ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

repairman Jackコミュのヤングジャック シークレット・サークルズ 3 水曜日

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント(15)

一
ジャック、ウィージー、エディはオールド・タウンを抜けて雷の木に向かって行った。
昨日はさらに雨が降り、湖の水位は岸の土手を越えた。こうなるとすぐに道にまで流れ出す、
それからみんなの住居の一階までくる。
オールド・タウンは湖を上がったところにあるから、水は西側に流れ出す。
ジャックの家は何ブロックか離れたところにあるが、水が一旦流れたじめたら、
いつ自分の所の通りまで来るか、わかったもんじゃないよね?
「これは何かあったわね」お母さんの声が聞こえた。
マムはミセス・コーネルやその他何人かの奥さんたちと街から、自分たちの後ろを歩いて来た、
全員コーディ・ボックマン大捜索隊のヴォランティア・メンバーだ。
「自由保有権保有党に汲み出しについて話さないと」ウィージーのマムが言った。
汲み出すって、どこへ?ジャックは思った。
パインズの中まで?モンスターポンプ車と長い長ーいホースがいるな。
 ただ一つ確かなこと、このまま降り続けたら、誰かが何とかしないとだ。
クエイカートン・ロードの上から下までクルマが停められていた。
地元の人間が大勢集まって来たんだ。交差した橋を渡りオールド・タウンを抜ける、
ジャックは、焼け焦げた雷の木のそばに止まっているパトカーを囲んで、
二百人もの様々な歳の人たちが集まっているのを見て喜んだ。
ウォルトとお姉さん、ミスター・ベインブリッジ、
パーンデットのエッソガソリンスタンドからジェフ・カルトン、
ミスター・コートランド、芝刈りにジャックを雇ってくれてる人、
プラス、中村教授とその奥さんが見えた。
 ウィージーが教授を睨みつけているのをチラッと見た。
ジャックたちはピラミッドを専門家の鑑定に教授に委ねたが、二度と帰ってくることはなかった。
「おい、ウィージー」ジャックが低い声で言った。
「舌打ちするのはわかるけど、今朝はコーディの為だ、オーケー?」
ウィージーはジャックを見てうなずいた。
「オーケー。そうね、あなたの言う通り」
腹のダブついたテディ・ビショップと仲間のジョーイまで現れた・・・
この二人はコーディのためというより、学校を休むために来ているんだろう。
 多くの人たちがコーヒーかソーダ、マンチキン・ドーナッツか朝ご飯のサンドウィッチ・・・
ハイウェイを降りた所にあるクラウスツェアは今朝ボロ儲けしたに違いない・・・を手にして、
おしゃべりしたり、笑いあったり、中には大笑いしているやつもいる。
 おいおい、一般人、言ってやりたいもんだ。ピクニックじゃないんだぜ。
死んでるかもしれない子供を探しに来てるんだ。
 人混みの向こうから手を振る二人に気がついた、カリーナとクリスティンだ。
カリーナはいつものエンジニア・キャップ(頭の平らなハンチング)をかぶっている。
その姿を見たら気持ちが上がってきた。ジャックが手を振り返すと、エディが言った。
「あいつ、お前にお熱だと思うな、ジャック」
「熱い?」ウィージーが言って、臭いを嗅ぎつけた犬のように背筋を伸ばしてあたりを見回した。「ジャックに?誰が?」
「カリーナ・ヘイドゥンさ」エディが指差した。「真っ正面にいるよ」
ウィージーはそっちを見てから言った。「おお、一緒のバスの子ね」ジャックにしかめっ面をした。「あなたのタイプとは違うんじゃない?」
こりゃまた。
「おれのタイプって?」
「知らないわよ」少しムッとしたように言った。「ヒッピーがタイプとは思わないってこと」
「あの子はヒッピーじゃないよ」
「そうね、あの子は演じてるのよ。
私が黒ばかり着てるからゴスの服を着てることについてあなたが言ったこと・・・」
「それとバックハウスにスージー・アンド・バンシーズ」
「アヒルみたいな歩き方して、アヒルみたいにガァガァ言ったら・・・」
「あの子のことはよく知らないんだ」
「でも好きなんでしょ?」この答えはウィージーにとって重要な事らしい。
おれがカースンにとったリアクションと同じことをカリーナにしてる?
嫉妬?どうかな。
ありそうにない。でもなんかそれに近い。ムカつく、かな、
おれたちの間の気持ちは変わってきてる、長年分かち合ってきた特別な連帯感は薄れてきたのかもな。高校になって、それぞれの人生に新しい人間が押し寄せてきた・・・ふたりの間に・・・
二人の繋がりを脅かすみたいに。
 今ウィージーもそんな思いを味わってるのかな?全てが流れていくように思える・・・
人々は死に、人間も物事も消えていく・・・変化はきらいだった。
全てが同じままでいて欲しい・・・
ジョンスンが、スーパーマンの世界のガラス瓶の中の要塞の様に保存されていて欲しい。
そうだな、ジャックはウィージーに嘘をつこうとは思わなかった。
「うん、あの子のことは好きだよ。クールだね」
ウィージーはカリーナの方を睨みつけた。「クール?」
二
州警察、保安官が人々をグループ分けした。
ジャックはティム・デイヴィスのグループに入って、カリーナのそばをうろうろするのは諦めた。
マムたちは別のグループの方に行った。ジャックはティムのグループだ。
ウィージーとエディも同じ、三人は一蓮托生なんだと思った。
とにかくおれたちはコーディを知ってる。カリーナとクリスティンは知らない。
「よし、みんな聞いてくれ」ティムはパトカーの周りに集まった三十人ばかりの人たちに言った。
車の上に地図を広げる。「コーディの自転車が見つかったエリアに行き、網の目状に広がる。
このグループはその中の特定のひとマスを担当する。
そこまで歩きで行き、着いたらどうするか指示する」
ティムが先頭に立ちファイヤトレイルを進み、ジョンスンを後にした。
みんなは二、三人ずつの塊になって小さな声で話をしている。パーティモードは消え失せた。
「何か見つけられるといいね」エディが言った。
ウィージーは両手を胸元に固く巻きつけている。「見つからなければいいものもあるわ」
「何だよ?」
「コーディよ」
「おれもそう思う」ジャックが言った。「あそこで、経験した事、もう二度とごめんだ」
先月のマウンドで死体を見つけたのを思い出さずにはいられない。
なんたる衝撃・・・あんなものを掘り出すとは予想だにしていなかった。
ジャックとウィージー、そのほかのジョンスンの面々はそれぞれのやり方で
その発見に対処している。一番影響を受けたのは、ウィージー。
 でも今日は違う。今日は死体を探してるんだ。
もちろん全員がコーディの無事を祈っている、
でも、ここで実際生きたコーディが見つかると信じている者がいるか?
