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六命+一揆 営業日誌コミュの21日目

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【eno.973 九】

「おい、急にどうしちゃったんだよ?どうして動かなくなっちゃったんだ?!」

いつになく切羽詰まった表情の九。

「何とか言えよ・・・反応しろよ!なぁっ・・・・・・ねこっぱち!!」




―――遡ること一週間前。

「オマエ・・・またそんな怪しいもの買ってきて!無駄遣いすんなよ!!」
「いいのかな、そんなこと言って。使わせてあげないよ?」
「そんな赤い毛糸、何に使うんだよ・・・」
「これは毛糸の小人さんなんだよ。命を吹き込むとね〜、立派なお手伝いさんになるんだよ♪」
「命を吹き込むぅ?」

形の良い眉をひそかに吊り上げる。
ねこっぱちは赤い糸をキュッキュッとこすって息を吹きかける。
すると糸は人型をとり、ねこっぱちの肉球の上で立ち上がって片手を上げた。

「まぁ、、お人形さんだから仮初の命だけどね。」
「仮初・・・・・・」

九の灰色の瞳が揺れる。
無意識に、悪趣味、とつぶやいた。

「え、なになに〜?」
「・・・何でもない。やっぱり無駄遣いだ。」
「こう見えても主人に絶対服従で小さくても力持ちなんだよ、ほら!」

毛糸の小人は軽々とねこっぱちを持ち上げる。

「くだらねぇ・・・・・・ほら、もう行くぞ。」
「はぁ〜い♪」

返事だけはよろしく、寝そべったまま毛糸の小人に運ばれるねこっぱちを九は渋い顔で一瞥すると、歩きだした。






それから3日、荷物持ちとして働き者の毛糸の小人は大活躍をした。
毛糸の小人は、ねこっぱちと同行する九のことも主人と認めたようで、九の命令もよく聞いて二人分の荷物を運んでいた。
最初の日こそ、妙に不機嫌だった九もちょこまかと動く毛糸の小人の働きぶりに絆されたようだった。

「あいつ、よく働くなぁ。疲れないのかなぁ。」
「まぁ、まだ大丈夫じゃないのかな。」
「意外と頑張り屋だよなぁ。」
「そのうちやる気なくなると思うけど。」
「どうしてわかるんだよ?」
「そういうものなんだよ〜。言ったでしょ、仮初だって。」

永遠に働いてくれるわけじゃないんだよ、と続ける。

「だから〜、あんまり・・・」
「オマエ、たまにすごく冷たいよな!」

なぜか怒りのスイッチを押してしまったようだ。
ふわふわの髪を逆立て九が立ち去ると、ねこっぱちのしっぽがぺろんと垂れさがった。

「・・・あんまり気に入っちゃだめだよ〜、って・・・もう、遅いかぁ。」

困ったね、と毛糸の小人の頭をチョンとつつく。
反応するように、毛糸の小人はゆるく片手を上げた。





それからさらに2日ほど、九は機嫌が悪かった。
最初の日は物を言わず九とねこっぱちの荷物をもってついてくる毛糸の小人を事あるごとに労い、そのたびにもの言いたげなねこっぱちを無視した。
2日目はねこっぱちが怒りん坊の歌なる歌を自作して歌っていたところに、蹴りを入れた。


そして、3日目。

「おい、もう出るぞ〜。小人〜!」
「はぁ〜い」
「オマエは呼んでない・・・って、小人は?」
「あれ?そういえば、どうしたんだろ。」

きょろきょろと見回すと、ねこっぱちの荷物のそばに体育座りしている。

「おい、オマエどうしたんだよ?もう行くぞ?」

毛糸の小人は体育座りをしたまま動かない。
ねこっぱちは、うーんとうなって頭をかく。

「ねぇ、イチジク、もう、今日はここで休みにしようよ。」
「いいけど・・・どうしたんだあいつ?」
「やる気ないんだと思う。」
「なんで、急に・・・」
「だからぁ、そういうものなんだってば〜。言ったでしょ〜?」
「なんだよ、それ!」

