは、色々な生き物から立ち上り、極彩色の色々を纏い、漂ったり、淀んだり、浮いたり、沈んだりしているらしい。

その事を敬三郎に問うてみる。


それは、万物に宿る、気というものだ。

普通は見えない。

見えないものを見ようと思う心と
見えない何かを見定めようとして
心の目で、はじめて、見える領域なのだよ、デビル。

それが、見様見真似で簡単に会得出来るのは、何万人に一人の確率だ。

よく、オマエの言う、武器に無意識に話し掛けてみた。とか、武器がこういっていた。とか、その変な感覚はやはり、

見えざる何か。聞こえざる何か。を感じる能力があるのだろう。


己自身の精神を、更に漂わせ…少しずつ、見えざる何かを手繰り寄せてみよ。


むつかしことばかり、言うなよ。
デビルが毒付く。


しかし、敬三郎にはすでに、デビルに集まりつつある、見えざる力に気付いていた。

それは、気では無く、精霊達だったのである。

敬三郎自体、精霊などは一度も見たことは無い。
しかし、ギルドの古文書や文献で、話には聞いていた。

その、精霊達がまるで、仲のいい友達にいたずらをしに来たかのように、デビルをみてハシャいで居るのがわかる。

精霊達を召喚してしまったデビルの精神の波長と合わさってしまったからなのか?精霊達の会話まで敬三郎には、聞こえてくる。

なんだ、コイツー。ニンゲンじゃねーぞ!

ニンゲンだけど、ニンゲンじゃねーな。

強くねぇケド、竜の仲間か、コイツー?

竜じゃネーヨ、牛かー?

好き放題、文句を言い、馬鹿にしてるらしい。

おい、こら、そこの変な生きもん!
さっきから、やかましい。

デビルが口を開く。

うぉー、コイツー、しゃべったぞー!
精霊達は、よけいに嬉しそうだ。

やい、ニンゲンじゃねー変なの!
オマエだ、オマエ。
そこの銀アタマ!
バーカ、バーカ!

どうやら、遊んで欲しいらしい。


表へ出ろ!この、ヘンチクリン軍団め!

デビルと13匹の妖しい精霊は夜の森へ駆け出して行った。


幾つもの旋風を引き連れて。


……つづく。
夜の森に、デビルの怒号が木霊する。

なにせ、相手は精霊達である。
物理的な攻撃は一切、効かないハズである。

しかし、彼等の反撃は雷撃のような威力を持ち、その、無邪気な子供のような攻撃はまるで、雷光虫が破裂するかのようだ。

何も見えない、普通の人間から見れば、猛り狂いながら踊り狂う変人のように、しかみえない。

 しかし今の敬三郎からみえるのは、デビルが攻撃をくらいながら、素手で精霊をつかみ、投げつけたり、蹴り上げたりしている。
 たまたま、敬三郎の目の前を通った一匹の精霊を触ろうとしたが、手の中をすり抜けていった。

何が起きている?
目の前で起きる、摩訶不思議な戦いを呆然と眺めているしか敬三郎には、できない。

そのうち、諦めたのか、力尽きたのか、泣きながら精霊達は散り散りに逃げていった。

オボエテロー、この、牛人間!
怪力、バケモン、牛人間!
クソー、この次は倍にしてカエシテヤルカラナー!


思い思いの捨てぜりふを吐き、10匹の精霊達は逃げていった。

後を逃げ遅れた一匹が追う。
デビルが小石を、その一匹目掛けて蹴る。
直撃して、昏倒する精霊。

よく、見てみれば三匹の精霊達が逃げ遅れたらしい。

デビルに掴まれ、そのまま大人しくなる。

オマエ、強いねー!
ニンゲンてのは、強いんかー?
どうでも、イイから、オシリかむなー!

両手に一匹ずつ、手が足りないので、もう一匹を口にくわえて歩く、その姿は確かに、人間とは言い難い。

とりあえず、敬三郎によく見せてみる。

大きさはカーヴァーの卵ぐらい。
尖った耳に色白の肌、瞳は緑色で人間の子供の5歳児ぐらいの姿。

……。


精霊だと?
何の精霊達?


雷だ!雷だ!バチっとくるぜー!

どうやら、敬三郎を無視してるつもりらしい。


聞こえてるらしいな。とデビル。

何でこんなとこに居るんだ?と敬三郎が問う。


知らねーよ、オリャーシラネーヨ、この辺の馬鹿なニンゲンがジンオウガの角を圧し折ったから悪いんだ。と、オシリをさすりながら一匹が言う。

何で悪いんだ?とデビル。


アイツ、キレて暴れまくってるから、オイラ達は新しい住処を探しに旅してたんだい。


どうやら、先日のジンオウガが暴れ、森の生き物たちに悪影響が出てるらしい。

オシリさすり精霊はこう、続ける。
この村ってヤツに、その相手が居るんだッテヨーウ。
 どんなヤツか眺めに来たら、オイラ達の言葉を話すニンゲンが居るじゃーねーか!てな話デヨーウ。
調子に乗ったら、この変なニンゲンにオシリかまれた。

んで?とデビル。

あと3日で角の疼きは止まるから、ジンオウガが皆殺しにしてやるって言ってたぞ!どうだー、コワいダローヨ?