ジャックも信じていない。最善を期待するけど、そのチャンスはゼロに近いとわかってる。
 そうだ、もしコーディの死体がここにあるとしたら、今日中に誰かに見つけて欲しい、
そしてボックマン家の悪夢を終わらせてあげて欲しい。
見つけられなかったら、行方不明という拷問が永遠に続いて行く。
 でも見つからなければ希望につながる。どっちがいいんだろう・・・
永遠に続く実のない希望か、真実の矢のようにに突き刺さるようなショックと?
ジャックにはわからない。コーディ・ボックマンの死体が今日見つかるかもわからない、
自分以外の誰かに見つけてもらいたい。
 ファイヤートレイルを南に曲がり、木々や下生えをかき分けケモノ道を進んで行った。
ジャックはボロボロのジーンズと長袖のラグビーシャツを着ている。
ウィージーとエディも筋金入りのパインランド探検隊でやはり長袖だ。
半袖でやってきた新米たちを気の毒に思った、ノースリーブのやつまでいる・・・
秋になるまでに日焼けでもしたいのか?
その人たちは蚊やアオバエに刺されたり噛まれたりし放題の午前中を過ごした。
 指定された場所に着くと、ティムは一同を一列に並ばせ、南に向かせた。
次に両腕を横に広げさせ、隣にいる人間の指先に絶えず触れているようにした。
ウィージーはジャックの左、エディは右に並んだ。
「オーケー」ティムはメガホン越しに言った。
「自分たちの前に目印を覚えておけ。目印を忘れるな。
ではそこに向かって進むが、足元をよく見ながら行け。
目ん玉をひん剥いて一インチずつ調べろ、パインズにあり得ない物を探すんだ。
何か見つけたら・・・どんな小さな物でも・・・大声を出してくれ。
通りすがりの木についても同じだ、表面や幹、こずえの枝に至るまで調べてくれ。
これも何かあったら大声を出す事。誰かの声が聞こえたらその場所で立ち止まってくれ、
俺がチェックして、重要だと思う物にはタグ付けする。わかったね?」
命令をもう一度繰り返し、締めくくった。
「気をつけて行け。自転車はここのすぐ東側で見つかった。幸運がついてるだろう」
「幸運」って言葉に、みんなしがみついてるんだろう、ジャックは思った。
ティムは列を動かし始めた。ゆっくり進む・・・行く手をたくさんの木々が阻んだ。
一人一人が上から下まで、ぐるり四方をチェックした。まっすぐ進むのは大変だった。
開けた場所はわずかで、滅多になく、何か痕跡が残っていたとしても
昨晩の雨で洗い流されてしまっただろう。
 右手で誰かが叫んだ。全員が立ち止まり、ティムが駆けつけ、チェックし、
赤い蛍光色の旗をつけた竹の棒を印に刺すのを待った。
「オーライ」メガホンで叫んだ。「続けてくれ。じっくりだ。
急がないで。何か見逃すのだけは、なしにしたい」
 ジャックが捜索にまた歩き始めると右手から、
ペッシャンコになった古いワワ・コーヒーのカップを見つけたものがいる、
と言う声が伝わって来た。たぶん些細な発見だ。フォスター老の土地ではよくある事。
この辺りでキャンプすれば、ゴミなんて限りなく出てくる。
 誰かフォスターの許可を取ったのかな。たぶん取ってない。
あの人がどこにいるのか誰も知らないみたい。
どっちにしたって、あの人がノーって言える?ノーって言われたって、捜索は行われるだろう。
また叫び声が、今度は左から上がった。
再び全員立ち止まり、ティムがもう一本旗を挿すのを待った。
それからまた歩き出す、列の向こうから話が回って来た。
「子供のスニーカーの片方を見つけた人がいるみたい」
ニュースが伝わってくると、ウィージーが言った。
「片っぽだけ?」
ウィージーは肩を竦めた。「片っぽのスニーカーって聞いただけよ」
「男の子の?女の子の?」
ウィージーは目をむいて見せた。「何とも言ってなかったわ」
 歩き続け、探し続けた。
やがてグループは一区画をくまなく捜索し終えた、ジャックはなにも見つけられなかった。
ついに別のグループが捜索し終えた区画まで来た。コーディの痕跡はない。
 それぞれのおしゃべりグループにみんなは散って行ったが、
ジャックはスニーカーが見つかった方向に戻った。
ティムが旗印の横にしゃがみ込んで無線機で話をしながら、
半分砂に埋まったスニーカーを調べていた。
こちらに背中を向けていたが、ジャックには大きなはっきりした声が聞いて取れた。
「いいか、赤と白の子供もの、サイズは子供用の五・・・母親が語ったものとぴったりだ。
鑑識を呼んでくれ。間違い無いと思う」
ジャックの身内が冷たくなった。あう、ノー。
レシーバーから歪んだクラック音がすると、ティムが言った。「オーケー、ロジャー、以上」
立ち上がって振り向き、ジャックを見つけると凍りついた。「何してる?」
「スニーカーが見たくて。これ・・・コーディのなの?」
「何とも言えない」
「でも記述通りって言った」
ティムの顔は何も語らなかった。
「聞いたような気がしただけだろう。
もし仮にそうだとしても、こんな子供のスニーカーなんていくらでも売ってる」
「そうだけど、ぴったりのサイズと色で、コーディの自転車が見つかった場所けれ遠くない。
確率的にどうなの?」
「俺の口が固いのは知ってるだろう」
「喋らないのはわかってる」