物わかりの悪い小さな子供に対するようなねこっぱちの口調に、九は腹をたてる。

「あんな働き者なのに、急にやる気なくすなんてなんか理由があるんだろ、きっと!」
「理由なんてないんだってば〜。」
「ばかっぱちは黙れ。おい、小人・・・・・・」

体育座りをしている小人のそばにかがみこむ。
すると、小人は背を向けて座りなおす。

「小人、どうしちゃったんだよ・・・」

その拒絶の姿勢に、九は眉を寄せる。

「オマエ、なんでいきなりやる気なくしてんだよ。昨日まで元気だったじゃないか!疲れたのか?」

小人は、ただ背を向けたままである。

「ほら、オヤツ買ってやるから・・・」
「いや、小人は、もの、くわないデショ〜」
「・・・・・・ブタネコウモリは黙ってオヤツ買って来いよ!」

苛立ちをぶつけられ、ねこっぱちは肩をすくめて飛び去る。

その日、九は毛糸の小人のそばから動かなかった。



「オマエ・・・あんなバカネコウモリに命令されたまんまの人生でいいのかよ?」

日が明けて、背中を向けて体育座りをしたままの小人の隣に体育座りをする九の姿。

「あいつ、オマエのこと、軽く見てんだぞ〜?腹立たないのか?今だってさ、散歩行ってくる〜とかさ、気軽なもんだよな・・・・・・オマエがやる気なくしてんのにさ。」

九はぼやく。

「おれもさ、結構バカっぱちの軽いところにむかつくんだよなぁ。だからわかるよ、お前の気持ち!」

拳を握って力説する。

「オレもさ、頑張るからさ!オマエも一緒に頑張ろうよ!ネコウモリになんか負けるなよ!なっ!」

小人は、体育座りで背を向けたまま。
九はため息をついて拳をほどく。

「・・・あいつ、最近、なんか変なんだよなー。得体のしれないところみたいなのあってさ・・・・・・こないだだって、うちの5号とかビビらせて・・・いったい何があったんだろ、わからないんだ。」

ただ、何とも言えない違和感があるんだよ、とつぶやく。

「あいつ何か隠してるような気がするんだ・・・それが何なのか、全くわからないんだけど・・・・・・」

膝を抱えなおして、顎をうずめる。

「あいつ、あんなにへらへらしてるのにさ・・・時々、びっくりするくらい冷たいよな・・・」

たぶん『契約すること』以外に何の執着もないんだ、と心の中で続ける。

一つの事に執着するのって、他をすべて諦めてるのと同じような気がする。
色々選択肢があったはずなのに、たった一つの事のために他の可能性を捨てるんだ。
全てを捨てて、一つを選ぶ。

「・・・そんなに盲目で大丈夫なのか?」

落とし穴にはまっても、きっとわからない。
落とし穴にはまっても、それを守れればいいのだろうか。
落とし穴にはまっても、笑うのだろうか。

「・・・・・落とし甲斐のない奴だな。バカらしいな、小人・・・」

相変わらず、毛糸の小人は背を向けたまま。
九は小さくため息をついて、目を閉じた。




そして、翌日。
朝食を食べ終えた九が発見したのは、荷物のそばで横たわる赤い毛糸人形。

「おい、急にどうしちゃったんだよ?どうして動かなくなっちゃったんだ?!」

いつになく切羽詰まった表情の九。

「何とか言えよ・・・反応しろよ!なぁっ・・・・・・ねこっぱち!!」

ねこっぱちを振り返る。
ふわりふわりと宙に浮いたまま、ねこっぱちは感情の見えない丸い水色の目で、じっと九を見つめる。

「だから、言ったデショ?」
「何言ってるんだよ、オマエ!毛糸の人形が動かないのに・・・・・・」
「だから、仮初の命なんだってば。」
「で、でも!」

「もう、駄目だろなぁ、これ・・・燃やすかぁ。」

言うが早いか魔力で灯した炎が赤い毛糸の小人を包む。

「ちょ、な、まっ・・・・・・あちっ!!!」
「わぁ、あぶないよ〜!」

燃える小人の火をもみ消そうと手を伸ばした九の襟首を、ねこっぱちが引っ張って止める。

「・・・危ないのはオマエだろ!なんで燃やしちゃったんだよ!馬鹿!」
「なんでって、やる気がない小人は燃やして処分することになってるんだよ〜。」

赤い毛糸は一瞬で燃え上がり人型の炭だけが残る。

「もうやる気ないから、社会復帰できないんだってば〜!」
「なんでそんなこと言うんだよ!」

腕を振り回して抗議するが、ねこっぱちは襟首を掴んだままひょいひょいとかわす。

「そういう仕様なの!期間限定なんだからしょうがないでしょ〜?!」
「ばかっぱち!少しは情がわいたりしないのかよ。」
「え、別に〜?」
「オマエってやつは・・・・・・ほんと『契約すること』以外どうでもいいんだな。」

襟首をつかみっぱなしだったねこっぱちの腕を乱暴にほどく。

「オマエ・・・昔はそんなんじゃなかったのに。」
「昔って?」
「入社する前だよ!」
「・・・・・・前?」
「桜の木の下で、毎日、呑気に昼寝してた頃だよ!あのヒトが来るの楽しみに待ってた頃だよ!オマエ、あの頃は・・・」
「イチジクは何を言ってるの?」

ただでさえ丸い水色の瞳を大きく開いてねこっぱちは問う。

「どうして、ぼくの入社前のことを知ってるの?」
「はぁ?どうしてって・・・」
「ぼくたちが知り合ったのは入社式でしょ?イチジクがあの桜の木に来るようになったのは、それからだよ?」
「何言って・・・」
「あそこに居た『悪魔』はあのヒトの旦那さんとぼくだけなんだよ。」

ぼくが生まれてからずっとそうだったんだ、とねこっぱちは言い切る。
そして、ゆっくりと瞬きをして、もう一度、問う。

「イチジクは、何を言ってるの?」

問われた九は混乱していた。

そうなのだ。
ねこっぱちが、言った通りなのだ。
それが正しいことを、九は知っているのだ。

―――でも、何故?