あの、犬ヤロウ、随分偉そうな口をきくな。
また、返り討ちにしてやる。

ニコニコ微笑みながら、デビルはそう言うのだが、精霊達は半泣きである。

犯人はコイツかー!
やっぱり、牛人間カー!
この、オシリカミカミかー!


やかましい!ゴチンとオシリさすり精霊に拳が入る。


イテーナー、もう!

なぁ、オモシレーからコイツに住み着いちまおうぜー!
どーせ、もう長くは実体化してらんねーし。
だなー!!!

三匹の精霊達は一瞬にして合体し、小さな光の球となり、デビルのカラダに入り込んでいった。


ぬを?!


なにしやがる、ヘンチクリン!


ヘッヘッヘー、面白いから、ジンオウガ倒して見ろよー!

そう、一言いったきり、精霊達からは何も聞こえなくなった。


なんだ、一体?


なんだか、俺にもわからん。と敬三郎。

とりあえず、休ませろ。
今日は無駄に疲れたわー。



……つづく。
朝の陽光が徐々に差し込んでくる。

穏やかな、朝のはじまり。

多少の気だるさを残したまま、起き上がる。

さて、ひと差し、舞うかね。
氷の結晶に陽光煌めく太刀を手に、デビルは裏庭に飛び出して行った。

寝室の文机の上には、既に目を通したと思われる、書物が幾つか置かれていた。

 昨夜渡された、兵法書・剣術書には敬三郎の記した「回天斬魔流」の基礎が書かれていた。
ギルド訓練所で習った基礎に、サムライの概念や心得、心構えと、記されていたのだが、一流し読み、それなりに理解出来てるらしい。


裏庭は少し開けた広場になっている。

息を整え、心を整える。
 そして、抜刀。
抜刀より、真一文字に縦斬り。
太刀は大地を割り、刃は大地を噛む

短切に、軽く刃を引き太刀を大地より抜き、再度、縦斬り。

斬り下ろしたまま、柄を握り直す動作のみで刃を大地より剥がし、そのまま神速で突く。

そして、突きを放ったら刃を寝かし、太刀の自重を生かし刃先を下げる。

そして、斬り上げる。



なるほど。
そういう、事か。

デビルは一人で納得している。
要は、カラダの捌き方、肉体の使い方について書いているらしい。
ただ、力のみで振り回すのではなく、些細な工夫と考え方次第で、さらに要領よく、戦えるということらしい。

攻撃一つに留まらず、ながれるように連続して攻撃を放ち、剣閃を止める事無く、怒涛の斬撃を繰り返す。

太刀による攻防一体の使い方

とゆーことか?

ふむ。

少し、考えながら、太刀を振ってゆく。
新しく覚えた剣術と試行錯誤を繰り返し、ああでもないこうでもない、と悩みつつ、太刀を振り続ける。

気が付けば、無心に太刀を振り回していた。


無心になり、ただ、流れるままに、太刀を振り回していると、何かがデビルに話しかけてくる。

精神が無になり、風が体に纏わりつく。
 太刀の刃も風を纏い、次第に空を斬るデビルの太刀より、唸るような旋風が起きはじめる。
 体が軽く、心も澄んでいる。
遠くの山鳥の声も良く聞こえる。

太刀が語りかけてくる。

更に、疾く。
更に、鋭く。

風を纏う刃は、更に切れ味を増し
風を纏う体は、更なる技の冴えを生み
風を纏う心は、万物をも断つ

内なる心を解放し、我をも解放せよ。
心を整え、心を高めよ

さすれば、我が力、心魂を糧とし、刃に宿らん。

我が名は「六花垂氷丸」。
貴殿に永遠の忠誠を誓おう。

そう、言葉がデビルの脳裏に届くやいなや、太刀の刃に氷の結晶が纏いはじめ、徐々に「六花垂氷丸」が真の姿を現わした。

凍える程に研ぎ澄まされた刀身
鍔回りには、氷の結晶で作られた鉤爪
一振り毎に氷の結晶を纏いう、太刀


どうやら、新しい主人を気に入ったらしい。


完全にデビルと太刀の精神がリンクした刹那、心魂の刃を纏った神速の剣技が発動した。

太刀使いの必殺技、鬼人斬りである。

神速の斬撃の連続技に加え、全身を旋とし、回転しながら最大最強の一撃を最後に放つ。

刀身に闘気を纏い、
全身には旋風を纏う
振るう刃は疾風怒涛

 太刀を振るうデビルとは、まさに荒れ狂う嵐の様であると、後のギルドの記録には残っている。





……つづく。
既に日も高くなり、太刀の舞いによる疲労感も出たのか、一度、家に戻り朝食を済ませ、ふらふらと裏庭の木陰に向かう。


どうやら、お気に入りの昼寝場所を見つけたらしい。

ゴロリと横になり、天を仰ぐ。

爽やかな風が余計に眠気を誘う。

気が付けば、まわりには二匹のオトモアイルーが既に、昼寝モード。

デビルも徐々に深い眠りにおちていった。


夢を見ていた。
遠い、灼熱の大地の夢を


ヘルメットが吹き飛び、左の胸には大穴が開いている男が雄叫びをあげる。

全身を白一角竜の血で紅く染め、奇声をあげて打ち倒した竜の一本角を圧し折る。

完全に力尽きて、動かなくなった白一角竜を見て、思うのは、腹がとにかく立つ事だけ。

自分の胸に大穴をあけられたのも、腹が立つし、
自分の血が全く止まらないのも気に入らない。

横たわる、竜の死骸をみて、更に破壊してやろうという気持ちにかられる。

オレには穴が開いてる。
腹が立つから
コイツにも、開けてやる。

解体用のナイフで白一角竜の胸を抉る。
まだ、血が吹き出してきている。
奇声を上げながら一心不乱に抉る。

やがて、白一角竜の心臓につきあたる。
ナイフで引きちぎり、良く眺めて見る。


大体、サイズは人間の頭部ぐらい。
既に死んでるハズなのに、まだ動いている白一角竜の心臓。


んーーー?