ジャックはしゃがみ込んで、横向きに埋まっているスニーカーを眺めた、
半分ほど濡れた砂が詰まっている。
「一体・・・」
「触るんじゃない!」
当たり前だ・・・ジャックは警察のドラマでいやと言うほど知ってた、
証拠品に触っちゃいけない・・・こう返事をした。「違うよ。どうして片っぽだけなんだろう?」
「俺がアメイジング・カーナック(千里眼)に見えるか?」
ティムは怒っているようだった。
「でも、もう片方はどこ?」
「知ってたら、お前とこうしてると思うか?」
ティムの口ぶりの何かのせいでジャックは顔を上げた。
爆発しそうになっているのがわかった。
「聞いただけだよ」
ティムはジャックの頬を軽く叩いた。
「すまない、ジャック。あの子がいなくなってからあまり寝てないんだ。
ジョンスンは俺の受け持ち地区だし、言い訳できない気持ちでいる」
「見つけられるよ」ジャックは自分の信念を語った。
「見つけられるとしても、偶然性が高い。
忌々しい雨で証拠の痕跡が洗い流されてしまった。
そのスニーカーにしたって・・・何日も経ってるように見える。
ラボの連中が何かを発見する可能性は限りなくゼロに近い」
「受け持ち地区については?」
ティムは首を振った。「出来るだけ助け合いながらやってる。
地面、テント、トレイラー、全部調べてるが・・・何にもなしだ」
「ミシガンのどこかでいなくなった子供の事知ってた?」
ティムはジャックを見つめた。「何だって?どこで聞いたんだ?」
ジャックはサーカスのボスが言ったことを話した。
「そうか、俺たちにはその話をしなかったな。けしからん。明日が最終日だろう。
テントをたたんで次の街に出発する。聞いた方がいいな」ノートを取り出した。
「ミシガンのどこだか言ってたか?」
ジャックは首を振った。「ううん。ミシガンって言っただけだよ」
ティムが書いてらのを見ながらジャックは言った。「病院はどうなの?」
ティムは首を振った。「一番最初に調べたよ。それからもう一度調べに戻った。なしだ。
だが言える事があるぞ、二日目にここに来た時、嫌な臭いがしていた。
最初の日と、三日目はしなかった。二日目は・・・ひどい臭いだった。幽霊話を信じたくなるな」
書き終わると顔を上げた。「お姉さんは医学部行ってるんだよな?」
「医学部を愛してるよ」
「あんな頭のいい女子は知らないな」ニヤリとした。
「もう、女性、って呼ぶべきだな。どう呼んだらいいか聞いておいてくれよ」
「わかった」
 保安官助手ティムはまだケイトに思うものがあるんだ、ジャックにはわかった。
一年位デートを繰り返してたけど、やめてしまった。突然別れてしまった。
今も友達でしょっちゅう話もしてるけど。二人の間に一体何があったんだろう。
ティムはグループの方に戻って行った。
「世話焼き婆さんの真似をさせてもらう。
俺の旧知の三人については勝手に帰り道を行くだろう、だが、他のみんなについてはわからない。
誰も迷子にしたくない。いいか、ママの言う通りにするんだよ」
ジャックがティムのほうに行きかけた時、木の影に潜んでこっちを見つめる影に気がついた。
三
ジャックは凍りついた、昨晩ヴィヴィーノの庭で起きた事件を思い出したのだ、
しかし子供のように見える人影から鼻をつく臭いはしてこなかった。
と、わかった・・・背の高いやせっぽちの松林の子、ジェイク・シュエットと睨み合ってた子だ。
変わった名前だった筈。
コフィン・・・レヴィ・コフィンだ。
「レヴィ!」ジャックが呼びかけると子供は逃げ出した。
どんどん行ってしまうので、ジャックは後ろから追いかけた。「レヴィ、待ってよ!」
レヴィは立ち止まり、こっちに顔を向けた。無表情で色の違う両眼は冷たかった「何だよ?」
「話したかっただけだよ。おれは・・・」
「お前の事は知ってるよ」南部なまりみたいな話し方だった。「近親相姦野郎、に何の話だ?」
「ヘイ、そりゃないぜ」ジャックも彼の前に立ち止まった。
「おれじゃないだろ。言った事もない、言うつもりもないぜ」
「あいつと一緒に座ってた。俺たちを笑ってたんだろ?」
「やめてくれ。落ち着けよ。自分のテーブルに誰がいるかなんて選べない。わかってるよな」
「ああ、確かにそうだな。何の用だ?」
「捜索に加わってたのかなと思ったんだ。見かけなかった」
「俺たちなりの方法があるのさ」
これは頼りになる。松林の子より森を知るやつはいない。
「それで?」
「この辺りにはいない」
ジャックはショックを受けた。「もうパインズにはいない、のか?」
「そう言う事だな。俺たちに言えるのはそれだけだ。
誰かが、あの子を何かが捕まえて連れて行ったのかもしれない、ここにはもういないよ」
「何か?つまり君の言うのは臭い大きな熊とか・・・」
「臭い」レヴィは目を見開いて、顔を近づけた。
「臭い、について何を知ってるんだ?」
ジャックは先月、ウィージー、エディとパインズで出会った巨大な影について話した。
「あれが何だか知ってるのか?」
レヴィは首を振った。「誰にもわからないが、あの臭いがしたら、逃げる。
お前もまたあの臭いを嗅いだら、そうしろ・・・地獄の番犬が後ろに迫ってるつもりでな」
ジャックはヴィヴィーノの庭で嗅いだ同じ臭いを思い出した。サリーを追いかけてきたのか?
