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小説、短編をつくってみたコミュのたけしの挑戦状0

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 東京都呉石市
 荒川沿いに存在するこの町は、首都東京に在りながら半ば自治区の様な扱いを受けており、昼も夜も無く行われるケンカや対立するやくざの抗争、一般市民にすら浸透してしまっている酒とドラッグ、大通りから一つ入れば男なら強盗、女ならレイプされるという無法の地。その土地で生活をする為には、常にポケットの中に凶器、もとい狂気を忍ばせて無くてはならない。
 そんな町の事を、住民達は皮肉を込めてこう呼んだ。

 クレイジータウンと


 1986年12月
 朝霧晴れぬうちから、通りを闊歩する武装した集団が在った。全員黒のスーツ、腹にはサラシを巻き、サラシには短ドスを忍ばせ、ある者は抜き身の日本刀を掲げ、ある者は拳銃を携えていた。
 その集団の先頭、身の丈160cmも無いような小柄な男、頭は薄くなり掛けた毛髪を七三に分け、口元にはよく手入れされた口ヒゲ、背丈こそ無い物の在りし日のアドルフ・ヒトラーを彷彿とさせる威圧感を感じさせる程で、名を池元と言った。
 池元率いるその一団は、関東一円を支配する巨大暴力団・山王会の直参「極東組」の構成員であり、池元はそこの若頭であった。
 その集団はおよそ300名程で、池元を先頭に歩道も車道も関係無く、通りを邁進する。その道を妨げよう物なら、その武器で斬りつけ、或いは撃ち抜いて、爆破し、薙ぎ倒し、今まさに襲撃の時を迎えようとしていた。
 池元らの目的は極東組の頭、小沢を討つ事にあった。極道の世界にあって、小沢を親とするならば、子にあたる池元が何故親殺しを企てたか?それは小沢が無能であったからだ。小沢は若かりし頃は、伸し上がる為なら何でもやる程の狂犬と呼ばれており、実際に先代の頭を討ち極東組の頭を世襲したのだ。しかし頭になった後の小沢は見るに耐えず、昼間から酒をあおり、事務所に愛人を連れ込み、日も暮れぬうちから情事を重ねていた。
 幾ら親子の関係であろうと無能な者は排除される、それがこのクレイジータウンの掟だった。

 池元はこの襲撃の前準備として、各方面に襲撃予告を打っていた。そして車ではなく、町を練り歩くような形で襲撃を行ったのは、これから池元がこの町の新しいボスとなるのだ、と言う挑発の意味も有った。その上で邪魔する者は全て排除し、己の目的を完遂せんとする池元なりの生き方でもあった。この正々堂々たる宣戦布告に対し、池元の男気に惚れその傘下に入るものも少なくなかった。
 当然、警察にも襲撃予告を出していたが、この無法の町においては襲撃を阻止しようとするのではなく、無関係な市民に危害が及ばないように努力するのがこの町の警察の唯一の仕事であり、池元らの行軍の先には両脇で警察官や機動隊が、まるで池元らを見送るかのように整列しており、その様はこの町の新しいボスを受け入れるとも取れるような光景であった。池元らが極東組の事務所の前に着くころには、集団の数は500にも膨れ上がっており、これから行われるであろう襲撃はもはや誰の目から見ても、一方的な虐殺に成るであろう事は容易に想像できた。