白一角竜の胸に出来た穴と自分に開いた穴を比べてみる。

ふと、気付く。
自分の胸に出来た大穴をどうやって塞ごうか?


まだ、動く心臓と自分の大穴が大体同じ大きさだと気付く。


へへへ
こりゃ、丁度良いかなー?

穴に嵌め込んでみると、ズボッと一瞬でハマってしまった。
慌てて、抜こうとするが何故か抜けない。
どうやら、勝手にハマり、既に心臓が融合しはじめてるらしい。

うぉー?
何かハマって抜けねーぞ!
なんだ、コイツ。
うお、変な触手が勝手に…


うぉぉおーーー?

デビルの出血は完全に停止した。
どうやら、体内に流れ込んだ竜の血のせいらしい。

そのうち、大穴も塞がり、傷も消えていった。
恐ろしい程の回復力で。


しかし、デビルはと言えば、戦闘によるダメージと極度の出血で既に気を失っていたのである。

デビルのバースト発動後は、精神が不安定になり、反動で知能が低下し、白痴に なるのが発見されたのは、この時である。

連れのアイルー「みぎまき」が後の証言で明らかにしたらしい。

ご主人は戦闘で悪魔化すると、そのあとしばらくは、アイルー並みの知能になるニャ。
知能はアイルー並みでも、戦闘能力は竜並みなので、危険極まりないニャよ。
マタタビは効かないニャ。
ほっとけば、そのうち寝るニャよ。

恐いから、あんまり見たく無いニャ。





……つづく。
夕暮れの裏庭に、鋭い剣撃と太刀風が巻き起こる。

髪は長く、影のように黒い。
褐色の肌は母方の西方の移民の血のせいらしい。

まだ、幼さの残るあどけない顔には想像もつかない程、彼女の剣舞は美しかった。

しかし、見物客は二匹のアイルーのみ。

拍手してるつもりらしいのだが、ペチペチと肉球の鳴る音がするだけだった。

数ヶ月前より、太刀使いである尊敬する父の勧めで都のハンター訓練校に入学した。
しかし、一通の手紙により、ユクモ村へ急遽、里帰りする羽目になった。

原因不明の病により、父、敬三郎の余命幾ばくも無いことを、ユクモ村の村長に知らされたのだ。

そして、大至急、ユクモ村に戻る道中、村外れで伝説の雷狼竜「ジンオウガ」に襲われた。

護衛と付き人は皆殺しにされ、自らも死を悟ったが、九死に一生を得た。

 後にギルドで聞いてみると、有名なハンターであるらしい。

村長より貸し出された家の裏庭で、剣術の稽古をしているというので、訪ねてみたら、大樹の木陰で大の字になり、爆睡してるではないか。

しかも、アイルー二匹と人間が全く同じ格好で寝ていた。

腹をボリボリとかきむしり、ムニャムニャと寝言を言ってみたかと思えば、徐に「もぅ、喰えねえよ、こんがり肉!」とハッキリ寝言を言ったり…完全に寝てるらしい。


馬鹿にされてるようにも見えて段々、腹が立ってきた澪は、背負った父譲りの太刀を抜き放ち、気を紛らわすように剣舞をはじめたのである。

はじめは、気を紛らわすためだった。
次第に、太刀が心に馴染み、気が付けば太刀の舞になっていたのである。


鋭い掛け声と剣閃の煌めき
太刀の生み出す、風切り音と
太刀の巻き起こす太刀風が、あたりに木霊した。

一通り、剣舞を終わらせ、納刀したときに、ふと気付く。

人の気配に後ろを振り向くと、父、敬三郎が穏やかに微笑みながら立っていた。

良い舞いだ、澪。
太刀も馴染み、心地よさそうに風と戯れておったぞ!と敬三郎

父上、お体は大丈夫なのですか?
そろそろ、日が落ちます。冷えますので、館にお戻りになられては?と澪。


ふむ。友達を起こしに来たのだが、必要無かったようだな。

慌てて、我に帰った澪はデビルという男の寝てる場所を見てみる。

既に姿は既にない。

つい、先程まで、寝てたハズの人間が、いない。


慌てて、周りを見渡すと、既にデビルは家へと向かい、歩いていたのである。

オトモアイルー二匹と会話しながら。

ご主人、あの女サムライ仲間にしてみたらどうニャ?
腕は立ちそうだニャ!。

いや、まだ無理だな
ご主人がハンターはじめた頃と年齢はたいして変わらないニャよ?