闇雲に、ジャックは東の方を指差して言った。「あっちの方にあるピラミッドと関係があるのか?」
レヴィは指差した方を見てから言った。
「お前と彼女がそこで蹴つまずいた、あの時のことを言ってるのか?」
「あいつは彼女じゃない、なんで知ってるんだ・・・」
「お前たち二人のことはちょくちょく見かけてるよ。
ジェド・ジェイムスンの罠をめちゃめちゃにしてたな。気をつけた方がいいぞ。
あいつはマジヤバイ」
ジャックはもう知っていた。「でもピラミッドの事は?あれは何だい・・・と言うか何だったの?」
レヴィは肩を竦めた。「誰も知らない。でもサーリーが離れていろ、と言ったから、
俺たちもそうしてるお前たちもそうしたらいい」
「サーリーって?」
「俺たちのうちの一人さ」
レヴィが「俺たち」と言った言い方についてだが、
普通の松林の仲間とか家族の事ではないような感じがあった。
もっと何か、家族よりも近しい間柄の事みたい。
「なんだかわからないな」
レヴィはニヤッとして、後ろに向きながら言った。
「お前たちもやめろ。自分の街にいて、俺たちの松林には近づかない事だ。
お前にはお前の場所が、俺たちには俺たちの場所がある。離れていた方が身のためだ。
特に今晩はな」
「でも・・・」
振り返らないまま、レヴィは手を振った。ジャックはメッセージを受け取った。
木々の間に消えていくレヴィを見送る。
特に今晩はな・・・秋分の日。
ジャックとウィージーは今晩、パインズにちょっとした探検に行くつもりだった。
中止にする事が賢明なのかもしれない。
ありえないな。
四
「ヘイ、ウォルト!」
ジャックは、クエイカートンロードを下ってUSEDへ向かう途中、
ウォルトが、通りの向こう側の、VFMのポストのある芝生で芝刈り機を転がしているのを
見かけた。自転車の向きをそっちに変えた。
ポストの前に自転車を横滑りで止めた・・・実際はランチハウスに建て替えられている。
扉の上に書かれたサインは退役軍人・・・ジョンスン・メモリアル・ポスト。
自転車を歩道に立てかけるとそっちに歩いて行った。
 ウォルトは芝刈り機から顔を上げた。
アップルジャックのせいでその目はいつも通りどんよりしている。
よれよれのジャケットのポケットからパイント・ボトルの口が顔を出している。
「ヘイ、ジャケット。捜索の時見かけたよ」革手袋の指で髭を掻くとボサボサ頭を振った。
「かわいそうな坊主を見つけられないとは情けねえ。
みんないろんなものを見つけたが殆どがガラクタだ。
たぶん何かの手掛かりにはなるかもしれないが、見通しは良くない」
「うちのグループは子供用のスニーカーを見つけたよ、だけどそれが・・・」
ジャックは言葉を止めてポストの際のギザギザの芝生を見つめた、刈り込まないと。
「まだびしょびしょに濡れてるね」
「ああ、わかってる、だが今日中にしなくちゃならないんだ、
明日はもっとすごい雨だって言うし、それに明日の晩はスモーカーの会合だから」
そうだ、毎月四週目の夜はスモーカーの会合だ。 
男の夜遊び、親父がそう言ってた、最初の単語を強調して。
真似して言おうとしたけどダメだった。ジャックの専門外だ、言ってみたいけど。
 その後何があるか、ジャックは知っている、葉巻とカード、酒にポルノフィルムだ。
ジャックは自分がそう言うのを好きになるとは考えられなかった・・・特に葉巻は・・・
だけど一回試してみたい。ポルノフィルムについては聞いたことがある、
見たことがある子も何人か、でも自分は見た事がなかった。好奇心はある。
スモーカーの会合・・・テイバーナックルからシェイモンまてあらゆるところの退役軍人たちが、
明日の夜はここに集まって来る。
 すると、いつかの夜のミスター・ベインブリッジの言葉が蘇ってきた。・・・
ようやく八ミリフィルムから解放された。いまやVCRの時代だ・・・
 そうだ!フリー・ホルダーの有名人ヴィヴィーノの所業をホール中の退役軍人の仲間に見せる。
二度と顔見せ出来なくなるだろう。
でもまずはジャックがテープを作らなければ。
 昨晩のヴィヴィーノ家での失敗でジャックは少し怯んでいた。
無計画にヴィデオを撮りに行くのは危険だし愚かな事じゃないだろうか。
でもこれですべてが変わる。
「ヘイ、あのさ、ウォルト」そう言うとポストの方に顎をしゃくった。
「中を見たことないんだけど。どんな感じなの?」
「見るようなもんはあんまりないな。一階は会議室とオフィス。地下には休憩室とバーがある。
そのうち見せてやろうか?」
「ヘイ、最高。じゃ・・・」
「ご機嫌いかが、みなさん」
ジャックが見回すと、ミセス・クレヴェンジャーと犬が少し後ろに立っていた。
どうやってそこに来た?ジャックがここに来るまで影も形もなかったのに。
あっという間に彼女も雑種の犬も目の前に来た。
「お、うーん、ハーイ、ミセス・クレヴェンジャー」
いつも通り長い黒のドレスとスカーフだ。
「ウォルターはパインズの外にいるように、と言いましたか?」
「言ったよ」ウォルターが言った。「ウィージーにも言った」
今晩はいろんな人がジャック達をパインズの外にいさせたいらしい。
牛の目の前で赤い布を振るような真似をしてるとわからないのかな?