 池元が先陣切って乗り込まんとするその時、脇から私服の警官がその道を塞いだ。厚手のモッズコートに、黒のスーツ。コートの上からでも分かるほどの胸板の厚さ、太い腕、ボサボサの頭に濃い無精ひげ、まるで服を来た熊の様でもあった。
「松っつあん・・どいてくだせえ」
 池元の甲高いしゃがれた声が響いた。
「松本さんって言ってんだろ?ぶっ飛ばすぞ?」
 松っつあんと呼ばれる私服の警官が、低く唸る様な声で言った。その刹那、二人の間に割って入る者が居た。池元の舎弟である北野である。北野は町で極東組の組員とケンカをしている所を、その腕っ節と極道相手にケンカを売る根性を池元に気に入られ、その場で舎弟の杯を交わし、以後池元の右腕として働いてきた男である。
「北野引っ込んでろ!」
 池元が北野に向かって声を荒げると、北野はサッと池元の脇に控えるように下がった。しかしその眼光は、松本を睨み付けたまま離さなかった。
「すんません松っつあん、ワシら襲撃予告の通り小沢取りに行きますんで、そこどいてもらえないっすか?」
「松本さんって言ってんだろうが」
 松本の言葉に、北野が前にでる。それを察してか池元が片手を伸ばし北野を制する。
「襲撃に関しては俺らは関与しねえよお。ただ、関係無え市民に指一本触れて見ろ?そん時ゃてめえ必ずしょっ引くからな!」
 松本はドスの聞いた声でそう言うと、体を前のめりにし下から見上げるように池元を睨み付けた。
「分かってます、すんません。ありがとうございます」
 池元は足を肩幅に開くと、手を膝に当てその体制のまま深くお辞儀をした。それを受けて松本は、くるりと背を向け周りの警官に聞こえるような大声で、
「解散!」
 そう言うと、右手を大きく掲げ宙にくるくると回した。道路の脇に整列する警官の群れからどよめきの声が漏れた。しばらくのどよめきの後、松本の部下であろうと思われる私服の警官が松本に近寄り、
「部長!良いんですか?こいつ等これから戦争やらかそうとしてるんですよ!?全員しょっ引きましょうよ!」
 その場に居る全員の視線が、声の主に注がれた。
「馬鹿野郎・・・お前死にてえのか?」
 松本は額に手を当て、ため息交じりの声を漏らした。
「俺はごめんだ。こんな糞共の内輪揉めに巻き込まれて死ぬくらいなら、職務怠慢で地方に飛ばされて駐在してるほうがマシだよ。おらあ!てめえら解散だって言ってんだろ!ほら!帰れ帰れ!」
 そう周りに怒鳴り散らすと、松本は部下であろう男の方を抱き、警察官の群れの中に消えていった。池元と北野は、静かにその様子を見送った。