んー?
随分、知ったふうな口を利くな?みぎまき。

良く、考えてみろ?
あの娘を仲間にするって事はお前達アイルーの出番も減るんだぞ?
それでも良いのか?


こ、困るニャー。ご主人、見捨てないで欲しいニャー。なんでもするから、見捨てないで欲しいニャー!とみぎまき。

タマに至っては涙と鼻水で顔をクシャクシャにして必死にデビルの脚にしがみついて泣き叫ぶ。

旦那さん、見捨てないでニャー。
タマ、洗い物もするし、お掃除もするのニャー。御料理も頑張っちゃうニャー!
お願いしますニャー。

ん、
そか!
わかった。
とりあえず腹減ったから、こんがり肉焼いてくれ。


ウルトラ上手に焼いてくれよ?


黄昏時の裏庭にはデビルとオトモアイルー二匹の笑い声が響いていた。



……つづく。

<表記ミス有りのため、改訂し再度UP>


囲炉裏を囲み、父と娘が並ぶ。

ここに昔、他界した母が居てくれたら…と澪はつい、考えてしまう。

元々、決して丈夫では無かった母…凛は、澪を産んでのち、体調を崩し早逝した。
 身寄りのない敬三郎はユクモ村の住人に頼み、澪はユクモ村の村人に育てられて大きくなった。

何年か前のある日、敬三郎がユクモ村に帰って来た。
伝説の古龍と戦い、右腕を失っていた。
しかし、元々ユクモ村で生まれ育ったわけではない敬三郎は、村には落ち着けず、しばらくは古龍観測隊に混じりギルドの仕事を手伝っていたらしい。

幼かった澪は、村人に敬三郎の話を聞いて成長した。

口数の少ない武骨な男
仙人気取りで偉そうな男
無口な無愛想な男

いずれも父の村での評判だった。


父の勧めで都のハンター訓練校に向かうものの、訓練校の試験に不合格となり、ユクモ村へ送還されそうになる。

次の試験は来年。

泣きながら、懇願する澪を尻目に断固拒否する訓練校の試験官。


しがみついて懇願するが、突き飛ばされ、路傍に伏した凛の右腕に何者かが、足を取られ転ぶ。



痛ぇーな、小娘!
こんなとこで寝てんじゃねーよ。

全身を包帯で巻かれた褐色の肌に銀の瞳を持ち…頭に巻かれた包帯のところどころからは鮮やかな白銀の髪が飛び出している。
 その、自分より幾つか年上の少年らしい人物にいきなり胸倉を掴まれた。

左腕一本でヒョイと。

……。

足が宙に浮いている?



あーーーー!
ヤバい、ヤバい。

馬車が出ちまう。
オイ、がきんちょ!
お前、その巻物すぐかき集めろ。
お前のせいだ!
運ぶの手伝え!

有無を言わせず、巻物を抱えきれるだけ持たせ、全身包帯は走り出す。

泥と涙でグシャグシャの顔を気にする余裕もなく、全身包帯に必死で付いてゆく。

全身包帯は都のギルド本部の裏口にまわり、今まさに出発しかけてる馬車に巻物をすべて投げ込む。


よーし、間に合った!
あぶねー。間に合わなかったら、また説教部屋だったぜ。

さて、オレも行くか!
どこから持ってきたのか、とても少年には扱えない重さの大剣を引きずり出しながら、最後尾の馬車に乗り込んでいく。

あーーーー!
爺さん、古龍キチガイのじいさん。

なんじゃ、小僧?

そこの変なキタネー小娘、多分、行き場のないヤツだからよー
爺さん、ちょっと面倒みてやってくれ。


なんと?!

雑用ぐれーなら、出来んだろ。
言葉は通じたし

じゃーな、任せたぜ!

あ?オレ?
しばらくは西で仕事なんだよ
頼むな、爺さん。
今度、古龍の血を持ってきてやるからよ。



そして、約一年余りの猛勉強の末、次の試験に合格し、見事ギルド訓練校に入学出来たらしい。


なるほど、来年ギルド訓練校を卒業かと思ってたが、そういう事か。
俺の書いた推薦状を渡せば済んだハズなのに、何故?

自分勝手とは思いましたが、父上の好意に甘えてしまつては、ハンターはつとまらないと思ったからです。

その、全身包帯の少年のお陰で、一年間ギルドの雑用をしながら、多くの事を学べました。
彼には感謝して、おります。
名前も存じ上げませんが…。



ふふふ。
そんな、こともわからんのか?澪。
片腕一本で簡単に人間を持ち上げるヤツなど滅多に居ないと思わんか?






あの包帯はな、小娘。
リオレウスの炎球を喰らい、大火傷した時のものでな。
しばらくは全身がエラいことになってたんだぜ。

随分、立派に育ちやがったな、がきんちょ!