ジャックは言った。「秋分だから?秋分は何か特別なの?」
唇をすぼめた。「一時的に微細なバランスの崩れる時だからですよ・・・
物事が溶け流れ、新たなバランスが形作られるのです。
秋分の間は悪い時に悪い場所にいたがってはいけません」
これが返事だっていうの?
「すみません、ミセス・クレヴェンジャー、何のことだかわかりません」
ミセス・クレヴェンジャーはニッコリした。「具体的にはこういうことかしら。
表面的には、秋分の日からの半期は暗い時間が明るい時間より長くなる、
程度の差こそあれ、闇が支配することになります。転換の時には奇妙な現象が起こりますからね」
「例えばどんな?」
もう一度ニッコリして言った。「残念ながら、奇妙な現象、だけでは済まないかもしれないわね。
非常に地下深くの事を考慮しなければ」
どうして端的に返事をしないんだろう。
でも考えてみれば、この人が端的に返事をしたことなんかあったか思い出せない。
「ありがとう」ジャックは言った。「たぶんね」
ミセス・クレヴェンジャーと彼女の犬がジャックを見つめている。
「私の忠告を心に留めてうちにいるのです。言ってること、わかってるのかしら?」
「はい、そりゃもう。絶対です」
ジャックはもっといろいろ聞きたかったが、ミセス・クレヴェンジャーはウォルターの方を向くと
彼の腕を掴んで言った。「話があります」ジャックを見た。
「個人的な話なので、気にしないでね、ジャック」
ジャックは一歩下がった。「おお、もちろんです。オーケー。
どっちにしても店まで行かなくちゃならないんてす。今度、ツアーをしてくれる、ウォルト?」
「もちろんだ、ジャック、迎えにいくよ」
後でツアーしてくれるんだ、考えながら、ジャックは自転車の方に・・・
出来るだけゆっくりゆっくり、ミセス・クレヴェンジャーが何を言うのかに集中しながら、
移動した。彼女は声を低くしていたが、殆どの言葉は捉えることが出来た。
「しばらくの間これをやめてて貰わないとね」
素早く後ろを覗いて、ミセス・クレヴェンジャーがウォルターのボトルの口を叩いているのをみた。
「どうして?」ウォルターは声を高くした。「そしたらどうなるか知ってるくせに」
「だからこそやめてくれるよう頼んでるのです」
「そしたら目覚めちまう」その声は泣き声に近かった。「起こしたかないよ」
目覚める?なんの話をしてるんだ?
「明日あたり必要になるでしょう」
「あう、ノー。あいつが俺を痛めつけるの知ってるくせに」
「よくわかってます。これほど重要だと思わなければ頼んだりしません」
「でもさ・・・」
「わたしがあなたを痛めつけたことがあったかしら?」
「ない」
「では、私のためにして頂戴」
溜息。「オーケー、オーケー。誰に?」
「助けたくなる人だと思いますよ」
ジャックは自転車のところまで来た。
さらにぐずぐずする言い訳のようにしゃがんでペダルをいじくった。
「いつなのかくらい言ってくれないのかい?」
「まだわからないの。明日になれば多分わかります。もっと時が迫ればわかるでしょう。
今はすべての可能性が交錯しています。必要でないかもしれません」
「そうだったら最高だな」
「イエス。考えられる限り最高です」
 これ以上引き伸ばすのは無理だ、ジャックはスタンドを蹴り、自転車に飛び乗った。
走りながら、ミセス・クレヴェンジャーの言葉が頭から離れず、脳味噌をくすぐり続けた。
どうしてウォルトに酒をやめろと言ったんだろう?
明日あたり、誰かを助けなくちゃならないからだって?どう言う事なんだ?何を助けるの?
実際、ウォルトは愛すべき男だが、飲んだくれる以外に何か出来るのか?
 それとも、この街一番のいかれたふたりの間に交わされた、単なる与太話なのか?