「イチジク、大丈夫?」
「あ・・・うん。わりーな・・・ちょっと小人のことで混乱したかな。」

―――オレは、何故、それを知ってるんだ?

思い浮かんだ疑問を掻き消すかのように、ぐしゃぐしゃとワタアメのような髪をかき混ぜる。

「そうだよな、お前最初っから契約しか頭にない奴だったよな!ははは!」

わざとらしいくらいの乾いた笑い声。

「ははは!何言ってんだろうな、オレは。ははは!」
「イチジク、もしかして・・・」
「あ、おい、もう行こうぜ!小人のせいですっかり足止め食らっちまったしな。」

何か言いかけたねこっぱちを遮るように、荷物をつかむとサクサク歩き出す。

「ちょ、イチジク待ってよ〜!」

あわてて残りの荷物を引きずりながらねこっぱちが追いかけた。



そう、あの場にいた『悪魔』は彼らだけだった。

思い浮かんだ疑問は、今度こそ九の心に焼き付いてしまった。


―――それなら、オレは、何故知ってるんだ?

―――それなら、オレは、『何』なんだ?




『まぁ、お人形さんだから仮初の命だけどね。』

コメント(2)

【Eno.972 ねこっぱち】

「ふむふむ。なるほどね。」
 読んでいた小さな紙をしまうと、ねこっぱちは赤い毛糸をキュッキュッとこすって息を吹きかける。
 赤い毛糸は人型をとり、ちょこちょこと動き出す。
「これって、どうゆう原理で動いてるんだろう。不思議だなあ」

 それからしばらく、小さな体でちょこまか働く小人をおもそろそうに眺めるねこっぱちだったが、
九もまた、この小人が気になっていることに気づいていた。
 初日こそ、不機嫌に文句を言っていた九だが、2、3日もすると、自分がいないときに小人にむかって
一生懸命話しかけていることに気づいていた。
 あとあとのことを考えると、あんまり入れ込まないほうがいい予感。
「うーん……。お人形さんなんだって言ってるんだけどなー。」

 さらに日が経つと、人形が働かなくなった。使用期限が近づいてきているのだ。
 案の定、九が大騒ぎしはじめた。「何か理由がある」と信じてる。
理由は、「使用期限がきた。」それだけなんだけど……。

 九はきっとあきらめない。

 九はきっとこの先もずっと小人を待ち続ける。

 九はきっとそのことで心を痛め続ける。

 九、それはね、もうね、うごかないんだよ。

「もう、駄目だろなぁ、これ・・・燃やすかぁ。」
ねこっぱちは魔力で灯した炎で赤い毛糸の小人を包む。

「オマエ・・・昔はそんなんじゃなかったのに。」
「昔って?」
「入社する前だよ!」
「・・・・・・前?」
「桜の木の下で、毎日、呑気に昼寝してた頃だよ!あのヒトが来るの楽しみに待ってた頃だよ!オマエ、あの頃は・・・」
「イチジクは何を言ってるの?」

 ボクと九は、会社の入社式で知り合った。
 ボクと九は、会社で同じ営業部に配属されて、一緒に研修を受けて……。
 入社前……?

 九は一人でごにょごにょいいながら、先へ進んでいってしまった。

ボクはしまってあった小さな紙を取り出し、燃やした。
燃やされた小さな紙にはこう書かれていた。


『赤い一本の毛糸で人型の形に象られて自動に動く玩具。
喋る能力はありませんが、小さい体で重さ50kgまでのものを 持ち運びしてくれる小さな運送屋さんです。
物によって性格にバラつきがあり、サボり癖もあり 片手をピンと上に上げるときはやる気満々ですが
体育座りをして主人の方を向かない時はやる気がない時です。
やる気が無いときは何があっても頑として命令を聞きません。
体を横にして一週間経ってもやる気を出さなくなったら末期ニート期に突入しているので
もう二度と社会復帰という名の仕事に戻る事は不可能ですので 小人を燃やして焼却処分して下さい。
大きさ:20cm  ※水に濡れると動きが遅くなり、火に近づけると燃えてなくなります。』 ※
※赤い毛糸の小人の説明は、Toy store様のサイトから転載させていただきました。
快諾いただきまして、本当にありがとうございますヽ(・∀・)ノ

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