 場に再び沈黙が訪れる。先ほどの喧騒が嘘であったかな様に、水を打った様な静けさが場を支配していた。
 池元は極東組の事務所に向き直り、両腕を天に伸ばし大きく伸びをしながら、
「行くかぁ」
 まるで「ちょとそこまでタバコ買いに行くか」と言う様な気の抜けたその合図を受け、真っ先に動いたのは北野だった。後に続く男たちも、怒号と共に北野に続いた。北野は勢いをつけ、足を高く上げ事務所の木製の扉を蹴り破ると、事務所の中に消えていった。池元はここまで来るときとなんらペースを変えず、だが男達の波に飲まれることなくゆっくりと進んでいった。
 北野が突入してしばらくして、銃声が一発、二発聞こえてきた。極東組の者もその大半が池元についたとは言え、数名程は小沢側に残っている。だが真正面から迎撃出来るほどの人数は居ない、恐らくは最上階の四階で迎え撃つ作戦なのだろう。池元は事務所の入り口をくぐると、後の者に向かって、
「ビルの周りを囲め、蟻一匹逃がすな」
 そう指示すると、今度は既に突入している者に、
「エレベーターは?」
 と聞くと、エレベーターの近くに居るものが、
「使えません。電源落とされてるみたいです」
 池元は「ふぅ」と小さくため息をつくと、
「ウチの階段、急だから嫌いなんだよ・・」
 そう愚痴をこぼすと、静かに階段を登って行った。再び銃声が聞こえてきた。今度は一発二発では無い。誰かが四階の敵の本陣に到達し、本格的に銃撃戦が始まったのだろう。
 池元が三階に到達する頃には銃声はすでに聞こえなくなっていた。三階のフロアに池元派の人間が一人、三階から四階へ続く階段の踊り場に小沢派の人間が一人倒れているのが見えた。三階の方の人間は、仰向けで倒れていたせいか傷は見えなかったが、床に広がった血の量から死亡していると思われた。踊り場の方の人間は、左肩から右の腰に掛けての切傷、そして左目に短ドスを刺されていた。池元が四階に到達する頃には、既に制圧が終わっていたのだろう。先に突入した者達が両脇に控え、池元の到着を待っていた。
 男達の列は一番奥の、社長室まで続いていた。促されるように進むと、途中銃撃戦で死んだのであろう、池元小沢両勢力の死体が通路の端に避けられていた。池元はそれらに一瞥もくれず、所長室へと向かっていった。
 池元が社長室に入ると、北野と小沢、それに池元の舎弟の数名だけが中に居た。北野は左肩を押さえ、痛みを堪えている様だった。恐らく銃撃戦の時に被弾したのだろう。だがそれよりも、右頬が抉れている様子だった。頬肉の一部分だけ削げ落ち、隙間から白い歯が覗いており、傷口からは血が流れ出ており、頬から顎を伝って北野のシャツを赤く染めていた。
「おい、北野そりゃあどうした?」
 池元がそう言うと、北野は無言で小さくコクリと頷いた。それを見て池元の舎弟の一人が、
「小沢に至近距離で撃たれたんです。咄嗟に身体捻らせてかわしたみたいですけど」
 池元は「へぇ」と感心した様子だった。そして北野の方へ向き直り、
「病院行って来い」
 池元がそう言うと、北野はフルフルと小さく首を振った、まともに喋れず、少し動くだけでも相当な痛みが走るのだろう。時折苦悶の表情を見せた。
 池元は少し困ったような表情をすると、小沢の方に体を向けた。小沢は、部屋の奥にあるプレジデントチェアーに、深く腰掛けていた。鼻が歪に曲がり、鼻血を流している。自慢のアルマーニのダブルスーツにも、靴底の後が幾つも付いている。恐らく北野にやられたのだろう。二人の視線が合うと小沢は、
「き、貴様!何をやっているのか分かっているのか!?ワシがここまで育ててやった恩を忘れおって!このドブネズミが!」
 小沢は怒りを剥き出しにし、今にも池元に飛びつかんとする勢いだったが、池元の舎弟達が一斉に拳銃を小沢に向け制止する。小沢よりも酷い怪我である筈の北野ですら、池元の前に飛び出し池元の盾になっている。池元は左の胸元から拳銃を取り出し、小沢の正面に立つ。
「お、おお前!ワシに手を出したらどうなるか分かってるのか!?ワシに手を出すと言う事は、山王会に弓引く事と同じなんだぞ!?」
 池元はそんな言葉など聞こえていない様子で、静かに拳銃の撃鉄を起こした。カチリと金属が噛み合う音がする。
 池元は右足を前に出し半身に構え、右腕を真っ直ぐ小沢に伸ばした。伸ばした腕の先に握られた拳銃と、小沢の眉間との間は30cmも無いだろう。
「頼む!助けてくれ!何でもする!そうだ!金!金をやろう!一億か?二億か?頼むからワシだけは助けてくれ!」
 小沢は必死に助けを求めた。出来る事なら縋り付きたい位なのだが、小沢が少しでも動いた瞬間に池元の背後に構える舎弟達に、蜂の巣にされる事だろう。小沢は自分がどう足掻いても、この運命を変える事が出来ないと悟ると、目から大粒の涙を流しながら「は、はは、は」と壊れたラジオの様に切れ切れに笑っていた。
 池元は、小沢の命乞いが終わるのを確認する為に、30秒程小沢を見下ろしていた。命乞いの確認では無く、懺悔の時間なのかも知れない。それは池元自身にしか分からない。その時間が終わると池元は静かに口を開いた。
「先代が、涅槃で待ってる」
 乾いた銃声が一発、クレイジータウンの灰色の空に響いた。

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