五
ジャックは午後にVFWのポストの元で決心を固めたのに、
薄れゆく日の光と共に決心が揺らぎ始めた。
夢の中のトニーの言葉だけがジャックは表へと押し出し、206をヴィヴィーノの家に向かわせた。
 昨晩と同じように自転車を、ミスター・ローゼンのトレイラーハウスに立てかけ、
裏庭をこっそり抜けてヴィヴィーノ家の敷地の端に身をかがめて潜入した。
昨日と同じ藪の後ろに入り込んだ時、ミスター・ヴィヴィーノの声が聞こえてきた。叫んでいる。
 ジャックは凍りつき、目をギュッと閉じた。
見たくない。うちに帰り、部屋でスティーヴン・キングかH・P・ラヴクラフトか
スパイダーを読むなら、恐怖や危険に晒されても、単に本のカバーを閉じればおしまいになる。
ここ現実にいる人間が苦痛や生々しい恐怖を感じていたら自分は無力だ。
 手の中にヴィデオカメラの重みを感じ、自分が無力ではない事がわかった。
歯を食いしばり、内蔵のよじれを無視すると、ジャックはヴィデオカメラを取り出し、前進し、
声が一番よく聞こえると思われる窓を覗き込んだ。
ジャックは喘いだ、ミスター・ヴィヴィーノが女房の後ろに回り込み、
また腕をねじり上げ壁に押し付けているのが見える。
「もううんざりだ、ちくしょうめ!うんざりなんだよ!」
 ジャックは震える手でヴィデオカメラを構え、ファインダーを覗き込むと、録画ボタンを押した。ミスター・ヴィヴィーノが女房の背中を掴み、壁に打ち付ける姿の左上に、
赤い小さなRECの光がともっている。女房は痛みに顔を歪め目を閉じている。
「こういうのはやめろて、何回言ったと・・・」
「やめて、やめて、やめて!」サリーが部屋を駆け抜け父親の腕にぶら下がった。
「やめて、ダディ!」
父親が腕を振り払い、サリーが吹っ飛んだ。
サリーは足をもつれさせると背中から床に打ち付けられた。
 ミセス・Vが金切り声を上げた。「サリー!」
そして雌虎のように暴れて、夫の腹部に肘鉄を食らわせた。
夫はうーと唸り声を上げたが、彼女から手を離す代わりに床に投げつけ、蹴り付けた。
「なぐりやがったな!」
 ジャックはこの暴力シーンに震え上がり、手から力が抜けた、ヴィデオカメラが窓枠に当たり、
コツ、と音を立ててしまった。
 ミスター・ヴィヴィーノは窓の方を振り返った。
「何だ・・・?クソったれ、誰か窓の所にいるな!」
 考える暇もなく、判断する暇もなく・・・
ジャックは身を翻し、地境に向かうとミスター・ローゼンの庭の木の中に頭からダイブした。
枝は顔を引っ掻き、衣服に引っかかったが、
ミスター・ヴィヴィーノに見咎められる前に姿をくらました。
 だといいんだけど。
 肩越しの枝の向こう、窓辺に突進して来たミスター・ヴィヴィーノが見えた。
「隣のうちに行ったな!クソ野郎をひっ捕まえる・・・!」
姿が見えなくなり、ジャックは飛び上がった。キチガイ男がジャックを捕まえに来る!
 あたりを見回した。どうしよう?
まず思いついたのは、トレイラーの向こう側に回って自転車を掴むと根限りに走る。
でもそうするとミスター・ヴィヴィーノに見られる危険かある。
 隠れなくちゃ。でもどこに?
 昨日の晩みたいに月齢が若ければ、暗闇に紛れることが出来たのに。
トレイラーの横に大きなプロパンガスのタンクが見えた。
下を覗き込んだが隠れるような空きはない。
 ヴィヴィーノ家の扉がバタンと音を立てて閉まった。
「とっ捕まえてやる。粉々に引き裂いてやるぞ!」
 おお、最悪!
地上にかくれるところはない、上の方は?木はない・・・でもトレイラーは平屋建てだ。
 ヴィデオの紐を首にかけ、カムを脇に挟む。
ジャックはプロパンガスのタンクに飛び乗ると、屋根に移り、トタン屋根の上平たくなった・・・
途端にミスター・ヴィヴィーノが目線の端に現れた。
 汗を噴き出し、迷いもなく、ヴィヴィーノはトレイラーの正面にやってきて
扉をバンバン叩き始めた。
「ローゼン!ローゼン!小うるさい老いぼれ野郎!お前か?窓から覗きやがったか?」
叩き、叫び続けたが、応える者はない、ジャックは、聞き耳を立てた。
家の中にはヴィヴィーノの声が響くばかりだ。
ついに黙った、ジャックは恐ろしい事を思い出した。
 自転車!
家を回ったら、見つけてしまう。
BMXがジャックの自転車だとはわからないかもしれないが、結局は探り出すだろう。
 しかし、いかなかった。ブツブツ言いながら、自分の庭の方に引き返した。
昨日の晩みたいにぐずぐずしなかった。
ゆっくりプロパンガスのタンクの降りると、そこから地面へ。
トレイラーの反対側に周り、自転車を掴むと、206を北に向かって走り出した・・・
ジョンスンと逆の方向に。1マイル走ってから、逆戻りする。
サーカスから帰ってきたのと同じ道筋だ。
 サーカス・・・保安官はミシガンの事案を捜査に入ったのかな、何かを見つけたのだろうか。
ティムに話してよかった。きっと助けになった筈。
 首に回したヴィデオに触れた。これで助けになる。
何とかVETSに入り込んで、スモーカーたちに明日の晩このテープを見せるんだ。
 難しい、どうやってするか漠然とした考えしかない。
でも何とかする。トニーには借りがある。もっと重要な事、サリーとあそこのマムにも借りがある。二人はあの地獄の中にいるのだから。
六
その後、家に帰ってから、ヴィデオを自分の部屋に隠し、リビングに顔を出した、
家族たちはレミントンスティールを見ていた。
ジャックには、他の探偵物に比べて、あんまり面白くないように思えた、
でももしかしたらマムはピアース・ブロスナンが見たいだけなのかもしれない。
親父の方はステファニー・ジンバリストを見てるからそれでいいのかも。
おやすみ、と言うと自分の部屋に引き上げた。扉を閉めて、ベッドに腰掛ける。
パインズに、ウィージーと秋分の日旅行に行く約束だが、そんな気分になれない。
今晩、あれを見てしまった後は、何もしたくない、ただ頭まで布団をかけて身を隠してしまいたい。眠ったとしたら考えずに済むかも。でもたぶん夢で見るな。
バレンスの真っ直ぐに純粋な自然が頭をクリアにしてくれるだろう。
 窓から外に出た。ガレージから自転車出すと、通りまでは押して歩いた。
最近の不可思議な事件のつながりを考えた。
 もしウィージーがマウンドでピラミッドを見つけなかったら、
ジャックはもう一つ探そうと土を掘り始めたりしなかった、死体を見つけもしなかったろう。
死体を見つけなかったら、フリーホルダーのハスキンスはまだ生きていた。
ハスキンスが生きていたら、ミスター・ヴィヴィーノが後釜に座り、
土曜日にサリーを連れてジャックの家を訪ねることもなく、
トニーの思い出を呼び覚ますこともなかった。
その思い出がなかったら、ジャックは日曜の夜ヴィヴィーノ家の裏庭から覗きをする事もなかった。それがなければ、このテープも存在しない。
ピラミッドの後ろに不可思議な出来事が一連に続いている。たくさんの事件・・・
死者も何人か出た・・・あのミステリアスなピラミッドのまわりを回っている。
 終わりはどこなのだろう?よい方に転じる事があるのだろうか?それとももっと悪くなる?