闇の中から声がする。
振り返ると、あの銀髪の男が笑いながら立っていた。



……つづく。


<表記ミス有りのため、改訂し再度UP>




削除
薄暗い、質素な道場に鉄の焦げる臭いと剣撃の火花が飛び散る。

敬三郎とデビルが太刀合っている。
隻腕の敬三郎はちょうど半分ぐらいの長さの短い太刀を片手で自在に操り、旋風を纏いながら流れるように美しく、連続で斬撃を放ってゆく。

一方、デビルは敬三郎の斬撃をかわし、弾き、受け流し、あざ笑うかのように太刀を捌いてゆく。

僅か数時間前には、ほぼすべての斬撃が直撃し、悶絶して打ち倒されたというのに、どうやら、攻撃そのものをデビルが見切りはじめているらしい。

遅ぇ!
本気出してみろよ、この死に損ないが。
デビルが挑発する。

単調すぎて、面白味がねーよ。

……。

敬三郎にも、わかっていた。
デビルの観察眼は昔から、凄まじく、同じ攻撃を二度は直撃しないという。
本人曰わく、勝手にカラダがそうする。らしいのだが、今、はじめてそれを目の当たりにした。

更に凄いのは、その攻撃を自分なりに応用し、独自の改良を加えて使いこなす。

飲み込みが疾い。


……。
無言の敬三郎。


ち、!
つまんねーな。
コッチから行くぜ!

うらぁ!
怒気を孕んだ気塊が爆発的に高まる。
デビルの全身の筋肉が二回り程増し、カラダからは湯気のように気が噴き出している。

口からは黒い煙が噴き出している。
例えるなら、砂漠の双角の悪魔が猛り狂うような…様子である。

デビルのバースト一段階。
本来は強化薬を使い、薬による能力上昇で超人的な能力を得るのだが、デビル自体、すでに自己で簡単に制御出来るらしい。

へへ、
笑ったと思った瞬間、敬三郎はデビルの姿を見失った。

敬三郎の得意とする、高速移動を真似ているらしい。

紅く光る双眸のみが光の尾を引き、残像を残したまま、揺らめく。


敬三郎もしばらく、様子を見ていたが、太刀を構え直し、練気を高めてゆく。

気組が充実し、気塊が爆ぜる。
敬三郎の回りに風が纏いはじめる。

練気が昇華し、全身に行き渡る。

デビル、ゆくぞ!
受けてみよ!わが秘太刀、風神の鋭牙を

プン!と空気の裂ける音が聞こえ、敬三郎の姿は影と化す。

そして、高速移動からの斬撃を繰り出す。

はたから見てたら、ただの黒い影が二つ素早く動きながら、すれ違う。
交錯する刹那、無数の火花を散らし、時折、空気の裂ける音と何かの破裂音がする。

闘いながら、敬三郎は思う。
病んでいるとはいえ、強化薬による能力上昇で速度は全盛期並みなので、ある。

荒削りだが、デビルは今の自分より更に速い。

太刀をまじえながら、敬三郎は自分が限界を超えつつあることに気付いていた。

更に気組が充実し、気組が昇華しそうな…更に限界の上に行けるような…錯覚におちいる。

デビルよ、オレも本気出して良いか?

あ?、本気出したらどうだ?
旋風ぐれぇじゃ、引っ掻きキズしかつかねーぞ?
デビルが邪悪な顔で笑う。

そうか。
なら、試してみたい。
限界を超えて、更なる高みへ行かせてくれ、デビルよ。

敬三郎の集約された気塊が弾け、閃光を放ち、気が爆ぜた。

髪は逆立ち、全身からは気が弾け、纏わりつきながら、立ち上る。

表情は無表情になり、口元には微笑が浮かぶ。
しかし、双眸は異様な光を宿し、立ち尽くす敬三郎。

その、姿はまさに、鬼人。

一振りの斬撃からおこる衝撃波が道場の壁を破壊する。


…?
なんだありゃ?
あんなもん喰らったら、ただじゃ済まねぇなぁ。
そう、邪悪な顔で笑うデビルは楽しくてたまらんらしい。

純粋に強敵との闘いを楽しみたくてたまらない。

次第にデビルの顔に赤い紋様が浮かびはじめてきた。
それは、砂漠の白一角竜の頭部に浮かぶ紋様と同じものである。

しかし、それを知るものは居ない。


……つづく。
褐色の肌に赤黒く、奇妙な紋章が浮かぶ。
白銀の髪は逆毛立ち、傷痕だらけの背中には、まるで太古の原住民のような赤黒い紋章が浮き上がっていた。

そして、顔全体に赤黒く筋のような紋様が浮かぶ。

ふはははは!
面白いな、ジジイ。
まだ、もう一個上があったんかよ?

切り裂けて、役に立たない服を引きちぎりながらデビルが笑う。


一方、全身に絶えず風をまとわりつかせて、白髪をなびかせている敬三郎。

ほとんど、デビルの太刀は直撃していないのか、衣服にはほとんど乱れがない。

違う。
これは、風使いの名を持つ敬三郎にしか出来ないという、風鎧。
あの、クシャルダオラという伝説の古龍の纏う風鎧と同じ性質の、ものらしい。

ふふふ。
さすがはデビル。
すでに人ですらないぞ?
お前は何者だ?


