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六命+一揆 営業日誌コミュの16日目

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そよそよと吹く風に茂った葉が揺れる大木。
緑の葉にまぎれてちらちらと見える桜色。枝に絡まってしまわないのが不思議なほどのふわふわしたワタアメのような髪――九である。

自分の身長の2倍ほどの高さにある太めの枝にまたがり、周りに誰もいないことを確かめて、懐から何かを取り出す。
落とさぬように気を付けているのか、それとも誰にも見せたくないのか、両の手で包み込んでいる。
そっと顔を近づけて手の中の物のにおいをかぐ。
九の頬が緩む。

右手でつまむようにそれを持ち上げ、日の光にすかしてみる。
それは、かわいらしい意匠の施された小瓶だった。
そして、小瓶の中には日の光を受けて煌めく茶色の液体。

少しだけ揺らしてみる。
揺れに合わせて茶色い液体が艶めいた光を帯びる。
もう一度、匂いをかぐ。

「・・・・・・いい匂いだなぁ。」

液体の色と同じチョコレートの甘い匂い。

「・・・・・・イチジク、それ食べ物じゃないんだけど。」
「ひっ!」

突然の声に20センチほど飛び上がった九は、勢いで小瓶を放り上げてしまう。

「わー?!・・・わわ・・・・・・っ!!」

何とか小瓶はキャッチしたものの不安定な枝の上からずり落ちそうになり、慌てふためく。

「バッ、バッカヤロー!ばかっぱち!急に声かけるんじゃねーよ!あぶねーじゃねーか!!」
「イチジクが運動神経鈍いことを、ぼくのせいにはしないでほしいなぁ。」

声の主――ねこっぱち――はやれやれと無い肩をすくませる。

「ふざけんな、オレの運動神経がいいから枝から落ちなかったんじゃないか!」
「じゃあ、運動神経じゃなくて、危機意識が足らないのかな。隙だらけっていうの?よけい悪いんじゃない?」

確かに気が緩んでいたのだろう。
ねこっぱちの気配を感じ取れなかった。

「・・・・・・突然現れるお前が悪いんじゃないか・・・・・・。」
「あのね〜、いつだって突然デショ?現れますよーって言いながら現れる奴なんかいないでs・・・・・・」

小瓶を握ったままの拳骨が頭上にふってきたねこっぱちは「グーで殴らなくてもいいのに〜」と恨めしそうに涙目で訴える。

「まぁ、それ、気に入ってくれたならいいんだけどね〜。」

それよりも早くねこっぱちは距離を取る。

「それ、食べ物じゃないからね、イチジク。」

大事なことなのでもう一度言いました、と偉そうなねこっぱち。

「甘くていい匂いしても食べ物じゃないんだからね〜。」
「そんな事はわかってるよ!マニキュア食べる奴なんかいるか!」

そう、これは、バレンタインデーに出かけたねこっぱちがお土産にくれたマニキュアである。
チョコレートフォンデュは食べに行かないとへそを曲げた九に買ってきてくれたのだ。

「イチジクは食いしん坊だからなぁ〜、どうかなぁ〜?」
「ブタネコウモリに言われたくないっ!!」
「じゃあ、使い方わかるの?」

ねこっぱちが円い水色の目を瞬かせる。

「ふん、美少女のオレが知らないわけあるか。爪に塗るんだろ。」
「そうだね。ちゃんと塗れるの?」
「・・・・・・美少女のオレにできないことはない。」

実はあまり自信がないので、観賞用にとどめておこうと思っていた九は言葉が詰まってしまう。

「イチジク、不器用だからな〜。」
「人の話を聞け!」
「まぁ、ぼくくらい可愛いと手先も器用なんだよね。」
「オレのほうがかわいいだろ!」
「冗談はやめてよ。」
「冗談はお前の存在だろ!」
「嫉妬は見苦しいよ、イチジク。」
「ネコウモリに嫉妬するか!ってか、器用さは可愛さに関係ないだろ!」
「イチジクが理解できないのはしょうがないね。ぼくくらい可愛くないとわかr・・・・・・」

小瓶を握ったままの拳骨が、再びねこっぱちの頭上に落ちてくる。

「・・・・・・じゃあ塗ってみろよ。」
「・・・素直にお願いできないんだからなぁ・・・」

ねこっぱちは頭を撫でながら小声でつぶやく。

「なんか言ったか!」
「言ってないですよ。ほら手出して。」

むくれた顔で手を突き出す九。
ねこっぱちは大きな丸い水色の瞳をぱちぱちと瞬かせてから、小瓶のふたを開けた。


甘い甘いチョコレートの香りが広がった。


:
:
:

「へぇ〜。結構うまく塗れてるじゃねーか。」
「だから言ったでしょ!ぼくくらい可愛いと手先も器用なんだって!」
「調子に乗るな!」

ねこっぱちの物言いにイラッとした九が手を振り上げる。

「あっ、まだ乾いてないんだから、手は握っちゃだめだよ!」
「そっか。じゃあ、平手。」

言いながら平手を食らわそうとする九からさっさと逃げるねこっぱち。

「逃げるな卑怯者ー!!!」

爪が乾かないうちは木から降りて追いかけることはできない。
舌打ちをして幹にもたれかかる。

手をかざす。
褐色の肌の先に艶やかな茶色が煌めく。

九は満足そうに目を細めた。

コメント(1)

【eno.972 ねこっぱち】

「九ったら、ホントだらしがないんだから、困っちゃうなあ〜。」
「ああ?朝っぱらからいきなりなんなんだ、コイツは。」

起きてきて、顔を見るなり、このセリフのねこっぱちに、軽くでこぴんしたあと、九はのびをする。

「ん〜〜〜。」
「昨日さ、あのあと、ボクを追いもしないで、木の上で寝たんでしょ!そうでしょ!
そうゆうことした翌日にはいっつもボクに、やれ腰が痛いだの、やれ肩が痛いだの、
背中が痛いだの文句をい〜〜〜っぱい言ってきて、すっごく迷惑なんだよね!
また今日もそうなんでしょ!自分が悪いのに、そうゆうこと言っちゃうんでしょ!」
「あ〜〜〜〜、たしかに……?……ん〜?そんなこともないかも。」
「えっ。」

びっくりして目がまんまるになるねこっぱち。
そんなに見開いたら、落っこちるぞ。
落っこちちまったら、食っちまうぞ!
と思ったけど、コイツの目は元からまんまるだな。
それはおいておいて。
ゴツゴツした木の上で気持ちよくお昼寝(そしてそのまま朝を過ごしてしまったり)のあとは、
体中が痛くてたまらなくて、
「不便な体だー!」と思ったりするのだが、今日は不思議とどこも痛くないのだ。
はて、不思議なこともあるもんだ。
気分がいいな♪

「よし、ねこっぱち。牛乳いれてやる。飲め。」
「えっ!」
「早くしろ。」

そう言って、グラスにミルクをなみなみと注ぐ。
グラスを持つ指先に煌めくマニキュアがほのかな香りを漂わせた。
ねこっぱちもグラスを受け取りながら、その香りを楽しむようにしてつぶやいた。



「これ、すっごい効き目だな。」

このチョコレート&フランボワーズのマニキュアには、疲労回復の魔法がかかっているんだから。

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