あれを取り戻したら、元のマウンドに埋めるよう、ウィージーを説得する。
ジーニーをボトルに戻すんだ、そう言ってみよう。
そうさ、頭を振り振り考えた。それならやってくれるかも。うーん。
七
二人は雷の木で落ち合って、ウィージーがパインズの中へ先導した。
明るい月が登り道を照らし出し木の下にくっきりと影を映し出した。
「ほら!」百ヤードも行かないうちにウィージーが声を上げた。「ルーメン!」
松林の火の玉が三つ、大きさはピンポン玉からバスケットボールまで様々なものが、
木の梢の上に浮かんで、右手、南方に向かっていく。
 ミスター・コーリングスウッドがそのことについて言っていた、
ジャックは先月のいつだったか、怪しい男たちがマウンドを掘っている時、見た。
正体は誰も知らない。セントエルモの火とか沼から上がるガスとか説明されたことがある、
死んだ松林の民の魂が帰ってきたのだと聞いたこともある。
ミセス・クレヴェンジャーは「奇妙な現象」が起こるといい、
その「不可思議さ」具合は遙か地の底からかも来るしれない、と言った。
 おかしな程に、従うようにと強調した、ジャックは少し躊躇っていた、
ウォルトとミセス・クレヴェンジャーに秋分の間、よくない場所にいるなと警告された。
その時、また別なソフトボールサイズの二つの光が頭の上を、他のものと同じ方向に動いて行き、
他のものとつながった。
「行こ!」
ついていくのは簡単ではなかった。
ファイアーブレイクは必ずしも正しい方向にまっすぐ向かっているわけではなく、
分岐点に来るたび正しい方向に向きを変えなくではならない。
ありがたいことにどこに向かっているとしても、ルーメンの動きはそれほど早くなかった。
しかしジャックには、それがまるで目的を持って進んでいるかのように感じられた。
だけど、目的なんてある筈はない。所詮はただの光の玉だ。
 ジャックとウィージーが進むにつれ、さらに次から次へと、
ニダース以上の光がつながって行った。いくつかは他のものよりスピードが速く、
ハイウェイの自動車の如く、ぐずぐずしているものをジグザグに追い抜いていった。
もはや明らかな目的を持っているかのように、まるで道標のように、暗闇を滑り抜け、
木々の間を揺れながら通り過ぎていく。
「ジャック!すてきじゃない?」
 ジャックにはそうとも思えなかった。胸のあたりが齧られるように痛む。
こんなものを見たやつが他にもいるのか?ふと、静寂に気がついた。
バレンスは動物や鳥、虫たちの鳴き声、叫び声、さえずり、藪をざわめかす微風で、
いつもやかましい場所だ。今はすべての音が消えている。コオロギまでが静かになった。
この場所の全てが息を殺しているかのようだ。
幸い恐怖は感じない。悪い方は何が起こるか見当もつかない事だ。
予想もしていなかった、光が出会い、東から流れてくる別のラインと結合して行く。
だが、まさに目の前で行われている事だ。
暫し交わりを繰り返した後南に向かって流れ始めた。
 一つを除いて・・・
サッカーサイズの光はみんなの後に止まり、それから後を追いかけていった。
ジャックは近づいてくる光を見てウィージーがうっとりとした表情を浮かべているのに気がついた。妙に胸が締め付けられ、腕を掴むと言った。
「好きじゃないな」
「私は好き」
光は地上十二フィートまで降りてくると、二人の前にホバリングしている。
「ルーメン・・・ハミングしてる、ジャック!音楽みたい」
ジャックはハイピッチのハミングを聞いた。
首の周りの毛が逆立ち、鳥肌が立った、まるで大気に電気が満ちたようだ。
冷や汗が噴き出した。
「ここから出よう」
しかしウィージーは身動ぎもしない、ルーメンはさらに近づいて来た。
手を伸ばし触ろうとするのを、ジャックは後ろから引っ張った。
「やめろ!」
「どうして?私・・・うっ!これ、臭うわ」
ジャックはウィージーをつかんだ、すえた汗か腐った肉のような酸っぱい悪臭がしてきた。
胃がひっくり返り、恐怖が沸き起こって来た。前に嗅いだことがある、何を意味するか知っていた。
 二人だけじゃない。
「これはルーメンじゃない」
 どこにいるんだ?狂ったように左を、右を見たが、何も見えない。
悪臭は近くにいる事を示している。レヴィは臭いを嗅いだら逃げろと言った・・・
地獄の犬が後ろに迫っていると思え。でもどっちに?考えるんだ!