デビルは返事をしなかった。
しかし、重く衝撃波を発しながら、念波のようなものが、言葉を伝える。

人間風情が、やるものよ。
良かろう、余が少し遊んでやろう。
光栄に思え、隻腕の人の子よ

衝撃波が道場を破壊する。

月明かりに照らされた、裏庭に、一匹の得体の知れない獣のような何かが立つ。
白銀の髪を逆立てて。

来い!
無様な人の子よ。
己の無能を知るがよい。

見たことも無い、奇妙な構えで太刀を構え、微動だにしないデビル。
動かないのでは無い。

力を溜めているのだ。
気とはすでにいえないような、気塊を高め、全身へと気力を送り込んでいる。


敬三郎も、裏庭に立つ


人間ではないな。
その闘気は、まるで双角の悪魔ディアブロスのようだ。
バースト二段階、見せて貰おうか。


ニヤリ。
と、邪悪な顔に歪んだ嘲笑が浮かぶ。

キィイィイィンと何かが甲高い音を上げている。


「バヒュッ!!」
何かがデビルの居る位置で爆ぜた。

超高速の突進である。
瞬時に間合いを詰め、三段の高速突きを放つ。
三段の突きは三連で流れるように、敬三郎に直撃した。


かのように、見えた。
彼の持つ、風鎧は突きを通さなかったのである。

ふ。
微笑を浮かべ反撃しようとした、その瞬間。
敬三郎の体が、くの字に折れ曲がる。
がはっ!!

デビルの太刀が体を貫いていたのである。
三連突きからの、錬気突進突きとでもいおうか。
全く、刃を寄せ付けなかった敬三郎の風鎧が霧散したのである。

しかも、デビルはそのまま突進し、道場裏の大木に太刀ごと、敬三郎を縫い刺しにしたのだ。


太刀より手を放し、少し離れ、技の仕上がりを確認するように眺め、デビルがひとこと。

水滴のみが岩に大穴を穿つ、な?


ふふ、
おもしれーわ。

何だ、この力。
どんどん噴き出して来やがる。


さっきから、懐かしい気配がすんだよな。
まるで、アイツと一緒に闘ってるみてぇだよ。


休んでないで、もっと太刀合おうぜ!
ジジイ、まだ本気出してねぇんだろ?



口から黒い煙のような何かを燻ぶらせながら、上半身裸のデビルは邪悪に笑っていた。




……つづく
両の拳を胸の前でガチガチと打ち付け、拳を打ち鳴らし、嬉しそうに悪魔は笑う。

片手じゃ、不利だってか?
んじゃ、武器要らね。

少し、解った。
錬気の刃ってのだな。

両拳を天に突き上げ、指を伸ばす。

んー?
確か、こうだ!

デビルは掌を貫手のように、真っ直ぐ揃えて、頭上で交錯させる。

ふふ、出来た!
素手に錬気の刃を作り出し、双剣を作り出したのである。

双刃の交錯は鬼人化の発動モーションである。

デビルの全身に禍々しい闘気が宿る。

真紅の双眸が妖しく光る。

行くぜ!ジジイ。
ビビってないで、本気出せや!

咆哮するなり、敬三郎に突撃してゆく。


敬三郎がやっとの思いで刺し貫かれた太刀を外した瞬間、デビルが切りかかる。

紙一重でデビルの双刃をかわす敬三郎。

あまりのデビルの異常さに、言葉を失う。

デビルは双剣で突進突きを放ったのである。
しかし、よけられ、デビルの両掌は巨木に刺さり抜けない。
まるで、岩盤に刺さるディアブロスの双角のような光景。

抜こうとしても、なかなか、抜けない。

敬三郎は威嚇攻撃をしようとデビルの後方に近寄った瞬間、デビルの回し蹴りが敬三郎をかすめる。

……?
まるで、ディアブロスだな。
デビル、大丈夫か?


うるせー!
オレが面白がって色々試してんだから、ガタガタ言うんじゃねー!

ズボッと間抜けな音をたてて、デビルの両掌は巨木からやっと抜けたらしい。

ったくよー
精度まで牛かよ?

さて、戦ろうかい。
手加減してんだから、動けるだろ?

行くぜ!うらぁー!
デビルは敬三郎に殺到し、双剣の連続攻撃を放ってゆく。
しかし、双剣の太刀筋ではなく、奇妙な変則的な斬撃で全く読めないはずなのに、敬三郎は紙一重でかわしてゆく。

何故か、攻撃が読めるらしい。

無意識に近い。

どちらかいえば、無の境地なのだが、敬三郎自体もわかっていない。


くそー!
チョコマカと鬱陶しい!
更に、デビルの双刃が加速してゆく。

まるで、嵐。
すべてを破壊する、砂漠の砂嵐である。

覚醒した敬三郎の速度は神速である。
デビルの方がはじめは遅かった。しかし、徐々に速度を上げ、ほぼ互角にすでになっている。

敬三郎の斬撃は全て、デビルの双刃に弾かれ、全く当たらなくなっていた。

さらに、デビルは加速してゆく。
ミシミシとデビルの骨の軋む音が敬三郎にも聞こえる。

凄まじい闘争本能。

かわし続けるのも困難になり、敬三郎も刀で払い、受け流す。

徐々に、追い詰められてゆく敬三郎。

ドクン!

デビルの動きが一瞬にして止まる。
膝から崩れ落ち、両掌の双刃も解除され、血塗れの腕をダラリと下げている。


まだ、真紅の双眸は生きている。

しかし、デビルの体力は限界だった。

ガァアァアー!
と奇妙な叫びとともに、大地に、倒れ込み動かなくなった。


……。
これでも、人か?