 待った。臭うと言うことは風上って事だ。気を取り直して、静かに立ち尽くすと、風を読んだ。
 あっちだ・・・微かに左から顔にあたる、東に向かってる。
 その方向に向き直り、凍りついた、木の陰から半ば現れ、半ば隠れる暗い巨大な姿。
自分たち二人とルーメンを見ているようだ。
ミスター・コーリングスウッドを木の上に追い詰めたやつだろうか?
 ジャックは指をウィージーの唇に押し当て、そっちを指さした。
ルーメンの微かな明かりで、その姿を見たウィージーが目を見開き、身体を硬らせたのがわかった。
 前触れもなくルーメンが上昇し、仲間を追って南に向かって流れ去って行った。
ジャックは巨大な姿がどうするか見極めるまで待っていなかった。
 ウィージーの背中を叩き囁いた。「行くぞ!」
 自転車から少ししか離れていない。
そこまで飛ぶように走り、シートに乗ると力一杯ペダルを踏んだ。
シューという音がして、何か重いものが背後の藪を押しつぶす、BMXのタイヤがスリップし、
砂地で横滑りしそうになった。ウィージーのタイヤも同じ事になったらしく、
恐怖の喘ぎ声が聞こえた。
 やっと体勢を立て直すと、安堵に叫び出しそうになりながら発進した。
並ぶウイージーはと見ると、唸り声を上げてこいでいる。
「振り返るな!」ジャックは言った。「とにかく前前前!」
前輪が少しでもブレたら横滑りして倒れ込んでしまう。
それでもジャックは後ろを見た。そうせずにはいられなかった。
何か大きくて黒いものが、月に照らされた下草の上をこっちに向かって追いかけてくる。
走ってくるというか、四つん這いで這ってくると言うか、とにかくすごい速さで近づいて来る。
 ジャックは持っている力の一滴まで足に集中し、できる限りの力を込めてペダルをこいだ。
「行け、ウィーズ!こんかぎりだ!」
 少なくとも西に向かっている、ジョンスン方面だ。そう祈るしかない。
なぜ言うことを聞かなかったんだ?いつになったら学ぶんだろう?
 ペダルをこぎつっけた、ハンドルの前まで身体を乗り出し、少しでも前に進むように。
怒りの叫び声を聞いたが振り返らなかった。
四分の一か半マイル進むと、後ろからの声は聞こえなくなったので、振り返る余裕が出来た。
何者もいない道を見て、安堵感が押し寄せた。
「もう大丈夫だと思う」ジャックは言った。「でも進もう」
オールド・タウンに着くまで二人はペースを落とさなかった。
「あれ、なんだった?」ウィージーは息を切らしながら、雷の木を通り過ぎた。
ジャックの汗もひいて、呼吸を取り戻した。「熊か・・・ティムが言ってた黒熊だよ」
「でも吠えたり、唸ったりもしなかったわ」
そうだ。そうではなく、シューシュー言いながら追いかけて来た、それから金切り声を上げた・・・多分あれで追いかけるのを諦めたのだろう。
「熊だよ」ジャックは言った。「変わった熊だったよ」
「自分で自分をごまかしてるわ、ジャック。あれは熊じゃない。
パインズの中に残されたピラミッドに関係してると賭けてもいいわ」
「ウィージー・・・」
「明日になったら、ジャック。明日あそこに行ってみましょう」
「オーケー」ジャックは渋々言った。「日の光の中でなら・・・日の光が広がってるならね」
ウィージーは笑い出した。「私と議論するつもりならそんな事は忘れてね」真面目な顔をした。
「そう言うこと・・・曰く、マーシー・クリークは逃げ切った、
でもパインズをうろついていたら、あいつにまた捕まるかもって?」
ジャックは首を振った。「またあいつに出会したり、声を聞いたりするとは思ってないよ」
 ジャックはウィージーを家まで送った・・・無事に家に入ると単純に決めてかかる事はしない、
コーディの時みたいに・・・二人はドライブウェイで黙ったまま手を振り別れた。
何分か後にジャックも自分の家の庭に帰ってきた。
窓から寝室に滑り込み、ヴィデオテープを取り出した。
廊下に出ると、そっと階段の端まで忍び寄り、耳を澄ました。
両親の部屋からテレビの音が聞こえてくる。十一時のニュースを見てるんだろう、
ザ・トゥナイト・ショーのジョニー・カースンのモノローグが聞こえた後、
テレビを消して、一日が終わるのだ。
そっと階下のテレビまで行くと、ヴィデオデッキをつけた、
音量はゼロにして。テープを入れて巻き戻し、PLAYを押す。
たちまちミスター・ヴィヴィーノが奥さんの腕を捻り上げ悲鳴があがるのが映し出され、
ジャックはテープを止めた。もう一度見る気にはならないが、
次のステップに進む前に万全の態勢を取りたい。
 初めまでテープを巻き戻し取り出す。テレビとデッキを消して、自室にテープを隠した。
 何て日だったろう。誰かに打ち明けたかったけれど、
その人にヴィヴィーノのテープの話をしない訳にはいかない。
ウィージーと見たものの話をすれば、夜にパインズにいたことがバレて、
親父はカンカンに怒るだろう。昼間中そんな風にされてるのは嫌だ。
窓のところに行き、星空を見上げた。長い夜になりそうだ。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

repairman Jack 更新情報

repairman Jackのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。