敬三郎も憔悴しきっていた。
ガクンと片膝をつく。


太刀を杖がわりに、道場へむかう。
切れた強化薬全てをを補給するために。


その、後ろ姿を見つめる獣が一匹。
夜の闇に紛れ、潜み、好機を伺っている。


ガルルルル。
舌なめずりすると、小さく唸る獣。


中天にある満月の明かりに照らされ、蛍がちらほら舞っていた。


……つづく。
月の光もやがて弱まり、青白く空が変わってゆく。

昼と夜とを分かつ、境界の刻。

徐々に明るくなり、朝日がユクモ村を包んでゆく。
大地からは靄が上がり、幻想的な景色を紡ぎ出す。

その靄のなかに、少し場違いな影が一つ。
さらに、小さな影が二つ。

ご主人、もうお家に帰って寝るのニャ!とみぎまき。

旦那さん、無理はダメなのニャ!温泉できちんと休んで寝るのニャ!とタマ。

うるせぇなぁ。やっと何か面白い事考え付いたんだから邪魔すんな、ネコ。

自宅へ向かう帰り道、デビルは昨夜の太刀合いを思い出していた。

練気と錬気
刃と気の融合

刃物をより鋭く、切れ味を高め、殺傷能力をさらに高くする。
気の刃を元々の刃に付加したらどうなる?

……。

さらに破壊力を増し、有利に闘えるのではないか?


さらに、一段上の殺傷能力。
これは、使える!


大剣にも太刀にも
槍にも双剣にも

刃の有る武器には全て有効。

錬気と練気により、刃の切れ味を、より遥かに高める。
刃には刃の角度があり、一番切れる刃の角度で決め打ちする。

さらに、モンスターの弱点ともいえる急所を攻める。

気により強化された、狙い澄ました急所への、渾身の一撃はどれほどの威力を、もつのか?
考えただけで鳥肌が立つ。


ふふふ。
今度、試してみるか。




ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、自宅にたどり着く。

太刀ではなく、何か違う武器でも面白いな。


ベッドに倒れ込むなり、デビルは気を失ったらしい。




気が付けば、すでに夕方。
先程、ギルドから連絡が有り、デビル用新兵器が届いているという。


まだ、全身に昨夜の疲労と激痛が残っている。
古の秘薬を一本飲み干し、支度を済ませる。

先程届けられた、ギルド御用達のスーツ。
ギルドの専属ハンターのなかでも、実力
認められた者にしか纏えない、ギルド装備。

デビルは白一色のスーツを纏う。

背中には「サーペント・アルバス」
通称、白き大蛇の紋章を付け、ところどころには意匠を凝らした、金と銀の飾りを配置。

デビルの要望により、伸縮性の高い古龍の柔革をふんだんに使い、金糸と銀糸で縫い上げてある。
サイズは無駄にデカく作ってある。
デビルのバースト化に対応するために。

腰には儀礼用の刺突剣。

羽根飾りの付いた小粋な帽子のような、兜を身に付けたその姿は、どこか異国の貴族の様でもある。

サイズが有ってないようにしか、普段は見えないのだが…。


横に、完全装備のタマが立つ。
色こそ違えど、見た目はお揃い。

旦那さん、ボクも白一色が良いニャ。


ま、仕方ないな。
アイルーに白は支給された事は無いからな。


さて、ギルドに行こうか。
戻ったらまた、修行だからな。

行くぞ!みぎまき。
遅れるな!タマ。

そう言うなり、デビルは走り出した。

駆け抜けた後にはいくつもの旋風が巻き起こり、砂塵が舞っていた。


……つづく。

村の門から、真っ直ぐ進み、石段を登ったはるか先にある巨大な建物。
その門柱にはハンターズギルド「ユクモ村出張所」。
と奇天烈な文字で書かれている。


その先にハンターズギルドの出張所がある。

デビルは彼の正装たる白衣。
白のギルドバードスーツは彼の勲功の賜物。
引き連れたオトモは赤いギルドバードスーツを着た漆黒のアイルー「タマ」。そして、今日新調してもらった、どんぐりメイル一式を纏う黒白アイルーの「みぎまき」。


相変わらず、入り口はハンター達で賑やかだ。
しかし、白衣のデビルが現れるなり、一瞬で緊張が走る。

白のギルドバードスーツは古龍討伐隊の名誉騎士のみが許された、特別仕様なのである。


その姿のハンターが現れるということは、古龍による大災厄が近いという意味をもつ。

騒然とする集会所。


そこへ、奥から一匹のアイルーが現れる。
黒いギルドスーツに身を包み、西方のギルドよりデビル専用装備を運ぶためにのみ派遣されたというアイルーが姿をあらわす。


開口一番「お館様ーーー!!」

泣きながら、飛びかかってくる。

片目には大きな爪痕が残る、そのアイルーは「さぶろう」である。

あの、老山龍討伐の功労者で、あの激闘の最中、唯一生き残ったアイルーである。


老山龍討伐のあと、兄の「じろう」の意志を継ぎ、ギルドで武器開発をしていたという。

後から出てきた、ギルドの案内人により
、奥の間へ通される。

テーブルの上には幾つもの武器が並ぶ。
大剣、太刀、小剣、双剣、槍……。

すべてが一級品の武器。
魅入るように眺めていると、さぶろうが「これは忘れ物ニャ。」と巨大な盾のようなものを渡してくる。

白一角竜の尻尾をベースに黒一角竜の甲殻を貼り付けてみたのニャ。

これで、お館様の黒い一本角も立派な槍になるニャ。これは、じろうの遺作ニャよ?


何故か盾の表面に変な紋様が浮き出てくるニャ。いくら色を重ねて塗っても、勝手に出て来るニャ。
変な紋様ニャよ?

と説明したあたりで、ギルドマスターが現れる。
西のドントルマより、この、さぶろう達一行が届けてくれたのじゃ。
気に入ったものは、あるかね?

デビルは部屋の隅によけられてる巨大な包みを指す。

あれは?

目聡いのう。あれは未完成の武器でな。
剣と大砲が一緒になってる。

さぶろうの兄、じろうが設計したものらしい。

デビルには包みに書かれたアイルー文字が読めている。

試作品
重砲槍
じろう作


と書いてあるらしい。


さぶろうが付け足す。

じろうの最高傑作
「ガンランス」っていうのニャ!!!

本当はガンブレードって付けたかったらしーニャよ。
しかし、お館様の槍が凄くカッコイイから、ランス=槍にしたのニャ。

さぶろう、頑張って、作りかけのヤツをじろうの設計図見ながら一生懸命仕上げたニャ!

さぶろうが、自慢気に包みから、設計図と説明書と武器を出す。


強引に奪い、説明書を読みはじめるデビル。
読みながら、笑いが止まらない。

なんと、説明書には…じろうより、デビルに向けたガンランスの使い方が書かれていたのである。

しかし、このガンランスは大量の火薬と砲弾を使用するらしい。

ちらっと、さぶろうをみる。

意味有りげに、ニヤリと頷く、さぶろう。
お館様、専用砲術士が必要ニャよ?。


わかった。
さぶろう、これからはそばに居てくれ。

天才じろうの最高傑作で、伝説を作ろう。

この、近衛隊正式銃槍でな。


青く光る砲身が一瞬、煌めいたように、さぶろうには見えた。






……つづく
宵闇の森に唸り声が響く。

折られた角が痛む。

既に圧し折られたというのに、まるで、まだ残っているかの如く痛む。
痛いハズは無い。
既に、その角は失われているんだから。


口惜しい。

あの、人間を今日こそは八つ裂きにしてやろう。
今宵は満月。
我は無双の狩人たる、雷狼竜なのだ。


片角の雷を纏う獣は、さらにもう一度小さく唸ると、村はずれへと向かっていった。
決着をつけてやる。
忌々しい、人間め。
貴様を引き裂き、切り刻み、その肉を食らってやろう。




そのころ
村はずれの敬三郎の家の裏庭では、敬三郎が澪に稽古を付けていた。

傍観しつつ、ペチペチと二匹のアイルー達が拍手している。

ご主人、あの娘強いニャよ?
ふむ、並みのハンターは超えてるニャね、旦那さん。


みぎまきとタマは澪の太刀捌きに驚いている。


その、様子を背中で聞きながら、デビルは、さぶろうと何やら相談している。

ふむ。
槍のようで槍ではなく?
剣のようで、剣でもない?

突き、斬り、叩き付ける?
んー?なるほど。

どうやら、新兵器の調整のようだ。

だいたいは、わかった。
ま、徐々に慣らしてゆくしかないな。

とりあえず、さぶろう、よろしく頼む。


ひと休みしようとして、ふと、敬三郎親子が目に入る。

あまり、会話の無い親子だけに、父の言葉を一言一句逃さず、吸収しようという娘の姿に心をうたれる。


きちんと親子してんなぁ


アタマをかきながら、山々の方を眺めた直後、異変に気付く。

やけに、森がざわついてるな。

心をまとめ、気を集中させると、うっすらと山の方から、怒気を孕んだ殺意と青白い雷光のような何かが見える。


敬三郎、来るな、ヤツが。


何?
ジンオウガが来てるのか?

ああ、さっきから、やけに森が騒がしいと思ったが、満月のせいだと思ってた。

違うな。

あの、雷の精霊たちの言葉どおり
今日、戦る気らしい。

みぎまき、タマ!
臨戦態勢をとれ!
さぶろうはギルドと村へ連絡
敬三郎と澪は家へ戻れ

大丈夫なのか?デビル。

ん、あ?何がだ?

オマエ一人でどうにかなる相手か?

さぁな。
半死人で片腕のヤツと半人前の小娘に何が出来るよ?

無駄に命を削るぐらいなら、大人しくしとけよ。

ニヤリと笑いながら、憎まれ口をたたくデビルの顔に、白一角竜のような赤黒い紋様が浮かんでいる。

今日は満月さ。
やるなら、今日しかねーよな?
犬ヤロウが。

さて、楽しもうかい
オイヌサマ、遊ばしてくれよな?

不敵にそう、呟くとデビルは太刀を握り、満月に照らされた裏道へと進んでいった。


決着をつけてやる。
犬の分際でオレ様に喧嘩売ったことを後悔させてやるよ


月明かりに照らされた、その姿はすでに人では無かった。

眼光は紅く光り、顔にはいくつもの赤黒い紋様のような筋。
吐く息は煙りのようにくすぶり
口元には邪悪な笑みが浮かぶ



満月の青白い月光が、彼の歩いた後を照らし出す。


道には一陣の旋風が巻き起こっていた。




……つづく

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